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「と、言った風に記憶を戻せればよいのですが、残念ですが私は何もしておりませんので、自然に回復されるのを待たれる他ありませんね。」
ミレーヌは頬に手をあて、困ったような顔をして見せた。そんなミレーヌの姿を見て、ユリドレは少し残念そうに溜息をついた。
「残念だ。可能性を潰すついでに治れば良かったのだがな。」
「やはり、犯人はあの医者ですね。あれは私にも頭を混乱させる薬を飲ませてきました。」
ユリドレは少し眉をひそめた。
「医者だけで済めばいいがな。留守中に使用人が何人か入れ替わっているからな。」
ゼノは驚きの表情を見せた。
「よく気付かれましたね。」
「メイが妊娠したんだぞ?屋敷の確認は必須だ。」
ユリドレの声には鋭い緊張感が漂っていた。
「そうですか。ところで、記憶はどのくらい戻られたのでしょう?」
「メイと出会う茶会の直前までだ。ぐっ、肝心な記憶は何1つ取り戻せていない。」
ユリドレは拳を握りしめ、苦々しそうに床を睨みつけた。
ゼノはしばらく天井を見つめてから、ユリドレに視線を戻した。
「十分なようですね。」
ユリドレの目が冷たく鋭くなり、その視線がゼノに向けられた。
「死にたいのか?」
「まさか。それはさておき、では作戦を練り直す必要がありますね。もう十分動けるのでしょう?」
ユリドレは短く頷いた。
「そうだな。問題はない。」
教会の控室で、ゼノとユリは貴族の服を脱ぎ捨て、黒いボディースーツを纏った。ミレーヌもメイド服に着替え、二人の荷物を預かり、外へ出て行く二人を見送った。
「ミレーヌも人質になりかねない。もしくはゴールドキング公爵に利用されかねない。ここで大人しくしていることだな。」とユリドレは冷たく言い放った。
ミレーヌは丁寧に頭を下げ、「承知致しました。」と応えた。
準備が整った二人は、ミレーヌの見送りを受けながら外へと出て行った。ユリドレとゼノは互いに無言のまま、次の一手を考えながら進んでいく。闇夜に溶け込むように、二人の黒いボディースーツが静かに風に揺れていた。
「まずは情報収集だ。敵がどこに潜んでいるのか、どの程度の勢力なのか、全てを把握する必要がある。」とユリドレは冷静に言い放った。
「了解しました。主、この件が住んだ後、休暇を頂けないでしょうか。」
「却下だ。」
「しかし、ディアに…いえ、ミレーヌと新婚旅行へ出かけたいのですが…。」
二人はそのまま、決意を胸に秘め、夜の闇へと消えていった。
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一方、ブルービショップ邸では…。
私は、ルーの言葉に従い部屋から出ることなく、部屋の中で過ごしていた。壁の形や配置が少し変わっていることに最初は戸惑ったが、次第に慣れてきた。保存食や果物、水も充分にあり、最低限の生活は問題なさそうだった。
「それにしても、こんな部屋に閉じこもってばかりいるのも退屈ね…」
窓の外を見ると、広がる庭園の美しい景色が見えた。こんなに静かで穏やかな場所にいると、外の世界がどれほど危険かを忘れてしまいそうだった。
ふと、思い出したようにルーの言葉が頭をよぎった。彼が言っていたことを信じるなら、この部屋は一時的な避難所でしかない。外の世界では何が起きているのか、ユリがどこにいるのか、心配で仕方がなかった。
「ユリ…」
思わず呟いたその瞬間、心の中でユリのことを強く思い浮かべた。何かが繋がったような気がして、再び窓の外を見つめた。
「母さん…」
眠っていたルーが目をこすりながら起き上がった。メイは彼の頭を優しく撫で、微笑んだ。
「おはよう、ルー。身体は大丈夫?」
「うん。母さんこそ大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。」
メイはルーの額に軽くキスをして、微笑んだ。すると、ルーは少し照れたように笑った。
「この部屋…何か未来と少し違うな。なんだろ?」
ルーは考え込んだ後、部屋を見渡し、以前の記憶と照らし合わせるように目を細めた。
