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「おぎゃああ!!おぎゃああ!!」


産声が響く中、私は死にかけていた。栄養不足と精神不安定が招いた難産だった。もうすぐ死んでしまうと自分で分かってしまうほどに体中の力が抜けていくのを感じた。


「待ってください…置いて行かないでください…。俺はまだ、貴女を幸せにできていないではないですか…。」


「私を……幸せに?殺そうと……して……いたのではないの?」


「そんな馬鹿な…。あぁ、誤解です。こうなるなら全て話せば良かったですね…。俺は、ジョナサン・ブルービショップが鉱山を購入した時から、貴女の家に潜入して大体の計画を全て把握していました。なので、あの麻痺毒を受けている間の意識もありました。全てを知っていて俺はメイを大切にしようと…いえ、愛していました。まだ愛と呼ぶには少し小さい気もしますが、あなたを心から大切にしようと決めていました。少しでも貴女を怖がらせないように笑顔の練習も沢山しました。二人の部屋も、回帰したという経験のお持ちのメイだから、大人っぽいものにしてみたのです。」


――――そんな…、そんな事まで?


「どうして…。」


私の目からは沢山の涙が流れ始めた。それは、初めて心から愛された喜びと、悔しさと、悲しさの涙だった。


「メイ、時間があまりなさそうですね。どうすれば回帰できますか。」


「それは…。」


「もう一度やり直しましょう。回帰するのは俺を襲う前ですか?どこに戻されるかわかりますか?」


「それ…は…わか…りませ…ん。」


意識が…朦朧とし始めている。


「メイ!!回帰して下さい!そして、回帰したら俺を「ユリ」と呼んで下さい。それで全てを把握できるはずです。」


「ユ…リ…。」


「はい。」


ユリドレの私の手を握る力が強くなっていた。


「ユ…リ…わた…しを…殺して…。」


「そんな…。」


「はや…く。たしゃ…に…殺され…ないと…。」


ユリドレはゆっくりと立ち上がり、泣きながら震える手で腰に掛けられた剣を抜き出した。 その姿はまるで静まり返った夜空に浮かぶ鋭い月のように、厳かで威厳に満ちていた。


―――カッコイイなぁ。


痛みもなく、私の意識は薄れ始めた。斬られたのかどうかも分からない。


――――この痛みのない斬り方はいつもの暗殺者さんみたいだわ。


そして、最後に彼の濡れた唇が触れるのを感じた気がした。


――――――――

――――――


目を覚ますと書類の積まれた机が見えた。情報ギルド運営に関する書類だった。それはレッドナイト公爵家に来た日に見た書類だった。


「ユリ…。」


そう呟くとユリドレの手が止まった。そしてすぐに室内にいた使用人を下がらせた。その後、私の足首にあるタトゥーを確認した。


「どこから回帰しました?」


凄い・・・十ヶ月後のユリドレの言っていた通り、全てが通じた気がした。死ぬ前にユリドレは私の家に潜入し全てを把握してるって言ってた気がする。その時に合言葉でも作っていたのだろうか?


「今から十ヶ月後です。」


「メイの判断で構いません。回帰した理由を聞いても大丈夫ですか?」


「私のせいです、ユリに殺されると思い込んでいて、食事は喉を通らず、精神的にも限界でした。それで…。」


突然ユリドレはドンッと大きな音を立てて机を拳で叩いた。拳からは血が滲んでいた。


「ユリ…?」


「十ヶ月も俺は君を苦しめたのか?」


「え…いや、違うの!ユリはずっと優しかったわ。ちゃんとしてくれてた。私が信じられなかったの。まさか計画を全て知っているなんて思わなかったから…。」


「いえ、俺のせいです。こんな小さな体で、例え中身が大人の女性だったとしても計り知れない負担がかかっているに違いありません。メイから信頼を得られない程度の事しか俺はしていなかったという事でしょう。」


(な、なんて自分に厳しいの!?本当に悔しそうだわ…。)


