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45p

その時、別の場所ではゼノが静かに目を覚ましていた。彼の周りは薄暗い部屋で、唯一の光源は小さな窓から差し込む月明かりだった。側にはミレーヌがいて、心配そうに彼の様子を見守っていた。周囲にはゼノの回復を伏せなければならなかったため、彼は慎重に状況を確認した。


「すまない。寝すぎたか?」


ゼノはゆっくりと起き上がり、肩を回しながら尋ねた。


「いえ、もう二日ほど休まれていたほうがよろしいかと。」


ミレーヌは静かに答えながら、彼の顔色を確認する。


「確かにな、今はまだ私が回復したことを誰にも知られてはいけない。」


ゼノは小さく頷き、鋭い目で部屋の隅々を見渡した。


「その後はどうされますか。」


「どうやら、アナタの選択は正しかったようですね。」


ゼノは淡々と続けたが、その言葉には重みがあった。


「と、おっしゃいますと?」


ミレーヌは少し戸惑いながら聞き返した。


「…本当に分かっていないのですか?」


「はぁ…?私はただの平民ですし、ユリドレ様でもございませんので、何を仰りたいのか見当もつきません。」


ミレーヌは軽く肩をすくめ、ゼノの言葉に疑問を投げかけた。


「なら、アナタは自分の行動を後悔したほうが良い。」


ゼノは深く息をつき、冷静に言葉を続けた。


「後悔…ですか?んー……今のところ悔いなく生きているつもりです。」


ミレーヌは少し考え込み、誇らしげに答えた。


「では、二日後、アナタは私を出掛けます。良いですね?」


「お出かけでございますか?そうですね。お嬢様もいないことですし、良いですよ。」


ミレーヌは微笑みながら答えたが、その目には一抹の不安が垣間見えた。ゼノはミレーヌの表情を見つめ、彼女がこの状況を理解しているかどうかを確かめるようにした。


「まぁいいでしょう。それより、私の部屋と主の部屋から書類を持ってきてください。全て処理しておかねばなりません。」


「はい。」


ミレーヌは軽くお辞儀をし、医務室を出て行った。しばらくして、ミレーヌは書類の山を抱えて戻ってきた。その姿には、女性ながらの驚くべき腕力が感じられた。


「持ってきました。これで全てです。」


ゼノは書類を受け取り、感謝の意を込めて微笑んだ。


「ありがとうございます。この書類を全て処理すればしばらく休暇を頂きたいところですね。」


彼の声は淡々としており、感情の波立ちは見られなかった。ゼノは常に冷静で、効率的に仕事をこなす姿勢が崩れることはなかった。しかし、主であるユリドレは休暇をあまりゼノに与えなかった。ゼノの能力を信頼しているがゆえに、常に彼を必要としていたのだ。


ミレーヌはそんなゼノの言葉に少し驚きながらも、疑問を感じた。ゼノは仕事が大好きで、常に忙しさの中に身を置いているように見えたからだ。休暇なんて本当に必要なのだろうか?


「ゼノさん、休暇なんて本当に必要なのですか?」


ゼノは少しだけ視線をミレーヌに向けた。


「必要かどうか…ですか。上手くいけば必要ですし、そうでない場合は必要ではありません。」


ミレーヌはその言葉に少し戸惑いながらも、さらに質問を重ねた。


「それは、どういう意味ですか?」


ゼノは微かに微笑み、再び書類に目を戻した。


「つまり、状況次第ということです。全てが計画通りに進めば、休暇を取る余裕も生まれますが、問題が発生すればその対処が優先されます。」


ミレーヌは頷きながらも、まだ納得しきれない様子だった。


「では、これらの書類を処理しておきます。何か他にご用があればお知らせください。」


ミレーヌは軽くお辞儀をし、その場を後にした。彼女の心にはまだゼノの言葉への疑念が残っていたが、彼の冷静さとプロフェッショナリズムには一目置いていた。


ゼノは書類に集中しながら、自分の役割と責任を果たすことに全力を注いでいた。休暇の必要性を口にしたのは、一瞬の気まぐれだったのかもしれない。それでも、彼の中には確かに休息への渇望が存在していたのかもしれない。


