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「お久しぶりです、公爵。お元気そうで何よりです。」ユリが返礼しながら、微笑んだ。
「ええ、ありがとうございます。メイシール夫人、いつもお噂はかねがね伺っております。今日もお美しいですね。」ゴールドキング公爵はにこやかに言った。その大きな手で軽く私の手を取り、礼儀正しくキスをする様子は威圧感がありながらも紳士的だった。
「ありがとうございます、公爵。お褒めいただいて光栄です。」
「メアルーシュ殿もお元気ですか?あのご子息は非常に賢いと聞いております。」
「はい、おかげさまで元気にしております。彼は本当に好奇心旺盛で、日々新しいことを学んでいます。」
「それは素晴らしいことです。お若い方々が未来を切り開いていく姿を見るのは、我々にとっても喜びです。」ゴールドキング公爵は微笑みながら、視線を私たちに向けた。「いつか、我が娘とも良い友人になれると嬉しいですね。」
「そうですね。私たちも、彼らが良い友人関係を築けることを願っています。」私は微笑んで答えた。
「では、ごゆっくりお楽しみください。またお会いできることを楽しみにしています。」ゴールドキング公爵は礼儀正しく頭を下げ、去っていった。
彼が去った後、ユリと私はお互いに微笑み合った。彼の言葉に隠された意図を感じ取りながらも、表面上は穏やかで自然な会話が続けられたことにほっとした。
「あれは…ルーを狙っているのでしょうか?」
「まさか、まだ6歳よ?お披露目もしてないから狙う意図はあるかしら?」
私は首をかしげながら答えた。
「まあ、確かにそうですね。ただ、公爵の話し方が少し気になったもので。」
「心配性ね。でも、そういうところも好きよ。」
「あぁ…メイ。今日のメイはとても美しいのに、そんなことを言われると今すぐ寝室へ連れ去りたくなります。」ユリは私の耳元で囁いた。
「え!?今のどこにスイッチが入る要素があったの!?」私は驚いて彼を見上げた。
「景色のせいでしょうか?」ユリは微笑んで答えた。
その時、大きな音をたてて花火が打ち上げられた。夜空に色鮮やかな光が広がり、私たちの目を引いた。
「わぁ…綺麗。」私は花火に見とれながら、ユリの腕を軽く握った。
「本当に美しいですね。」ユリは私の手をしっかりと握り返し、その視線は花火と私の顔を交互に見つめていた。
「ユリ、今日は本当に素敵な日ね。」私は彼の肩に寄り添いながら、幸せを感じた。
「えぇ、メイ。あなたと一緒にいると、どんな日でも特別になります。」ユリは優しく微笑みながら、私をしっかりと抱きしめた。
花火が次々と打ち上がり、夜空を彩るその光景に、私たちはしばし見とれていた。周囲のゲストたちも歓声を上げ、パーティーの雰囲気はますます華やかになった。
「そろそろ4人目はどうですか?」ユリが花火を見ながら、さりげなく言った。
「もう!ちゃんと花火見てるの?」私は少し笑いながらも驚いて答えた。
「もちろん見ていますよ。でも、こんなに美しい場所に一夜泊まるのですから、何か特別な日にしたいと思って…。」ユリは私の顔を見つめながら、微笑んだ。
「ユリったら…」私は彼の胸に軽く肘をつきながら笑った。「特別な日なら、こうして一緒に花火を見るだけでも十分よ。」
「ええ、そうですね。」ユリは私の髪に軽くキスをし、視線を夜空の花火に戻した。「でも、メイがいてくれると、それだけでどんな日も特別に感じます。」
その後も花火は次々と夜空に咲き、私たちはその美しい光景に見とれながら、穏やかな時間を過ごした。
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一か月後、私はまた妊娠が発覚してしまった。そのことで、リビングで6歳のルーの前に正座している私とユリ。ルーは回帰者であり、中身は大人なので、私たちの状況をしっかり理解している。
「もう、二人とも節操とかないわけ?」
ルーはため息をつきながら、私たちを見下ろしている。
「す、すみません、ルー。」私はシュンとしながら答えた。
「本当にごめん、ルー。」ユリも同じように頭を下げて謝る。
「二人がラブラブなのはわかるけど、少しは考えなきゃダメでしょ。まだ、レイも1歳半を過ぎたばかりなのに、どうするつもり?社交界もこれからサボらないって言ってたじゃん。」ルーは厳しい口調で続けた。
「そうだよね…ちゃんと考えなきゃダメよね。」私はシュンとしながら答えた。
「本当にすまない、ルー。これからもっと計画的に行動する。」ユリも同様に申し訳なさそうに答えた。
「わかってるならいいんだけどさ、本当に頼むよ。これから家族が増えるってことは、それだけ責任も増えるんだからね。」ルーはため息をつきながら続けた。
