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第三者視点の時はあえてユリドレと書かせてもらってます。ころころ視点をかえて申し訳ないです;
そして二日後の夜、ユリドレが屋敷の廊下を歩いていると、ふいに袖を引っ張られて立ち止まった。「レノ?」と囁きながら、彼はしゃがんでレノと同じ目線になった。
「どうした?」ユリドレは優しく問いかけた。
レノは少し躊躇いながらも、左足のズボンを引っ張って足首を見せた。
「これが何か…ユリドレ様ならお分かりいただけますか。」
「それは!?」ユリドレの目が見開かれた。そこには小さな輪のタトゥーが青白く光っていた。そのタトゥーはユリドレの左手首にもあるもので、特別な意味を持っていた。
「お前がどうして…。」ユリドレは驚きを隠せなかった。
レノは横目でチラチラと周囲を見渡しながら、冷静な声で提案した。
「場所を移しませんか。ここは監視が多すぎます。」
ユリドレはすぐに周囲に気を配り、部下にも不自然に見えないように気を配りながら、レノを肩車して監視の届かない隠し部屋へと向かった。廊下を進み、いくつかの扉を通り過ぎると、彼らは秘密の扉を開き、中に入った。
隠し部屋に到着すると、ユリドレは慎重にレノを下ろし、ドアをしっかりと閉めた。
「ここなら大丈夫だ。何が起こっているのか説明してくれ。」
レノは深い息をつき、静かに話し始めた。
「私は…回帰前、メアルーシュ様の心臓を食べてから他人の手を借りて自らの命を断ちました。4歳になった頃の朝に突然戻ったのです。ユリドレ様の最期の話を父から聞いて、私も最後はそうするべきだと判断しました。まさかブルービショップの力が過去に回帰するものだとは思っていませんでしたが…。何かあるだろうなくらいにしか…。しかし、どうしても救いたかったのです。ユフィ様を。」
ユリドレは驚愕の表情を浮かべた。
「それは…ユフィが稀代の悪女となって、処刑されたという人生の話か?」
レノは頷き、続けた。
「はい。ユフィ様の癇癪は大人になってもおさまることがありませんでした。メアルーシュ様は恋人のようにユフィ様を甘やかしておられたので、私は見ていることしかできませんでした。」
ユリドレは深い沈黙の後、重々しい声で言った。
「……なんということだ。」
レノは目を伏せ、「私は…ほんとうに回帰したのですね」と静かに呟いた。
ユリドレはその言葉に頷き、「そうだ。俺も回帰している。同じく妻の…」
レノは話を遮るように、「ユリドレ様、聞いてください。ユフィ様の癇癪を治せるのは私くらいだと思っています。なので私は水を飲ませました」と言った。
「…やはりか。ルーが気付いていた」
「はい。しかし理由があります。」
「なんだ?」
「ユフィ様は幼いながらもエルレナ様に危害を加えていました。」
「危害?エルレナに突き飛ばされたふりをしたことか?」
レノは首を横に振った。
「いえ、彼女の服を何着か破いておられました。それは私が補填しておきました。それからエルレナ様の部屋に虫を置き、またある時はネズミ取りに引っかかっているネズミを箱に入れて渡したりなどしておりました。それも事前に処理しておきました。」
ユリドレは信じられないという表情でレノを見つめた。
「なんだと?」
「信じられないのなら、明日完成する予定の解毒剤を飲ませて様子をみられますか?どの道、メアルーシュ様に気付かれてしまうとやっかいです。私は彼を信用できません。彼も回帰しているのですよね?」
「あぁ…。」
「回帰してもなお…あの様子では、やはり信頼できません。このままではお二人も再び危険に晒されます。」
「あぁ…そうだな。レノ、ユフィが具体的に何をしていたが覚えているか?」
レノは頷き、未来のユフィが稀代の悪女と言われるに至った事件の数々を話し始めた。
「はい、覚えています。ユフィ様は大人になるまでに多くの事件を引き起こしました。彼女はまず、宮廷内で権力を持つ者たちに対して陰謀を企てました。」
ユリドレは眉をひそめ、集中して聞いていた。
