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97p

彼が狩りに出かける朝、私は密かに馬小屋に潜んでいた。ユリドレが馬に乗る姿は堂々としていて、その姿に見とれてしまった。彼が馬の手綱を引くたびに、私の心臓は激しく鼓動した。私は彼の後をこっそりと追いかけ、彼が狩りをしている間も木陰からその姿を見つめ続けた。彼の鋭い眼差しと冷静な動作に、ますます惹かれていった。


ある日、図書室でユリドレが書物に没頭している姿を見つけた。私は彼に近づくことができず、陰から彼を見守っていた。彼がページをめくる音、時折眉をひそめて考え込む姿、そのすべてが私にとっては宝物だった。私は彼の知識に触れたくて、彼が読んでいる本を手に取ることもあったが、彼に気づかれるのが怖くてすぐに手放してしまった。


ユリドレが私に対して冷たい態度を取るたびに、私の心は痛んだ。それでも、彼の優しさを感じる瞬間があるたびに、私は彼を追い求める気持ちを抑えきれなかった。彼が私を見る目には嫌悪が宿っていることを感じていたが、その嫌悪さえも私は彼の魅力の一部として受け入れていた。


彼の無表情な顔の裏に隠された感情を知りたいと思い、彼の心に触れたいと願った。ユリドレに対する私の愛は執着に近いものであり、彼が私を遠ざけようとするほど、私は彼に引き寄せられていった。


「レッドナイト公爵様、どうか私の気持ちを受け入れてください…」何度もそう願い、彼に近づこうとするたびに、彼の冷たい目が私を拒んだ。それでも私は彼を愛してやまなかった。


とある舞踏会では、煌びやかなシャンデリアの下、華やかな音楽が流れる中で、私はユリドレ・レッドナイト公爵の姿を見つけた。彼は冷静な表情で立っており、その存在感はひときわ際立っていた。私は緊張しながらも、彼に近づく決意を固めた。


「公爵様、一曲お相手していただけますか?」私は頬を紅潮させながら尋ねた。声が震えるのを感じながらも、心の底からの願いを込めて。


彼は一瞬戸惑ったようだった。彼の鋭い眼差しが私を見つめ、一瞬だけその表情が揺らいだ。しかし、すぐに無表情に戻り、お辞儀をして手を差し出してくれた。


「喜んで、メイシール嬢。」


その瞬間、私は夢の中にいるような気持ちになった。彼の手が私の手に触れ、その冷たさと優雅さに心が高鳴った。私は彼の手をしっかりと握り、彼の導きに従って舞踏会の中央へと進んだ。


音楽が始まり、ユリドレは優雅に私をリードしてくれた。彼の動きは滑らかで、まるで風のように軽やかだった。私たちが踊るたびに、彼の冷静な顔の中に一瞬の柔らかさが垣間見えたような気がした。しかし、その冷たい眼差しは、私がいくら手を伸ばしても届かない遠い場所にあることを教えてくれた。


踊りの最中、私は彼の顔を見上げ、心の中で彼に訴えかけた。どうか、私の気持ちを受け取ってほしい。あなたを愛しているのです。彼の無表情な顔が、私の言葉を無視するかのように感じられたが、それでも私は諦めることができなかった。


ユリドレの手が私の腰に回り、その力強さと同時に優しさを感じた。彼の動きに合わせて私も踊り続けたが、そのたびに彼の冷たい眼差しが心に刺さった。私は彼の視線が遠くを見つめているのを感じ、その視線の先にあるものを知りたいと強く思った。


踊りが終わると、ユリドレは私の手を取り、優雅にお辞儀をした。


「ありがとうございました、メイシール嬢。」彼の声は静かで礼儀正しかったが、その冷たさは変わらなかった。


「こちらこそ、ありがとうございます、レッドナイト公爵様。」私は心の中で彼に感謝しながらも、その冷淡な態度に胸が痛んだ。


ユリドレは私に一礼すると、再び無表情のまま立ち去った。その背中を見送りながら、私は涙がこぼれそうになるのを必死に堪えた。彼に対する私の愛は、届かないまま消えてしまうのだろうか。


それでも、私は彼を追いかけ続ける決意を固めた。彼の冷たい態度の裏には何かがあるはずだと信じて。ユリドレの心に触れるために、私はどんな困難にも立ち向かう覚悟を持っていた。


