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「ユリ、これって…」
「驚きましたか?メイ。今日は特別な夜会ですからね。少し派手に行きましょう。」
彼の声は風に乗って耳に届き、その言葉に私の心は高鳴った。夜空の下、街の灯りが遠くに瞬き、風が頬を撫でる感触が心地よかった。ユリの腕の中で、私は彼の体温と安心感を感じながら、ゼノの魔力の風に包まれて空を舞っていた。
「ふふ。またゼノが倒れてしまいそうね。」
「メイのためなら、どんなことでも可能です。ゼノを過労死させてしまうこともね。」
「ゼノが可哀想よ。帰ったら休暇を与えてあげて。」
「ゼノへの休暇はもっと先になるでしょう。今日のように、メイが無理をしてしまいますから。」
「あ!!でも、ルーは?」
「ルーには特別な任務についてもらっています。ミレーヌと今頃合流しているはずです。」
「メイ、俺のことも気にかけてください。」
「え?顔を見れば記憶が全部戻ってるってわかっちゃったんだもん。」
ユリの美麗な顔立ちは、その口角が上がり切り、目が垂れ下がることで、笑みを浮かべていた。その笑みは、彼の美しさを台無しにするかのように不気味なものであった。
この笑い方は記憶喪失中1度も目にすることがなかった。つまり、今は完全に戻ったことを意味していた。
「フッ、流石、俺の…いえ、俺だけの愛しのメイですね。」
ユリの言葉に胸が温かくなり、彼の優しさと愛情が伝わってきた。夜会の会場が近づくと、地上の景色がだんだんと明瞭になっていった。煌びやかな装飾が施された建物が見え、遠くからもその豪華さが感じられた。
着地の瞬間、ゼノの魔法が私たちを優しく地面に下ろし、私とユリは夜会の入口に立っていた。
「ユリ、お帰りなさい。」
私は微笑みながら、ユリの目を見つめた。
「ただいま。メイ。それと、ありがとうございます。記憶のない俺を信じて下さって。俺が後で困らないように沢山俺とスキンシップをはかってくれて、感謝します。」
良かった…。私の行動に間違いがなくて。
「さぁ、行きましょう。」
「待って下さい。メイとこうして一緒にいられる喜びで顔が整いません。」
ユリは周囲の貴族たちに対して、まだ冷静で冷徹な態度を取らなければならない。なので必死に冷たい態度をとろうと努力していた。
「ぷはっ!あははは!!」
私はこらえきれずに大爆笑してしまった。一生懸命仏頂面に切り替えようとしている変な顔のユリを見てどうして笑わずにいられるだろうか。
すると、ユリの表情がふと変わった。彼の目には冷ややかな光が宿り、その表情は一瞬で仏頂面に変わった。
「ありがとうございます、笑い飛ばされたおかげで顔が整いました。」
「な、なんか本当に怒ってない?大丈夫。」
「いえ、まぁ…いえ。」
「どっち!?もぅおかしーわねぇ。はーいっぱい笑ったら、つわりのしんどさがなくなったわ。」
「では、いくとしようか。」
私たちは手を取り合い、堂々と夜会の会場へと歩みを進めた。ユリの腕に支えられながら、私はこの瞬間を楽しむことに決めた。会場の豪華な装飾が目に入り、貴族たちの華やかな衣装が一層会場を輝かせていた。シャンデリアの光がキラキラと反射し、まるで星空の下にいるような錯覚を覚える。
ユリは私をしっかりとエスコートし、周囲の視線を受け流しながら進んでいった。その堂々とした姿勢と自信に満ちた表情が、私に勇気を与えてくれた。彼の存在が私にとってどれほど大きなものか、改めて実感した瞬間だった。
「メイ、本日の夜会は俺たちが健在で心から夜会を楽しんでいるかのようにみせつけねばなりません。」
ユリの言葉に、私は微笑みを返し、軽く頷いた。この夜会は私たちの存在を示し、周囲に安心感を与えるためのもの。ユリと共にその役目を果たさなければならない。
ユリの歩みは力強く、彼の背筋はピンと伸びていた。まるで氷のように冷たく鋭い目で周囲を見回しながら、彼は一歩一歩を確実に踏みしめて進んでいく。
