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1年が経ち、私たちはホテルから移動し、再建された王都のレッドナイト公爵邸に移り住んだ。 かつて全焼した公爵邸は見違えるほど美しく生まれ変わり、新しい生活が始まる予感に胸が高鳴った。
この1年の間に、私は無事に出産を終え、可愛い女の子を授かった。 彼女の名前はユーフィリア。 彼女の髪の毛は燃えるような赤い色で、瞳は優しい桃色。 生まれた瞬間から、彼女は私たち家族の光となった。
公爵邸の広々としたリビングルームで、私はユーフィリアを抱きながら、彼女の顔を見つめていた。 彼女の小さな手が私の指をぎゅっと握りしめ、その温かさに心が満たされた。
「ユーフィリア、本当に可愛いわ。」
私は微笑みながら言った。
ユリは隣で私たちを見守りながら、優しく微笑んだ。
「ユフィはまるでメイのように美しいですね。」
ユーフィリアの瞳が輝き、彼女は私の顔を見上げて微笑んだ。 その笑顔に、私は何度も心を奪われた。
リビングの窓からは、美しい庭園が広がっており、色とりどりの花が咲き誇っていた。その時、ルーがリビングに静かに入ってきた。 彼の表情は落ち着いており、まるで大人のような冷静さを持っていた。
「母さん、俺がユーフィリアの面倒を見るよ。」
私は少し驚きながらも、彼の頼もしい姿に微笑んだ。
「ルー、じゃあ、お願いね?」
ルーは頷き、慎重にユーフィリアを抱き上げた。 彼はまだ3歳児の体だが、回帰したせいで精神は大人のように成熟していた。
「ユフィ、お兄ちゃんだ……コホンッ。お兄ちゃんですよ。」
ルーは穏やかな声で囁き、ユーフィリアの顔に静かな笑みを浮かべた。
ユーフィリアはその声に反応して、ルーを見つめ、可愛らしい笑顔を見せた。 その笑顔に、ルーの表情が柔らかくなり、目元に優しさが宿った。
ユリはその様子を見守りながら、驚いた声で言った。
「うわ、ルーがとうとう敬語を使いだした。」
ルーは少し背筋を伸ばし、真剣な表情で答えた。
「これからは俺も…いや、僕も紳士らしくしないと。ユフィの耳を汚したくありませんから。」
「あらあら。そういうところユリそっくりね。」
私は思わず笑ってしまった。
この1年で変わったことは他にもあった。 ミレーヌとゼノの間にも男の子が生まれたのだ。 彼の名前はレノディリアス。 レノは金髪に紫色の瞳を持ち、まだ赤ちゃんだが、その愛らしい笑顔が私たちの生活に新たな喜びをもたらしていた。
「そういえば、二人にはいつまで休暇を許してあげたの?」
「二人って、ゼノとミレーヌのことですか?まぁ、ゼノには休暇無しでずっと働かせていたので、もうしばらくは休んでいてもらいましょう。」
そして、ため息をつきながら続けた。
「でも、どうして男の子を産んじゃうかなぁ?ユフィが心配です。」
「ユリったら、本当に心配性なんだから。」
ユリは肩をすくめて、「そうかもしれませんね。俺はもう、すっかり親馬鹿です。」 と真剣な表情で答えた。
「ところで、私の誕生日パーティーの準備をしないといけないわね。」
私は突然思い出して、ユリに話しかけた。
「そうですね。やっとメイの誕生日を祝えますね。」
この国では16歳の誕生日を迎えるまで公式的な誕生パーティーを開くことができないのだ。なので、16歳になるまでは身内だけで小さな誕生日を行ったりする。
私は窓の外を見ながら、これまでの小さな誕生日会を思い出した。 ユリとゼノとミレーヌで、温かい雰囲気の中で祝われた記憶が蘇る。 だが、今回の誕生日は特別だ。 正式なパーティーを開くことが許され、大勢の人々が集まる大きな祝宴となるのだ。
「どんなパーティーにしようかしら?」
ユリは真剣に考え込むように少し頭を傾け、「メイの好きな花でいっぱいのガーデンパーティーにしたらどうですか?美しい庭園で、たくさんの花に囲まれて祝うのはどうでしょう。」 と提案した。
「それ、素敵ね!私、庭でのパーティーが大好きだもの。」
「まぁ、まだ少し時間がありますから、じっくり考えましょう。」
「そうね、急がずに準備を進めましょう。」