その後も、私は彼に接近しようと試みたが、彼の冷たい態度は変わらなかった。それでも私は彼を愛し続けた。彼の無表情の奥にある真実を知りたくて、彼の心を解きほぐすことができると信じて。


それでも、私はユリドレを追い続けた。彼への思いが私の全てを支配し、アジャールとの結婚という現実から目を背け続けたのだった。


アジャールは、私の心が彼から離れ、ユリドレ・レッドナイト公爵に向かっていることに気づいていた。その嫉妬と怒りは日に日に増し、彼の心を黒く染めていった。そして、ついに彼は堪えきれなくなり、怒り狂って私との結婚を強行する決意を固めた。


ある晩、アジャールは私を王宮の一室に呼び出した。彼の表情には怒りと嫉妬がはっきりと表れていた。暗い部屋の中で、彼の目だけが冷たい光を放っていた。


「メイシール、もう待てない。結婚式を今すぐに執り行う。」アジャールは声を荒げて言った。


私は驚きと困惑の表情で彼を見つめた。


「でも、アジャール様……」


アジャールの怒りに圧倒され、私は言葉を失った。彼の激しい感情が私を包み込み、息苦しささえ感じた。


その瞬間、扉が乱暴に開かれ、数人の兵士が部屋に押し入ってきた。彼らはユリドレを無理やり引きずり出してきた。ユリドレは抵抗することなく、冷静な表情を保っていたが、その眼差しには深い悲しみが宿っていた。


「何事ですか?」私は驚きと恐怖で声を震わせた。


アジャールは冷酷な声で宣告した。「ユリドレ・レッドナイト公爵、お前は反逆罪で逮捕される。」


ユリドレは一瞬だけ私に視線を向けた。その眼差しには言葉にできない感情が込められていた。私の心は痛みで締め付けられ、涙がこぼれそうになった。


「アジャール様、これは何かの間違いです!公爵様が反逆するなんて……」私は必死に弁明しようとしたが、アジャールの冷たい目に阻まれた。


「黙れ、メイシール!」彼は怒りに満ちた声で叫んだ。


「お前の心がどこにあるか、私は知っている。お前が彼を愛していることも。しかし、それは許されないことだ。私は王国の未来を守るために、彼を処罰しなければならない。」


私の心は絶望に満たされた。ユリドレは静かに私を見つめ、その瞳に深い悲しみを宿していたが、彼の口からは一言も発せられなかった。彼はただ、私の目をじっと見つめ、その視線には無言のメッセージが込められていた。


兵士たちはユリドレを引き立て、部屋から連れ出そうとした。私はその場に立ち尽くし、涙が止まらなかった。


「ユリドレ様……!」


彼は一瞬立ち止まり、私に向けて微かに微笑んだ。その微笑みは、私の心に深く刻まれた。


私は泣きながら彼の名前を叫び続けたが、兵士たちは無情にも彼を連れて行った。ユリドレの背中が見えなくなるまで、私はその場に立ち尽くしていた。


「どうして……どうしてこんなことに……」と、私は呟いた。


その夜、私の心は引き裂かれた。ユリドレの無実を信じる私は、何とかして彼を救おうと決意した。


深夜、震える手で牢の扉を押し開けた。兵士たちには賄賂を渡し、何とかユリドレと面会することに成功した。暗闇の中で、ユリドレの姿がぼんやりと見えた。彼は鎖に繋がれ、冷たい石の床に座っていた。


「公爵様……」私は涙で声を震わせながら彼に近づいた。


ユリドレの顔は薄暗い光の中で静かに浮かび上がり、その冷静な表情には驚きと苛立ちが混ざっているように見えた。私の心臓は胸の中で激しく鼓動し、息が詰まるような感覚に襲われた。


「私のせいです……私が……。ごめんなさい……。ごめんなさい……。」


ユリドレは冷静な表情で私を見つめ、その眼差しは依然として鋭く、それでもどこか優しさがあった。しかし、その優しさは一瞬で消え去り、彼の目には冷酷な光が宿った。


「構わない。俺はどうせ、こうなる運命だった。」


彼の声は冷たく、無情だった。


「どういうことですか?」


「俺には異国の血が混ざっていて、この国の人と子を作ることができない。なので、どのみち、家の者に亡き者とされる予定だった。それが早まっただけだ。」


「そんな……」


ユリドレが隠していた秘密が、私の心に重くのしかかった。

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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