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メアルーシュが目を覚ましたのは昼前だった。いつもなら妹のユーフィリアが起こしに来て、視界が燃えるような真っ赤な髪で埋まるはずなのに、それがなかった。彼は妹に何かあったのかと心配し、急ぎパジャマのまま屋敷を走り回り始めた。メアルーシュの足音が廊下に響き渡り、彼の心臓が高鳴った。
「ユフィ、どこにいるんだ?」と叫びながら、彼は屋敷中を探し回った。しばらくして、彼はユフィの声が聞こえる部屋にたどり着いた。ドアを開けると、そこにはユフィがレノと人形遊びをしている姿があった。
メアルーシュは一瞬、驚きのあまり言葉を失った。レノの髪色が銀色に変わっていることに気付いたのだ。「レノ!?特殊能力の発現が早くないか?」と彼は驚愕の声を上げた。
レノは綺麗に笑いながら答えた。「朝起きたら染まってました。」
メアルーシュは息を切らしながら部屋に駆け寄り、レノの髪をじっと見つめた。「本当に…こんなに早く発現するなんて…。でも、大丈夫なのか?」
ユフィは笑顔で兄に答えた。「レノ、大丈夫だよ。ミレーヌお母様と一緒にアンクレットをつけたんだから。」
メアルーシュは少し安堵しながらも、「でも気をつけないといけない。レノの力は強力だから、何かあったらすぐに知らせてくれ」と真剣な表情で言った。
レノは頷き、「わかりました、メアルーシュ様。僕も注意します」と答えた。
メアルーシュは妹のユフィを抱きしめ、「ユフィ、心配させないでくれよ」と優しく言った。ユフィは兄の胸に顔を埋め、安心したように微笑んだ。
「ごめんね、お兄ちゃん。でも、今日はレノと遊びたかったんだ」とユフィは小さな声で言った。
メアルーシュはその言葉に微笑み、「わかったよ。でも、何かあったらすぐに知らせてくれ」と言って、彼女の髪を優しく撫でた。
それから数日がたち、メアルーシュは次第に気づき始めた。ユフィが毎朝の日課だった兄を起こすことをしなくなったのだ。彼は最初、ただの偶然かと思っていたが、それが続くと不安が募った。
ユフィは不自然なくらいに兄に対する興味を失い、レノとばかり遊ぶようになった。レノと一緒にいる時の彼女は、まるで別人のように楽しそうで、笑顔が絶えなかった。メアルーシュはその光景を見つめながら、心の奥底に不安と疑念が広がっていくのを感じていた。
「ユフィ、どうして最近僕を起こしに来ないんだ?」ある朝、メアルーシュは勇気を出して妹に尋ねた。
ユフィは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んで答えた。「ごめんね、お兄ちゃん。でも、今はレノと一緒にいるのが楽しいの。」
その言葉にメアルーシュは心が痛んだが、彼はユフィの気持ちを尊重しようと努めた。「そうか。でも、僕もユフィと一緒に過ごしたいんだ。時々は一緒に遊んでくれるかい?」
ユフィは少し考えてから頷いた。「うん、わかったよ。お兄ちゃん。でも、今はレノともう少し遊びたいの。」
メアルーシュは苦笑しながら、「そうか。それじゃ、レノと仲良くね」と言って、妹の頭を優しく撫でた。
その後もユフィはレノと一緒に過ごす時間が増え、メアルーシュはその変化に戸惑いを覚えながらも、妹の幸せを願う気持ちを大切にしようとしていた。しかし、彼の心の中には、妹が自分から離れていくような寂しさが広がっていた。
メアルーシュの思考は次第に疑念に包まれた。「おかしい…。レノの特殊能力の覚醒はもう少し後だったはずだ。なのにどうして…。俺の両親が健在なのが原因か?レノの心理状態に良い影響を与えている…のか? 妙だな。」
ある日、メアルーシュはレノに直接尋ねることにした。「なぁ、レノ。ユフィに水を飲ませたりしてないよな?」
レノは冷静に答えた。「いいえ。僕は食堂に入って初めて特殊能力が目覚めたみたいです。使い方もわからないです。」
メアルーシュはしばらく沈黙した後、さらに問いかけた。「…なぁ、レノ。どうして…特殊能力の水だって…わかった?」
レノは眉一つ動かさずに返答した。
「前にも父に似たようなことを聞かれたので、それかと思いました。」
