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始まりました。本当の最終章です。
ユリシールを抱いたユリと私はレッドナイト領の公爵邸の玄関に降り立った。公爵邸の荘厳な扉が静かに開かれ、そこにはメイド姿のベティと執事服姿のトリントが整然と並んで立っていた。ベティは端正な姿勢で深々と頭を下げ、トリントは一歩前に出て恭しくお辞儀をした。
「お待ちしておりました。お帰りなさいませ。」二人は声を揃えて丁寧に挨拶を交わした。ベティの声は柔らかく、トリントの声は低く落ち着いていた。
「あぁ。ベティ、トリント。これからよろしく頼む。」
ベティは一瞬目を細めて微笑み、そしてすぐに元の真剣な表情に戻った。
「お部屋の準備はすでに整っております。ユリシール様には特別なお部屋をご用意いたしました。」
トリントは手元のメモを確認しながら、「お荷物はすぐに運び入れます。また、何かご要望がございましたら、いつでもお知らせください。」と落ち着いた声で伝えた。
「ありがとう、ベティ、トリント。ユリシールを頼む。」
ベティは静かに頷き、ユリシールを抱きかかえるようにして部屋へと移動し始めた。ユリはその背中を見送りながら、深く息をつき、トリントに向き直った。
「さて、俺たちはしばらく部屋に引きこもる。あとのことは任せる。」
トリントは丁寧に一礼し、「承知いたしました。」と答えた。
そして懐かしい部屋に戻ってきた私とユリ。部屋の中は変わらない静けさと温かさに包まれていたが、私の心には様々な思い出が蘇ってきた。王宮に監視されていた日々、ルーを出産した時の喜びと苦労…それらの思い出が胸に溢れ、涙がこぼれそうになった。
「もう何年前になるんだろう…」
突然、ユリが私を抱き上げた。
「ユ、ユリ?」
「大きくなりましたね、メイ。」
「ふふっ。身体が小さい時間が長かったものね。」
「どれも一瞬でした。」
ユリは私を優しくベッドに降ろした。
部屋の静けさの中、私は近くのテーブルに置かれた薬の入った瓶がいくつか目に入った。
「ユリ…これは?どこか悪いの?」
ユリは少し困った表情を浮かべたが、すぐに優しい微笑みに変わった。
「これはただの精力剤ですよ。」
「へぇ~…って、え!?こんなに必要!?」
ユリは真剣な表情で頷いた。
「はい。俺はメイの人生一つ一つに向き合いたいんです。」
「言ってる意味が分からないわ…。」
ユリは優しく微笑み、「今に分かります。」と言って、優しい手つきで私の服を脱がせ始めた。
―移動する前に湯浴みしたのはこのためだったのね。
彼の指先が柔らかく動き、私のドレスのボタンを一つ一つ丁寧に外していく。彼の指は決して急がず、まるでこの瞬間を大切に味わっているかのようだった。
ドレスのボタンがすべて外れると、ユリは肩紐に手を伸ばし、そっと滑らせるように下ろしていった。肩から滑り落ちる布地が私の肌に触れ、軽いざわめきを感じた。ユリの手は確実に、しかし優しく動き、私の腕をドレスから解放していく。
彼の手が腰に移動し、ドレスの裾を持ち上げると、私は自然と身体を持ち上げて協力した。ユリはその動作に微笑みながら、慎重にドレスを引き上げ、私の体から完全に取り去った。
続いて、彼の指が私の背中に触れ、下着のホックを外し始めた。その指先は信じられないほど繊細で、まるで私の緊張をほぐすかのように動いた。ホックが外れると、ユリは下着をそっと引き下げ、私の体から離していった。
ユリの動きはどこまでも穏やかで、彼の優しさが伝わってきた。私は彼の手の動きに身を委ね、彼の深い愛情を感じながら静かに目を閉じた。
「メイ、アナタのすべてを知りたいし、アナタのすべてと共にありたいです。」
「ユリ…。」私は彼の言葉に心を打たれた。
「愛しています、メイ。愛しています…どうかこれまで歩んできた愛を絶対に忘れないでください。どうか絶望しないでください。」
「ユリ…私が失ってる記憶って…本当に…。」私がそう言いかけると、ユリは私の口を自身の唇で塞いだ。彼の唇は温かく、深い愛情が伝わってきた。
ユリがゆっくりと離れると、近くのテーブルに置いてある薬の入った瓶を一つ手に取り、飲み干した。「え!?…今飲むの?」
「はい。」
「暴走しちゃうんじゃないの?」
「はい。そのつもりです。」
「え!?記憶を戻すんじゃなかったの?」
「勿論、戻します。この方がメイの心が安定しそうだったので…。」
「は、はい?まともじゃないわね…。」
「はい。メイにはこれくらいしないと、あなたの愛に向き合えないと思っています。」
「それってどういう…。」
言葉を続ける間もなく、ユリは私を押し倒し、私に覆いかぶさった。
「では…記憶を戻しますね…メイ。心の準備は良いですか?」
「準備も何もなくない!?」
「そうですね…。これは俺の欲望ですから…。」ユリは自嘲気味に笑った。
まだ何もしていないのに、ユリはすでに汗をかいて肩で息をし始めた。
「はぁ…。ほんとに困った旦那さんね。いいわよ。」
「はい…。では始めます。」
ユリの手が再び私に触れた瞬間、記憶が戻るのはとても自然で、とても一瞬だった。砂浜で波が押し寄せるかのような、そんな速度で無数の記憶が私に押し寄せてきた。過去の辛い記憶、悲しい出来事、そして愛しい思い出のすべてが、一気に私の心に溶け込んでいった。
目の前が白く輝くように感じ、全ての感覚が鮮明に蘇ってくる。記憶の断片が一つ一つ繋がり、私の人生が再び一つの絵画として描かれていくようだった。
――どうして…私は…愛しの公爵様に…抱かれているのだろう…。私はまた…何かしてしまったのかしら…。
記憶が混乱する中、私の人生の中でも、最も、愚かだった時期が存在していた。それは、私がユリドレ・レッドナイト公爵様を一方的に好きになってしまったときの人生だ。
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私はブルービショップ家に生まれ、幼少期からホワイトホスト王国の王子であるアジャールに見初められ、婚約していた。しかし、私はアジャールの側近であるユリドレ・レッドナイト公爵に一目で恋に落ちてしまった。
そこから私の人生は狂い始めた。アジャールとの結婚を先延ばしにして、私はユリドレを追いかけ回すようになった。
ユリドレ・レッドナイト公爵は、その目力で人を射殺してしまうかのような鋭い眼差しを持ち、顔は常に無表情で冷たかった。その冷淡な表情の背後には、何か深い秘密が隠されているように感じられた。容姿は誰よりも美麗で、彼の存在感は圧倒的だった。彼の彫刻のような顔立ちと、長身で引き締まった体躯は、まさに完璧なイケメンの典型だった。
「レッドナイト公爵様、少しお話しできるでしょうか?」
彼は驚いた表情を見せたが、すぐに無表情な顔に戻り、冷たい声で答えた。「もちろん、メイシール嬢。」
その冷淡な態度にもかかわらず、私は彼の知識と優しさにますます惹かれていった。だが、彼の視線は決して私に留まることはなく、常にどこか遠くを見つめていた。その目には私に対する嫌悪が隠しきれないほどに宿っていたが、それでも私は彼に引き寄せられるように感じていた。
その後も、私はユリドレを追い求め続けた。彼が馬に乗って狩りに出るときも、私は密かに後を追った。彼が図書室で書物に没頭しているときも、私は陰から彼の姿を見守った。
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