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95p

また1年と時は過ぎ去った。すべてのパーティーが終わり、やっと一息つける時、ユリはとある決断に至った。それは領地に隠居するということだった。


領地の仕事はレイが完璧に引き継いでくれるので、確かに安心して領地へ引きこもることができる。ユリは長い間、家族のために尽力してきたが、今は静かな生活を望んでいる。これまでの激動の日々から解放され、穏やかな時間を過ごすことができるだろう。


そして、ユリの両親は3年前、ユリの母親が亡くなったことにより後を追うように父親も亡くなった。その知らせを受けたとき、ユリは「やっとか…」と呟いた。彼は悲しみよりも、長く続いた家族の重責から解放されたという安堵の気持ちを感じていたのだ。両親が安らかに眠りについたことを知り、ユリもまた新たな一歩を踏み出す覚悟を決めた。


シリルお兄様もユリの妹と結婚し、立派にブルービショップ家の当主として幸せな日々を送っていて、領地には誰も邪魔する人はいなかった。家族全員がそれぞれの場所で幸せを見つけていることを知り、私もまた、心の平安を感じることができた。


ユリが領地に引きこもることを決めたのも、自分自身の幸せを追求するためだった。家族の支えとなり続けることが彼の役目だったが、今は自分自身のための時間が必要だと感じたのだ。静かで平穏な生活を送りながら、新たな趣味や興味を見つけることができるかもしれない。


私は、ユリの決断を尊重し、彼の幸せを心から願った。彼が安心して隠居生活を送れるように、できる限りのことをしていこうと心に決めた。


ユリが領地へ旅立つ前に、彼はブルービショップの秘密を知っている子供たちや、私に近しい人物たちを王都の公爵邸に招集した。そこにはシリルお兄様もいた。私もその時まで内容は秘密にされていた。


ユリが集まった全員を前にして挨拶を始めた。

「皆、お集まりいただき、ありがとうございます。」彼の声は静かで落ち着いていた。

「今日は大事なお知らせがあります。まず、ユーレイシアに爵位を渡すことを決めました。そして私は領地へ隠居するつもりです。さらに、裏稼業についてはメアルーシュに引き継いでもらうことにしました。」


ユリの言葉を聞いて、集まった全員が驚きと共に彼の決断を受け入れた。ユリはそのまま続けた。

「これまで皆さんには大変お世話になりました。これからも家族と領地のために力を尽くしてください。」


その後、子供たちとミレーヌ、ゼノ、そしてシリル兄様を残して、他の者たちは帰らせた。ユリがもう一つ大事な話をするためだった。

「さて、残ってもらったのはメイシールのことについてです。」


周囲は驚きとともに不思議がっていた。私も今日までその話が気になっていた。「ユリ…どんな話?」と尋ねると、ユリは少し微笑みながら答えた。

「皆が幸せそうなので、俺も心から…幸せにしたいと思ってしまったんです。メイシールを。」


ルーが首をかしげながら言った。

「もう十分幸せそうだけど?こんなに兄弟もいるし…。」


ユリは深く息を吸い込み、さらに話を続けた。

「確かに、メイシールは幸せそうに見えるかもしれませんね。ですが、それは…俺がメイシールの記憶を…足の爪先から腰のあたりにまで及ぶ無数の鎖を俺の特殊能力で封じているからです。」


