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人生三週目の二歳児、メアルーシュの視点から夜会前の出来事を振り返る。
俺は窓から父さんと母さんが出て行くのを見送り、その後すぐに瞬間移動でレッドナイト公爵邸の前に現れた。 夜の静けさを破ることなく、メイド服を纏ったミレーヌがそこに立っていた。
「お待ちしておりました。メアルーシュ様。」
ミレーヌは優しく俺を抱き上げた。
「お、おい。」と俺は驚きながらも抗議の声を上げたが、ミレーヌはにこりと微笑んで答えた。
「此方の方が移動はスムーズです。」
彼女の腕の中でしばらくすると、ふらふらと歩いてくるゼノの姿が見えた。 彼の顔色は青白く、今にも倒れそうだった。
「お待たせ致しました。」
ゼノは必死に意識を保ちながら、自分に変装を施していた。 変装が完了すると、彼はどこからどう見ても顔色の悪いユリドレ・レッドナイト公爵にしか見えなかった。
「準備が整いました。倒れて待機します。」
ゼノはその場に倒れ込み、まるで命の危機に瀕しているかのように見えた。
ミレーヌは血相を変え、俺をしっかりと抱きかかえながら屋敷に向かって走り出した。
「助けてください!ユリドレ公爵様が!」
使用人たちは急いで門前に駆けつけ、ユリドレに変装したゼノを屋敷の中に運び込んだ。 ゼノは医務室に運ばれ、息も絶え絶えに呻いた。
「ここは…… どこだ。」
「気がつかれましたか!?ここは公爵邸の医務室です。」と医師が慌てて答える。
ゼノは弱々しく頭を動かし、「皆を…… 集めてくれ…… 使用人、全員だ。 俺はもう…… 長くはない。 そうだろう?」 と絞り出すように言った。
医師は一瞬の間を置いてから、とても悪い笑みを浮かべて答えた。
「えぇ…… そうですね。」
医師の指示で、使用人たちは次々と医務室に集められた。 彼らは互いを見て驚きの声を上げた。 そこにいるのは、全て王宮から送り込まれたスパイや諜報員ばかりだったのだ。
使用人たちは何が起きているのかを理解し、全員が嫌な予感を感じ取った。 一斉に逃げ出そうとしたが、遅かった。 俺は特殊能力を発動させて、部屋を瞬く間に炎で囲んだ。
「何だこれは!?」
「出られない!」
使用人たちの叫び声が響く中、俺は冷静に状況を見守っていた。 炎は彼らの逃げ道を塞ぎ、恐怖に駆られた彼らの動きを封じ込めていた。 計画は順調に進んでいる。
ゼノは息を整え、再び口を開いた。
「皆さん、お集まりいただき感謝します。ここで一つ、お知らせがあります。」
使用人たちは混乱しながらもゼノに注目した。 彼の変装は見事であり、彼らは本物のユリドレ公爵だと信じ込んでいた。
「我々の中に裏切り者がいる。」
ゼノの言葉に、使用人たちはざわめいた。
「誰が裏切り者だというのですか?」
一人の使用人が恐る恐る尋ねた。
ゼノは冷たい笑みを浮かべ、ゆっくりと彼らを見渡した。
「その答えは、ここにいる全員だ。」
その瞬間、使用人たちは全てを悟り、絶望の表情を浮かべた。 俺の炎がさらに激しく燃え上がり、部屋全体を包み込んだ。 これで、全てが終わる。
計画は成功だ。 俺たちの敵は、ここで滅びるのだ。
使用人たちが混乱と恐怖に包まれる中、ミレーヌが前に出てきた。 彼女の瞳には冷静な決意が宿っていた。 手をかざすと、その指先から雷のエネルギーがほとばしった。
「皆、覚悟しなさい。」
ミレーヌは静かに呟くと、雷の閃光が一瞬にして部屋を照らした。 強烈な雷が放たれ、使用人たちは次々と気絶して床に崩れ落ちた。 ミレーヌの特殊能力である雷の力は、瞬く間に敵を無力化したのだ。
「さすがです、ミレーヌ。」
ゼノは感嘆の声を漏らしながら、まだ青ざめた顔で立ち上がった。
しかし、その時、火の手が一気に広がり、公爵邸は炎に包まれ始めた。 焦げる匂いと熱気が部屋中に充満し、急がなければ全員が危険な状況に陥ることは明らかだった。
ゼノは俺の小さな手を握り、真剣な表情で頼み込んだ。
「メアルーシュ様、お願いします。」
彼の切実な声に頷き、俺は集中して瞬間移動の能力を発動させた。 思い描いたのは、予め予約されている豪華なホテルの前の景色。 次の瞬間、俺たちはその場所に立っていた。
「終わりましたね。」
ゼノは深呼吸をしながら言った。
ミレーヌは周囲を見回し、炎の中から脱出できたことに安堵の息を漏らした。
「無事に移動できたようですね。これで一安心です。」
ゼノはまだ俺の手を握ったまま、感謝の眼差しを向けた。
「坊ちゃん、お疲れ様でした。」
「でも、屋敷を燃やす必要あったのかな?」
「主はその必要があると仰っておりましたが…。」
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