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私とユリは自室のベッドに寝転がり、天井を見つめていた。ユリの腕が私の肩にまわされ、その温もりが心地よかった。
「そんなに強力な魔法だったのかしら。」私はふと呟いた。
ユリは静かに目を閉じて、一瞬考え込むような表情を浮かべた後、「ルーのことですか?」と聞いた。
「えぇ、ルーなら難なく回避できそうなのに。」私は少し眉をひそめ、彼の方を見た。
ユリはゆっくりと目を開けて、真剣な眼差しで私を見つめた。
「アレは俺と同類なので、そもそも親子ですから、咄嗟に幾つものことを考えた末の判断だったのでしょうね。俺がルーだったとしても同じ結果になったと思います。」
「つまり…あれよね。その時魔法を受けないとエルレナちゃんの身が危なかったり、私たちの異国の血の脅威をしらしめることになるって考えたから受けたってことよね?」
「メイは、領地のことや事業の運営には頭が回るけど、こういうことには少し疎いですね。でも、それもアナタの魅力の一つです。」
「褒めてるの!?けなしてるの!?どっち!?」
「もちろん褒めてます。メイの純粋さと実直さが、俺にはとても愛おしいです。」
「そう…ありがとう、ユリ。」
ユリはいたずらっぽく笑いながら、「メイは…チョロいですね。」と囁いた。
「ちょっとユリ!?」私は軽く頬を膨らませて抗議した。
ユリは私の反応に満足げに微笑んでいた。
「冗談ですよ。でも、アナタがこうして素直に感謝してくれるのが嬉しいんです。」
「もう、からかわないでね。」
「はい、もうからかいません。」
ユリは真剣な眼差しで私を見つめ、その言葉に誓いのような重みを感じた。
「ルー、大丈夫よね。」
ユリは優しく頷き、「アイツは子供ですけど、しっかりしていますから、問題ないはずですよ。それより…俺をもっと見てください…メイ」と甘く囁いた。
彼の言葉に顔が熱くなるのを感じた。ユリは私の頬に手を添え、その指先が優しく私の肌を撫でた。彼の真剣な眼差しに引き込まれ、私は自然と彼の瞳を見つめ返した。
「ユリ…ルーにまた子供のことをほったらかしてるって怒られちゃうわよ。」
ユリは笑みを浮かべながら、私の髪をそっと撫で、「一緒に怒られましょう」と囁いた。
その瞬間、彼の手が私の腰にまわり、優しく引き寄せられた。心臓が高鳴るのを感じながら、私は彼の胸に顔を埋めた。ユリの心音が耳に心地よく響き、安心感が全身に広がった。
彼の唇が私の額に触れ、続いて頬に軽く触れる。柔らかなキスの感触に、私の全身が温かくなった。ユリの手が私の背中を優しく撫で、私はその温もりに包まれながら彼の存在を感じていた。
そのまま、私たちは静かな夜の中でお互いの存在を確かめ合いながら、しばらくそのまま一緒に過ごした。
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一方、隣の部屋ではメアルーシュが窓を開けて空を眺めていた。満天の星空が広がり、夜風が心地よく頬を撫でる。彼は深呼吸をしながら、その静かな瞬間を楽しんでいた。
しかし、隣の部屋から聞こえる物音が次第に気になり始めた。微かに聞こえる笑い声や囁きが、彼の集中を乱していた。
「またか…」メアルーシュは小さなため息をつき、静かに窓を閉めた。そしてカーテンを引いて、その音を遮断しようと試みた。静寂が戻り、部屋は再び静かになった。
彼はベッドに腰を下ろし、深く息を吐いた。「父さんと母さん、いつまでこんなに仲が良いんだろう…。」メアルーシュは心の中で呟き、微笑んだ。
メアルーシュが気になっていることはいくつかあった。まず、エルレナの服の下に見えた青い痣。あれは一瞬のことだったが、彼の記憶に強く刻まれた。そして、彼女が7歳の割に落ち着きすぎていること。その落ち着きは、普通の子供には見られないほどだった。そして何よりも、彼女の目には光が灯っていないように見えたことが、彼の心に引っかかっていた。
彼は未来のエルレナを王宮のパーティーで何度か見かけたことがあった。ディッケルの嫁候補として紹介されていたが、メアルーシュの記憶の中の彼女はいつも冷たい印象を持っていた。ゴールドキング家がシルバークイーン家の人を婿養子にとるはずなのに、なぜかその時はエルレナを王妃にしようと企てていたのを思い出した。
