74p
「さて、レッドナイト公爵夫妻、メアルーシュ様がエルレナと一緒にいる姿を見て、私はとても感激しています。お二人がこれからも良い関係を築いてくれることを願っています。」公爵は静かに話し始めた。
「ええ、私たちもそう願っています。」ユリは穏やかに返答した。
「実は、我が家のエルレナもメアルーシュ様にとても興味を持っているようです。将来、二人が良い友人として成長してくれればと願っています。」公爵は微笑みながら言ったが、その瞳には深い意図が隠れているように見えた。
「そうですね。お互いに良い影響を与え合えれば、それが一番です。」私は慎重に答えた。
「ええ、まさにそうです。さて、どうでしょう、将来のことを考えたとき、彼らがもっと親しくなるための機会を増やすことに、レッドナイト公爵夫妻も賛成していただけますか?」公爵は柔らかい声で尋ねたが、その言葉には明確な意図が感じられた。
ユリは微笑みを浮かべながらも、その瞳には鋭い警戒心が宿っていた。
「確かに、彼らが親しくなるのは素晴らしいことです。ただし、子供たちにはそれぞれの自由がありますから、無理に関係を深めさせるのは避けたいと思っています。自然に友達として成長することが一番大事ですからね。」
公爵は少し表情を変え、しかしすぐに微笑みを取り戻した。
「もちろん、それは大切なことですね。自然な形での関係が最も健全です。」
「そうですね。私たちもルーが自分の意思で友人を選ぶことを尊重しています。エルレナさんが素晴らしいお友達になるのは間違いありませんが、無理強いは避けたいと考えています。」ユリは冷静に、しかし明確に自分の意見を伝えた。
「それは理解できます。お二人のお考えは尊重します。」公爵は一瞬の間を置いてから、柔らかい笑顔を浮かべた。
このやり取りで、公爵の意図を感じ取った私たちは、さらに慎重に対応することを決意した。彼の意図を見抜きつつも、表面上は穏やかな会話を続けた。
フェスティバルは無事に終わり、華やかな時間が過ぎて私たちは帰路についた。馬車の中で、私とユリはリラックスした気持ちで座っていたが、ルーの様子に違和感を覚えた。彼はいつもとは違い、やけにぼーっとしている。
「ルー、大丈夫?」
ルーはぼんやりとした目で私を見つめ、「エルレナ…」と呟いた。
ユリもその異変に気付き、眉をひそめた。
「ルー、何かあったのか?」
ルーは返事をせず、再び「エルレナ…」と呟いた。
「ルー、何があったの?何かエルレナさんに言われたの?」
しかし、ルーはただ虚ろな目で「エルレナ…」と繰り返すばかりだった。
「ユリ、何かおかしいわ。ルーがこんなふうになるなんて。」私は不安を募らせながらユリに訴えた。
ユリはルーの肩に手を置き、「ルー、しっかりしろ。何があったのか話してくれ。」と強い口調で言った。
「お兄ちゃん…大丈夫?」
ユフィの呼びかけに、ルーは一瞬だけ正気を取り戻したかのように見えたが、再びぼんやりとした目で「エルレナ…」と呟いた。
ユリは深くため息をつき、「何かしらの魔法や薬が使われた可能性があります。ルーがこんなに影響を受けるなんて…。急ぎ戻って医者に見せましょう。ユフィ、お兄ちゃんは少し遊び疲れたみたいだ。」と言った。
「いっぱい遊んだね!はやく帰ろう!」
「そうね。まずは家に戻りましょう。」私はユリに同意し、ユフィとルーの手を優しく握った。
馬車の中から忽然と姿を消し、瞬間移動で公爵邸に戻った。玄関に到着すると、ミレーヌがまるで何かを知っているかのように待機していた。
「ミレーヌ?」私は不思議に思って彼女に声をかけた。
「メアルーシュ様がテレパシーで私にしか治せない魔法をかけられていると言っていました。」
「あ…そっか。ミレーヌはゴールドキング家の血が入ってるんだったわね。」私はその事実を思い出した。
「はい。本家とは遠縁ですが、その血の力を使うことができます。」ミレーヌは静かに答えた。
「お願い、ミレーヌ。ルーを助けてあげて。」私は焦りながら頼んだ。
ミレーヌは頷き、ルーに近づいて彼の顔を見つめた。
「大丈夫です、メアルーシュ様。すぐに解呪しますから。」
彼女はルーの額に手をかざし、集中して呪文を唱え始めた。淡い光が彼女の手からルーに流れ込み、しばらくしてルーの表情が徐々に和らいでいった。
「ミレーヌ…ありがとう。」ルーが正気を取り戻し、弱々しく微笑んだ。
「どういたしまして、メアルーシュ様。これで大丈夫です。」ミレーヌも安堵の表情を浮かべた。
その後、私たちはルーを休ませるために部屋へと運び、彼の回復を見守ることにした。
「…小さな子供だと思って舐めてたよ、まさかこの俺があんな魔法にかかるだなんて…。」ルーは怒りを抑えきれず、拳を握りしめていた。
「ルー、落ち着いて。」私は彼の肩に手を置き、優しくなだめるように言った。「そんなに怒っても仕方がないわ。本当に無事で良かった…。ユフィもすごく心配してたのよ。」
ルーはしばらく苛立ちを募らせていたが、私の言葉を聞いて少しずつ冷静さを取り戻していった。
「ユフィは無事?」
「ええ、ずっと私と父さんの側にいたから大丈夫よ。」
「それなら良かった…。でも、困ったことになったね。」
ルーの言う困ったことが私の頭の中ではまだ明確に理解できなかった。すると、壁にもたれかかって様子を見ていたユリが近づいてきた。
「そうですね。やってくれたよ、あのゴリラめ。」
「ゴリラ!?」
ユリは微笑んで、「はい、ゴールドキング公爵のことです。あんなに堂々としていて、まるでゴリラみたいでしょう?」と冗談交じりに言った。
ライオンではなく、ゴリラなのね!?
