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それから数週間、私はルーの恋路が気になり、バレないようにひっそりとユリの部下であるケイの力を借りて監視することにした。しかし、全くこれといって面白いことはなく、エルレナちゃんは本を読んでばかりでルーはユフィとレイの面倒ばかりみていた。
「メイ、また監視ですか?」
「だって、気になっちゃって。」
「他人の恋愛ばかり気にしていないで、俺のことも気にしてください。最近、ケイとばかりいるので、彼をクビにしてしまいそうです。」
「えぇ!?それは困るわ。ごめんね。そんなにケイとばかりいた?」
「若奥様、流石に…」ケイが苦笑しながら言いかけたところで、ユリが私をじっと見つめた。
「ほら、ほら、メイ。俺を放っておかないでくださいね。」ユリが微笑んで私を引き寄せた。
「分かったわ。ケイ、ありがとうね。でも、これからはユリにもちゃんと時間を取るようにするわ。」私は少し申し訳なさそうにケイに感謝を伝え、ユリの腕にしっかりと捕まった。
すると、ケイが魔法の目を使い続けていると面白そうな場面が映り込み、「あ。」と声を出してしまった。私はその声に敏感に反応し、すぐに興味を持った。
「ケイ、何か面白いことでもあったの?」私はユリの膝の上に座りながら尋ねた。
「いえ、若奥様…。ただ、少し珍しい光景が見えまして…」ケイは少し戸惑いながら答えた。
「珍しい光景?見せてもらえる?」私はさらに興味をそそられた。
ユリは微笑みながら私を引き寄せ、「メイ、ケイの魔法の目を共有して見てみましょうか。」と言った。
「ありがとう、ユリ。」私はユリの膝の上にしっかりと座り、ケイが映し出す映像に集中した。
ケイの魔法の目が映し出すのは、エルレナとユフィが一緒にいる場面だった。
「お兄ちゃんとけっこんしたってほんと?」
ユフィが腕を組んでエルレナを睨んでいた。彼女の目には疑念と不満が滲んでいる。
「え…えっと、婚約しただけで、結婚はしていませんよ。」
「こんやく?」
「結婚する約束のことです。」
「じゃあ、あたしからお兄ちゃんをとるってことでしょ!」ユフィの声には怒りが込められていた。
私はその光景を見て、「まぁ…どこでそんなことを覚えたのかしら。」と呟いた。
エルレナは戸惑いの表情を浮かべ、「いえ…。そんな…。私なんかが…。」と口ごもった瞬間、ルーがそこへ歩いてきた。
ユフィはルーがくるのを見て突然後ろに転び、「お兄ーちゃーん!エルレナがあたしを突き飛ばした!!」と叫んだ。
するとルーは厳しい口調で叱責した。
「こら!!ユフィ!!お前が勝手にこけただろ!」
ユフィの顔が青ざめ、必死に否定した。
「ち、ちがうもん!!!エルレナだもん!!」
しかし、ユフィはとうとう泣き出してしまった。
「あの・・・私が突き飛ばしてしまったのかも・・・。」
しかし、ルーは厳しい態度を崩さず、エルレナに言った。
「ごめん、エルレナ。正直なことだけいい。ユフィの教育に良くないから。」
私とユリは、その一部始終を目にした。子供たちの成長に感動して、涙が出そうになるほどだった。
エルレナは驚きの表情を浮かべ、「えっ…」と口ごもった。
一方で、ユフィは泣きながらもルーに訴えた。
「うえーーーん!」
「ユフィ!泣けば許してもらえると思っちゃいけない!エルレナにあやまるんだ!」
「でも・・・ユフィ様はメアルーシュ様をとられてしまうと思って…必死なご様子で…。」
ルーは深くため息をついた。
「あぁ、駄々をこねればなんでも手に入ると思わせてはいけない。」
ユフィはなんとか感情をコントロールしつつ、嫌々ながらも謝罪の言葉を口にした。
「ご、ごめんなさい…エルレナさま…」
ルーはユフィの謝罪に満足そうに微笑みながら、彼女を褒めた。
「良い子だ。悪いことをした時は必ず謝るんだぞ、ユフィ。」
エルレナはその姿を微笑ましく見つめながら、心の中で自問した。(私はどうだったかな…?)そして、少し羨ましさを感じながらも、優しい言葉と許しの意をユフィに伝えた。