あの時のエルレナは上品に笑っていたが、彼の目にはその笑顔が心の底から笑っているようには見えなかった。むしろ、その笑顔の裏には何か隠された悲しみや孤独が垣間見えたのだ。
「どうしてエルレナはあんな目をしているんだろう…」メアルーシュは独り言のように呟いた。彼の心には、エルレナを救いたいという強い思いが生まれていた。彼女の背負っているものを知りたい。そして、彼女が本当に笑えるようにしてあげたいと願った。
メアルーシュは気になったら眠れないタイプだった。彼の頭の中にはエルレナのことがずっと引っかかっていた。そこで、彼は決意を固め、瞬間移動でエルレナの部屋へと潜入することにした。
行ったことのない場所への移動はほぼ不可能だったため、メアルーシュは呪文を使った移動魔法を選んだ。まず、自身の体を透明化し、エルレナを強く思い浮かべた。そして、「ウロボロスの名の元に、導きたまえ」と唱えた。
瞬間、彼の視界が暗転し、次に感じたのは冷たい空気と完全な闇だった。
「ここは…どこだ?」 メアルーシュは慎重に辺りを見回した。真っ暗で何も見えない。目を凝らしても、手元のわずかな光すら感じられない。
彼は静かに呼吸を整え、耳を澄ませた。何か小さな物音が聞こえる。心臓が高鳴る中、メアルーシュは慎重に一歩を踏み出した。音の方向へとゆっくり歩を進める。
やがて、微かな光が遠くに見え始めた。それは、部屋の奥にある小さな窓から差し込む月明かりだった。メアルーシュはその光を頼りに、そっと近づいていった。
部屋の中央には、エルレナが小さなベッドに横たわっているのが見えた。彼女の顔は月明かりでうっすらと浮かび上がり、その表情には疲れと不安が混じっていた。
「誰かそこにいるの?」
メアルーシュは素早く背後に回り、彼女の口を閉じた。
「騒ぐな。」
エルレナは驚いたが、コクリと頷いて同意を示したので、メアルーシュはゆっくりと手を離した。エルレナは息を整えながら、彼の顔を見つめた。
「どうして…メアルーシュ様…ですよね?」
「さぁ、どうかな?」
「どうしてここに?魔法はどうして?」
「さぁな。この家から出たいと思わないのか?」
エルレナは一瞬、怯えたように目を伏せた。
「何をおっしゃっているのかわかりません。」
その時、彼女のお腹が鳴る音が静かな部屋に響いた。メアルーシュはその音に一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、エルレナの状況を理解し始めた。
「待ってろ。」彼は短く言い残して、瞬間移動で家の厨房に飛んだ。そこでは無人の夜の静寂が広がっており、彼は手早く果物を適当に掴み取った。
再びエルレナの部屋に戻ると、彼は果物を彼女の前に押し付けた。透明化を解いていないため、果物が一人でに浮いているように見えた。エルレナは目を大きく開け、その光景に驚きと喜びが入り混じった表情を見せた。
「ありがとう…」エルレナは呟き、浮かぶ果物に手を伸ばした。
「食べろ。さもなければ…殺す。」メアルーシュは冷静な声で命じた。
エルレナは少し戸惑いながらも、果物を手に取り、一口かじった。
「こんなに美味しい果物を食べたのは久しぶりです…」
彼女の言葉には、長い間、満足な食事を取っていなかったことがにじみ出ていた。メアルーシュは彼女の様子を見守りながら、透明化を解いて彼女の前に姿を現した。
「食べて力をつけろ。そして俺に正直に答えろ。君はこの家から出たいと思わないのか?」
エルレナは驚いた顔でメアルーシュを見上げたが、すぐに目を伏せた。
「何をおっしゃっているのかわかりません…」
彼女のお腹が再び鳴り、メアルーシュはその音に少し微笑んだ。
「さぁ、食べ続けろ。そして、自分の本当の気持ちを俺に話してみろ。」
エルレナはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「…助けてほしいです。でも、どうすればいいのか分からないの…」
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