「そんなこと言っちゃダメよ。」私は苦笑しながらも、ユリの言葉で少し気が軽くなった。
「母さん、分かってなさそうだから説明するけど、これは何らかの理由で俺を手に入れようとしてる…みたい。婿養子に入ってほしいんだと思う。しかも、この魔法を解いたことも問題なんだ。」ルーは深刻な表情で言った。
「え?どうして?」私は困惑しながら尋ねた。
「ゴールドキングの特殊能力が使える者は絶対に外に出てはいけない暗黙の掟があるからだよ。」ルーはため息をつきながら答えた。
「え!?じゃあ…ミレーヌは!?」私は驚いて叫んだ。
「ミレーヌは家が崩壊してしまったので、本来はゴールドキング家の所有する施設に入らなければいけませんでしたが、ミレーヌは妹をおぶって、一人でブルービショップ領へ逃げたんです。相当家が嫌だったようですね。」ユリは冷静に説明した。
そんなことがあったなんて…。ミレーヌは本当に勇気ある行動をしたのね。
「それで、ゴールドキング家がミレーヌのことを知ってしまったらどうなるの?」私は不安そうにユリを見つめた。
「問題になるでしょうね。彼女の存在が明らかになると、ゴールドキング家は彼女を連れ戻そうとする可能性が高いです。それを防ぐために、今から策を練る必要があります…が。こればっかりはルーの問題ですから、俺がいくら策を練っても厳しいですね。」ユリは肩をすくめながら言った。
ルーは眉をひそめ、少し考え込んだ後で口を開いた。
「俺は…凄く嫌だけど、婿養子を防ぐためには、先に誰かと婚約したり?時期公爵になる必要があるのかなって思ってるけど、父さんの考えはどう?」
ユリは静かに頷きながら答えた。
「そうですね…いくつか案はあります。まず、最も効果的な方法は、ルーが他の有力な家の令嬢と事前に婚約を成立させることです。特に、レッドナイト公爵家と同等かそれ以上の地位を持つ家との婚約であれば、ゴールドキング家も無理に婿養子を求めることが難しくなります。となると…懇意にしているシルバークイーン家の令嬢か、王族の令嬢が候補になりますね。」
ルーは少し苦笑しながら、「そんな大袈裟に…と思うけど、それが一番確実なんだろうね。」と答えた。
「もう一つの案としては、正式に公爵家の後継者としての地位を確立し、他家がルーを婿養子として迎え入れることが難しくすることです。これはすぐにでも手続きを始める必要がありますが。」
「ルー、無理に押し付けるつもりはないの。」
ユリは静かに付け加えた。「最後に、極端な案だけど、死んだことにして身を隠し、俺の情報ギルドを継いで一生日陰の生活を送るという手もある。」
私は驚いた表情を浮かべ、「そんな…それはあまりにも酷いわ。ルーの未来をそんなふうに制限するなんて…」と言った。
ルーは苦笑しながら、「まぁ、それも選択肢の一つとして考えておくよ。でも、そんな生活は嫌だな。」と答えた。
ユリは少し考え込んだ後、「そうだな、ルー。お前にはまだ多くの可能性がある。だから、焦らずに最善の方法を見つけよう。」と穏やかに言った。
「ありがとう、父さん、母さん。俺もちゃんと考えてみるよ。」
読んで下さってありがとうございます!
お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)