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目を覚ますと、見慣れたような、そして見慣れぬような天井が広がっていた。 ふと横を見ると、ユリドレが美しい表情で眠っていた。 彼の顔には穏やかな微笑みが浮かんでいた。


「起きてますね。」


「バレてしまいましたか。」


彼は爽やかな笑顔を浮かべて目を開いたが、まだ寝ぼけた様子が残っていた。 そこが少し可愛いと思ってしまった。


昨夜は書類整理が終わった後、もう一度食事を食べさせてもらい、初夜を迎えた。まさか12歳相手にあんな事をするとは思わなかったが、とても熱烈な夜を迎えたのは確かだった。もちろん安全な範囲でだが。


「おはようございます。」


私が身体を起こすと、ユリドレも体を起こして私の身を引き寄せてぎゅっと抱きしめられてしまった。


「ユ、ユリ!?」


「あぁ…おはようございます。メイ。まだ離れないで下さい。」


耳元で囁かれて息がかかってゾワゾワした。これが本気の好意だというのだから凄い。


「あの、どうして敬語なのですか?」


「それはメイが女神様だからです。」


とんでもない理由でしばらく固まってしまった。呆れるくらいに良い意味で酷い理由だった。良い意味の酷い理由とはなんだろうか、自分でも何を言っているのかわからなくなる。


しばらく頬をすりすりとされていると、ドアをノックする音が聞こえて、すぐにメイドや執事が部屋に入って来た。メイドや執事たちは、ユリドレがまだ私を抱きしめたままであることを気にする様子もなく、静かに私たちのそばに寄り、私をユリドレから引き離して、丁寧に朝の支度を手伝ってくれました。


メイドたちは私の髪を丁寧にとかし、素敵なドレスを着せてくれた。 同時に、ユリドレの服装や髪型も整えられた。 彼の冷たい静けさと私の無邪気さが交錯するような場面で、メイドたちは穏やかで上品な雰囲気を漂わせていた。


朝の支度が終わると、メイドたちは部屋を静かに後にした。


「じゃあ、朝食にしましょう。今日も部屋で食事をとりたいけど、父上と母上がうるさそうだから、食堂へ行きましょう。」


ユリドレは私を優しく抱きかかえ、部屋を出て食堂へと向かった。 彼の腕の中で、心地よい温もりを感じながら、私は彼の胸に頭を寄せた。


食堂に到着すると、ユリドレの母親らしい人と父親らしい人が既に席についていた。 私は自然な流れでユリドレの膝の上に座らされた。


「初めまして。メイシールと申します。 この度はご家族に加わらせていただき、大変光栄に存じます。 どうぞよろしくお願いいたします。」


抱っこをされたままなので、大変無礼な挨拶となってしまったが、なにも言わないでいるほうがもっと無礼だと思い、渋々挨拶をしてみた。


「メイ、そんな気を使わないで。両親なんてほっとけばいいんだ。」


(何いってるのーーー!!!!)


「メイシール嬢、こちらこそ光栄に思う。ユリドレがあなたに出会えて幸せそうで何よりだ。 私たちの家族に加わっていただき、心から歓迎する。 どうぞよろしく。」


ユリドレのお義父様は、燃えるような真っ赤な髪と、その赤い瞳を持っていた。 彼の姿はまさにレッドナイト公爵家そのもののオーラを放っており、その風格は圧倒的だった。


「メイシールさん、あなたとお会いできて嬉しいですわ。ユリドレがこんなに幸せそうで、私たちも本当に安心しましたわ。 どうぞ、私たちの家族に加わって、楽しい時間を過ごしてくださいませ。」


お義母様は、とてもお淑やかで、気品溢れる艶やかな黒髪の女性だ。 彼女の姿からは異国の雰囲気が漂っており、その優雅さはまるで宝石のようだ。


確かに、息子のユリドレはその美しい容姿で注目を浴びていた。 彼は父親譲りの特徴と、お母様の洗練された雰囲気を受け継いでいるからなのね。


「こんな小さな子なのに、ユリドレったら…。今まで沢山縁談があったけれど、どれも断るばかり。でも、これで分かりました。そういう趣味だったのですね。」


「違います。メイとは…そうですね。まさに、神のお導きです。」


ユリドレは真顔でさらりと述べた。私はそれを聞いて固まってしまった。


(また何を言っているの、この人は…。)


「ははは!まぁ良いではないか。歳の離れた令嬢が一回り差のある男と結婚するなんてありふれた話じゃないか。さぁ、朝食をいただこう。」


朝食を食べながら、何気ない世間話をするのかと思えば、実際には仕事や情報ギルドの運営についての話ばかりだった。そんな中でも、ユリドレは私の口に運ぶ前に自分で一口試食し、毒が入っていないかを確認してから、優しく私に運んでくれていた。


