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41p

翌朝、ゼノが意識を取り戻した。すぐに私に近寄り、エメロッサ子爵夫人の件について話し始めた。


「若奥様、船上パーティーでの件ですが、エメロッサ子爵夫人があなたを船から突き落としたことは見逃せません。」


「そうね、ゼノはどう対応するつもりなの?」


ゼノは冷静に、しかし断固とした口調で答えた。


「まず、彼女の行動は重大な犯罪です。王都の裁判所に正式に訴えるべきです。証人としての証言を確保し、法的手続きを進めます。」


「それが一番良い方法かしら…」


「はい、若奥様。ただし、彼女の影響力や背後にいる支持者についても警戒が必要です。徹底的に調査し、彼女の力を封じるための準備を進めます。私がその全てを指揮しますので、ご安心ください。」


「ありがとう、ゼノ。信頼しているわ。」


「私の務めです。若奥様と主、そしてルー坊ちゃまの安全が最優先です。」


ゼノの決意に満ちた言葉を聞いて、私は少しだけ安心した。これからの対応を任せられる信頼できる存在がいることは、本当に心強い。


「メイ、これは本当にあのゼノなのですか?」


ユリは私を膝の上に乗せて、私を抱きしめながら不思議そうにゼノを見つめていた。


「そうよ。今のユリからしたら10年後のゼノね。」


「それより、メイは突き落とされたのですか?」


「えっと…そうだけど、ゼノのおかげで無事だったので問題ないわ。」


「ゼノ、その件はまかせた。もう下がっていい。」


ゼノは静かに頭を下げた。


「お任せください、主、若奥様。全力で対処いたします。」


その瞬間、私はゼノの冷静で確実な対応に改めて感謝し、ユリの腕の中で少しだけ心が軽くなった。しかし、ユリの顔が徐々に曇っていくのが見えた。


後で私たちが二人きりになったとき、ユリがぽつりと呟いた。


「メイ、どうして俺にも相談してくれなかったのです?突き落とされたのでしょう?」


「え?だって、記憶喪失になったばかりで、今も自分のこと12歳くらいだと思っているんでしょう?結構大変な処理になるしゼノにまかせたほうが確実じゃない?しかも喪失してるのは一時的なものだから、覚え直す必要もないわけだし。」


ユリは眉をひそめて少し拗ねた表情を見せた。


「でも、それでは一ヶ月の間、俺はメイのお荷物ってことでしょう?」


私はユリの手を取って優しく握りしめた。


「荷物なんかじゃない。こうして膝の上に乗せてくれてるだけで嬉しいもん。それにゼノにあの仕事をまかせておけば、こうしてユリと二人でいられるじゃない?」


ユリは少し顔を赤らめながら、目を伏せた。


「…まぁ。そう…ですね。」


私は微笑んでユリの頬に手を添えた。


「ユリ。ほんとに不思議な人ね。いったい、いつから私を好きだったのかしら。」


ユリはさらにぎゅっと私を抱きしめた。


私はユリの顔を見つめながら、心の中で彼のことを考えていた。ユリは、真実を知ることで誰かが傷つくなら、その真実を伏せ続ける努力をする人だ。彼は自分自身の感情よりも、私や周りの人々の幸せを優先する。だから、記憶を失っても私のことを愛していると言い続けてくれるのだろう。


ユリは、自分の幸せを犠牲にしてでも、私に幸せな夢を見させてくれるタイプだ。それが彼の愛の形なのだと、私は理解している。彼のそんな一途な愛情に、時折胸が締め付けられるような思いを抱く。


彼が記憶を失っている今、この状況でさえも私を守り続けようとする姿勢は、まさにユリらしい。どんなに困難な状況でも、彼は決して諦めない。


だから、私は絶対に考えてはいけない。ユリがいつ私を好きになったのかを。



私は机の上に広げた便箋に目を落とし、深呼吸をしてからペンを手に取った。シルバークイーン侯爵への手紙を書くために、頭の中で言葉を整理する。


―――――――


拝啓 シルバークイーン侯爵様


先日の船上パーティーでは大変お世話になりました。


まずは、私が船上でエメロッサ子爵夫人に突き落とされ、修練島へ流された件についてご報告いたします。護衛騎士ゼノと共に自力で王都まで戻りましたが、その間、何の報告もできず、ご心配をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。


