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―数週間後―
ある日、世間は大きく色々と変わっている様子が見受けられた。 アジャールが現王を倒し、即位するという異例の事態に世間は大騒ぎだった。 そして第二王子であるディッケルを処刑したとも記事には書かれていた。
私はそのニュースを読んで驚きと不安を感じていた。 アジャールが王位を奪うなど、誰も予想していなかった。 それに加えて、ディッケルが処刑されたという報道は、さらなる混乱を引き起こしていた。
その時、ルーが突然白髪で黄金の瞳をした3歳児を抱いて私の前に現れた。
「はい、というわけでこの子が俺が救いたかった親友のディッケル。」
「え?」 私は目を見開いて、ルーとその子供を交互に見つめた。
「母さん、これはちょっと説明が必要だね。」ルーは苦笑いしながら、ディッケルを抱き上げたまま言った。
「どういうこと?ディッケルは処刑されたはずじゃ…」私は困惑しながら尋ねた。
ルーは深く息をつき、話し始めた。 「ディッケルは確かに処刑されそうになってたけど、瞬間移動で俺が用意したダミーとすり替えて助けたんだ。」
「えーーーーーーー!!」私は驚きのあまり声を上げてしまった。
ディッケルは3歳の姿で無邪気に笑い、「ルーが助けてくれた!」と元気よく言った。
「でも、それって…。」私は言葉を探しながらも不安を隠せなかった。
ルーは少し困ったように眉をひそめ、「今のアジャール王からしたら謀反だね。どうしよう。」 と呟いた。
「どうしようって… どうしよう。 ルーはどうして助けたかったの?」 私は問い詰めるように尋ねた。
ルーは一瞬視線をそらし、深呼吸してから話し始めた。 「回帰前の人生で、父さんが王宮勤めしてたから、俺も頑張って王宮の重役になったんだよ。その時、即位してたディッケルの側近だったんだ。 けど、アジャール王子と争いになって、俺たちが負けてディッケルも命を落として…。 その…。」
ルーは言葉を詰まらせた。
「それで、ディッケルを助けるためにここまでしたのね。」
ルーは頷き、真剣な表情で続けた。 「そうだよ。彼は俺にとって大切な友人だったから。 今回の人生では彼を守りたかったんだ。」
「でも、今後どうするの?」私は心配そうに尋ねた。
ルーは少し考えてから答えた。 「まずはディッケルを安全な場所に匿うことが最優先だね。アジャール王がすぐに気付くかもしれないけど、今はそれしかない。」
ディッケルは少し不安そうに、「僕、大丈夫かな…。ルー、ずっと一緒にいてくれる?」 と尋ねた。
ルーは優しく微笑み、「もちろんだよ、ディッケル。君を守るためにここにいるんだから。」 と言って彼の頭を撫でた。
「待って、流石にユリに… 父さんに相談した方が良いわ。 そんな大切なこと、どうして父さんに相談しないの?」 私は心配そうに尋ねた。
ルーは顔をしかめ、「だって、父さんアジャール派じゃん! 言ったらすぐ首切るよ
「んーーー、分かったわ。私から相談してみる。」 私は少し考え込んだ後、決心した。
ルーがディッケルを安全な場所に避難させた後、私は早速ユリに一方的ではあるがテレパシーを使って、今何が起こったかを説明した。 心の中でユリに強く語りかける。
《ユリ、緊急事態よ。 ディッケルをルーが助けたの。 瞬間移動でダミーの死体とすり替えて、今は私たちの家に匿っているわ。 どうすればいい? 》
しばらくして、部屋のドアが乱暴に開かれ、ゼノが血相を変えて現れた。 彼の顔には焦りが見て取れ、額には汗がにじんでいた。
「主が、夜に急いで帰るそうなので、待機しているよう仰っていました。」ゼノは息を切らせながら報告した。
私はゼノの様子に驚き、すぐに立ち上がって彼の元に駆け寄った。 「ゼノ、大丈夫?かなり疲れているみたいだけど。」
ゼノは肩で息をしながらも、必死に頷いた。 「すみません、若奥様。ただ、事態の深刻さを理解して… 主も非常に急いでいるようです。」
