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目を覚ますと、見慣れたような、そして見慣れぬような天井が広がっていた。 ふと横を見ると、ユリドレが美しい表情で眠っていた。 彼の顔には穏やかな微笑みが浮かんでいた。
「また起きてますね。」
「…また?」
彼は血相を変えて起き上がり、布団をガバッとめくって私の足首を確認した。足首の鎖のタトゥーの光が1つ増えていた。それを見た私はとても驚いてしまう。
昨夜は書類整理が終わった後、二人でお昼をたべて、その後、夜までベッドの上でイチャついて過ごして眠ったはず…。なのにどうして回帰してしまってるの?しかも昨日の朝に。
「どこから回帰しましたか?」
「待ってください。今がいつか分かりません。」
「昨日結婚して初夜を迎えました。なので貴女がここへきて初めての朝なはずです。なのに【また】とおっしゃいました。」
「あ…、うそ。1日後から回帰したようです。寝ている間に殺されたのでしょうか。」
「そんな、俺が気づかないはずありません。今日はどうして過ごす予定でしたか?」
「えっと、この後ユリのご両親と朝食をとった後、お昼まで書類処理を一緒にして、その後は…えっと…ベッドの上で…えっと…。」
「大体把握しました。ちなみに、覚えている範囲で構いません。十ヶ月後まで進めた時の結婚した次の日はどうしていましたか?」
「えっと、確か。部屋の隅で布団にくるまって脅えていた気がします。」
「つまり俺の両親と食事をとっていなかったという事ですか?」
「はい。会ったこともありませんでした。」
「となると、俺の母が一番疑わしいですね。俺に気付かれずに寝室に忍び込み殺害するなんて、透明化の能力を使う他ありません。」
「そんな!?やっぱり、あの無礼な態度がいけなかったのかしら。」
「無礼とは?」
「ユリが私をずっと抱っこしているから、礼儀を欠いた挨拶になってしまったんです。」
「それは問題ないでしょう。もっと根本的な問題ははずです。とりあえずメイは昨日と全く同じように過ごして下さい。夜までは安全なはずです。それに…。」
「それに?」
「未来の俺だけメイとベッドの上で過ごすなんてズルいです。」
「え…。」
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これまでの回帰は経験した事が異なっていて、面倒だと思う事は少なかったけれど、流石に1日で回帰は疲れてしまう。同じ書類を二回も処理して、ユリにベッドの上で愛されて(take2)、これは辛い。
ユリは母親を疑っていたけれど、そんなに簡単に疑えるものなのだろうか。
床下収納の中に隠れることになった私は、思わず驚くほどの快適さに包まれていた。 フカフカの布団が身体を優しく支え、安心感と安らぎを与えてくれている気がする。
床下で眠りに落ちそうになっていた私の耳に、微かながら床が軋む音が届いた気がした。 少し目が覚めた私は周囲を警戒しながら静かに身を潜めた。
「ナイフなんて持って、どういうつもりですか?母上。」
「…っ!?」
本当にユリのお義母様が犯人であることが判明し、私の心には不安がよぎった。 この予期せぬ出来事に私は心を落ち着かせようと努めたが、それでも不安の念が拭い去れない。
「チッ。」
「俺のメイを殺そうとしましたね?抱きしめていた人形の首が切れています。」
それを聞いて私の心には、過去の出来事や恐れがよみがえった。 再び不安と恐怖に襲われ、過去のトラウマが再び私の心を支配し始めました。
―――私はまた首を斬られて死んでしまったの?
