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時は流れ、私は12歳になり、ユリは22歳になった。この10年間、私たちは一緒に成長し、たくさんの経験を積んできた。ユリは公爵としての責務を果たしてきたけれど、時々サボり癖が出てしまうこともあった。それでも、彼はいつも私を強く支えてくれた。
その日も、私は書斎で書類の山と格闘していた。ユリの仕事の一部を代わりにこなすことはもう慣れっこだった。ペンを走らせながら、ふとユリのことを思い浮かべていた。
「メイ、ランチの時間です。仕事はそこまでにしましょう。」ユリの声が聞こえた。彼は書斎のドアを開けて、いつもの優しい笑顔で私を見つめていた。
「もうそんな時間?」私は時計を見上げ、時が経つのを忘れるほど集中していたことに気づいた。
「はい、今日はこれ以上はダメです。午後は大切な用事があるでしょう?」ユリは私の手からペンを取り上げ、軽く手を引いて立たせてくれた。
「わかったわ。でも、ユリ、今日の午後は書類を触れないのよ?」私は苦笑しながら答えた。
「今日くらい大丈夫ですよ。でも、今はランチタイムです。」ユリは私をリビングへと導いた。
リビングに入ると、テーブルには既に温かい料理が並べられていた。ミレーヌが手早く用意してくれたのだろう。
「若奥様、どうぞ召し上がってください。」ミレーヌは礼儀正しく頭を下げて言った。
「ありがとう、ミレーヌ。」私は感謝の気持ちを込めて微笑んだ。
ユリと結婚してすぐにミレーヌを迎えに行ったおかげで、ミレーヌとゼノは正式な結婚式を挙げることができた。二人ともとても幸せそうで、その結婚式は温かく愛に満ちたものだった。結婚しても彼らは変わらずに私たちを支え続けてくれている。ミレーヌは家事全般を、ゼノはユリの右腕として公務をサポートし、私たちの生活を安定させてくれた。
「ミレーヌ、メイは俺の膝でランチをしますから、食事はまとめてこちらに置いてください。」
ユリがそう言うと、ミレーヌは深い溜息をついた。
「若様、そう言って、昨日も若奥様と言い合いになって、結局別々で召し上がっていらっしゃったではないですか。」ミレーヌはやれやれと言いたげにユリを見つめた。
実は昨日、ユリがまだ私を3歳児のように扱って食事を食べさせようとするので、いい加減にやめさせようと私たちは言い合いになったのだ。それでもユリは懲りずに同じ提案を繰り返している。
「ユリ、もう12歳なんだから、自分で食べられるわ。」
私は少し呆れながらも、彼の優しさを感じ取っていた。
「メイ…俺はメイの口に入るものが全て安全かどうか確認したいのです…。」
ユリは真剣な表情で言った。
「ユリ、私たちは一緒に、小さい頃から毒の耐性をつける訓練をしてきたじゃない。もう大丈夫よ。」私は安心させるように言った。
「いいえ、俺に比べたらまだまだです。」ユリは首を横に振り、さらに言葉を続けた。
「どういうこと!?ユリ、まさか、私より毒の量を増やしてたの?」
ユリは一瞬ためらいながらも、正直に答えた。
「…っ!!……それは、はい。」
「もぅ…。どうして、ユリばかり辛いことをするのよ。」
「メイ、俺はアナタを失いたくないんです。メイが大丈夫だと言っても、俺はまだ心配なんです。」
「守りたいって気持ちはわかるけど、ユリが私を思ってくれてるのと同じように私もユリを思ってるのよ…。」私は深い息をつきながら続けた。「ユリ、私だってあなたの負担を減らしたいの。お互いに支え合いたいのよ。」
ユリは少し考え込んだ後、やっと言葉を絞り出した。
「わかっています。ですが、俺にとってアナタはかけがえのない存在だから…どうしても守りたくて…。」
今日は私の負けだわ。
こんな可愛くて愛おしい彼にこれ以上何も言えなかったので、大人しく彼の膝に座ることにした。彼にトラウマを植え付けてしまったのも私だからだ。私の決断を感じ取ったユリは、少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んで私を優しく抱きしめた。
