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ユリドレは微笑みながらミレーヌに近づいた。
「ゼノ。ここからはお前の仕事だ。」
ゼノは深呼吸をしてからミレーヌの前に跪いた。彼の表情には緊張が滲み出ていたが、瞳には決意が宿っていた。
「ミレーヌディア・ゴールドキング、私と結婚していただけませんか?」
ミレーヌは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「是非。」
ゼノの眉が一瞬動き、彼は再び口を開いた。
「正気ですか?あなたは結婚によって縛られます。あなたほどの実力があれば今すぐにでも逃げることができます。」
「ゼノフィリアス・シルバークイーン様、アナタからプロポーズをされ、私ミレーヌディア・ゴールドキングはそれを受けました。それが全てです。」
ゼノはその言葉に一瞬目を見開き、次の瞬間、彼はふっと笑った。
「流石、ミレーヌですね。」
その言葉にミレーヌも微笑みを返した。彼女の目には確かな決意と強さが宿っていた。ゼノは立ち上がり、彼女の手を取って立たせた。彼の手はしっかりと彼女の手を握った。
その後、ユリドレの計らいで教会の人たちがミレーヌに美しい真っ白なウェディングドレスを着せ、綺麗にメイクを施した。ミレーヌの姿は一段と輝きを増し、まるで天使のようだった。ゼノも白いタキシードを纏い、神聖なる儀式に臨む準備が整った。
教会の中は静寂に包まれ、柔らかな光がステンドグラスから差し込み、神聖な雰囲気を醸し出していた。ミレーヌはゼノの隣に立ち、静かに微笑んでいた。
「それでは、結婚の神聖なる儀式を始めます。」
司祭が静かに宣言し、儀式が始まった。
ゼノはミレーヌの手を取り、深く見つめ合った。彼の目には真剣な決意が宿り、ミレーヌもその目を見返した。二人の間には言葉にできない強い絆が感じられた。
「ゼノフィリアス・シルバークイーン様、あなたはミレーヌディア・ゴールドキング様を永遠に愛し、敬い、支え続けることを誓いますか?」
「誓います。」
ゼノは力強く答えた。その声には揺るぎない決意が込められていた。
「ミレーヌディア・ゴールドキング様、あなたはゼノフィリアス・シルバークイーン様を永遠に愛し、敬い、支え続けることを誓いますか?」
「誓います。」
ミレーヌもまた、同じく力強く答えた。
司祭は微笑みながら、二人の手を重ねた。
「それでは、あなた方二人の愛と誓いをここに認め、祝福します。」
二人はお互いに微笑み、静かに口づけを交わした。その瞬間、教会の中に幸福と祝福の光が満ち溢れた。
ユリドレはその光景を見守りながら、満足げに微笑んだ。
「おめでとう、ゼノ、ミレーヌ。これでミレーヌは俺の忠実な部下だな。」
「まさか、タキシードを着て結婚することになるなんて思いもしませんでしたがね。状況が状況だけに仕方がありませんでした。」とゼノは苦笑しながら肩をすくめた。
「私の忠誠心を舐めていただいては困ります。こんな回りくどいやり方でなく、堂々と聞いてくださればお答えしましたのに。」
「どうだか。俺の記憶を喪失させた件に関しては答えないだろう?ミレーヌ。」
ユリドレは腕を組み、少し笑みを浮かべた。
「いいえ、聞かれたらお答えしましたよ。」ミレーヌは毅然とした態度で応えた。
「まぁ、どちらにせよ。確信が欲しかった。名前を偽っている以上、敵か味方か見極める必要があったからな。」
「これで、ようやく安心して動けるわけですね。主。」
「その前に、お前はやることがあるだろう。ミレーヌは何故お前を選んだかの理由を聞かなくて良いのか?それと、俺が記憶喪失になるよう仕組んだわけとか。」
ゼノは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに冷静を取り戻した。彼はミレーヌの方に向き直り、真剣な目で見つめた。
「ミレーヌ、どうして私を選んだのです?」
「全く、私に興味があるのだか、ないのだか。私を覚えていらっしゃいますか?ゼノさん、いえ、フィル。」
