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王はレッドナイト公爵邸が火事だという報告を聞いて顔色を変えた。彼の動揺が明らかで、冷静さを装う努力が見て取れた。王の目が一瞬ユリに向けられ、その表情には焦りと不安が浮かんでいた。
ユリは一瞬の間だけ王を見つめ、その冷たい視線に王は一層動揺した様子を見せた。しかし、ユリはすぐにその視線を外した。
「ユリ、どうしよう!家がルーは!?ルーが家に!!…」
ユリはすぐに私の手を強く握り、冷静さを保つように努めていた。その目には鋭い光が宿っており、私の動揺をしっかりと受け止めていた。
「メイシール、落ち着け。ここで取り乱すな。み……みっともない…。」
ユリの声は低く、酷く冷淡であったが、「みっともない」の一言を言いづらそうにしていたのを察して、私は笑いそうになるのを堪える為に俯いて隠した。周囲には、夫が冷たいことを幼い妻に告げ、泣いているかのように映っていることだろう。周囲の視線が一層重く感じられた。
「でも…ユリ…」
私は言葉を詰まらせながらも、何とか冷静を保とうと努力した。しかし、体が震えているのを止められなかった。
ユリは私の肩を優しく押さえ、顔を近づけて真剣な眼差しを向けた。
その瞬間、少しずつ落ち着きを取り戻していった。彼の冷静な態度が、周囲の人々にも伝わり始めたようで、ざわめきが次第に静まっていくのが感じられた。
ユリは、再び私に寄り添い、耳元で囁いた。
「メイ、そろそろ大丈夫ですよ。」
彼の言葉はまるで魔法のように私を包み込み、少しずつ心の中の嵐を静めてくれた。私は深呼吸をして、ユリの言葉に応えるように頷いた。
「皆様、どうか落ち着いてください。私たちはここで冷静に対処する必要があります。」
ユリの声は低く、しかし力強く響いた。
ユリは私の手を優しく握り締め、会場の中心に進み出た。その姿勢は堂々としており、貴族たちの目を引いた。彼の冷静な態度が、混乱の中でも周囲に安心感を与えているのがわかった。
「レッドナイト公爵家の安全は私が責任を持ちます。皆様はここで安心して、夜会を楽しんでください。」
ユリの力強い言葉が響き渡ると、会場全体が静まり返った。私たちはその場を後にし、急ぎ足で会場の外へ向かった。冷たい夜風が頬を撫でる中、会場の扉を出ると、すでに部下が馬車を用意して待っていた。
ユリは手際よく私をエスコートし、馬車に乗り込んだ。馬車が動き出すと、彼は私に微笑みかけた。
「見事な演技でした。メイ。」
「ありがとう。でも、本当に公爵邸って燃えてるの?」
ユリの表情は一瞬険しくなったが、すぐにいつものスマイルを浮かべた。
「はい。面倒なので一旦全て燃やしました。」
「え!?」
私の驚きの声に、ユリは静かに頷いた。
「安心してください。家具や荷物は事前に卑しい使用人たちが盗んでいるかのように装い運び出しております。建て直しの間、またホテル生活ですね。」
ユリの言葉に、私は複雑な感情が胸に込み上げてきた。公爵邸が燃えたことへの驚きと、ユリの徹底した準備に対する驚嘆が入り混じる。彼の冷静な計画性と、その裏にある深い愛情を感じた。
「でも…全て燃やすなんて、本当に必要だったの?」
「はい。敵の目を欺くためには、徹底する必要があります。これも全て俺たちの未来を守るためです。」
ユリの言葉には揺るぎない決意が込められていた。その決意を感じ取り、私は少しずつ落ち着きを取り戻した。
「で?そろそろ何が起こっていたか教えてくれない?」
ユリは一瞬目を伏せ、深く息を吐いた。その顔には重い決意と深い憂いが浮かんでいた。彼は私の手を優しく握り、視線を合わせた。
「王が未だにメイを狙っているようです。アジャール王子を救済できるのがメイだけだと思い込んでいるようで、俺の命を自然な形で奪おうとしてきました。」
その言葉に、私は息を呑んだ。ユリの目には苦しさが宿っていたが、同時に私を守り抜こうとする強い意志が感じられた。
「俺が船上パーティーで意識を失ったあと、偽の専属医によって記憶を操作されてしまい、一部使用人を顔だけ似せてスパイや工作員として忍ばせられていました。」
「そんな!?」
私の驚きと恐怖が混じり合った声が震えた。ユリは冷静に、しかし緊張感を滲ませながら続けた。
「俺の記憶はゆっくりと日数をかけて取り戻しはじめていましたが、メイが妊娠したという驚きで、メイに麻痺毒を盛られた日の記憶が蘇り、もう一度屋敷内が安全かどうかチェックすることにしたんです。すると、もうどこから手をつけて良いかわからないほどに使用人が入れ替わっていました。」