また、その際に夫ユリドレが魔力の乱れによる記憶喪失になってしまいました。現在、医師の見解では一ヶ月ほどで記憶が戻るとされておりますが、今後のことが不安です。


そちらも大変な状況かと存じますが、侯爵家の皆様のご健康とご安全をお祈り申し上げます。もしも何かお手伝いできることがあれば、どうぞお知らせください。


何卒よろしくお願い申し上げます。


メイシール・レッドナイト


―――――――


手紙を書き終えると、深いため息をついた。ユリが記憶を失っている間、私がしっかりしなければならない。侯爵への報告も、その一環だ。私は手紙を封筒に入れ、封をし終えたところで、ユリがしんみりとした表情で近づいてきた。彼の目には深い憂いが宿っていて、私を見つめている。


「メイはやはり苦労なさって生きてきたのですね…。」


その言葉に驚き、私はユリの顔をじっと見つめ返した。記憶を失っているはずの彼が、どうしてそんなことを知っているのだろう?何故か私が回帰していることや、これまでの苦労を知っているような口ぶりだった。


「ユリ、どうしてそんなことを…?あなたは記憶を失っているのよね?」


ユリは困ったように微笑んだが、その目には何か深い秘密を抱えているような光があった。


「メイ、俺の記憶は確かに一部失われています。でも、どうしてか分からないけれど、あなたがとても多くの苦労をしてきたこと、そしてその苦労を乗り越えてきたことを感じることができるんです。」


「でも、どうして…」


「それは俺にも分からないです。でも、メイのことを思うと、その思いが強くなるんです。」


「ユリ、本当にあなたは…」


「俺はメイを守るためにここにいます。それだけは信じてください。」


彼の言葉には強い決意が込められていて、その言葉に私の心は揺れ動いた。記憶を失っているはずの彼が、まるで全てを知っているかのように振る舞う姿に、不思議な感情が湧き上がってくる。


これ以上はダメよ私。私の推測ではもう答えはでている。ユリは何かしらの方法で私の全てを知っている。私に教えないということは、私が辛い気持ちになったり、悲しい気持ちになってしまうから…でいいのよね?ユリなら、最後まで私を幸せな世界に閉じ込めておくことができるんじゃないかしら。


だから私の答えは…


「分かったわ、ユリ。あなたを信じるわ。」


彼が私を守ってくれるという確信を得た。ユリの謎めいた言動に戸惑いながらも、彼の存在に支えられていることを感じた。


「あーーーーー!!大事なこと忘れてたーーー!!」


突然大声を出したので、流石のユリもびっくりしたような顔を浮かべる。


「どうされました?」


「ユリ、大事な話をしておきます。」


「はい?」


「私は絶対に浮気とかしないから、誰かと親しそうにしていても、自分のものにならないからといって私を殺さないように!!良い?」


ユリは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに真剣な表情になって頷いた。


「メイ、俺はあなたを信じています。浮気なんて考えたこともありません。ただ…」


「ただ?」


「俺はあなたを失うことが一番怖いんです。だから、時には過剰に反応してしまうかもしれません。でも、それが愛ゆえの行動だと理解してもらえると嬉しいです。」


「分かったわ。でも、お願いだから殺すとかはやめてね。お互いに信じ合って、支え合っていきましょう。」


ユリは微笑みながら、私の手を握りしめた。


「もちろんです、メイ。あなたを守るために、俺は全力を尽くします。」


危なかった。そうよ、あの家出事件がないと私は何かを間違えてユリに殺されてしまう可能性がでてきてしまう。思い出して良かったわ。今のユリはあった頃のユリ同然。私も慎重に行動しないといけないわ。死んでも死なない…けれど、ルーの回帰話を聞いてたら、私は沢山のユリを置き去りにしてきてしまっているのかもしれないと考えてしまう。早く記憶戻って~ユリ~!

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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