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私が行方不明になった件については、アジャール王子が王位に即位することにより、その全貌が明らかになり、事態は急速に解決へと向かうこととなった。実際には、私が行方不明になったのは偽装であり、本当は私は自室に閉じこもっていただけだけど、新王アジャールの権威と影響力が、この一連の騒動を迅速に収束させたのだった。
時は少し進み、いよいよ私の16歳を祝う生誕パーティーが王都にあるレッドナイト公爵邸で開催されることになった。週5で王宮勤めをしている夫ユリドレは、限られた時間の中で私を手伝おうと努めてくれている。その献身的な姿に、私は毎回心を打たれる。
ある夕暮れ、広い書斎に並べられたカタログをめくりながら、ふとあるページで手を止めた。鮮やかな花束が目に飛び込んでくる。「ユリ、この花はどう思う?」私は瞳を輝かせながら、彼に尋ねた。八ヶ月の大きなお腹を抱えたまま、椅子に腰掛けていた。
ユリドレは一瞬カタログに目を落とし、微笑んで頷いた。「とても素敵ですね。メイの好みがよく反映されています。」彼の穏やかな声に、私は安心感を覚える。
「ふふ、何を言っても褒めてくれるわね。」私は嬉しそうに微笑み返した。
ユリはそっと私の肩に手を置き、その温かさが伝わってくる。
「メイの為なら全力で手伝いますよ。それに1人の体じゃないですからね。」彼の言葉に、私は胸が熱くなった。
「いつもありがとう。」
その後も、私たちは忙しく動き回り、パーティーの準備を進めていった。ユリは装飾の配置を手伝い、時には私と共に招待状を書いたり、細かなディテールを確認したりした。彼はどんなに疲れていても、その姿勢には一切の妥協がなかった。彼の働きぶりを見るたびに、私は彼の献身に感謝し、さらに彼を愛する気持ちが強くなった。
私は庭を巡りながら、花の配置を決めるためにユリの提案を取り入れ、美しい装飾を施していった。私は花々の香りに包まれながら、この特別な日の準備を楽しんだ。
一方、メアルーシュは邸内で1歳になる妹のユーフィリアの面倒を見ていた。4歳の彼は、既に大人びた態度で妹を見守っていた。
「ユフィ、お腹は空いてないですか?大丈夫ですか?」
ユーフィリアは兄の言葉に小さく頷き、その赤い髪を揺らしながら笑顔を見せた。メアルーシュは妹の笑顔を見ると、自分も微笑みを浮かべた。
「僕が守りますからね、ユフィ。」
で小さな妹を宝物のように扱っているかのようだった。
「ユフィ、お兄ちゃんと一緒にお花を見に行きましょうか。」
ユーフィリアは嬉しそうに笑い、メアルーシュの首に腕を回してしっかりと抱きついた。
「にー!」
彼女の小さな声が響き渡り、その瞬間、メアルーシュの顔に満足そうな笑みが広がった。
「大好きですよ、ユフィ。」
彼はそう言いながら、妹をしっかりと抱きしめ、庭に咲く花々を見せるために歩き出した。
生誕パーティーの準備が完了した後、私たちは邸内の自室で一息ついていた。大きな窓からは庭の美しい景色が広がり、夕暮れの柔らかな光が部屋を温かく照らしている。
「メイ、動き過ぎですよ。ここに座って下さい。」
ユリは優しく私をソファに誘導し、私はそっと腰を下ろした。
「はーい。」
私は大きなお腹に手を添えながら、心地よい疲れを感じていた。
「いよいよ明日ね。」
私は窓の外を見つめながら、明日の生誕パーティーのことを考えていた。夜の静けさが、私の心をさらに落ち着かせる。
「メイは世間的にはよく行方不明になってしまう人ですから、注目の的でしょうね。」
ユリは私の隣に座り、軽く肩を抱いてくれた。彼の声には軽い冗談が混じっているが、その裏には私を心配する気持ちが感じられた。
「それだけじゃないわよ。16の生誕パーティーで妊娠してる人なんていないかも…。」
私は軽く笑いながら、ユリの肩に頭を預けた。彼の温もりが心地よい。
「す、すみません。あの日はセーブできず。そ、その…日を追うごとに、メイが成長するので、魅力的過ぎて…。」
