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「くっ!」公爵の瞳には焦りが宿り、額に汗が浮かぶ。怒りで血走った目がユリドレを睨みつけ、拳を固く握り締めた。
庭は戦闘の激しさを物語るかのように、まさに惨状を呈していた。緑豊かだった芝生は、雷の衝撃で焼け焦げ、大きなクレーターがいくつも口を開けていた。花壇は破壊され、色とりどりの花々が散らばり、無惨な姿を晒している。木々の枝は折れ、葉が舞い散り、地面には裂け目が走っていた。
ユリドレとゴールドキング公爵の戦闘は、この庭の景観を一変させた。かつては美しい庭園だったこの場所は、今や戦場の跡地となり、静寂の中に響くのは彼らの息遣いと遠くで悲鳴をあげる鳥の声だけだった。
ユリドレの視線は一瞬も公爵から離れない。彼の体には戦闘の傷がいくつもあり、服も所々が焼け焦げていた。
ユリドレは冷静さを失わず、逆に公爵の動きを見極めるために一歩後退した。
「公爵、無駄な戦いを続けても何も得られません。冷静になってください。」
「黙れ!娘を渡すくらいなら、この手でお前を消し去ってやる!」公爵はさらに怒りを募らせ、雷のエネルギーを再び集め始めた。その周囲には電気がビリビリと音を立て、空気が緊張に満ちていく。
ユリドレは鋭い目つきで公爵を見据え、内心の冷静さを保ちつつも次の行動を考えた。彼の拳は握り締められ、全身の筋肉が戦闘態勢に入る。
公爵の雷が再び放たれた瞬間、ユリドレは一気に前進し、その攻撃を避けながら公爵の懐に飛び込んだ。彼の動きは速く、力強く、公爵の防御を打ち破るような一撃を繰り出した。
「ぐあっ!」公爵はその衝撃に耐え切れず、後退する。しかし、その目にはまだ闘志が宿っていた。「お前…」
ユリドレは息を整え、視線を鋭く保ちながら言った。「公爵、気付いていますか?俺は特殊能力を解放していませんよ。何故かわかりますか?一瞬であなたを焼き尽くしてしまうからですよ。」
その言葉に公爵は動揺し、雷の力が一瞬消えかけた。彼の顔には驚きと不安が浮かび、拳を震わせながらユリドレを見つめた。
「これ以上の無意味な争いはやめましょう。あなたも私も家族を守りたいだけです。それを思い出してください。」ユリドレは穏やかな声で続け、その言葉には真実と和解の意図が込められていた。
公爵はその言葉に深く考え込み、怒りの炎が次第に沈静化していくのを感じた。そして、やがて拳を下ろし、戦いの終結を示すように深く息を吐いた。
「……認めざるを得ないようだな。」
公爵は苦々しく言いながらも、ようやく戦いを終える意志を示した。
石畳の通路は砕け、石片があちこちに飛び散っている。噴水は壊れ、水が勢いよく噴き出して池を作り出していた。そこに映る空はどんよりとした灰色で、重い雲が垂れ込めている。
ユリドレは公爵の拳が下がるのを見て、深く息をつき、冷静な声で続けた。
「ありがとうございます、公爵。これで無意味な流血を避けることができました。私たちの目的は同じはずです。家族を守り、次の世代により良い未来を残すことです。」
ユリドレの言葉には、冷静な中にも強い信念と真摯な思いが込められていた。彼は公爵の目を真っ直ぐに見つめ、その意図を確かに伝えようとしていた。
ゴールドキング公爵は肩で息をしながら、ユリドレの言葉を聞いていた。彼の顔には悔しさと怒りが浮かんでいたが、やがて深い息をついて口を開いた。
「お前の言う通りだ、ユリドレ。だが、エルレナの未来はまだ我が物だ。彼女は私の娘であり、ゴールドキング家の重要な一部だ。子供は道具だ。彼女には家のために尽くす責任がある。」
ユリドレは公爵の言葉を聞き、冷静な表情を崩さずに言った。
「公爵、あなたの古い考え方は時代遅れです。子供は道具ではなく、未来を築くための大切な存在です。あなたがエルレナを道具としてしか見ていない限り、彼女の幸せは決して訪れないでしょう。それに…生まれたばかりのご子息がいらっしゃるはずです。」
ユリドレはさらに一歩前に進み、公爵を鋭く見つめた。
「まぁ、もう、どちらにせよ…。あなたにはもうエルレナを支配する力はありません。実は王宮騎士団に連絡を取っており、既にこちらに向かっています。あなたの行動は法を犯しており、逮捕されることになります。」