「お父さんが改装したんじゃないかしら?」
「お父さんって父さんのこと?じーちゃんじゃなくて。」
「えぇ、ユリの方よ。ルーとここにくるってわかってたみたいね。」
「流石、父さん。」
ルーは感心したように頷いた。
「そうね。父さんはいつも先を見越して動くもの。」
「そういう人だよね。」
ルーが何かを悟ったような呆れたような口調で同意したので、私はそれがどこか面白くって吹き出してしまいそうだったので、話題を変えることにした。
「ところでルー、私にも瞬間移動みたいなの使えないの?」
すると、ルーの顔が少し青くなったような気がした。
「う、うん。あれは父さんと母さんの血が混じったからこそ使える特殊能力なんだ。母さんには無理じゃないかなぁ。でもテレパシーは制御しないと、色んな人に声が届くようになってしまうから、その練習はしよう。」
「そうね、テレパシーは便利だけど、コントロールが難しいわね。」
「じゃあ、テレパシーの練習から始めようか。まず、心を落ち着けて、意識を集中させてみて。」
私は目を閉じ、深呼吸をして心を落ち着けた。ルーの指導に従い、意識を集中させると、頭の中にルーの声が響いた。
《母さん、聞こえる?》
《ええ、聞こえるわ。》
《うん、いい感じ。今度はその声を他の人に届かないように、俺だけに向けるんだ。》
私はさらに意識を集中し、ルーだけに声が届くように努力した。
《どう?ちゃんとできてる?》
《完璧だよ、母さん!》
その言葉に少し安心し、ほっと息をついた。
「ありがとう、ルー。これで少しは上手くできるようになった気がするわ。」
「まぁ。まだしばらくは練習を続けよう。」
「えぇ。」
それから数日が経ち、私はテレパシーをほぼ完璧にマスターした。ルーのおかげで、少しずつだが自信を持って使えるようになった。
その朝、私はテレパシーの練習を終えた後、ルーと一緒に朝食をとっていた。お互いに笑顔で会話を交わしながら、私はこの静かなひとときを楽しんでいた。
「あー!!忘れてたわ。どうしよう…。」
「どうしたの?」
「そろそろ王宮の夜会が開かれるのよ。出席の返事を随分前にだしてあるから、流石に行かないと不味いわね。」
「え”。いや、それは父さんがなんとかしてくれてるんじゃないの?あの父さんだしさ。」
「でもユリは記憶喪失じゃない。ルーお願い!外へだしてくれない?私だけでも出席しておかないと不味い気がするのよ。」
「俺は母さんが外に出るほうが不味いと思うよ。」
「どうして?…待って…あれ?」
しまった!!!ルーとの魔法の勉強が楽しすぎて忘れてたわ!!!ユリはどうして私をここに閉じ込めてるわけ!?記憶喪失なのに…。それどころじゃない状況が重なってて考えるの忘れてたわ!!
「どうしたの母さん。」
私は少し頭を抱えながら、深呼吸して冷静になろうとした。
「待って、ちょっと整理させて。ユリが記憶喪失になったって言ってたけど、それでも私をここに閉じ込める理由があるってことよね。何か重大な理由があるはずだわ。」
ルーも困惑しながら私を見つめた。
「そうだね。父さんが何か隠してる可能性が高い。俺たちが何か危険に晒されるって思ってるんだろうな。」
私はテーブルに手をついて立ち上がり、窓の外を見ながら考えた。王宮の夜会に出席することが重要だという思いと、ユリが私を守ろうとしているのかもしれないという思いが交錯していた。
「ルー、確かにユリの言うことも一理あるかもしれない。でも、もし私が出席しないことで何か問題が起こるとしたら、それもまた危険よね。」
ルーは少し考えた後、真剣な表情で頷いた。
「分かったよ、母さん。俺も一緒に行くから、何かあったらすぐに対処できるようにしよう。でも、絶対に無理はしないで。父さんがここに閉じ込めた理由が分かるまで、慎重に動くべきだと思う。」
「ありがとう、ルー。」
私たちは準備を整え、王宮の夜会に出席するための計画を立て始めた。ルーの力を借りて、慎重に外へ出る手段を模索し、何かあればすぐに対応できるように心構えをしておくことにした。
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