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彼女は両腕で自分を抱きしめ、震える声で続けた。「お兄ちゃんが大好きなのに、どうして遠くに行っちゃうの?」ユフィの言葉は夜風に消え、涙が次々と頬を伝った。
その時、優しい手がユフィの肩に触れた。振り向くと、そこにはゼノとミレーヌの息子であるレノディリアスがいた。レノとユフィはほぼ同じ時に生まれ、メアルーシュが相手できない時はいつも一緒に遊んでいた。そんな彼はいつも金髪なのに、今日は銀色の髪で、彼の瞳は冷たく鋭い水色で、まるで澄んだ氷のようだった。
ユフィは驚きと不安の入り混じった声で問いかけた。
「レノ…その髪の毛と目…。どうしたの?」
レノディリアスは少し微笑んだが、その微笑みもどこか冷ややかだった。
「どうしたと思う?」
ユフィは焦りと戸惑いを隠せずに叫んだ。
「わからないから聞いてるのよ!」
静かに頷いたレノディリアスは、「特殊能力が目覚めたみたい」と答えた。
ユフィの瞳は大きく開かれ、信じられないという表情を浮かべた。
「そしたらそうなるの?」
「うん。そう聞いてる」とレノディリアスは冷静に答えた。彼の言葉に戸惑いを隠せなかったが、レノディリアスの冷静さに少しだけ安心を覚えた。
「レノ、怖くないの?」ユフィは一瞬だけ瞳を細めたレノディリアスに尋ねた。
「少しだけ。でも、ユフィがそばにいてくれるなら大丈夫」と静かに答えた。その言葉にユフィは胸が温かくなり、涙が止まった。
「もぅ、お兄様をエルレナ様に取られて怒ってたのに!レノのせいで忘れちゃったじゃない!」ユフィはふくれっ面をして言った。
レノディリアスは肩をすくめた。
「忘れたままでいいよ」
ユフィは怒りだしたが、ふとレノの服の袖についた赤い染みが気になった。
「それどうしたの?血?」
「うん…ねずみ退治してたんだ」
ユフィは納得したように頷いたが、まだ疑問が残っている様子だった。
「ねぇ、ユフィ」
「なによ」
「いっぱい泣いたよね?喉…乾かない?」
「え?…別に…」
「そう?僕、特殊能力で水が出せるようになったから、飲んでみない?」
ユフィは目を輝かせ、興奮気味に言った。
「え!?お水を出せるの!?すごーい!見せて見せて!」
レノは微笑み、手を差し出して水を出す準備をした。ユフィは興味津々でその様子を見守る。
レノが手を差し出すと、彼の手のひらから水がまるで水道水のように流れ出てきた。透明な水が月光を反射し、キラキラと輝いていた。
ユフィは驚きと興奮で目を輝かせながら、その水を手ですくって飲んでみた。冷たくて新鮮な水が喉を潤し、彼女の心にも安らぎをもたらした。
すると、その瞬間からレノがとても輝いて見えるようになった。彼の銀色の髪が月光を受けて柔らかく光り、冷たく鋭い水色の瞳がまるで宝石のように輝いていた。ユフィの胸がドキドキと高鳴り、心が温かく包まれるような感覚が広がった。
「レノ…王子様みたい」とユフィは呟いた。彼女の瞳には尊敬と憧れ、そして何か特別な感情が浮かんでいた。
レノはその言葉に少し照れくさそうに微笑んだが、その微笑みは彼の冷静さをさらに際立たせた。
「そんなことないよ、ユフィ。僕はただのレノだよ」と彼は優しく言った。
ユフィは彼の言葉に頷きながらも、その瞳は彼を見つめ続けていた。レノの手から流れ出る水を飲んだ瞬間から、彼への気持ちが一層強くなったことを感じていた。
レノはユフィの目を見つめ、少しだけ真剣な表情になった。
「ユフィ。僕のこと好き?」
「うん。好き。」
「メアルーシュ様と僕、どっちが好き?」
ユフィは一瞬も迷わず、熱い思いを込めて答えた。
「レノ!!」
レノディリアスはその答えに満足したように輝くような笑みを浮かべ、ユフィの手をもう一度優しく握りしめた。
「嬉しい。今日はもう遅いから部屋に戻って寝ようか。」
ユフィは目を輝かせて元気よく答えた。
「うん!」
レノディリアスはユフィの手を引きながら、ゆっくりと歩き出した。ユフィの顔には安心と喜びが広がり、彼女の心はまるで新しい冒険が始まるような期待感でいっぱいだった。二人は手をつなぎながら、静かな夜の庭を抜け、家の中へと戻っていった。
部屋へ向かう途中、ユフィはレノの隣で微笑みながら、「レノ、今日はありがとう」と小さな声で囁いた。
レノはその言葉に微笑み返し、少しだけ真剣な表情を浮かべて、「ユフィ。お水を飲んだことは秘密だよ」と静かに言った。
「どうして?」