私はゼノの手を握り、優しく言った。 「魔力を分けるわ。少しでも楽になるように。」
ゼノは少し驚いた表情を見せたが、感謝の気持ちを込めて微笑んだ。 「ありがとうございます、若奥様。」
私はゼノに魔力を分け与えると、彼の顔色が少しずつ良くなっていくのを感じた。 ゼノは再び深呼吸をし、落ち着きを取り戻した。
「ありがとうございます、若奥様。」ゼノは感謝の意を込めて微笑んだ。
そして、あっという間に夜が訪れ、ユリが帰ってくる時間になった。 数週間ぶりにユリに会えるという喜びと、今後のことについての不安が入り混じっていた。 私は心を落ち着けようと深呼吸を繰り返した。
やがて、自室の扉が開く音が聞こえ、ユリが部屋に入ってきた。 彼の姿を見た瞬間、私は胸がいっぱいになった。 ユリもまた、私を見つめて微笑んだが、その表情には疲労の色が見えた。
「メイ、久しぶりです。長い間帰られなくてすみませんでした。外交の処理がなかなか片付かず…。」ユリは優しい声で言いながら、私の元に歩み寄った。
「ユリ、おかえりなさい。」私は彼に駆け寄り、抱きしめた。 その瞬間、安心感と共に涙が溢れそうになったが、ぐっとこらえた。
ユリは私の背中を優しく撫でながら、「メイ、すぐに話をしましょう。色々と不安にさせてしまいましたね。」 と優しい声で言った。
私は頷くと、ユリは私の手を引いてベッドに向かい、私を押し倒した。
「え…話を…するんだよね?」
「あぁ…メイの匂いがします…。あぁ…メイ…。」
ユリは私の胸に顔を埋めた。
「ちょ、ちょっと今そんな場合じゃないでしょ?話をしましょうって言ってたじゃない?」私は焦りながらも、彼の行動に困惑した。
しかし顔を上げたユリの顔は既に狂気に染まった恍惚とした笑みを浮かべており、久しぶりの私に触れることで暴走してしまっていることがわかってしまった。
「ユリ… 落ち着いて。 話をするんでしょ?」
私は必死に彼を冷静に戻そうとした。
ユリは一瞬だけ目を閉じ、深呼吸をした後、少しだけ理性を取り戻したようだった。
「ハァ…ハァ…ごめん、メイ。君に触れるとどうしても…。」
どうして肩で息をしてるの!?そして何か硬いものが当たってるんですけど!?
「わ、分かってるわ。と、とりあえず、ね?緊急事態だし、まずは話をしましょう。」
私は優しく言いながら彼の顔に手を添えた。
ユリは再び深呼吸し、少しずつ冷静さを取り戻した。
「ハァ…ハァ…そう…ですね。話をしましょう。」
私は彼を起こし、隣に座らせた。 ユリは私の手を握りしめ、真剣な表情で話し始めた。
「ディッケルを助けたそうですね。事前に教えてくれれば良かったのですが…。」
「どうも話を聞いた感じでは、ディッケル側に正義がないらしいの。だから、ユリに話したら、まず首切られて終わるってルーが。」
ユリはため息をつき、眉をひそめた。
「また面倒を持ち込まれましたね。こうなるから記憶を消しておきたかったのですが、まぁ…俺もあの子の親ですから、そうすることをやめてしまいました。ホワイトホストの血というものは厄介でして、成人してしまうと本当に手がつけられなくなります。ルーを呼んでもらえますか?少し直接話す必要がります。」
私はユリの言葉に頷き、テレパシーでルーを呼んだ。
《ルー、すぐにユリの書斎に来て。 》
数分後、ルーが部屋に入ってきた。 彼の顔には緊張が浮かんでいたが、その目には決意が宿っていた。
「父さん…。」
ユリは深く息を吸い込み、ルーを鋭い目で見つめた。 部屋の空気が一瞬で変わり、ユリの怒りが感じられた。
「ルー、ディッケルを助けたことは理解できる。しかし、それがどれほど危険な行為だったか分かっているのか?」 ユリの声は低く、しかしその中には抑えきれない怒りが込められていた。
「父さん、俺は…」ルーが言いかけたが、ユリはそれを遮った。
「黙れ!」ユリが一喝すると、ルーは口をつぐんだ。 私もその迫力に息を飲んだ。 ユリがこれほど怒るのを見たのは初めてだった。
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