ユリの顔が少し赤くなり、視線を逸らした。その姿が微笑ましくて、私はさらに笑みを浮かべた。
「ユリ、私もう大人よ。どう?大人の私。」
私は彼の顔を覗き込み、真剣な眼差しを向けた。彼の反応を見たくて、少し意地悪な質問を投げかけると、ユリは一瞬、言葉に詰まり、その後、深い呼吸をして私を見つめ返した。
「想像通りの魅力的な女性です。最近になって、父上が馬鹿なふりまでして仕事を全て放棄して母上と領地に引きこもる理由が理解できて、昔、公爵の地位を必死に追いかけてたのが馬鹿らしく思える時があります。」
「そんなに?」
「そんなにです。俺も歳をとってしまいましたね。」
ユリは軽く肩をすくめ、微笑んだ。その姿には疲れが見えるが、どこか安心感も漂っていた。
「まだ26でしょ?」
「もう26ですよ。」
「でも子供は沢山作る気でしょ?」
「可能な限り。」
ユリは即答し、その真剣な表情に私は笑いを堪えることができなかった。
「ふふふ。そういえば、歴代公爵の肖像画、家族の肖像画はどうしてないの?」
「あぁ、それは、異国の技術で写真というものを撮るからです。歴代公爵の肖像画しかないのは怪しまれない為に無理矢理描かせたというのが正しいですね。」
「写真!レッドナイト領の公爵邸の書物庫で見たわ!絵よりも遥かに鮮明な絵ね!」
「はい。メイ、写真は内緒ですよ。」
ユリは指を唇に当てて、秘密を守るように囁いた。
「えぇ。分かってるわ。でも残念ね。あの技術を取り入れても良いと思うのだけど。」
私は少し残念そうに言ったが、その後すぐに理解した。
「いえ、そうすると画家が収入を得にくくなるでしょう?楽で新しい技術を入れるということは、誰かの日常を奪ってしまいことに繋がるんです。内密に雇っている治癒師だって、バレたら大変です。医者が要らなくなり、今まで医者として頑張ってきた人たちが露頭をさ迷うことになりかねません。」
「そうね。なんだか、レッドナイト家って、悪の組織感があるわね。」
私は冗談交じりに言い、彼の反応を見た。
「フッ。そうですね。その通りだと思います。だいたい法に…」ユリは言葉を止めて、少し考え込んだ後、続けた。「でも、それも家族を守るためなんです。全ての選択には理由があり、それぞれが何かを守ろうとしています。」
「ユリの言葉にはいつも深い意味があるわね。」
その夜、私たちはベッドに横たわりながら、未来のこと、これから生まれてくる新しい命について話し合った。ユリは私のお腹に手を置き、その温もりを感じながら、静かに話し続けた。
「頼みますから、俺のような黒髪で生まれてこないでくださいね。」
「ユリに似てて良いじゃない。」私はお腹に手を当てながら、幸せそうに微笑んだ。
「幼い頃、騎士学校に入った時、世にも珍しい黒髪なせいでやたらと突っかかられたので心配なんです。」
ユリは少し困った表情を浮かべた。
「へぇ、ユリ学校に入ってたの?てっきり家庭教師かと思った。」
「とても短い期間だけでしたが、騎士の資格だけ取得しに通いました。騎士資格のない者は剣帯を許してもらえませんから。」ユリドレは肩をすくめて説明した。
「そうなの!?知らなかった。」私はさらに驚いた。彼がそんな経験をしていたとは知らなかった。
「刃物は危険物ですから、それなりの心得と人格がいります。」
「そっか。そうよね。」
「はい。だから、厳しい訓練と教育が必要なんです。」
「ゼノと剣術の訓練をしてるところをみかけたことがあるけど、ユリは何をしてもカッコイイわね。」
ユリは一瞬言葉を失い、照れくさそうに笑った。その笑顔は普段の冷静で冷徹な表情とは違い、どこか柔らかく、温かさが滲んでいた。
「メイも俺を褒めることしかしませんね。」
彼は恥ずかしそうに視線を逸らした。
「ふふっ、似た者同士ね。」
「そうですね。」
その夜、私たちは心地よい疲れと共に静かに眠りについた。夜の静けさが私たちを包み込み、安心感と共に夢の中へと誘われた。
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