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「ほら… 見えますか?」 ユリは左手首を私に見せた。 その手首にはブルービショップ家のタトゥーである鎖が1つ青白く光っていた。
私は驚きと混乱で言葉を失いそうになった。
《ユリ… あなたは本当に…》
「俺は不甲斐ない父親です…。どうしても…アナタと共にいたくて…俺は…」
ユリの声は震えていた。 彼の目には後悔と苦しみが浮かんでいた。
《ユリ… 》
それはとても狂気的な愛だった。私の血を飲んで、私を食べて、私を追ってきたというのだから…。どうして彼は、そこまでして私を求めるのだろうか。それは愛という名でおさまるものだろうか…。何が彼をそこまでするのだろうか…。それでも私は…そんな狂気すら…愛している。
《愛してる…。》
「メイ…っ!俺はどんな姿でもアナタを愛しています…」 ユリは私の小さな手を優しく握りしめ、その手をそっと撫でた。
《ありがとう…。》
「はい…。」
ユリの目には涙が浮かび、その目には深い愛情と感謝が込められていた。
その後、私はユリに抱っこされて、部屋を出て、少し長い廊下に出た。
「メイ、後でゆっくり話しましょう。今は俺も頭が少し混乱しています。」 ユリは優しく私に語りかけた。 その声にはまだ緊張が残っていた。
《えぇ、まずは、お父さまに話をするわ。 》私はテレパシーで答えた。 今の状況を父に伝える必要があった。
「はい。今の俺は12歳弱だと思います。 メイも2歳になる前なはずです。 俺がメイの記憶を封じた直後なはずです。」 ユリは自分の年齢を確認しながら説明した。
《そうなのね。 》私は彼の言葉を頭で繰り返しながら、状況を整理しようとした。
「気が付いたらメイの側にいたんです。」ユリは不思議そうに続けた。
私たちは廊下を進みながら、ブルービショップ邸の重厚な雰囲気を感じていた。
やがて父の書斎にたどり着いた。 ユリがノックをし、扉が開かれると、父が驚いた表情で私たちを見つめていた。
「だ、誰だ!!メイシール!?」
《お父さま、お話があります。 》私はテレパシーで父に伝えた。 父の表情が一瞬で真剣になり、私たちを部屋に招き入れた。
ユリと私は父の前に立ち、状況を説明し始めた。 ユリは自分がどのようにしてここに来たのか、そして私たちがどのようにして再び出会ったのかを話した。 父は静かに聞きながら、時折頷いていた。
「なるほど…。お前たちがこのような状況にあるとは…。 わかった。 お前たちの事は認めよう。 私の落ち度だ。」 父の声には深い思慮が感じられた。
《お父さま、ありがとうございます。 》私はテレパシーで感謝の気持ちを伝えた。 父の承認は私たちにとって大きな支えとなった。
ユリは一歩前に出て、深く頭を下げた。
「お義父様、ご理解下さり…ありがとうございます。 今度こそ…メイシールを守り抜きます。」
父はユリを見つめ、その表情に考え込む様子が伺えた。
「レッドナイト公爵子息、お前の覚悟を見せてもらった。メイを託すにふさわしい男だと信じている。 だが、これからの道のりは決して平坦ではない。私が招いたことだ。私ができることはなるべく協力しよう。」
父との話が終わると、私たちは庭に出た。 柔らかな陽射しが庭を照らし、花々が美しく咲き誇っていた。 静かな風が私たちの間を通り抜け、緊張していた心を少しだけ和らげた。
庭のベンチに腰を下ろし、私たちはしばらくの間、静かに周囲の美しさを眺めていた。
「公爵邸を少し掃除しないといけませんね。ゼノも助けに行かないといけません。」
《そうね…。私もミレーヌを助けなきゃ…。》
「それは俺がやっておいても?」
《ま、待ってよ!私のミレーヌよ?》
「なら、先に母上と父上をどうにかしてから…二人でミレーヌを迎えにいきましょう。」
《そうね。私の今の体じゃ、どうすることもできないもの。》私は自分の小さな体を見下ろしながら答えた。
ユリは遠い記憶を呼び起こすように、静かに話し始めた。
「なんだか…懐かしいですね。本当にこの時期、メイとこうして未来の話を沢山したんです。メイはとても疲弊していましたが…。そうですか…あの時のメイはこれを何度も繰り返していたのですね。そして…。」
《ユリ…?》
ユリは一瞬黙り込み、目を閉じて深呼吸をした。 そして、再び私に向き直ると、その目には涙が溢れ始めた。