(か、過保護すぎる!!後でちゃんと話そう。)


朝食が終わり、部屋に戻るとユリドレは私をベッドの上に降ろしてくれた。


「もっと、メイに触れていたいのですが、2年間書類の処理をサボっていたので仕事をしなければいけません。」


名残惜しそうに私のおでこキスを落としてから山のように積まれた書類が置いてある机に向かって処理を始めていく。


「ユリ、手伝いましょうか?」


「だめです。お体に障ります。」


「そうですか、早くユリと色々お話したいからと思っていたのですが。」


そういうと、使用人に椅子を持ってくるよう指示し、自分の隣にフカフカの座布団が敷かれた椅子を用意させた。 そして、私を抱き上げてその椅子に座らせた。


「領地に関する書類処理をお願いしてもよろしいですか?」


「はい。構いません。」


実はそういう系の書類処理は王妃時代に嫌というほど経験したので慣れている。アジャールは浮気相手と遊び歩いている事が多く、私が変わりに書類処理をしていたのだ。


なるほど、レッドナイト公爵領は公爵領を囲うように火山があるのよね。確か…噴火した順番を覚えてるわ。だとしたら、被害がこことここにでるわね。なら、中心部に仮設住宅を建てる提案書も後で書こうかしら。あとは、火山による被害防止に向けての立ち入り禁止区域指定…か。王妃時代に視察で行った事があるわね。確か、ここからここまで立ち入り禁止になっていたから、今回は早々に立ち入り禁止区域を的確に指定して、被害を抑えてみようかしら。


領地の書類を任せてもらえるなんて思わなかったけれど、意外と楽しい。自分が勉強した事や体験してきたことが活かされいる気がする。


書類の山も、あっという間に昼になると終わった。


「楽しそうでしたから、止めませんでしたけど、やり過ぎです。」


「す、すみません。つい楽しくなっちゃって。」


「俺は処理できないと踏んでいました。ですが、数枚掴んで確認しても完璧過ぎて、俺なんかよりよっぽど良い領主なようですね。」


彼は私が処理した書類を掴んでジっと確認していた。


「えぇ!?いえ、これは…回帰前の経験が…。」


「俺以外の誰かと過ごした記憶ですか?」


ユリドレはゆっくりと顔を私に近づけ、鼻先がほぼ触れ合うほどの距離まで寄せてきた。 その近さに、私の胸はドキドキと高鳴った。


「ユリ…あの、近いです。」


「当たり前です。俺以外のことを考えられなくして差し上げようとしているのですから。」


「えっ…。」


良いムードの中、私のお腹が突如として大きな音を立ててしまった。


「あ…。」


「クスッ…ハハハッ。続きは後にしますか。先ずはお昼にしましょう。」


「はい‥‥。」


情けない。どうして私のお腹は空気を読めないのだろうか。


しばらくして使用人が部屋に食事を運ぶと、その食事は妊婦に優しい栄養バランスの整ったものだった。 最初に運ばれてきたのは、軽めの野菜スープで、新鮮な野菜がたっぷりと入っていた。 その次には、柔らかく煮込まれた魚料理がやってきた。 魚の旨味がたっぷりと染み込んだ、優しい味わいの料理だった。 そして、温かいライスと一緒に、野菜の炒め物が運ばれてきた。 彩り豊かな野菜が絶妙に調和し、香り高い一品となっていた。


食事の最後には、甘くて滑らかなプリンが提供された。 それは口の中でとろけるような優しい味わいで、心地よい余韻を残した。 すべての料理が、胎児の成長に必要な栄養素を含んでいるように見え、私はその心遣いに感謝の気持ちで一杯になった。


ユリドレが先に一口試食する姿は、ますます当たり前のように感じられるようになっていた。 その行為は、彼の気遣いと安心感を示すものとして、私にとっては大切な瞬間となっていた。


ユリドレと私は食事を終えると、ソファーに座り、身を寄せ合ってくつろいでいた。


「あの、ユリは少し私に甘すぎます。なので、もう少し普通にして頂きたいのですが…。」


「慣れて下さい。」


「え!?いや、でも朝食の時のあれは、初めてご両親に挨拶するというのに、とても無礼な状態でした。」


「成人した淑女ならそうでしょうけど、メイは12歳ですから大丈夫です。メイが回帰者だと知っているのは俺だけですから。そして、回帰したかどうかまで俺は確認する術も知っています。」


「うっ…。」


(これ以上何を言ってもダメそうね。)

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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