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88p

最後の一刺しを終えた時、レノは深く息を吐き出し、疲れ果てたように肩を落とした。


ユリドレは彼を見つめ、少し悲痛な表情で言った。「よく耐えた…と言いたいところだが…ここからが更に激痛を伴うそうだ。お前には火と透明化と風のタトゥーを刻んだ。ただ、火は…あまり適合しているようには見えない。特殊能力の使い方はゼノに教えるように言っておく。」


レノは汗まみれの顔で微笑み、「ありがとうございます、若旦那様。ユフィ様のために全力を尽くします。」と静かに答えた。


ユリドレは優しく頷き、「今日はもう部屋に戻って休め。数日は動けないらしい。」


レノはゆっくりと立ち上がり、よろよろとした足取りで部屋を後にした。彼の体は痛みに蝕まれ、足元がふらついていたが、彼は決意を胸に抱き、自室へと向かった。


自室に戻ると、レノはドアを閉めてベッドに倒れ込んだ。体中が痛みで悲鳴を上げているようだった。彼はベッドのシーツを握りしめ、必死に痛みに耐えた。


「ユフィ様のために…」レノは心の中で繰り返し自分に言い聞かせた。痛みが波のように押し寄せるたびに、彼の体は震え、汗が止まらなく流れ落ちた。それでも彼は決して諦めず、ユフィの顔を思い浮かべながら耐え続けた。


夜が更けるにつれ、痛みは少しずつ慣れて感覚が麻痺して和らいでいったが、レノの体は依然として重く、疲れ切っていた。体中の筋肉が悲鳴を上げ、息をするだけでも苦痛が伴う。彼はベッドに横たわり、何とか呼吸を整えようとしていた。


その時、キィっと音を立てて扉が開く音がした。レノはその音に反応して顔を向けると、心配そうにこちらを見つめるユフィの姿が目に入った。部屋の薄暗い光の中で、彼女の瞳は大きく見開かれ、涙の粒がきらりと輝いていた。


「レノ…。」ユフィの声は優しく、心配そうに震えていた。彼女はそっと扉を閉めると、音を立てないように静かに歩み寄ってきた。


レノは痛みに耐えながら、今は声を出すこともつらい状況だった。肩で荒い息をしながら、彼はユフィを見つめ返した。彼の目には、痛みに耐えるための決意が滲んでいた。


ユフィはそんなレノの姿を見て、すぐに彼のそばに駆け寄った。彼女は小さな手を伸ばし、レノの手をしっかりと握った。その手の温かさが、レノに少しだけ安らぎを与えた。彼女の手は小さくて柔らかく、その触れ合いがレノにとっては大きな慰めだった。


「怖い夢でも見たの?」ユフィは心配そうに尋ねた。


レノは痛みで声を出すことができず、微かに頷くだけだった。「・・・はい。」その一言に全ての痛みと苦しみを込めるように、彼はかすれた声で答えた。


ユフィはその答えに安心させようと決意し、「じゃあ、子守歌を歌ってあげるね。」と言った。彼女の愛らしい声が、部屋の中に優しく響いた。ユフィはベッドのそばに腰を下ろし、レノの手を握りしめたまま、静かに歌い始めた。


ユフィは一生懸命に子守歌を歌い始めた。彼女の声は柔らかく、心に染み入るような優しさに満ちていた。歌詞の一つ一つが、レノの心に温かさをもたらし、彼の痛みを少しずつ和らげていった。ユフィの歌声は穏やかで、レノの心に安らぎを与え、その瞳には疲れが次第に薄れていくのが見えた。


レノはユフィの歌声に耳を傾けながら、次第に目を閉じた。彼の呼吸は次第に穏やかになり、体の緊張も少しずつ解けていった。ユフィの歌声が、彼の心と体を癒してくれているのを感じながら、レノは深い眠りに落ちていった。彼の表情は少しずつ和らぎ、痛みから解放される瞬間が訪れた。


ユフィはレノが眠りにつくのを見届けると、その手をそっと離し、彼の額に優しくキスをした。

「おやすみなさい、レノ。」彼女は静かに囁き、部屋を後にした。



――――――――

―――――


レノは夢を見ていた。それは回帰前の記憶が色濃く残る、鮮明な夢だった。夢の中で彼は豪華な宮殿の中に立っていた。壁には高価な絵画が飾られ、床にはふかふかのカーペットが敷かれていた。彼の前には、煌びやかな真っ赤なドレスを纏ったユフィが立っていた。彼女は豪華なアクセサリーで身を飾り、その姿はまるで舞踏会の女王のようだった。


