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教会の中では、まるで魔法のように、光の文字が空中に浮かび上がり、名前が輝くように現れる。 しかし、都合の悪い人々のために、結婚式は一般的には二人だけで行われることが多かった。 その代わりに、披露宴では多くの人々が招かれ、盛大に行われることがあった。 結婚式の神聖な儀式とは異なり、披露宴では笑顔と喜びに満ちた雰囲気が漂い、新郎新婦の幸せを祝福するための宴が催される。
二人だけの結婚式が終わった後、再び着心地の良いパジャマのようなドレスに着替えさせられて、フカフカの羽毛布団にくるまれて教会を出た。
「披露宴はもう少し大きくなってからにしよう。今すぐにしても良いけど、メイの体には負担が大きすぎますからね。」
私はどう返事して良いのか分からずにコクリと頷いた。浮かんでいた名前を見るに本人で間違えはない。けれど、何度顔をみてもニコリと優しく微笑むので未だに本人だと信じにくい。
回帰前、何度かユリドレ・レッドナイトとは接触する事があった。しかし、どの彼も目から殺気を放っていて、誰も彼に話しかけようとはしなかった。彼を慕う女性陣も気軽に近づけないほどだった。
そして、誰に相談しても、別人説を出してくる自信がある。
少し小さな溜息をつくと、彼は私の抱き方を変えて横向きに抱え上げ、両腕でそれぞれ背中と膝裏部分を持ち上げるように支えた。
(私は赤ちゃんか。)
そして段々と顔が近づいてきたので、ぎゅっと目をつむると、おでこにチュッとキスを落とされた。その瞬間顔がカァッっと熱くなってしまう。
ユリドレはフフっと笑い、顔の色んなところにキスを落とし始めた。
(ぎゃーーー!!!死ぬーー!!)
「ユリドレ様、そろそろ到着します。」
「あぁ。…メイ、続きは夜に。」
(夜って何!?夜に何かするの!?妊婦ですが!?)
レッドナイト公爵邸は、私の実家であるブルービショップ家の邸宅よりもはるかに大きな城だった。 その壮大な建物は、王城にも引けを取らないほどの美しさと威厳を誇っていた。 城の壁は高くそびえ立ち、その内部には広大な庭園や美しい装飾が施された部屋が広がっていた。
「メイの部屋はこっちですよ。」
部屋に運ばれると、その内部は藍色で統一されていた。 静かながらも男性が好みそうな落ち着いた雰囲気が漂っている部屋だった。 壁には上品な青色の壁紙が貼られ、家具や調度品も藍色や木目が中心となって配置されていた。
「今日から俺の部屋を一緒に使おう。メイの為に全て改装させたんだ。」
待って、改装させた?わざわざ藍色に?どういう事…。いや、違う。私を監視する為に作られた部屋って意味かしら。その方が色々と納得できるわ。
この笑顔が恐い。
ユリドレは優しくベッドに降ろしてくれた。
「お腹、空いてませんか?」
(こんな状況でご飯なんて食べれないわよ…。)
「ふむ…。おい、もう悪阻が始まってるようだ。優しい食事を持ってこさせろ。」
ユリドレは本来の鋭い目つきをして使用人に命令した。
「承知致しました。」
使用人はすぐに部屋を出ていった。
「メイ、少し着替えますから、待ってて下さいね。」
ユリドレは目の前で服を脱ぎ始め、私は、顔を背けようとしたが、変な様子を見せるのも良くないと思い、結局凝視するしかなかった。 その時、彼の両足首にタトゥーが入っていることに気付き、驚いて目を見開いた。
「ふたつ…。」
思わず言葉が漏れてしまった。すぐに両手で自分の口を塞いだ。
ユリドレは驚いたようにふり返って私をみていた。やってしまった…と心の中で思った。
「どれがふたつ?」
ユリドレは着替えを手早く済ませて、私の隣に座って優しい笑みを浮かべた。どう答えて良いのかわからず、自分の足首のタトゥー見せてコレだと指差した。
「あぁ、こっちの赤いタトゥーはレッドナイト家の特殊能力の証で、こっちの紫色は母の家の特殊能力の証です。能力は2つあるけど、髪の毛の色で分かると思うけれど、俺は母の血の方が濃いんです。」
