91p
様々なことが立て続けに起こりながらも、時は無情にも過ぎ去り、15年という長い月日が流れた。その間に数々の出来事が重なり、レッドナイト公爵家の生活は大きく変化していった。ユリドレとメイシールは、試練と喜びの中で家族の絆を強めてきた。
メイシールは15年の間にさらに5人の子宝に恵まれ、レッドナイト公爵家は合計で7人の子供たちに囲まれる賑やかな家庭となった。新たな命の誕生は、公爵家に笑顔と喜びをもたらし、子供たちは成長するごとにそれぞれの個性を発揮し始めた。
ユリドレは公爵としての務めを果たしつつ、家族との時間を大切にし、子供たちに愛情と教育を注いだ。メイシールは優しさと強さを兼ね備えた母親として、子供たちを支え育て上げていった。彼女の温かい笑顔と慈愛に満ちた眼差しは、家庭の中心となり、子供たちにとって安心できる存在であった。
レノとユフィもまた、シルバークイーン家での生活を通じて成長し、自らの道を見つけていった。彼らはそれぞれの役割を果たしながら、家族や周囲の人々に愛される存在となっていた。
15年という月日の中で、レッドナイト公爵家は数多くの困難を乗り越え、ますます繁栄していった。
19歳になったレノとユフィは、とうとうレッドナイト公爵邸へ帰ることになった。その夜、シルバークイーン家の当主マーメルドはレノを自室に招き入れ、静かにある提案を切り出した。
「この15年間、本当の息子のように可愛がってきた。レノにはしっかりした父親も母親もいることは分かっている。だが、レノさえよければ私の養子にならないか?」マーメルドの言葉は静かでありながら、重みと真剣さが込められていた。
その提案にレノは驚き、しばらく言葉を失った。彼の目は驚愕と感謝の色で満ちていた。15年の歳月が流れ、レノの容姿はますますゼノに似ており、長い髪を後ろで束ねる姿は貫禄を感じさせるものだった。体格はゼノよりも筋肉がついており、鍛え抜かれたその姿は力強さを感じさせた。
レノは深く息を吸い込み、心の中で感情を整理しながら言葉を選んだ。「マーメルド様、私をここまで育ててくださったこと、心から感謝しています。この提案も、本当にありがたいです。しかし…」レノは言葉を詰まらせ、一瞬視線を落とした。
「私は、レッドナイト公爵家の従者であり、その責務を果たすことが私の使命だと感じています。ここで学んだこと、得た経験は全て、私が公爵家に戻った時に役立てたいと思っています。」
マーメルドは少し間を置き、慎重に言葉を選びながら続けた。
「だが、ユフィはどうする?お前の両親は…影の者だろ?お前はユフィにもその道を歩ませるのか?」
レノはその問いに一瞬ためらい、答えに詰まった。
「それは…。」
「一生ユフィの従者でいるつもりか?」マーメルドの声には深い懸念が込められていた。「私は見たぞ。この間、ひっそりとキスをしているところを。」
「なっ!?あ…あれは…その…マータント様がユフィを口説くので…つい…。」レノの顔は赤く染まり、動揺を隠しきれなかった。
マーメルドは冷静に頷き、「マータント・シルバークイーンは我が家の長男で、魅力的でセクシーに育ったユフィに恋をしていて積極的に口説いていた。お前がそれに焦りを感じ、嫉妬して、勢い余ってユフィに熱い口付けを交わしてしまったことも理解できる。」
レノは頭を垂れ、心の中で混乱と葛藤が渦巻いていた。
「マータント様がユフィに近づくのを見て、つい感情が抑えられなくなりました…。彼女が誰かに奪われるのが怖くて…。」
マーメルドは深い溜息をつき、優しい眼差しでレノを見つめた。
「レノ、君は立派な青年になった。しかし、ユフィの将来についてもしっかりと考えなければならない。君自身がどんな道を選ぶのか、そしてユフィと共に歩む道を見つけることが大切だ。」
レノはその言葉に深く考え込み、視線を落とした。
「ユフィには幸せになって欲しいです。それが私の最も大切な願いです。」
マーメルドは頷き、「ならば、君自身がどうすれば彼女を幸せにできるのか、もう一度よく考えてみるんだ。養子の話もその一環として考えてくれて構わない。君とユフィが幸せになるための道を見つけるために、私も力を貸すつもりだ。」
レノはその言葉に感謝し、深く頭を下げた。
「ありがとうございます、マーメルド様。もう一度、自分の心と向き合ってみます。」