「私は…信じていますよ。」


ゼノは再び微笑み、書類に集中した。


―――――――――

――――――


二日後、ゼノが回復したという知らせが屋敷中に広がった。ゼノは起き上がるとすぐに、行方不明の若旦那様を探しに行くと宣言し、門の前で馬に乗ろうとしていた。


「私が若旦那様を探しに行きます。馬で…今すぐに出発します。」


周囲の使用人たちは驚きの声を上げた。


「ゼノ様、本当にもう大丈夫なのですか?」

「まだ回復していないのでは?」


その中で、医師が前に進み出て、ゼノの前に立ちふさがった。


「ゼノ様、まだ完全に回復されたわけではありません。少なくとももう少し休養を取られるべきです。」


ゼノは冷静な表情で医師を見つめ、穏やかな声で言った。


「ありがとうございます、先生。しかし、若旦那様の安否が分からない今、私は一刻も早く彼を見つけ出さねばなりません。」


医師はゼノの決意の強さに圧倒され、反論の言葉を失った。しかし、彼の顔には明らかな不安が浮かんでいた。


その瞬間、ミレーヌが割り込んでゼノの前に出た。


「ゼノさん、本当に大丈夫ですか?私も一緒に行きます。あなた一人では心配です。」


ミレーヌは心配そうに声をかけた。その表情には演技とは思えないほどの真剣さがあった。


「心配はいらない、ミレーヌ。これが私の役目です。」


「いえ、アナタに何かあったら…私は…生きていけません…。」


「分かった。だが、無理はするな。」


ゼノは一瞬だけミレーヌを見つめ、少しだけ微笑んだ。そして、自分の馬にミレーヌを持ち上げて乗せると、その後ろに自分も乗り、手綱を握った。


「行くぞ。」ゼノはミレーヌの耳元で囁くように言い、馬を走らせた。


ミレーヌはゼノの腕の中で少し驚きながらも、彼にしっかりとしがみついた。二人は一緒に風を切り、屋敷の門を抜けて外へと出て行った。風が彼らの顔に当たり、馬の蹄が地面を叩く音が響いた。


「上手く抜け出せたな。」


「はい。周囲の皆も納得されるでしょう。尾行もみえません。」


「私達にはまで尾行をつける余裕はないでしょう。」


「ところで若旦那様はどちらに?」


「言ったでしょう。口止めされていると。ですが、今からいくところでなら、お教えできるかもしれません。その為にはアナタに目隠しをしてもらう必要があります。」


ミレーヌは一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、冗談交じりに答えた。


「まぁ、そういった趣味はございませんが、若旦那様の居場所を隠す為なら仕方ありませんね。」


ゼノは片手で馬を操りながら、もう片方の手で目隠しを取り出し、ミレーヌの目に軽く当てがった。


「すまないが、これを付けてもらう。」


ミレーヌは少し緊張しながらも、目隠しを受け取り、ゼノの指示に従って目を覆った。視界が完全に遮られると、彼女はより一層、馬にしがみついた。


ゼノは再び馬の手綱を握り、速度を上げて走り出し、彼らは目的地へと向かって進んでいった。


目的地に到着したゼノは、ミレーヌを横向きに抱え上げ、両腕でそれぞれ背中と膝裏部分を支えた。彼は慎重に歩き、大きなドアを潜った。その瞬間、ドアがバタンと閉まり、ゼノはミレーヌを優しく降ろした。


「遅かったな。待ちくたびれたぞ。」


その声の主はユリドレ・レッドナイトだった。彼の姿が暗がりから浮かび上がり、その鋭い目がゼノとミレーヌを見据えていた。


ゼノは一礼し、ユリドレに答えた。


「遅くなり申し訳ございません。」


「ほぅ。記憶喪失になったことが功を奏したようだな。ミレーヌディア・ゴールドキング。」


ユリドレがそう言った瞬間、ゼノはミレーヌの目隠しを取り去った。


ミレーヌは微笑んだ。


「そういうことでしたか。」


彼らが立っているのは教会の中で、まるで魔法のように光の文字が空中に浮かび上がり、ミレーヌの頭上には【ミレーヌディア・ゴールドキング】と書かれていた。


ミレーヌはその光の文字を見つめ、静かに息をついた。


「やっと全てが明らかになりましたね。」

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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