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数日後、メアルーシュはレノとユフィがシルバークイーン家へご子息たちの遊び相手として長期間滞在するという話を聞きつけ、怒りを抑えきれずにユリドレとメイシールのいる部屋に怒鳴り込んできた。
「父上!母上!これは一体どういうことですか!」メアルーシュの怒声が部屋中に響き渡り、その目には激しい怒りと困惑が宿っていた。
ユリドレは深く息を吸い込み、冷静を保とうと努めた。
「ルー、落ち着いてくれ。事情を説明するから。」
「落ち着けるわけがありません!ユフィとレノをシルバークイーン家に送るなんて、どういう考えなんですか!」メアルーシュは拳を握りしめ、その場で足を踏み鳴らした。
メイシールも穏やかな声で話し始めた。
「メアルーシュ、これはユフィとレノのために決めたことなの。二人が安全で、成長できる環境を用意するためよ。」
「でも、ユフィはまだ小さいし、レノだって…」メアルーシュは言葉を詰まらせながら、感情を抑えることができずに続けた。
「俺は彼らの兄として、ここで一緒にいるべきだと思っているんです!」
ユリドレは息子の激しい感情に理解を示しながらも、決断の理由を説明した。
「ルー、俺たちもこの決断には多くの考慮を重ねた。シルバークイーン家なら、二人にとって良い環境になる。何もずっとという訳ではないしな。」
メアルーシュはまだ納得がいかない様子で、「でも、未来を知ってる俺がそばにいることが一番だと思う。どうしてそんな大事なことを相談もせずに決めたの?」と問い詰めた。彼の声には明らかな不満と心配が入り混じっていた。
ユリドレは少し溜息をついて言うことをためらったが、息子が納得してくれそうにないことを悟り、重い口を開いた。
「ルー、ちょっとショックかもしれないが聞いてくれ。ユフィがエルレナに嫌がらせを働いた。その内容があまりにも残忍だった。」ユリドレの表情は険しく、その言葉には重みがあった。
メアルーシュは驚いた表情で、「…ユフィが?…エルレナは何も言ってなかった。」と呟いた。彼の目には困惑と不信が浮かんでいた。
メイシールが続けた。「レノが事前に全て防いでくれたの。でも、とても4歳の子がやることではなかったわ…。今のうちに別の環境が必要だと思ったの。」彼女の目には心配と優しさが溢れていた。
「レノとは離れたくなさそうだったから、同行を頼んだんだ。」
メアルーシュは言葉を失い、しばらくその場で立ち尽くしていた。彼の心にはユフィの行動に対する驚きと失望、そして自分が守ってあげられなかったことへの無力感が入り混じっていた。彼の拳は無意識のうちに握りしめられ、唇を噛んでいた。
「ユフィがそんなことを…」メアルーシュはかすれた声で呟いた。彼の視線は床に落ち、思考が混乱していた。
「ルー、君の気持ちはよく分かる。だからこそ、ユフィに今の環境から少し離れて、彼女が成長できる場所を提供することが大切なんだ。」
メアルーシュは拳を握りしめ、その手がわずかに震えているのを感じながら続けた。
「でもアイツは、レノは…未来でユフィの言葉を全て実行に移した恐ろしい奴なんだ。」彼の声には激しい感情が込められていた。「もちろんレノが勝手にやったわけじゃない。俺がユフィの願いを全て聞いてやってくれって指示した。だけど…残忍なやり方を思いつくのはいつだってレノだった。それに全てはユフィがレノを好きになったことが原因なんだ。」
ユリドレは眉をひそめ、息子の言葉に驚きを隠せなかった。「どういうことだ?」と尋ねた。
メアルーシュは苦々しい表情で答えた。
「未来での悪女、ユフィは…レノのことが大好き…いや、愛していて、常にレノを側に置きたがった。レノに色目を使った令嬢をレノ自身に始末させてたんだ。」彼の声は震え、その目には深い悲しみが浮かんでいた。
メイシールは息を呑み、「そうなの!?」と驚きの声を上げた。彼女の手がユリドレの腕に触れ、その力強さが不安を和らげようとする意思を示していた。
「だから俺は…再び危険が訪れると思ってる。」
ユリドレは息子の話に耳を傾け、深く考え込んだ。彼の瞳には深い思慮と懸念が浮かんでいた。その表情は、これからの決断の重さを物語っていた。