ユリの言葉に、私は胸の奥から冷たい恐怖が湧き上がるのを感じた。彼の目には深い憂慮と疲労が滲んでいたが、それでも私のために戦い続ける覚悟が読み取れた。
「ユリ、あなた…ホテルに着いたらすぐに眠ったほうがいいわね。ゼノみたいに目の下にクマができてるわ。」
ユリは小さく笑いながら、頭を軽く振った。その笑みはどこか儚げで、彼の疲労を物語っていた。
「無理です。その前に欲を満たさないと…。」
その言葉に、私は思わず息を飲んだ。
「ちょっ!?家が全焼してる時に出るセリフじゃないわ。ここからでも公爵邸の方角が燃えてるのわかるじゃない。」
私はユリを見つめながら、自分でも驚くほどの怒りと心配が入り混じった声を出していた。彼の無神経な言葉に苛立ちを感じながらも、その背後にある疲労と孤独に気づいた。
ユリはそれにも動じず、私をじっと見つめ返した。彼の目には深い愛情と渇望が宿っており、その瞳の中には子犬のような無垢さと切実さが垣間見えた。
「ですが、久しぶりのメイですよ?」
ユリの声は低く、甘い響きを帯びていた。その瞬間、私の心は揺れ動いた。彼の言葉には深い愛情が込められており、その一言で私の心をつかんで離さなかった。
「ユリ…」
私は彼の名前を呼びながら、胸の奥から湧き上がる感情を抑えきれなかった。
「メイ、俺はアナタのために何でもする。ですから、今だけは俺の欲を満たしてください。」
ユリの声には切実な響きがあり、その言葉に私は思わず頷いた。彼の求めるものが私の中にあることを知り、それを与えることで彼を救いたいと思った。
「わかったわ、ユリ。」
ユリの手が私の背中に回り、優しく引き寄せられると、私は彼の胸に顔を埋めた。その温かさと力強さに包まれ、心が静かに落ち着いていくのを感じた。
「メイ、愛しています。」
ユリの囁きが耳元で響き、その一言に私の心は満たされた。彼の息が少し荒々しく感じた。私の体を抱きしめることによって、興奮し始めてしまっているに違いない。
「私も愛してる。けど、流石にホテルにつくまで我慢してね?」
ユリの頬に触れながら、私は彼をなだめるように頭を撫でた。彼の髪に指を通し、その感触を楽しむ。ユリは目を閉じて、その手の温もりを感じながら、小さくため息をついた。
「う…まぁ、これ以上は何もできません。メイの体に負担をかけるわけにいきませんし、それに悪阻の方も午前中は酷かったそうですからね。ルーから聞いています。」
ユリの声には微かな心配と気遣いが感じられた。彼が私を大切に思い、守ろうとしているのが伝わってくる。
馬車が静かに高級ホテルに到着すると、ユリは私を支えながら降り立った。彼の手の力強さに頼りながら、私は彼と一緒にホテルの中へと進んだ。
「メイ…早く部屋に行きましょう。」
ユリの言葉に頷き、私は彼の腕に包まれながら部屋へと向かった。
部屋に入ると、ユリは私を豪華なベッドに優しく横たえ、服を脱ぎ始めた。
豪奢なベッドの上で、柔らかなシーツに身を横たえたメイが囁くように呼びかけた。
「ユリ…おいで…。」
ユリは一瞬ためらったが、目を逸らし、言葉を絞り出した。
「い、いけません。破壊力が凄すぎます。今日のメイは絶対に安静が必要です。俺に優しい言葉をかけようとしないでください。良いですね!?」
「え、えぇ。ごめんなさい。つい…。」
「前の時のように俺一人で欲を満たしますから、メイはただゆっくり体を休めてください。」
ユリの真剣な表情に、メイは思わず笑いを堪えきれなくなった。 ユリの百面相が、彼の真面目さを一層滑稽に見せていたのだ。
「ぷはっ。あははっ。ユリったら、本当に面白いわ。」
ユリは眉をひそめながらも、口元には微かに笑みを浮かべた。
「本当に、困った唇だ。」
その言葉と同時に、ユリはメイの唇に自分の唇を重ねた。 彼の唇は柔らかく、優しく、そして熱を帯びていた。 メイの笑いはすぐに消え、彼のキスに夢中になった。
ユリの唇はメイの唇から離れ、彼女の頬や耳元に優しくキスを落とした。 彼の息遣いがメイの肌に触れるたびに、彼女の体は熱く反応した。 ユリはメイの反応を感じ取りながら、さらに優しく彼女を愛撫した。
ユリは慎重に、しかし情熱を抑えきれずにメイを抱き寄せた。 彼の手がメイの背中を撫で、指先が彼女の肌の温かさを感じ取った。 メイはユリの体温と鼓動を感じながら、彼の腕の中で安らぎを見つけた。
「ユリ…… 愛してる……」
「ダメだと…いったでしょう…。」
ユリは彼女の言葉に答えるように、さらに深くキスをし、メイの体をしっかりと抱きしめた。 その夜、二人の間には甘く優しい時間が流れ、愛と信頼が深まっていった。
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