ユフィの目には冷たく鋭い光が宿り、彼女の口元には薄い微笑みが浮かんでいた。

「レノ、パープルポーン家のアーリンが気に入らないの。潰してきてくれない?」彼女の声は甘く、それでいて冷徹な命令の響きを持っていた。 


レノはその言葉に驚き、心の中で葛藤が湧き上がった。

「何故ですか?彼女はとてもお淑やかで危害を加えるような女性ではなさそうですが…。」彼の声には困惑と戸惑いが混じっていた。


ユフィは怒りに燃えるような目を向け、「何よ!?気に入らないったら気に入らないのよ!!!!」と叫んだ。彼女は近くにあったティーカップを掴み、それを床に叩きつけて割った。破片が散らばり、部屋の静寂を切り裂くような音が響いた。


レノは冷静を装いながらも、内心ではユフィの癇癪に動揺していた。

「明確な理由がなければ此方も動けません。」と冷静に返答した。


ユフィはその言葉に一層苛立ち、「明確な理由!?そんなの…そんなの…理由…理由ね…お兄様に色目を使っているからですわ!!!」と叫び声を上げた。


レノはその言葉を聞き、心の中でため息をついたが、外見上は冷静さを保った。

「畏まりました。では…潰してまいります。」と冷静に答えた。


その言葉を聞いたユフィは満足げに微笑み、「さすがレノね。期待しているわ。」と満足そうに言った。


レノは心の中でユフィの要求に対する葛藤を抱えながらも、彼女の命令を遂行するために策略を練り始めた。彼は冷静に計画を立て、パープルポーン家のアーリン嬢を潰すための行動を起こした。彼の心には罪悪感と疑念が渦巻いていた。


彼はアーリン嬢の周囲に罠を仕掛け、巧妙に彼女を追い詰めた。アーリン嬢は無実の罪で貶められ、パープルポーン家の名誉が汚された。レノの冷静な策略は完璧に遂行され、アーリン嬢は社交界から姿を消すこととなった。


しかし、その結果に心を痛めたレノは、ユフィの行き過ぎた行動をどうにか止めたいと感じ、メアルーシュの元へと向かった。彼の心には、ユフィのために何とかしなければならないという強い思いがあった。


メアルーシュの部屋に入ると、彼は深刻な表情で兄を見つめた。「メアルーシュ様、ユフィ様の行動が行き過ぎています。彼女の命令が無実の人々に害を及ぼしています。」


メアルーシュはその言葉に一瞬考え込んだが、すぐにため息をつき、深い愛情が込められた目でレノを見つめた。「すまない。ユフィのいうことは全て聞き入れてやってくれ。可愛い妹なんだ。」彼の声には妹への強い愛情と保護者としての責任が感じられた。


レノはその言葉に失望と困惑を感じたが、メアルーシュの決意の固さを理解していた。彼は深く頭を下げ、「分かりました、メアルーシュ様。ユフィ様の望みを叶えるために全力を尽くします。」と答えた。


その後、レノはユフィの願いを全て実行し続け、手を真っ赤に染めていった。彼の手は罪悪感と血に染まり、その重荷が心にのしかかっていた。ユフィの命令に従い続けることで、彼の心には次第に深い傷が刻まれていった。彼は忠誠と罪悪感の間で揺れ動きながらも、ユフィのために全てを捧げた。


しかし、最終的にはその行為が招いた結果として、大切な家族や屋敷のみんなが王に断罪され、処刑される運命を迎えた。レノの行動が引き起こした悲劇は、彼の心に消えない傷跡を残した。


処刑の場面は鮮烈に脳裏に焼き付き、彼の心に深い後悔を刻みつけた。家族の悲鳴や友人たちの絶望が彼の耳にこびりつき、その光景は決して忘れることのできないものとなった。レノは、自分の行動が招いた結果に胸を締め付けられ、涙が溢れ出すのを止めることができなかった。


そして、最後にメアルーシュが処刑された。処刑される前、彼は穏やかな微笑みを浮かべてレノを見つめ、「レノ…すまなかったな。」と呟いた。その言葉と笑顔が、レノの心に深く刻まれた。


レノは、自分が招いたこの悲惨な現状をどうにかしたいという強い願いを抱き、父親から聞いていたブルービショップの力を得られるかもしれない方法を藁にも縋る思いで試す決意を固めた。その方法とは、メアルーシュの心臓を食べることだった。レノは涙を流しながらも、決意を固め、メアルーシュの遺体に近づいた。

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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