メアルーシュはその答えを聞いても、完全には納得できなかった。回帰前の世界でもレノは優秀で、小さな頃から大人のような振る舞いをすることが得意だった。それはレノの親であるゼノやミレーヌも幼少期からそんな感じだったからと聞いていたので、普通といえば普通であった。だが、レノが嘘をついているのかどうかの見分けがつかなかった。
「そうか…」
メアルーシュは微かにため息をつき、視線を外した。彼の心にはまだ疑念が残っていたが、それを確かめる術はなかった。
その後、メアルーシュはユフィの元へ向かい、彼女の笑顔を見て心を落ち着けようとした。
「ユフィ、今日は何をして遊ぶんだ?」彼は優しく尋ねた。
ユフィは無邪気な笑顔を浮かべて答えた。
「今日はレノとお城ごっこするの!お兄ちゃんも一緒にどう?」
メアルーシュはその提案に微笑み、「うん、一緒にやろう」と答えた。彼の心の中では、妹を守りたいという強い思いが再び燃え上がっていた。
そして、メアルーシュは、疑念を解決するために両親のいる部屋に向かった。彼の心にはまだレノについての不安が渦巻いていた。彼はドアをノックし、静かに開けた。
「父さん、母さん、ちょっといい?」
ユリドレは膝の上にメイシールを乗せて二人で仲睦まじく書類に目を通していたが、すぐに顔を上げた。メイシールもメアルーシュに微笑んで、「どうしたの、ルー?」と優しく尋ねた。
メアルーシュは部屋に入り、ドアを閉めてから深呼吸をした。
「レノのことなんだけど、何かおかしいと思わないか?」
ユリドレは眉をひそめ、椅子に深く座り直した。
「何がおかしいと感じるんだ?」
メアルーシュは一瞬言葉を選びながら、思考を整理した。
「レノの特殊能力が覚醒するのが早すぎる。それに、ユフィが最近、僕に全然興味を持たなくなって、ずっとレノと一緒にいるんだ。まるで惚れ薬を使われたみたいに。」
ユリドレは深く考え込み、目を細めた。
「なんだと?」
メイシールも眉をひそめ、メアルーシュの顔を見つめた。
「それは本当なの?」
「うん、最近のユフィの行動が明らかにおかしい。レノの様子もどこか変だ。」
ユリドレは困惑した表情で頭をかいた。
「参ったな。レノはまだユフィと同じ歳だろ?ブルービショップが関係しているなら、疑うこともできるが、レノはただの子供だ。流石にあの歳では何もできんだろう。」
「そうよね。だってユフィと一緒にいたのは部屋から廊下までの間でしょ?その間に特殊能力を自在に操ってユフィに水を飲ませるなんて無理よ。」
メアルーシュは眉をひそめ、考え込んだ。
「そうだよね…。でも、それでも何かおかしいんだ。レノの能力がどう関係しているのかはわからないけど、ユフィの急な変化は無視できない。」
ユリドレの指示とゼノの対応
「変化…か。ゼノ。」ユリドレはベルを鳴らし、すぐにゼノが現れた。
「お呼びでしょうか。」ゼノは深い一礼をしながら問いかけた。
ユリドレは真剣な表情で彼を見つめた。
「お前の息子がユフィに水を飲ませた可能性がでてきた。ユフィを解毒してみてくれないか?」
ゼノは一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに冷静に頷いた。
「解毒…ですか?承知しました。水の解析には時間がかかりますので、1週間ほど頂いてもよろしいでしょうか?」
「3日だ。」
ゼノはその短さに驚いたが、彼の顔には決意が浮かんだ。
「わかりました。3日で必ず解毒と解析を行います。」
ユリドレはゼノの目を見つめ、「もし、本当にユフィが水を飲んでいた場合、残業代は無しだ。」と重々しく言った。
ゼノは深く頭を下げた。
「承知しました。」
彼は急いで部屋を後にし、解毒の準備に取り掛かった。
メアルーシュは心配そうに父を見つめ、「父さんから見てユフィはどう?」と尋ねた。
ユリドレは少し考え込んだ後、静かに答えた。「お前がエルレナに構うから、ユフィなりにレノを頼るようになったんじゃないかと思う。」
メアルーシュはその言葉にハッとし、思い返した。
「そうか…。確かに、最近はエルレナに時間を割いていたかもしれない。うわ…どうしよう。盲点だった。」
ユリドレは息子の肩を軽く叩き、「どちらにせよ、解毒剤を飲ませてみればわかるだろう」と冷静に言った。
その日の夜、メアルーシュはユフィの部屋の前で静かに見守り、彼女の安全を確認し続けた。
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