私たちはリビングルームを出ようと席を立った。 その瞬間、ユリが私の手を掴んで、そのままグイっと腕を引っ張り、私を彼の膝の上に乗せた。
「どうしたの?」私は驚いて尋ねた。
ユリは少し困ったような表情で、目を優しく細めながら言った。
「メイがどんどん素敵な女性に成長していくのを見ていると、嬉しい反面、少し恐ろしいです。君があまりにも魅力的になりすぎて、俺の手の届かないところに行ってしまうんじゃないかって。」
「え?この国にユリの手が届かないとこがあるのかしら。」
「恐ろしいくらい幸せで、俺はメイがいないと人権を失うところでしたから。こうしてレッドナイト公爵として堂々と過ごせるのは全てメイのおかげです。」
「なるほど、だから最近私に色々学ばせようとしてきたのね。異国のことも、レッドナイト公爵のことも、国の仕組みも。」
ホワイトホスト王国の神話はシンプルなものだ。 初代ホワイトホスト王が神の使いとしてこの地に降り立ち、6人の従者を従えて国を作ったという。 しかし、実際はこうだ。
ゴールドキング帝国の王の弟が罪を犯し、この地へ逃げてきた。 その時、奴隷として従えていたのが初代ホワイトホスト王だった。 初代ゴールドキング公爵は初代ホワイトホスト王に王となるよう命じ、この国に強力な結界を張らせた。 そうすることでゴールドキング帝王から身を守ったのだ。
さらに、科学が発展した地から人々を連れてきた。 それが初代レッドナイト公爵だった。 ゴールドキングは便利な人間を作り出すよう命令し、この国内だけで全てが完結できるような人間を作り出したのだ。
これが、この国の真実であり、ユリが私に教えたことの1つだった。
ここ最近ユリは私が回帰しても大丈夫なように色々なことを教えてくれた。でも、それは、もしかしたら、ユリの思い描く未来に行き詰まりがあったからではないかと不安になってしまう。きっとユリはギリギリになるまで言わないだろうし、ユリ自身、そうであってくれるなと強く思っているせいだと私は思う。
もし、回帰したら…12歳のあの頃に戻ってしまうのかしら。
何度も回帰を繰り返した私。生きることに疲れてしまった私は、どんな人生を歩んでたのかな。
「メイ、すみません。何か失言してしまいましたか?」
「ううん。」
その時、ルーが少し照れくさそうに近づいてきた。
「あの、二人とも、イチャつくなら部屋戻ってくださいよ。ユフィは僕が見てますから。」
すっかり素敵なお兄ちゃんを演じようとしているルーを見て、思わず微笑んでしまう。
「どうする?ユリ。」
ユリは眉を少し上げ、からかうように微笑んだ。
「部屋に戻るとルーの兄弟を増やしてしまいそうですが、どうします?」
ルーは真剣な表情で肩をすくめた。
「何言ってるの父さん…いえ、父上。母上の生誕パーティーまでは我慢されてはいかがですか?」
「ぷふっ。もう普通にしたら?」
「今から癖をつけておかないと、絶対ボロがでますので、練習します。」
「自分で自分を教育してるのか?そういえば、どうして俺と似たような喋り方をする?」
「当たり前でしょう。これでも父上の背中を見て育ってるんですから。」
「ユリは私がいないと、ずっとあのモードだもんね。」
「そろそろ辞めても良いんですけどね。 ただ、他の貴族に舐められないか、それだけが心配なんです。」
「そうよね。」
ユリは微笑みを浮かべながら、「まぁ、舐められたら殺りますけど。」と淡々と言い放った。
「不穏過ぎるわ!!」私は驚いて叫び、彼の顔を見つめた。
ユリは真剣な表情のまま、少し肩をすくめた。
「でも、本気ですよ。メイやユフィ、ルーを守るためなら、俺は何でもするつもりです。」
ルーはその言葉に顔をしかめ、「ちょっと、ユフィの前で殺るとか言わないで下さい。父上。」 と注意した。
ユリは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻り、「ははっ。それもそうですね。」 と言って、ルーの頭を優しく撫でた。
その光景を見て、私は心の中で温かい気持ちが広がった。 本当にこの時間がずっと続くといいな。
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