「えっと、あの…私の問題に巻き込んでしまってごめんなさい。どうして全てを知っているのに大切にして下さるのですか?」


「それはメイが特殊な体で生まれてきてくれて、俺を選んでくれたからです。」


「ごめんなさい。その理由だけでは、ちょっと、まだ良くわかりません。」


ふとユリドレの顔を見れば顔が赤くなっていて、何故赤くなる必要があるのだろうと首を傾げていると、ユリドレは何かを決心したかのように口を開いた。


「俺は性交渉が完遂できない体なんです。」


「はい?」


「ハーフであるが為に体の作りが、この国の純血統とは少し違うのです。ですが、メイは俺と同じハーフですから問題なく子作りができるようです。俺は数年前、貴女の存在を知った時に求婚しようかと思いましたが、10歳の差は流石に大きいかと断念したのです。それからも、女性を不幸にさせてしまう体質ですから、誰も寄り付かぬように俺は常に冷たい態度をとるように心掛けてきました。ですから、貴女に選んでもらえたのは私にとって奇跡であり、運命を感じています。」


「そう…なんですね。なるほど、そういう理由なら理解できます。そういえば、回帰前の人生で確かに…あっ。」


回帰前の事は話してはいけないのを思い出して、思わず両手で口を塞いでしまった。


「誰と…?」


突然殺気を感じてヒヤリとしてしまった。


「おっと、いけませんね。お腹の子に触ります。」


「少し頭を整理したいので、書類の続きをどうぞ。」


ユリドレは一番近くの引き出しから手袋を取り出し、丁寧に手にはめました。 その行動は、先ほど拳を強く握りしめすぎたことでできた傷の血が書類につくのを避けるためだろうと思われる。

凄く綺麗な手だと思った。そして女性のような綺麗な文字。何故だか好きだと思った。


ユリドレは突然ボキッとペンを折ってしまう。


「え?だ、大丈夫ですか?」


「すみません。こんなに愛らしい貴女が他の男性に抱かれていたのかと思うと、胸が張り裂けそうになってしまいました。」


(そこまで!?)


「でも、私達、会って間もないですよね?」


「いえ、鉱山を購入した時から、貴女の屋敷に潜入していたので、ずっと側にいました。」


「え!?」


「俺は透明になる特殊能力を持っています。ですから、ずっと側で貴女を観察していました。」


ユリドレはニコリと微笑んだ。


「えー‥‥。ということは約2年くらいでしょうか。」


「はい。観察しているうちに、面白い情報が沢山出て来ましたから、片時も離れず側におりました。メイはまだ安心しきれていないようなので、後ほど殺さぬ誓いを魔法契約しましょうか?」


「それはもういりません。回帰がユリドレ様との結婚後になってしまっているので、もうその心配は…。」


「ユリ…ですよ。」


「あ…。」


ユリドレの顔を再び見ると、ニタァーっと怪しくも恍惚な笑みを浮かべていて、ドン引いてしまった。


「ほら、俺の名前を呼んで下さい。」


ある意味で別の恐怖が私を襲った。この先どうなってしまうのだろうかと。


「ユリ…。」


「メイ。」


とてもむず痒い気恥しい空気が流れていた。


「は、早く書類を片付けて下さい!」


「わかりました。」


ユリドレは手元にあるベルを鳴らして使用人を呼んで潰してしまったペンの交換と飛び散ったインクを拭きとってもらい書類を処理しはじめる。


さっきは考えを途中で中断してしまったけれど、私が子宝に恵まれない理由が分かってしまった。最初から私にはユリドレしかいなかったという事だ。出会いは最悪だったかもしれないけれど、本当に運命なのかもしれない。けど、問題は彼が数年後に死んでしまうという事だ。狩猟大会に起きた事故。なぜ、そんな不幸な出来事が起きたのだろうか。 彼が透明になれるということは、他殺ではないような気がする。 彼はどう見ても、動物にやられるような弱々しい体つきではない。


歳をとってみない事には分からない。回帰がここになっている以上、私の運命の相手は間違えなくユリドレ・レッドナイトなのだろう。けれど、今は無事に子供を産むことだけを考えないといけないみたいね。

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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