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「どこが魅力的に思ったの?」と聞かれて、エルレナはゴールドキング公爵邸での日々を思い返した。
エルレナは静かに、けれども心の奥底から溢れ出す感情を込めて話し始めた。
「喋り方や所作、特殊能力の使い方など、大人でも難しい内容を厳しく怒鳴られながら教えられていました。それができなければ、腕や見えない場所に鞭で叩かれました。できても褒められることはなく、男の人が喜ぶ綺麗な体を維持するために、食事も満足にとらせてもらえませんでした。あの日々は、まるで地獄のようでした。毎日は恐怖と痛みに満ち、心がすり減るのを感じながら過ごしていました。」
エルレナの声は震え、目には涙が浮かんでいた。私は黙ってその話に耳を傾けた。
「そんな絶望的な日々の中で、メアルーシュ様は光のように現れました。毎日、彼は私を見つけ出して甘い果実を食べさせてくれました。その果物の甘さが、少しずつ心の中に染み込んでいくのが分かりました。彼は優しく傷を治療してくれ、そのたびに使用人が何人かやめさせられていくのが心苦しかったです。でも、彼を拒否することなどできなかったのです。メアルーシュ様の存在が唯一の救いだったからです。その頃には、もう既にメアルーシュ様に惹かれていたのかもしれませんね。」
エルレナの涙は次第に頬を伝い、私もまたその話に心を打たれていた。
「メアルーシュ様の優しさと決して諦めない姿勢に、私は変わることができました…。彼がいなかったら、きっと私は心を閉ざしたままだったと思います。私を救ってくれた、メアルーシュ様の行動一つ一つが、私にとってはとても魅力的に映ります。」
エルレナは少し笑みを浮かべながらも、その目にはまだ涙が光っていた。
エルレナの話を聞いて、私は胸の奥に少し怒りが芽生えた。一番辛い時にエルレナの支えになりながら、今はその気持ちに向き合わず、逃げているルーに対する怒りだった。彼は責任を取ると言っていたのに、それが行動に伴っていないことに苛立ちを感じた。
「エルレナ様の気持ち、よくわかるわ。夫もね、私が一番辛い時に片時も離れずに寄り添ってくれるの。今も彼なしじゃいられないくらいに甘やかされてるわ。レッドナイトの血族は一度好きになった女性を縛る癖でもあるのかしらってくらいにね。」
エルレナは微笑みを浮かべながら「ふふ…なんですか?それは…。」と言った。
「ルーのお爺さんも奥さんのことが好きすぎて領地に引きこもってずっと二人で暮らしてるのよ。料理まで作って…。それに私の夫のユリなんて10歳くらいの時から私を好きになったんだから。異常な家族なのよ。」私は笑いながら続けた。
エルレナはその言葉に少し笑いを取り戻しながらも、まだ目には涙が光っていた。彼女がこんなに純粋な想いを抱いているのだから、ルーもその責任をしっかり果たしてほしいと願った。
「さぁ。夜は冷えるからそろそろ部屋に戻ったほうがいいわ。」私はエルレナの肩に優しく手を置き、立ち上がるのを促した。
エルレナは涙を拭いながら頷いた。「ありがとうございます、メイシール様。少し楽になりました。」
「いつでも話に来てちょうだいね。私もいつでも力になるわ。」私は微笑みながらエルレナの手を握り、彼女を立ち上がらせた。
二人で庭から屋敷へと戻ると、暖かい光が私たちを迎えてくれた。夜の冷たい風から解放され、エルレナの顔にも少し安堵の色が見えた。
「おやすみなさい、エルレナ。」私は彼女の手を軽く握り直し、優しく言った。
「おやすみなさい、メイシール様。本当にありがとうございました。」エルレナは微笑んで答え、部屋へと戻っていった。
私は彼女の背中を見送りながら、心の中でルーへの不満を改めて感じていた。
私は彼女の背中を見送りながら、心の中でルーへの不満を改めて感じていた。突然、気配を感じて振り返ると、そこには透明化して立ち聞きしているルーの姿があった。
「透明化で盗み聞きは感心しないわね、ルー。」