「すまない。少し母さんと考えたい。ルー、一度部屋に戻っててくれ。」ユリドレは静かに言った。その声には深い疲れとともに、息子への信頼が込められていた。
メアルーシュは一瞬戸惑いを見せたが、父親の真剣な表情を見て深く頷いた。「分かった。少し外にいるね。」彼は心配そうな表情を浮かべながらも、部屋を後にした。ドアが静かに閉まると、部屋には再び静寂が戻った。
部屋の中に残ったユリドレとメイシールは、しばらく沈黙を保っていた。ユリドレは窓の外を見つめ、遠くの風景に目を向けながら深く息を吐いた。
メイシールは一瞬考え込み、深い息を吐いた。「これは勘だけれど、何かレノ側に誤解がありそうね。今の話をレノに言ったほうが良いかもしれないわ。」
ユリドレは頷き、「そうですね。俺もそう思います。」と言った。そしてベルを鳴らしてゼノを呼び、レノを部屋に連れてくるよう頼んだ。
しばらくしてレノが部屋に入って来た。彼は少し緊張した表情を浮かべながらも、しっかりとした足取りで部屋に向かって進んだ。「体調はどうだ?」ユリドレが尋ねた。
「もう平気です。痛みは引きました。」
ユリドレは安心したように頷き、深呼吸をしてから口を開いた。
「そうか。実は、ルーから未来での話を聞いたんだ。」彼は一瞬言葉をためらい、視線をレノに固定した。
「ユフィが…お前を愛していたという話だ。」
レノは一瞬理解できず、目を見開いたままユリドレを見つめた。
心臓が一瞬止まったような感覚に襲われ、その後すぐに激しく鼓動し始めた。
「愛していた…ですか?」レノの声はかすかに震え、その言葉の重さに圧倒されていた。
ユリドレは深く頷き、続けた。「そうだ。ルーの話によると、ユフィはお前を心から愛していた。その愛情が、彼女の行動に大きな影響を与えていたんだ。」
レノはその言葉を聞いて動揺し、手が微かに震えているのを感じた。
過去の出来事が次々と頭に浮かび上がり、全てが一気に繋がるような感覚に襲われた。
「そんな…ありえません。」彼は口元を手で覆い、必死に冷静を保とうとした。
「私はこの耳ではっきりと、メアルーシュ様に色目を使ったからだと聞きました。現に、エルレナ様に嫌がらせをしているではありませんか。」
「レノ、ルーの話を聞いて、私たちも驚いているわ。でも、もしそれが事実なら、私たちはユフィの行動を理解し、対策を考える必要があるの。」
ユリドレも続けて、「ルーの視点ではそれが事実だった。心当たりはないか?」彼の声には、真実を求める切実さが込められていた。
レノは深く考え込み、記憶の中を探るように目を閉じた。彼の心には、未来での出来事が次々と浮かび上がってきた。
「そう言われてみれば、メアルーシュ様と接点のない令嬢が数多くいました…。それに、ユフィ様が何度も私に命じていたのは…」
レノは顔色をさらに悪くしながら、頭を抱えた。
「もし本当にユフィ様が私を愛していたのだとしたら…すべてが繋がる気がします。」彼の声には絶望が滲んでいた。
ユリドレは深いため息をついた。
「レノ、お前は回帰前に忠誠を使ったレッドナイト家のために全力を尽くしてきた。しかし、俺たちは今、ユフィが本当に幸せになるために何をすべきかを考えなければならない。」
レノは苦しそうに目を閉じ、一瞬口を開いて言葉を探した。
「そのようですね…。ですが…私は…そんな…許されるはずがありません…。」彼の声は震え、自己嫌悪と悔しさが滲み出ていた。
ユリドレは深い息を吐き出し、少し間を置いてから続けた。
「まぁ向こうでじっくり考えてくれ。もうシルバークイーン家とは話がついてあるからな。エルレナの為にもユフィを一旦ここから離すつもりだ。俺達もユフィにはどうしても甘くなるしな。」彼の声には決意がこもっており、部屋の中に静かな緊張感が漂った。
メイシールは優しく微笑みながら、「ずっとってわけではないのよ。ユフィの成長次第では屋敷に戻すわ。」と付け加えた。彼女の目には母親としての愛情と、ユフィの未来を見守る決意が光っていた。
レノはしばらく沈黙していたが、やがて深く頭を垂れた。
「分かりました、ユリドレ様、メイシール様。ユフィ様のために、全力を尽くします。」
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