7家門以外って事は国外の人かな。
「そういえば、メイの髪色も少し変ですね。桃色…あぁ、メイのお母様は国外の方ですよね。メイも俺とお揃いですね。」
しばらくユリドレは私の髪の毛を触ったり嗅いだりしていた。その行為もどういう意図でそんな事をしているのか全くわからず、脅えてしまう。
コンコンとドアをノックする音が聞こえ、部屋に食事が運ばれてきた。 ユリドレは私を抱き上げ、小さなテーブルが用意された席に座り、私を自分の膝の上に座らせた。 彼はスプーンを手に取り、口に運ぶ前に一度自分で食べ、その後、私に向けてスプーンを差し出した。
(毒見してくれてるの?…)
スプーンを受け取り、スープを飲むことにした。ずっと食事の様子をみられていて全く味がしなかった。
(こんなの毎日だったらどうしよう。)
それでもお腹の子供の為に食べるしかなかった。
食事が終わると、ユリドレに再び抱き上げられ、書類が積まれた机の席に彼は座り、 使用人がやってきて、彼の膝の上にフカフカな座布団を敷いて、その上に私を座らせた。
「すみません、メイ。まだ本日の業務が終わっておらず、ここで少し待ってて下さいね。」
(いや、ベッドに降ろして下さい!!!)
書類の内容は公爵家が所有している鉱山に関することで、そこでとんでもない事実が判明してしまった。
「えっ…。」
そこにはユリドレの欲しがった土地の元の所有者の名前があり、それがユリドレの偽名である事が判明したのだ。つまり、アレースティア地方の鉱山の所有者はもともとユリドレで、わざと父ジョナサンに売り、再び買い戻そうとしたという事だ。でも、どうして…。
「次はこの書類か。」
次に手に取った書類には情報ギルドの名前があった。なんと、情報ギルドの裏のボスはレッドナイト公爵家だった。
――――何よコレ。わざと見せてるの?全て分かってるってこと?そのうえで側において監視するつもりって事なのね…。なぁんだ…やっぱりそうなんだ。
「降ろして…。」
「え?」
「今すぐ降ろして…。」
ユリドレは優しく私をフカフカのカーペットの上に降ろてくれた。 私はベッドの上に置かれていた小さな布団を掴み、部屋の端に移動して布団にくるまった。
殺されるに違いない。彼の笑顔がとても不気味で恐かった。
「メイ、そんな端にいると体に良くないから、やっぱりこっちにおいで。」
ユリドレは席をたって、私を抱っこしようとする。
「触らないで!」
恐怖心のあまり、ユリドレを強く拒絶してしまった。ユリドレは少し寂しそうな笑みを浮かべて「そっか。」と言って机に戻り、書類の処理をし始めた。
今回の人生では情報ギルドは使ってない。私の考えではユリドレはレッドナイト公爵家を狙う不届き者を炙り出す為にわざとアレースティア地方の鉱山を偽名で所有し、他者が購入しやすい状態にしている。まんまと私はそれに引っかかってしまったのだ。まさか、情報ギルドの大元が公爵家だと思わなかった。それから両足首のタトゥー。彼は包み隠さずに特殊能力が2つあることを語った。特殊能力が2つ備わる人は稀過ぎる。100年に1度現れるかどうかくらいだ。それを語るなんて…。
そうだ。私を殺す前、アジャールもレオルもペラペラと真実を語っていた気がする。という事は今回も殺されるという事?
逃げなきゃ…。
「だめだ。やっぱり心配です。」
ユリドレは再び私のところにやってきて私を抱き上げようとした。 私はそれを強く振り払おうとしたが、彼の力は圧倒的に強く、大人しく抱きかかえられ、書類が積まれた机の席の彼の膝の上に戻されてしまった。
書類を見るたびに、まるで死の階段を登っていくような感覚があり、生きた心地がしなかった。
――――お父様、お母様、シリルお兄様…。どうやら私は、また愚かな選択をしてしまったようです。
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