「彼女は様々な手段で敵対者を排除しました。毒を使った暗殺や、密告による失脚、さらには策略を用いて他人を陥れることもありました。また、彼女の癇癪が暴走した際には、無関係な者たちまで巻き込んでしまうことが多々ありました。」
「なんということだ…。」
「さらに、ユフィ様は経済的な圧力をかけることで人々を支配しました。彼女の冷酷さと無慈悲な手法は、多くの人々に恐怖と混乱をもたらしました。最後には、反逆者として処刑される運命をたどりました。」
ユリドレは沈痛な表情でレノを見つめた。
「それがユフィの未来だったのか…。あまりにも悲惨だ。」
「ですから、ユフィ様を救うためには、今から対策を講じる必要があります。彼女が再び同じ道をたどらないように…。」
「すまない…少し考えさせてくれ。明日の朝までには決断を下す。」
「これはあくまで個人的な意見ですが、好きか嫌いかでいえば…私はユフィ様のことを好ましく思っております。あの方といて、とても楽しかったです。では、失礼します。」
レノは秘密の部屋をいとも簡単に細工を解いて部屋を出て行った。その姿は、彼が未来でこの部屋に入った経験があることを証明していた。ユリドレはその事実に驚きと共に、深い思案にふけった。
彼の頭には、ユフィの将来をどう守るべきか、レノの助言に従うべきかという重い葛藤が渦巻いていた。ユリドレは頭を抱え、膝をついて考え込んだ。
―――――――
―――――
その夜、ユリドレとメイシールはベッドに横たわりながら、ユフィの未来について深く議論を交わした。静かな夜の中、二人の心には重い葛藤が渦巻いていた。ユリドレがレノから聞いた衝撃的な事実、そしてユフィが将来稀代の悪女になるという予言が、二人の心を重く圧し掛かっていた。
「そう…レノが回帰を…。」
ユリドレは深い息をつき、メイシールの手を握りしめた。彼の顔には深い苦悩と決断の跡が見て取れた。メイシールもまた、夫の言葉に耳を傾けながら、その重圧を共有していた。彼女の目には、愛する娘の未来を思う切実な思いが宿っていた。
夜が更ける中、二人は様々な角度からユフィの問題を考え続けた。ユリドレは何度も繰り返し、レノの言葉を思い返した。レノがユフィを守るために取った方法、そして彼が語った未来のユフィの行動。これらの話は、ユリドレの心に深い印象を残していた。
メイシールもまた、ユリドレの話を聞きながら、自分の考えを整理していた。彼女はユフィが既にエルレナに対して行っていた嫌がらせの数々を思い出し、その影響がどれほど大きかったかを考えていた。彼女の心には、ユフィがエルレナに再び辛い思いをさせることのないようにしたいという強い願いがあった。
「ユリ、どうすればいいのかしら…」とメイシールは囁くように言った。その声には深い悲しみと同時に、決意の色が見え隠れしていた。
ユリドレはメイシールの言葉に応え、再び深く考え込んだ。彼の心には、まだ起こってもいない出来事に対する罪の重さが感じられた。そして、エルレナに再び辛い思いをさせることを避けるために、どのような選択をするべきかを考え続けた。
二人は朝まで話し合いを続け、ついに一つの結論に達した。まだ起こっていない未来の出来事でも、罪は罪であると。そして、それを防ぐためには、レノにユフィを任せるしかないという苦渋の決断に至った。
決定的だったのは、レノがユフィと一緒にいて楽しいと語った言葉だった。ユフィが未来の悪女になる可能性がある一方で、彼女に対するレノの愛情と楽しさが本物であることが、二人の心に希望をもたらした。
ユリドレは最後に深い息をつき、メイシールの手をしっかりと握りしめた。「レノに任せましょう。レノならユフィを正しい道に導けるかもしれないです。」と決意を込めて言った。
メイシールも頷き、夫の決断に賛同した。「そうね、ユリ。私たちも全力で支えましょう。みんなの未来を守るために。」と優しく言った。
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