「メイ、ありがとうございます。」ユリは耳元で囁いた。
「ユリ、私もあなたを守りたいの。その気持ちはわかってね。」私は彼の胸にもたれて、静かに答えた。
「はい。」
ユリの返事は短かったが、彼の声が震えるほどの想いを込めて、私の耳に優しく届いた。
ミレーヌはその様子を見守りながら、深い溜息をついた。
食事が終わると、ユリと私は湯浴みをすることにした。昼間から二人きりで過ごす時間を楽しみにしていた私たちは、心地よい湯気に包まれながら、互いの存在を感じていた。ユリは私の髪を優しく撫でながら、「本当に成長するのが早いですね。」と微笑んだ。
湯浴みを終えると、私たちはバスローブ姿になり、使用人たちに休息を与えて全て下げさせた。心地よい疲労感とともに、私たちは静かにベッドルームに戻った。昼間の陽射しがカーテン越しに差し込む中、ユリは私の手を取り、ベッドの上に腰を下ろした。
「懐かしいですね。前の人生では監視の目があり、俺は筋トレばかりしていましたね。」
「ふふっ。あれはなかなかない経験だわ。私の上で永遠と腕立て伏せをしてたものね。」私は笑いながら彼を見つめた。
ユリは少し照れたように微笑んだ。
「恥ずかしい過去です。でも、今回の人生ではアイツは俺の忠実な部下です。王の側近は全て俺の息がかかった者に入れ替えましたからね。」
「あー!その情報は聞いてないわよ。」
私は驚きながらも、ユリの徹底ぶりに感心した。
「では、あの時のように今報告します。前の人生で危険だったものは全て処理済みです。メイの兄君もこちらで剣術の訓練を学び終え、飛び級で騎士学校を卒業していただきました。なのでグリーンルーク家との関わりは一切ありません。そして今は俺の妹と仲良く過ごしていただいています。もうすぐ兄君も回帰の記憶が宿ってしまうでしょうね。」
「もうそんな時期なのね。」
私は時の流れを感じながら、ユリの言葉に頷いた。
「はい、もうそんな時期です。そして今日は、王宮のお茶会でメイと初めて出会った日です。」
ユリの目には、あの日の記憶が鮮明に浮かんでいるかのようだった。
「本当にそうだったわね。あの日から全てが変わったのよね。」
ユリは私の手を優しく握りしめ、「メイ、あの日の出会いがなければ、今の俺たちはありませんでした。あの時…俺はメイを避けつつも、心の中では、来て欲しいと願っていました。俺を選んで欲しいと…。」と静かに言った。
「そんな素振り全くなかったし、私は私で幼い子のふりをしていて、ただ恥ずかしかっただけだったわ。」私は当時の自分を思い返して微笑んだ。
「俺はメイがどういう状態にあるか、ある程度把握していたので、ただただ愛らしく感じていました。」ユリは優しく笑いながら答えた。
その瞬間、ユリは私の頤に手を添えて、唇に優しいキスをした。そのキスは深い愛情と感謝の気持ちを込めたもので、私の心を温かく包み込んだ。
「さて、今日でないと、ルーを産むことはできないかもしれないので、そろそろ始めましょうが。俺たちの本当の初夜を。」
「えぇ…。」
私たちは、ユリの妹を早く生まれさせた結果、ユリと同様に黒髪に赤いメッシュの入った女の子が生まれてきたことを思い出していた。前の人生では黒髪一色だった。それゆえ、同じ時間に合わせなければ別の子が生まれてくる可能性が高かったのだ。
ユリは深呼吸し、「では、始めましょう。」と静かに言った。
ユリは私の手を優しく握りしめ、「メイ、途中で暴走してしまったら…すみません。久しぶりなもので…。」と言った。その言葉に込められた彼の真剣な思いが伝わってきた。
「ダメよ。初めてなんだから。その後は別に良いわよ。」私は微笑みながら彼の手を握り返した。
ユリはそっと私の髪に触れ、その手の温かさが心地よかった。
「分かりました。最初は気を付けます。」
私たちは互いの存在を確かめ合うように、ゆっくりと近づき、愛情を込めて抱きしめ合った。ユリの温もりと優しさが私の心を満たし、その瞬間、全ての不安が消えていくのを感じた。
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