彼は一瞬の沈黙の後、強い口調で続けた。
「公爵、これ以上の抵抗は無意味です。」
ユリドレの言葉が静かに響き渡ると、庭園に一瞬の静寂が訪れた。しかし、その静けさはすぐに遠くからの足音と共に破られた。王宮騎士団が到着したのだ。
騎士団長が先頭に立ち、鋭い目つきでゴールドキング公爵を見据えた。
「ゴールドキング公爵、あなたの行動は重大な法の違反です。直ちに逮捕します。」
ゴールドキング公爵は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにその顔は怒りと屈辱に変わった。
「俺を逮捕するだと!?バカな!」
騎士たちはゴールドキング公爵を囲み、その腕に特殊な手錠をかけた。その手錠は魔法の封印が施されており、公爵の特殊能力を完全に封じ込めるものだった。公爵は抵抗する素振りを見せたが、騎士たちの冷静で確実な動きにより、それも無駄に終わった。彼の顔には絶望と屈辱が浮かんでいた。
「これで、お前の能力は使えない。」騎士団長は厳しい表情で言った。
ゴールドキング公爵は手錠の感触を確かめるように腕を動かし、顔を歪めた。
「これは陰謀だ!!王室はレッドナイト公爵に操られている!」彼の怒声が庭園に響いた。
ユリドレは冷静なまま一歩前に出て、毅然とした態度で答えた。
「公爵、これはあなた自身の行動が招いた結果です。王室は法と正義に従って行動しているだけです。」
騎士団長が一歩前に出て、公爵を取り囲んだ。
「ゴールドキング公爵、これ以上の抵抗は無意味です。あなたは王室の命令に従い、逮捕されるべきです。」
公爵はなおも抵抗しようとしたが、手錠の魔力が彼の力を封じ込めていた。彼は怒りと屈辱に満ちた目でユリドレを睨みつけた。
「お前がこんなことを…許さない…」
「許すも何も、これが現実です。」ユリドレは冷静に応じた。
公爵の背中には無力感と屈辱が滲んでいた。
「こんなことが…」公爵は悔しそうに呟いたが、もう抵抗する力はなかった。
ユリドレは冷静なまま、騎士団長に向かって頷いた。
「ご苦労様です。公爵を連行していただければ。」
騎士団長は礼儀正しく頭を下げた。
「お任せください、公爵殿。」
騎士たちはゴールドキング公爵を連行し始め、その姿は次第に遠ざかっていった。庭園には再び静けさが戻り、メイシールは息をつきながらユリドレに近づいた。
「ユリ、大丈夫?」
ユリドレは優しく微笑み、メイシールの手を握り返した。
「大丈夫です、メイ。これで全てが終わったわけではないですが、一つの区切りですね。」
メアルーシュはエルレナの手を取り、その手を優しく握りしめた。
「エルレナ、もう大丈夫だ。お前は…自由だ。」
エルレナは涙をこぼしながら、メアルーシュに感謝の気持ちを込めた微笑みを向けた。
「ありがとうございます…メアルーシュ様。」
その瞬間、ユリドレがエルレナに向かって歩み寄り、優しい声で言った。
「さて、しばらくの間ゴールドキング家には帰らない方が良いだろうね、エルレナ様。当主が入れ替わるかと思いますので、しばらくルーの婚約者としてこの家で過ごされてはいかがでしょう?」
エルレナは少し驚いた表情を浮かべ、目を伏せながら囁くように言った。
「…本当に…よろしいのでしょうか」
ユリドレは優しく微笑みながら、彼女の肩に手を置いて答えた。
「もちろんです、エルレナ様。あなたの安全と幸せが第一ですから、どうぞ安心してここで過ごしてください。」
メアルーシュもエルレナに向かって頷き、静かに言った。
「俺もここで過ごすことが、最善の選択だと思う。俺たちは君を守るし、家族として迎え入れる。」
エルレナの目には涙が浮かび、彼女は深く息をついて頷いた。
「ありがとうございます…。本当に感謝しています。」
メイシールも微笑んで、エルレナの手を握りしめた。
「ここは君の新しい家よ。私たちが一緒にいるから、もう怖がる必要はないの。」
エルレナは感謝の気持ちでいっぱいの微笑みを浮かべ、涙を拭いながら答えた。
「ありがとうございます…。本当に…。本当に…。」
エルレナは彼らの温かい言葉に心を打たれ、深く感謝の気持ちを抱きながら、新たな生活への希望を胸に抱いた。
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