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翌朝、ユリドレとメイシールはレノを呼び出した。朝の光が柔らかく差し込む中、二人の顔には疲れが見えたが、その目には強い決意が宿っていた。
レノが部屋に入ると、ユリドレは一歩前に進み、深く息を吸ってから口を開いた。
「レノ、ユフィを…頼む。」
メイシールも少し前に出て、真剣な眼差しでレノを見つめた。
「レノ、ユフィを幸せにできると誓える?」
レノは一瞬目を伏せ、静かに答えた。
「私は、お二人に仕え、最後までユフィ様と共に生きる覚悟はできております。ユフィ様が幸せかどうかの誓いは立てられません。彼女の本当の幸せは…メアルーシュ様と添い遂げることですから…。」
その言葉に、ユリドレとメイシールは驚きと共に視線を交わした。ユリドレは困惑しつつも、レノの覚悟を見つめた。
「それって…まさか…。」
レノは目を伏せたまま続けた。
「ユフィ様にとっての真の幸せは、メアルーシュ様と共にいることです。しかし、私はユフィ様を守り、彼女が再び同じ過ちを犯さないように導くつもりです。皆様の未来を守るために、全力を尽くします。」
ユリドレはその言葉に深く考え込み、メイシールもまた思案にふけった。彼らの心には、ユフィの未来を守りたいという強い思いが渦巻いていた。しかし、レノの言葉からは、彼がどれほどの覚悟を持ってユフィを守ろうとしているかが伝わってきた。
ユリドレはため息をつき、顔をしかめた。
「問題はルーだな。アイツにばれると厄介だ。何をしでかすかわからない。」
「そうね…。ルーはかなりユフィを気にかけているものね。」ユリドレはため息をつきながら言った。彼の心には、息子がその計画を知った時にどう反応するかという不安がよぎっていた。
ユリドレとメイシールは、メアルーシュにバレずにレノの水でユフィを操っていく方法を考えなければならなかった。
ユリドレは書類の山が積まれた机に向かい、重い決断を下す準備をしていた。部屋には静かな緊張感が漂い、窓から差し込む朝の光が薄暗い影を作り出していた。机の周りにはメイシールとレノが寄り添い、彼の決断を見守っていた。
ユリドレは深く息を吸い込み、天井を見つめながら考えを巡らせていた。彼の心には、メアルーシュを外へ連れ出すことによってレノとユフィの監視を物理的に避けるという計画があった。だが、それには多くのリスクが伴う。
メイシールが心配そうに彼の肩に手を置いた。
「ユリ、どうするつもりなの?」
ユリドレは彼女の手を軽く握り返しながら、深い溜息をついた。
「メアルーシュを外へ連れ出すしかない。日中、ディッケル第二王子の世話をさせることで、彼を家から離すんだ。レノとユフィが一緒にいる間に監視ができないようにする。」
「でも、それではメアルーシュ様に気付かれる可能性があります。どうやって彼に偽の情報を提供するつもりですか?」
ユリドレは机に肘をつき、考え込んだ。
「ケイを護衛につけて、偽の監視情報を与え続けるんだ。そうすれば、メアルーシュは安心するだろう。」
彼の心には、息子がその計画を知った時にどう反応するかという不安がよぎっていた。もしバレれば、親子関係が崩れてしまうかもしれない。それが彼にとって一番の恐怖だった。
メイシールもまた、深い考えに沈んでいた。
「ルーはユフィのことを本当に気にかけているものね。それに、私たちもこの計画を成功させなきゃ…何度考えても今のユフィには必要だわ。」
ユリドレは彼女の言葉に頷きながらも、もう一つの不安が胸を締め付けていた。それは、妻メイシールと何時間も離れていなければならないことだった。片時も離れたくない彼にとって、それはとても辛いことだった。
「えぇ…。そうなんですが、メイと離れている時間のことを考えると辛すぎて…。」ユリドレは声を低くして言った。
メイシールは優しく微笑み、「それは私もよ、ユリ。でも、みんなの未来を守るためには、今はこれが必要よ。」と励ました。
ユリドレはそっとメイシールの膨らみ始めたお腹に手を添えた。
「この子が生まれてからじゃ、遅いですよね。」
メイシールは深い溜息をつきながら、「エルレナ様に悪質な嫌がらせをし始めているなら…今からでもやめさせておかなきゃ…。」と静かに答えた。
「叱っても、癇癪を持ってる以上ユフィがより一層苦しめられるだけですからね。」
レノは二人の話を聞きながら、溜息をついた。
「でしたら、私とユフィをどこかの子供のところへ遊び相手として派遣されてはどうですか。」