「そうよ…。アンタは私がお腹を痛めて産んだのよ!?殺してしまったら、あの時の苦労が何だったのか分からないじゃない。それ以外でアンタを苦しめる方法はこれしかないと思ったのよ。」
「だ、そうですよ。父上。」
ユリの言葉に部屋の扉が開いてズシズシと重みのある足音が聞こえた。どうやら、お義父様が待機していたようだった。
「ミランダ…。君は何てことを考えているんだ。」
「アナタ!!どうして…。」
「はぁ…。メイシール嬢には感謝しないといけないな。来いミランダ。」
「い、嫌よ!!離して!!!」
床が激しく軋む音がする中、私の心臓は激しく打ち震えていた。
音が収まり、静寂が戻った後、床下の扉が開かれ、ユリが優しく手を差し伸べ、私をそこから引き上げた。
「メイ、顔が真っ青だ。」
ユリは使用人にあったかいミルクをもってくるように指示した。
「すみません。もう少し配慮すべきでした。それと、俺の母がすみませんでした。」
「いえ…。私が来てしまったせいで、ユリとお義母様の関係を拗らせてしまったんですよね。」
「それは違います。俺と母は既に拗れていましたから。昔から、俺が大切にしているものを奪ったり、壊したりすることが大好きなようで。俺は友人を作ることもできませんでした。」
「そんなっ!?」
「俺が欲しい物は何でも与えて、大切になったら壊すのです。それを繰り替えされるうちに、俺は物への執着心を無くしてしまいました。そして、人との心の距離を近づけるということが恐ろしくなりました。」
「ユリ…。」
使用人がミルクを持ってきて、すぐに去っていった。
「メイドや執事も専属を作ってしまうと、殺されてしまう可能性があったので、こうしてすぐに下げさせるのです。」
ユリは優しくミルクの入ったコップを一口試飲してから渡してくれた。温かいミルクを飲むと少しは落ち着いたが、月明かりに照らされた寂しそうな微笑みを浮かべるユリの顔を見て、私の胸は苦しくなった。
「ユリ…。」
「本当は…俺はメイといる資格なんてないんです。俺の元へ来て2度も死なせてしまっています。なのにメイを縛り付けてしまう…。」
その瞬間、ユリの目からとうとう一筋の涙が流れた。
「縛り付けたのは私の方なので問題ありません。私は自由が欲しいからとユリを利用する目的で近づいて、既成事実を作るという卑怯な手を使って今ここにいます。」
「いえ、それは俺が黙認したことです。」
「例え計画が失敗に終わっても、鉱山購入後に回帰する私は何度でもユリを攻略する為に奔走したはずです。それにもう回帰してもユリと結婚した後で、今の回帰地点は初夜の後です。まさか私にあれだけのことをしていて手放そうとするのですか?」
私はユリを安心させたくて優しく微笑んでみせた。
「…無理ですね。俺は…もう、メイ無しじゃ生きられない。」
ユリは私からミルクの入ったコップを奪ってベッドの近くのテーブルにそれを置いて、私をゆっくり押し倒した。
「ユリ…。」
「はい…。」
「流石に眠いです…。」
「あ、俺としたことが。またメイの体に負担をかけるところでした。」
ユリは一度深呼吸をしてから私の隣に寝転がった。そして、私とユリドレは手を繋いだ。
「俺は少し、メイが欲しいばかりに色々と焦ってしまうところがあるようです。」
「ふふふ。そうみたいですね。私の両親と兄にもちゃんと挨拶して欲しいです。人さらいのように攫われてここへきているので、両親が不安がっていないか心配です。」
「忘れていました。俺の頭はもうメイのことでいっぱいで…。」
この甘い時間がいつまでの続けば良いのにと願ってしまった。実質、たったの二日しか過ごしてしないが、私は約十ヶ月、優しいユリを見てきた。短い期間でも、私の心には深い絆が芽生えていることを感じた。 ユリの優しさや思いやりが、私の心を包み込んでいくのを感じた。
「ユリはなんだか、可愛い人ですね。」
「え?」
「あっ、ごめんなさい。動揺してるユリが可愛いと思ってしまいました。」
「それは…えっと。」
初めは恐ろしい存在と思っていた彼が、今では優しく見え、その目には思いやりが溢れていた。
「ユリ、明日か明後日には私の実家へ行きませんか?」
「そう…ですね。是非、明日にしましょう。メイの大切な家族ですからね。」
その穏やかな夜の中で、私はユリの温かな抱擁に包まれながら、安らかな眠りに落ちた。
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