その夜、レノは決意を胸に、風の力を使ってレッドナイト公爵邸へと飛んだ。長い間手紙でしかやり取りしていなかったが、15年ぶりに両親と直接会うことが、彼にとって大きな一歩だった。夜の闇を切り裂くように邸宅の屋根に降り立ったレノは、静かに屋敷の中へと進んだ。
邸内は静寂に包まれており、レノは懐かしさを感じながらも緊張した面持ちで両親の部屋へ向かった。そっとドアをノックすると、少しの間を置いて父親のゼノが出てきた。
「レノ、久しぶりだな。」ゼノは微笑みながら息子を迎え入れた。
「父さん、母さん、元気でしたか?」レノは感情が溢れそうになるのを抑えながら尋ねた。
ゼノはしっかりと息子を抱きしめ、「元気ですよ。お前も立派になりましたね。」と言った。
部屋の中に入ると、母親のミレーヌが微笑みながら立っていた。「レノ、おかえりなさい。」彼女もまた、息子を温かく迎えた。
「母さん、会いたかったです。」レノはミレーヌの元に駆け寄り、その胸に顔を埋めた。
しばらくの間、家族は再会の喜びを分かち合った後、レノは養子の件について両親に相談することを切り出した。
「実は、マーメルド様から養子にならないかと提案されました。どう…思いますか?」
ゼノとミレーヌは一瞬顔を見合わせ、慎重に考えを巡らせた。ゼノが口を開いた。「レノ、答えはもう出てるんじゃないですか?」
レノはその言葉に驚き、自分の胸の中を見つめた。彼の心には、シルバークイーン家での生活で得た多くの思い出と絆が詰まっていた。マーメルドの元で過ごした日々は、彼にとってかけがえのないものであり、その家族との深い絆を感じていた。
ミレーヌも頷き、「私たちはレノの幸せを一番に考えているの。どんな選択をしても、レノを応援するわ。」と優しく言った。
レノは両親の温かい言葉に胸がいっぱいになり、涙がこぼれそうになるのを必死にこらえた。彼の心には、ユフィを幸せにしたいという強い思いと、彼女を愛する気持ちが渦巻いていた。シルバークイーン家で過ごした15年間、ユフィは彼にとって特別な存在となり、その絆は日々強くなっていた。
「父さん、母さん…」レノは静かに口を開いた。「私はシルバークイーン家の養子になることを決めました。マーメルド様の元で過ごした日々は、私にとって大切なものであり、養子となって貴族としての立場を得ることで、ユフィを堂々と幸せにしたいんです。」
ゼノとミレーヌは互いに目を見交わし、息子の決意を理解したように頷いた。
「レノ、お前がその道を選んだのなら、私たちは全力で応援します。お前の決断を誇りに思いますよ。」
ミレーヌもまた、涙ぐみながら息子を見つめた。
「レノ、あなたが幸せになることが私たちの一番の願いよ。」
レノは両親に深く頭を下げ、感謝の気持ちを込めて「ありがとうございます」と静かに言った。
その時、部屋の奥から小さな声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん?」
レノが振り返ると、10歳前後の双子の女の子と男の子がドアの隙間から顔を覗かせていた。どちらも銀髪で、すぐに自分の血縁者であることを察したレノ。
「えっ…双子?」レノは驚きの声を上げた。
「そうです。レノがいない間に家族が増えたんです。紹介しましょう、これが妹のリリアと弟のフィナンシアです。」
リリアとフィナンシアは照れくさそうにしながらも、嬉しそうにレノの元へ駆け寄った。
「お兄ちゃん、ずっと会いたかった!」リリアが元気に言い、フィナンシアも頷きながら微笑んだ。
レノは訳も分からず抱きついてきた二人を抱きしめた。「手紙にはなにも…。」彼の声には驚きと喜びが入り混じっていた。
「心配するかと思って、あえて書きませんでした。」
「ごめんなさいね、レノ。でも、あなたにはやるべきことがあったでしょう?」
レノは頷き、「はい…それは…。」と返したが、その言葉の先を考えると、胸の中で様々な感情が渦巻いていた。
「それにユーフィリア様が生誕の公式パーティーを開かないって駄々をこねられて随分と経っているけれど、何故だかわかりますか?」
レノは一瞬考え込んで、「面倒なのでは?」と答えた。
「全く。私に似て鈍感ですね。レノは。ユーフィリア様は、お前にエスコートしてほしくて、側にいてほしくて開けないんですよ。」
読んで下さってありがとうございます!
お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)