「いえ…、本当に…良かった…メイと…まだ…生きていける。」
その瞬間、ユリの目から涙がポロポロと零れ落ち、彼は抑えきれない感情に駆られて泣き出した。 彼の肩が震え、嗚咽が漏れ始めた。
「メイ… ごめん… ごめんなさい… 俺がもっと強ければ… アナタをこんなに何度も苦しめることはなかった…」ユリは涙で顔を歪めながら、言葉を途切れ途切れに紡いだ。
《ユリ…ありがとう。 》
――――――――
――――
その後、私たちは少し離れることになった。 ユリは自分の家のゴタゴタを解決しに一旦公爵邸へ戻った。 その間、私はただ自分が成長するのを待つしかなかった。
ユリが去った後、私はブルービショップ邸での日々を過ごすことになった。 小さな体での生活に慣れながらも、心はユリと共にあった。 彼と再び一緒に暮らせる日を心待ちにしながら、時間が過ぎるのを感じていた。
ユリは忙しながらも、時々会いに来てくれた。そのたびに彼は私の頬に優しくキスをして、現状報告をしてくれた。
「メイ、今日は少し進展がありました。もうすぐ落ち着くと思います。」
彼の訪れは私にとって大きな励みとなった。彼の温もりと愛情が、私の日々の支えとなった。
こんなにも幼いのに、真っ直ぐと向けてくれる愛情にありがたみを感じた。
幼いユリは、声も高くて、可愛らしい感じだった。けれどしっかりとカッコイイ。なんだか幼いユリを独占できて優越感なるものを感じていた。
私って本当に呑気だわ…。子供を3人も残して回帰して…。情けない母親だわ。
それにしても、今後の目標をたてるべきよね。ユリが戻ってきたら、まず結婚して、披露宴もやっちゃうって言ってたわよね。あそこで幸せ全開ムードを出してしまったのがユリのお母さんやグリーンルーク辺境伯令嬢を傷つけることになったのよね。
難しいなぁ。私だったら幸せそうだなって思うだけなのに、傷ついちゃうんだもんね。ユリと何度か話し合ったけれど、結局危険を回避するために私とユリは政略結婚という形をとり、結婚する予定だ。
まさかユリが私を食べてまで回帰してくるとは思わなかったなぁ。どうしてそうすると回帰できるってわかったのかしら?ユリのお母さんが色んな実験をしてそうな気配はあったけど、そこからヒントを得たのかしら…。
とにかく謎が多いわ。
おっと…目標をたてるつもりが…脱線してたわ。結婚披露宴が終わったら二人でミレーヌを迎えに行って、そこから育つまでが長いわね。私はてっきり、ユリと結婚した3日後に回帰するものだと思ってたのに。赤ちゃんはやり過ぎじゃない?ブルービショップの神様。
「メイ?何か考えごとですか?」
《あ、うん。色々とね。赤ちゃんに戻すのはやり過ぎだと思わない?》
「いえ、何か理由があるんだと思います。俺というイレギュラーな存在がいることによって、神も考えを変えたのでしょうね。」
《一番の謎だわ。ブルービショップ家。》
「そうですね。まぁ、1つだけ解消されましたけどね。」
《1つ?何が解消されたの?》
「ブルービショップ家の特殊能力の継承についてです。そもそも特殊能力家系には血で継承されるタイプと子種そのものに継承されているタイプの2種類があるようです。ゴールドキング家がそうですね。男系男子孫でないと雷の特殊能力を完璧には引き継げません。そして、シルバークイーン家は血です。このようになっているので、ブルービショップ家は血で継承されることがわかります。ゼノが良い例ですね。グリーンルーク家の特殊能力を使っていたでしょう?あれは、その血でタトゥーを身に刻んだからです。」
《それって…じゃあ、血でタトゥーを刻めば良かったじゃない。何も食べなくても…。》
「いえ、それでは俺が、別のメイと再会していたかもしれません。それに血を啜っただけでは、タトゥーは現れませんでした。なので………。」
そういうことだったの…。その時のユリは…私を追う為に必死で無我夢中で狂気的な作戦にでたのね…。
《大丈夫よ。ユリ。私はユリに何をされても喜んでしまうから。》
「メイ…。」
ユリは切なそうに微笑み、私をそっと抱きしめた。彼の温もりが私の全身に伝わり、ユリの心音が私の耳に届く。そのリズムが私の不安を和らげ、彼の愛情が私を包み込んだ。
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