「わかってる、ルー。私たちもちゃんと考えるから。」私は改めて頭を下げた。
「まあ、いいや。とにかく、これからは気をつけてよね。でも、新しい家族が増えること自体は悪いことじゃないから。」ルーは少し笑みを浮かべて言った。
「ありがとう、ルー。」私たちは彼の優しさに感謝しながら、ほっと胸をなで下ろした。
その時、ユリの部下の一人であるケイが手紙を持って現れた。彼はとても礼儀正しく、忠義を尽くす姿勢が滲み出ている。ケイは回帰前の人生では王の忠実な下僕であり、「監視の目」という遠距離でも監視できる特殊能力を持つ異国出身の男だった。それが今ではユリの忠実なしもべとして働いている。
「レッドナイト公爵家宛に招待状です。ですが、恐らくメアルーシュ様宛かと…」ケイは丁寧に頭を下げながら手紙を差し出した。
「招待状?」ルーは首をかしげながら手紙を受け取った。
「はい、どうやらゴールドキング公爵家からのようです。」ケイは静かに説明した。
ユリと私は顔を見合わせた。「え?ゴールドキング公爵家から?」私は少し驚きながら言った。
「ジュエルガーデン・フェスティバル?」ユリが手紙を受け取り、内容を確認する。「子供たちのための特別な集いみたいですね。」
「そうなのね…。ルー、どう思う?」私はルーに目を向けた。
ルーは手紙を見つめながら、少し考え込んだ。
「うーん、正直めんどくさいなあ。でも、相手も公爵家だし、断るわけにもいかないよね。これって俺だけが行くの?」
「いや、もちろん俺たちも一緒に行くよ。公爵家同士のパーティーだから、家族で出席するのが普通だ。」
「そうそう、私たちも一緒に行くから心配しないで。」
「それなら少し安心かな。家族みんなで行けるなら、楽しめるかもしれない。」
ルーは少しホッとした表情を見せた。
「まぁ、難しいよな。ルーは中身が大人だからな。」ユリは苦笑いしながらルーに言った。
ルーは肩をすくめて、「そうなんだよね。見た目は子供だけど、いろいろと考えちゃうからさ。」と答えた。
「タキシードがいるな…。後、ユフィのドレスか」ユリが考え込みながら言った。
「地味なので良いよ。どっかの令嬢に気に入られたらややこしいし。今の年頃の令嬢と仲良くなる気はない。」ルーは少し渋い顔をして答えた。
ユリは笑いながら肩をすくめた。
「それもそうだな。じゃあ、シンプルで品のあるものにしよう。」
「うん、それがいい。」ルーは納得したように頷いた。
ユーレイシアがミレーヌに抱かれていると、突然泣き出した。ルーはすぐに駆け寄り、「かして。」と言って小さな体でしっかりとレイを抱っこしてあやし始めた。
「レイは真っ赤な髪の毛で羨ましいな。」ルーは優しくレイをあやしながら言った。
ユーレイシアはルーの温もりを感じ、次第に泣き止んでいった。その様子を見て、私は微笑みながら言った。「ルー、ありがとう。レイも安心してるみたい。」
「いや、これくらい大丈夫だよ。」ルーは照れくさそうに笑いながら、レイを優しく抱きしめた。
ユリもその光景を見て微笑んだ。
「ルー、お前は本当に頼もしいな。レイもきっとお前のことを頼りにしているよ。」
「そうだといいな。」
ルーは少し照れながら答えたが、その目には優しさが溢れていた。
その時、少しボロボロになったゼノが自分の子供であるレノディリアスとユーフィリアに挟まれながら部屋に入ってきた。ゼノの顔には疲れが見えたが、その目には家族への愛情が溢れていた。レノディリアスはゼノの手をしっかりと握り、ユーフィリアはその隣で元気に歩いていた。
ユーフィリアが兄が弟を抱っこしているのを見て、急に怒り出した。
「お兄ちゃん、私も抱っこ!」ユフィはルーに向かって怒りの声を上げた。
ルーは困ったように笑いながら、ユフィに言った。
「ユフィ、レイが泣いていたから抱っこしてただけだよ。すぐにユフィも抱っこするから、ちょっと待って。」
「いや!今すぐ抱っこして!」ユフィはさらに大きな声で叫んだ。
ユリがすぐに介入し、優しくユフィに話しかけた。
「ユフィ、おいで。父さんが抱っこしてあげます。」
ユフィは一瞬怒りを見せたまま、ユリの方を見つめたが、すぐにその言葉に反応して駆け寄った。ユリはユフィをしっかりと抱き上げ、その小さな体を優しく包み込んだ。
「パパ~!!」ユフィはユリの肩に顔を埋めながら、満足そうに言った。
「ははっ。ユフィは母さん似だな。」
ユリは優しくユフィの背中を撫で、彼女を安心させるように囁いた。
「ほんと、この状態でよく次を作ろうと思えるよね。」
ルーが少し不満そうな顔で、皮肉混じりに言った。
私とユリはルーの言葉に一瞬困った表情を浮かべた。ルーの鋭い指摘に対して、私たちは何も言えずに顔を見合わせた。
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