すると、ルーだけではなく、その隣にもう一人の姿がぼんやりと現れた。ユリも透明化していたのだ。二人して姿を現したので、私は驚いて目を見開いた。
「あなたたち、二人とも聞いていたの?」私は驚きと苛立ちの入り混じった声で言った。
ユリは少し照れくさそうに微笑みながら、「すみません、夜風は冷えるので、メイの様子が気になってしまって…。」と答えた。
ルーは少しばつが悪そうにしながらも、「ごめん、母さん。でも、エルレナのことが心配で…。」と言い訳をした。
私はため息をつき、少し落ち着いて言った。
「ルー、エルレナの気持ちにちゃんと向き合ってあげなさい。彼女はあなたの優しさに救われたんだから。」
ユリはその言葉に同意しながら、「そうだ、ルー。責任を取ると言ったのなら、彼女の気持ちにも真剣に向き合うべきだ。それに俺らレッドナイトの血を舐めてはいけない。先祖代々かなり粘着質な愛情を持っている。」と続けた。
ルーは深く反省した表情で頷き、「わかったよ、父さん、母さん。これからはちゃんと彼女の気持ちに応えるよ。でも、相手は7歳だし、父さんや母さんみたいにイチャつきたいとかいう感情は一切わかないんだ。むしろ、妹みたいな感じで…。こんな気持ちなら、俺がまだ好きになってないうちに、離れさせた方が良いと思うんだけどなぁ…。」と率直に言った。
ユリは少し考え込んでから、「ルー、それも一つの考え方かもしれない。でも、お前はもうきっと…好きだったんじゃないのか?ただの同情で毎夜、屋敷を抜け出して世話したりしないだろう。もっと手っ取り早い方法があったはずだしな。」と指摘した。
ルーは驚いた表情を浮かべ、「そうかな…俺、気づいてなかったかも…」と呟いた。
「ルー、未来でのエルレナ様のことはどうして覚えてたの?本当にディッケル様の嫁候補だっただけ?」
ルーは少し躊躇いながらも答えた。
「正直言うと、最初はディッケルの嫁候補としてしか見てなかったんだ。でも、エルレナのことを知るうちに…特別な感情が芽生えたんだと思う。彼女はただの嫁候補以上の存在だった。彼女の辛い状況を見過ごせなかった。」
ユリが頷いた。
「だからこそ、彼女を助けたんだな。自分の感情に正直になるのは難しいことだが、大切なことだ。」
「わかった。ゆっくりと関係を築いていくよ。エルレナを大切にする。」
ユリも満足そうに頷き、「それでいい。大切なのは、お互いを思いやることだ。さあ、部屋に戻ろう。」と言って、家族全員で屋敷の中に戻ることにした。
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メアルーシュは部屋に戻らず、エルレナの部屋のドアの前で立ち尽くしていた。自分の言葉で彼女を傷つけてしまったことに酷く後悔していた。それと同時に、彼女の未来を縛るべきではないと思っており、これでいいとも思っていた。両親にはそのまま恋してしまえと言わんばかりの説教を受けたが、内心ではまだ決めかねていた。
彼女を守りたいという思いと、自分の感情にどう向き合うべきかという悩みが交錯していた。
メアルーシュは彼女を守りたいという思いと、自分の感情にどう向き合うべきかという悩みが交錯していた。するとドアが開いて「メアルーシュ様?」と、まるでメアルーシュがドアの前に立っていることを知っていたかのようにエルレナが姿を現し、彼は驚いてしまった。
「どうして…。」
「その…足音で…。」エルレナは怯えたように答えた。
彼女は家族に酷いことをされ続けて育っていたから、音に敏感になってしまっていることを察したメアルーシュは思わず彼女を抱きしめてしまった。
「え?え?め、メアルーシュ様!?」エルレナは戸惑いの声を上げた。
彼女の目は大きく見開かれ、頬が赤く染まっていた。心臓の鼓動が速くなり、息が詰まるような感覚に襲われた。好きな人に突然抱きしめられたことで、彼女の頭の中はパニック状態に陥っていた。
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