そう言ってミレーヌはピアスに手を伸ばし、ゆっくりと外した。すると、彼女の髪色が平民の特有のくすみのある色から艶やかな輝きのある金色に変わり、瞳の色も茶色から深い紫色に変わった。
ゼノはその変化に驚きの表情を浮かべた。
「待ってください…そんな。いえ、確かにそのような名前だったかもしれません。」
「あなたを一目みた時から、フィルだろうと思っておりました。今まで適当な年齢を伝えはぐらかしておりましたが、歳は24です。」
「だってディア…あなたの家族は私がめちゃくちゃにしてしまったではないですか。復讐にきたのですか?」
ミレーヌは微笑みながら首を振った。
「そんな訳がないのはわかっていますよね?フィルにしては愚問ですね。私はブルービショップ家に仕えていたのですよ?メイシール様がレッドナイト公爵家に嫁ぐなんて、私は思ってみませんでした。全て偶然だったのです。ですが、まぁ、ゼノさんを一目みて、すぐにウィルだとわかったので、指名させてもらっただけです。まぁ、少しは将来いずれこうなるだろうと思っておりましたけど。それに私の家族の件はメイシール様に解決していただきました。なので復讐する必要もありません。」
その時、ユリドレが不機嫌そうに腕を組み、話を遮るように言った。
「話が見えん。どういうことだ、ミレーヌ。」
ミレーヌは冷静にユリドレを見つめた。
「ユリドレ様、全てを説明いたします。ゼノフィリアス・シルバークイーン様は私の家族に深く関わりがあります。私の家族はゼノさんが生み出した水を飲んでしまい、精神が壊れてしまったのです。妹だけはまだ幼く、恋煩い程度で済みました。しかし両親は精神が完全に壊れてしまい、私以外の家族全員が隔離施設に入れられました。その後、怒ったゴールドキング本家はゼノさんの両親に責任を追及しました。その結果、ゼノさんは処刑されたと聞きました。ですが実際は、どうにか生き延びたようですね?」
ゼノは苦い表情を浮かべ、ゆっくりと答えた。
「私は気づけば山へ捨てられていました。その事実しか知りません。しかし、当時、婚約者の家を崩壊させたことだけはぼんやりと覚えています。そして、ディアという子供とよく遊んでいたことも、はっきりと記憶に残っています。」
「そうです。フィル、あなたは私の婚約者でした。ですが、私の家は崩壊したので、妹を連れてゴールドキング公爵領を去りました。先程も言いましたが、私の家族に対する心配事は全てメイシール様が解決してくださいましたし、メイシール様の嫁ぎ先によってはアナタを選ぶことも、こうして結婚することもなかったかと思います。」
ユリドレはその話を聞きながら、深い溜息をついた。
「なるほど、そういうことだったのか。メイへの忠誠心の高さ、有能な仕事ぶり。此方も全てが解消されたな。平民の体は意図的に貴族に比べて身体能力も知能も劣るように作られている。ミレーヌ、お前のように有能な動きをする奴は貴族でしかない。俺が記憶を喪失したことによって、お前を疑えたようだな。以前の俺はメイが信頼しているからという理由でお前は疑わなかったようだ。」
「その通りです。若奥様が信じるものを全て信じていたいと仰っておりました。」
「で?残る問題は俺の記憶だ。」
ミレーヌは少し考え込み、「若旦那様は・・・どこまで全てを見通していたのでしょうか。記憶が戻った際にはお答えいただけるのでしょうか?」と問いかけた。
ユリドレが疑問の眼差しを向けると、ミレーヌは静かに手を振り上げた。ユリドレはその細い手首を素早く握りしめた。
「何をするつもりだ。」
ユリドレはその細い手首を握った。
「今から記憶を戻します。」
「信じろと?」
「はい。」
ユリは手を放して目を瞑った。ミレーヌは深呼吸をし、静かにユリドレの額に手をかざした。彼女の手から淡い光が放たれ、その光がユリドレの頭部を包み込んだ。ミレーヌは心の中で祈りながら、魔法の力を注ぎ込んだ。ユリドレの顔には一瞬の痛みが走り、眉間に皺が寄ったが、すぐにリラックスした表情に変わった。
ユリドレは目をゆっくりと開け、周囲を見回した。その目には以前の鋭い光が戻っていた。
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