私たちは貴族たちの注目を浴びながら進んでいく。彼らの目は私たちに注がれ、ささやかな称賛と羨望の言葉が耳に入る。ユリの腕にしっかりと支えられながら、私はその視線を受け流す。ユリの冷静な態度に、私は内心で感謝の気持ちを抱いた。
「レッドナイト公爵ご夫妻、いつもお美しいですね。」
「ありがとうございます。」
ユリは冷静な声で答え、その後すぐに私の方を見た。彼の目には一瞬の柔らかさが戻り、私を安心させた。その後、再び冷たい表情に戻り、次の貴族たちと挨拶を交わした。
「さすがはレッドナイト公爵、今日は特にお美しい夫人と共にいらっしゃる。」
「感謝します。」
ユリの言葉に、私は軽く微笑みを浮かべて返礼する。
夜会が進む中、私たちは会場の中央にある王座へと向かっていた。ユリの手に導かれながら、私はその存在感に圧倒されるような広間を進んでいった。貴族たちの視線を背中に感じながら、私たちは堂々と歩を進めた。
王座に近づくと、国王の冷静な表情が見えた。しかし、その瞳の奥には微かな焦りの色が浮かんでいるのが私には分かった。ユリドレが元気そうに私をエスコートしている姿に、国王は何かを察したのだろう。
「レッドナイト公爵、そして夫人。お越しいただき、光栄です。」
国王の声は落ち着いていたが、その背後に隠された動揺を感じ取ることができた。
「陛下、ご招待いただきありがとうございます。こうして無事にお会いできることを、心より感謝いたします。」
ユリは冷静な口調で答え、その眼差しには一切の揺らぎがなかった。
「こちらこそ、あなた方が無事で何よりです。」
国王は微笑みを浮かべたが、その笑顔にはどこかぎこちなさがあった。
私は一礼し、国王に向けて微笑みを返した。その瞬間、ユリが私の手をしっかりと握り直し、私たちは再び歩を進めた。彼の手の温もりが私を支え、この場での緊張を和らげてくれた。
会場を後にし、テラスへと向かう途中、ユリが静かに耳打ちしてきた。
「メイ、もう少しの辛抱です。」
「分かってるわ、ユリ。」
私は微笑んで頷いた。
テラスに出ると、夜空に輝く星々が美しい光を放っていた。冷たい夜風が心地よく、私たちの緊張をほぐしてくれる。ユリは私を抱き寄せ、その腕の中で私を包み込んだ。
「メイ。これで全てが上手くいくはずです。まぁ、この後少し騒がしくなるでしょうけど。」
「騒がしくなる?」
「俺の記憶が消えていたように、アナタも計画を知らずに自然にしていてほしいのです。俺と違って、アナタには演技が必要ですから。」
彼の言葉に、私は心の中で深呼吸をした。演技が必要だと言われた瞬間、私は自分の役割の重要性を感じた。ユリの計画が成功するためには、私が自然に振る舞い、疑念を抱かせないことが不可欠みたいね。
「分かったわ、ユリ。私も頑張る。」
ユリは再び微笑み、私の頬に優しくキスをした。その瞬間、彼の温かさと信頼が私に伝わり、胸が熱くなった。
テラスから戻る途中、ユリの表情が再び冷静な仮面をまとった。彼の目は鋭く、まるで周囲の全てを見透かしているかのようだった。
会場に戻ると、貴族たちの視線が私たちに集中しているのを感じた。ユリは冷ややかな態度を保ち、私をしっかりとエスコートしていた。
その時、突然の騒ぎが会場を包んだ。貴族たちがざわめき始め、何か異変が起きたことを察知した。私はユリの手をしっかりと握り、彼の計画の一部であることを悟った。
「さぁ、メイ。自然に振る舞って。」とユリが静かに耳元で囁いた。
私は一瞬の緊張を感じながらも、深呼吸をして冷静さを保った。ユリの声にはいつも安心感を与えられたが、この状況では特に彼の言葉が私を支えてくれている。目の前に広がる騒然とした光景に、心の中で自分を落ち着かせるための一呼吸を入れた。
「レッドナイト公爵家が大きな火事で燃えているという報告が入っております!」使者の声が響き渡ると、会場は一瞬にして混乱に包まれた。貴族たちは口々に驚きの声を上げ、ざわめきが広がっていった。
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