「ユフィ様、大丈夫ですよ。みんな時には間違うし、大事なのはそれを認めて謝ることですから。」
エルレナは、自分もこんな風に叱られて育ちたかったと思った。この穏やかで理解のある雰囲気、そして謝罪と許しの循環が、彼女の心に温かさと幸せをもたらすものだと感じた。過去には、自分が誤った行動を取った際には、厳しい体罰ではなく、このような理解と優しさに包まれる環境で育ちたかったという願望が浮かび上がった。
この気持ちは、彼女の心に深く根付き、今回の出来事を通じて再確認された。そっと息をつきながら、彼女はこの温かな瞬間を心に刻んだ。
私とユリは、子供たちの成長を目にしたその一部始終に感動し、涙が出そうになった。 私たちはそっと手を握り合い、その素晴らしい光景を見守った。
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数日が経ち、メアルーシュの7歳の誕生日がやってきた。家族だけのささやかなパーティーが開かれ、皆がルーのために用意したプレゼントを渡していた。エルレナは懐中時計を選び、ルーに渡すことに決めていた。
誕生日パーティーでは笑顔が絶えず、プレゼントを渡す時間が訪れた。エルレナがルーに懐中時計を手渡すと、彼は驚いた表情で受け取った。「ありがとう。でも、もう用意しなくていいから。」と彼が言った。
エルレナは微笑みを浮かべ、その言葉を受け入れたかのように見せたが、パーティーが終わり夜になると、彼女は一人庭で泣いていた。満たされない感情が彼女を包み込み、心の中で戸惑いと悲しみが交錯した。
私はルーがエルレナに何か変なことを言ったのが気がかりで、彼女の様子を見守っていた。そして、庭で彼女が一人泣いている姿を見つけたとき、その光景を見過ごすことができなかった。静かに近づいて、そっと声をかけた。
「エルレナ様、大丈夫?」
エルレナは驚いて顔を上げ、涙を拭きながら答えた。「メイシール様…ごめんなさい。こんな姿を見せてしまって。」
「何も謝ることはないわ。何があったの?」私は優しく尋ねた。
エルレナは一瞬ためらいながらも、ゆっくりと口を開いた。「メアルーシュ様に懐中時計をプレゼントしたんですが、『もう用意しなくていい』って言われてしまって…。それが…すごく悲しくて。」
彼女の声には深い悲しみが込められていた。私は彼女の肩にそっと手を置き、優しく抱き寄せた。「エルレナ様、それはきっと誤解よ。ルーはあなたの気持ちを否定したかったわけじゃないと思うわ。」
エルレナは涙をこぼしながらうなずいた。
「わかっています。でも、どうしても…自分が必要とされていないような気がしてしまって。」
「そんなことはないわ。ルーもあなたを大切に思っているはずよ。ただ、男の子は時々不器用な言い方をしてしまうことがあるの。だから、あまり気にしないで。」
「そうでしょうか…。私は勘違いしていたのかもしれません…。メアルーシュ様は私を保護する為に婚約者としてここに置いてくれているだけ…なんですよね。それは公爵様も仰っていたことですし…。」
私はエルレナの肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「エルレナ様、ルーはあなたを大切に思っているわ。彼が不器用な言葉を使ったのは、あなたを傷つけたくなかったからよ。そして、彼の本心を知るのはあなた自身。少しずつ、お互いの気持ちを理解していけばいいの。」
私は分かっていた。エルレナがルーに淡い恋慕を抱いていることを。彼女の瞳には、彼に対する特別な想いが宿っているのが見えた。そして少し腹立たしかった。ルーは責任を取ると言っていたから、こういう感情に向き合う者だと思っていたから。
「ところで、エルレナ様、ルーのどこが好きなの?」私は少し意地悪な気持ちを隠せずに尋ねた。
エルレナは驚いた表情で顔を赤らめ、「えっ!?…あの…好き…というのは…その…。」と戸惑いながら答えた。
私は優しく微笑みながら続けた。
「どこが魅力的に思ったの?」
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