その意見に、ユリドレとメイシールは顔を見合わせた。レノの提案は予想外だったが、同時に現実的な解決策にも思えた。彼の冷静な視点が、二人に新たな光を投げかけた。
「それは良い考えかもしれないな。」ユリドレは頷きながら言った。「遊び相手として派遣することで、ユフィの行動を自然に見せることができる。」
「そうね…。考えてもみなかったわ。レノの中身は大人なわけだし、レノに任せても良いかもしれないわ。」
レノは少し真剣な表情を浮かべ、「ただ、いくつか条件があります。私一人で子供を相手にしつつ、ユフィ様をお守りすることが難しいので、私の体にいくつかの家門のタトゥーを刻んでいただけませんか。」と提案した。
ユリドレはその提案に少し驚いてしまう。家門のタトゥーを刻むということは、想像を絶する痛みに耐えなければいけないことを意味していた。レノがそれを自ら申し出たことで、ユリドレは一瞬戸惑った。
「本気で言っているのか?」ユリドレは眉をひそめながら問いただした。
レノは頷き、「はい。ユフィ様を守るためには、私が強くなる必要があります。タトゥーを刻むことで、家門の力を借りることができれば、彼女をより安全に守ることができます。」と真剣な表情で答えた。
ユリドレはレノの決意を見つめ、深い考えに沈んだ。彼の心には、レノの勇気と覚悟がしっかりと刻まれた。「わかった、レノ。お前の提案を受け入れる。ただし、無理はしないでくれ。お前が大事な親友の一人息子だ。」
レノはその言葉に少し意外そうな顔を見せたが、すぐに深く頭を下げ、「ありがとうございます。ユフィ様のために全力を尽くします。」と言った。
その後、ユリドレはゼノを呼び出した。ゼノは呼び出しにすぐ応じ、迅速にユリドレの部屋に現れた。
「主、お呼びでしょうか。」深く礼をしながら、ゼノは静かな声で言った。
メイシールとレノも部屋に立ち会っており、その光景にゼノは少しだけ驚いた様子を見せた。
ユリドレは親友であり直属の部下でもあるゼノに向かって深く頷いた。
「ゼノ、大切な話がある。」
「解毒剤は既に完成しているそうだな。そこで、実際に飲ませるのではなく、飲ませたふりをしてほしい。理由は…複雑だが、ユフィの将来を守るために。それからルーには絶対気取られてはいけない。」
ゼノは驚きの表情を浮かべ、「解毒剤を飲ませないということですか?」と尋ねた。
ユリドレは深く息を吸い込み、ブルービショップの本当の能力の話だけを伏せ、事情を説明した。「ユフィがエルレナに悪質な嫌がらせをしているのは事実だ。レノがそれを止めるために水を使ったのも事実だ。しかし、ユフィの将来を考えると、レノの方法が最善だと判断したんだ。」
ゼノは眉をひそめ、息子レノの行為に対して複雑な感情を抱いていた。「若旦那様、レノがユフィ様に水を飲ませたことには過失があります。それを理解していますが、解毒剤を飲ませないのは…」と言葉を続ける。
「ゼノ、ユフィの将来を守るために、俺たちは慎重に行動しなければならない。娘がエルレナに嫌がらせをするのは、癇癪が原因だ。叱っても効果がなく、むしろ悪化するだけだろう。レノの方法は一時的な解決策かもしれないが、今はレノの力を借りるしかないんだ。」
ゼノはチラリとユリドレの顔を見た。彼の顔には深い疲労が刻まれており、徹夜で考え続けた痕跡が伺えた。
「それから…レノの強い希望でレノの体に他の家門のタトゥーを刻むことになる…。俺としてはそんな真似をしないで欲しいと思っている。だが、レノが強く希望している。」
ゼノはその言葉に一瞬息を呑んだ。彼自身、幼少期に無理矢理家門のタトゥーを刻まれた経験があり、その痛みと苦しみをよく知っていた。自分の息子が同じ道を辿ることになるという現実に、戸惑いを隠せなかった。
「主…、レノがタトゥーを刻むことを希望しているとはいえ、その痛みは想像を絶するものです。息子がユフィ様を守りたいという気持ちは理解しますが、簡単なことではありません。」
ユリドレはゼノの言葉に耳を傾け、深く頷いた。
「わかっている。だからこそ相談しているんだ。レノがこの決断を下した以上、俺たちは彼を支えるしかない。だが、無理をさせるわけにはいかない。何かいい方法はないか?」
ゼノはしばらく考え込み、チラリとレノを見た。無垢な少年ではなく、立派な意思を持つ息子の姿がそこにあった。
「レノの決意は固いようですね…。私も全力で支えるしかないようです。」
ゼノは深い息を吐き、最終的にユリドレの頼みに応じた。
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