一番先に察したのはルーだった。

「父さん、まさか…その数の記憶を解放するつもり?」


ユリは頷きながら答えた。

「お前は相変わらず察しが良いな。そうです、そのつもりです。」


シリルお兄様も驚きながら言った。

「足の爪先から腰のあたりまで…ですか?メイシールはいったい…何を見てきたんだ…。」


一番驚いているのは私だった。てっきりおばあさんになってから解放されるものだと思っていたからだ。「ユリ…私…今でも十分幸せよ?記憶がなくったって…。」


ユリは私の手を取り、優しい眼差しで言った。

「すみません、メイ。あの記憶の先に本当の幸せがあると俺は思っています。子供たちが巣立ち始めて、幸せそうにしている姿を見て決心しました。」


私はユリの言葉に感謝しつつも、少し困惑していた。

「ユリ、それは私にとっても重要なことだけど、今まで通りに家族と一緒にいられればそれで十分だと思っていたわ。」


ユリは優しく微笑みながら答えた。

「メイ、これは俺の欲を満たすためでもあります。そして解放後もメイには負担をかけますが、子供が欲しいと思っています。」


メイシールは驚き、言葉を失った。

「ユ、ユリ!?」


ユリは深く息を吸い込み、全員に向けて話し始めた。

「つきましては…メイシールの人格が少し変わってしまう可能性があるので、こうしてみんなに集まってもらいました。」


ルーが心配そうに尋ねた。

「待って…封じる前の母さんはどんな感じだったの?」


ユリは少し考えてから答えた。

「とても生きることに疲れていました。あとは…思考が少しユフィに似ていました。ユフィが回帰前に起こした出来事を何度かは実行し断罪されたという話も聞いたような…。」


「えぇ!?」私とユフィは同時に驚いた。レノは呆れたような目で見つめていた。


ユリは続けた。

「メイシールは過去に多くの苦しみを経験し、その記憶を封じることで今の平穏を保っています。しかし、俺はその記憶を解放することで、メイに本当の意味で幸せになってもらたいと思っています。」


私は深く息をつき、ユリに向き直った。

「ユリ、あなたの気持ちは分かるわ。でも、その記憶を解放することで私がどれだけ変わるか、想像もつかないの。子供たちや家族に迷惑をかけることになったら…」


ユリは力強く頷いた。

「それでも、俺は信じています。メイ、アナタがそのすべてを乗り越えてくださること…。」


ルーが心配そうに口を開いた。

「父さん、もし母さんが変わってしまっても、僕たちはどうすればいいんだ?」


「ルー、それはお前が一番よく分かっているはずだ。ただの2歳児だったお前が突然大人のように喋り振る舞う…俺たちは驚いたが、時間が経つにつれてその理由を理解し、受け入れた。そして今、お前が家族を支える立派な存在であることを誇りに思っている。だからこそ、母さんが変わっても、お前ならきっと理解し、支えてくれると信じている。」


「分かったよ、父さん。俺ができる限りのことをするよ。」


ユリは続けた。「メイ、これは家族全員で乗り越えるべき試練です。まだ小さいユリシールは領地へ連れていきます。他は王都に残り、ユーレイシアを支えてあげて欲しい。」


ルーは笑いながら言った。「父さん、子守りの間違えでは?」


ユリも微笑みながら答えた。「そのようだな。」


レイが少し呆れたように見つめながらも、「笑いごとではないが?」と言った。


ユリは少し真剣な表情に戻り、さらに話を続けた。

「あと…そうだな。ルーは頃合いをみて裏稼業を誰かに譲渡しろ。王宮勤めをしながらではエルレナとの時間が作りづらいだろ。今はレノやゼノが手伝ってくれるかもしれないが、ずっとというわけにはいかないだろ?」


ルーは理解を示しながら頷いた。

「分かった。…なるほど、ここ最近忙しい中、俺に色んなことを教えてきたのはそういうことだったのか。」


ユリは深く頷きながら答えた。

「そうだ。今日まで言えなかったのは今日まで悩んでいたからだ。」


その言葉に、一同は静かに考え込んだ。ユリの決断の重さと、その背後にある家族への深い愛情が感じられた。


「メイシール、僕はブルービショップ家にいる。家が辛くなったらいつでも帰っておいで。」とシリルお兄様が言った。


「ありがとう、お兄様…。」私は感謝の気持ちを込めて答えた。


その後、家族は楽しい晩餐を共にし、心温まる時間を過ごした。


そして翌日、ユリはユリシールを抱え、光の瞬きと共に領地へと旅立った。瞬間移動による一瞬の出来事は、家族にとっても見慣れた光景となっていた。

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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