レノは立ち止まり、ユフィの肩に手を置いて優しく説明した。
「これは僕の特殊能力の一つだけど、まだ誰にも話していないんだ。だから、今は二人だけの秘密にしてほしい。」
「わかった、レノ。絶対に誰にも言わないよ。」
レノディリアスは安心したように微笑み、再び歩き出した。ユフィもその隣で、小さな手をしっかりと握りしめながら歩いた。
レノはユフィを部屋の前まで送り届けた。
「おやすみ、ユフィ。いい夢を見てね。」
ユフィは頷き、ドアノブに手をかけた。
「おやすみ、レノ。」
レノは微笑みを浮かべ、ユフィが部屋に入るのを見届けた。ドアが閉まると、彼はしばらくその場に立ち、深く息をついた。
ユフィはベッドに飛び込み、毛布を引き寄せながら心の中でレノに感謝した。彼女の心は温かく、彼への特別な感情が胸の奥で静かに燃えていた。
「レノ…」ユフィは囁きながら目を閉じ、レノディリアスの優しい笑顔を思い浮かべた。
翌日、ユフィは毎朝の日課である兄を起こしに行くのではなく、真っ直ぐにレノの部屋へ向かった。心には昨日の出来事が鮮明に残っており、彼に会いたいという思いが強く芽生えていた。彼女は軽いノックをし、そっとドアを開けた。
「レノ、おはよう!」ユフィは小さな声で呼びかけ、レノディリアスの寝顔を覗き込んだ。彼の銀色の髪が枕に広がり、まるで月の光が当たっているかのように輝いていた。
レノディリアスはゆっくりと目を開け、微笑んでユフィを見つめた。「おはよう、ユフィ。早いね。」
「うん、今日はレノを起こしに来たの!」ユフィは元気よく答えた。
そしてユフィとレノが食堂に入ると、皆がレノの髪色の変化に驚きの声を上げた。ユリドレは特に驚いた様子で、レノに目を向けて尋ねた。
「シルバークイーンの血筋はいつもこうなのか?」
ゼノは驚きのあまり目を見開いた。
「私の時もこうでした。ですが、他の人は違うようです。私が稀なケースで、同じように変化するのは少ないと聞いています。」彼は一瞬言葉を詰まらせたが、続けて真剣な表情で言った。「ですが、危険です。すぐにでも特殊能力を封印する必要があります。私の能力が遺伝している場合…特に危険です。」
その言葉に部屋の空気が一瞬にして緊張感に包まれた。ユリドレは深刻な表情でゼノを見つめた。
「そうだな。お前のあの能力は危険だ。すぐにでも能力封じのアンクレットをはめさせよう。」
レノディリアスは、あえて自分の変化に気付いていないような素振りをしてみせた。
「僕に何か変わったことでもあったの?」と無邪気に尋ねたが、その声には少しだけ不安が混じっていた。
ユリドレは眉をひそめて彼を見つめ、「レノ、お前の髪の色が変わったんだ。特殊能力が目覚めたようだが、それが非常に危険なものだとゼノが言っている」と説明した。
レノディリアスは驚いたふりをし、「本当に?全然気づかなかったよ」と答えた。その言葉にユフィは不安そうに彼を見つめたが、レノは彼女に安心させるように微笑んだ。
ゼノは深刻な表情のまま、「能力封じのアンクレットを用意します。これでひとまず安心できるでしょう」と言った。
ユリドレは頷き、「それで頼む。レノ、このアンクレットをつけておけば、君の能力が暴走することはない。理解してくれ」と優しく言った。
レノディリアスはその言葉に静かに頷き、「わかりました。僕もみんなを危険にさらしたくないから」と答えた。
その時、ミレーヌが食堂にやってきた。彼女はレノの変化に気付き、驚愕の表情を浮かべた。
「レノ、どうして…」
ゼノがすぐに説明すると、ミレーヌは真剣な表情で頷いた。
「レノ、すぐにつけにいきますよ。危険すぎます。」
ミレーヌは優しくレノの肩に手を置き、静かに促すように彼を導いた。レノは一瞬、ユフィの方を振り返り、心配そうに見つめる彼女に微笑んで見せた。「大丈夫だよ」と小さな声で囁いた。
ユフィはレノの微笑みに少し安心し、頷いた。
「気をつけてね、レノ」と静かに言った。
ミレーヌとレノは食堂の出口に向かって歩き出した。レノの銀色の髪が月光のように輝き、彼の背中は少しだけ緊張しているように見えた。ミレーヌは彼の手を軽く握り、母親らしい温かさと安心感を伝えようとしていた。
食堂のドアが開くと、ミレーヌは一度振り返り、家族に向かって軽く会釈をした。「すぐに戻ります」と言った後、再びレノに目を向けた。
「さあ、行きましょう。」
「はい。」
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