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「ミレーヌ。俺を自室のベッドへ俺を案内してくれないか。」
「畏まりました。」
ミレーヌはすぐに俺を抱きかかえて動き出し、自室のベッドへ案内してくれた。屋敷の中は静かで、何事もなかったかのように平穏だったが、心の中では色々な思いが渦巻いていた。
「ありがとう、ミレーヌ。少し休むよ。」
ミレーヌは静かに部屋を出て行った。俺はベッドに横たわり、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。俺の魔力も限界だ。流石に休もう。俺、2歳だしな。
目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。
―――――
―――
目が覚めると窓から朝日が射しこんでいた。魔力もだいぶと回復していることが分かったので、母さんにテレパシーを送ってみることにした。目を閉じ、集中して、心の中で母さんの姿を思い浮かべる。
《母さん…。》
《母さん無事?》
《母さん、生きてたら、心の中で俺を思い浮かべて強く何かを念じてみて。》
上手くできるといいけど…。母さんは容量が良いから、すぐにできるはずだ。
《無事…》
良かった…。母さんの声だ。無事なのかな?テレパシーを使える余裕はあるってことでいいんだよな?
《やっと繋がった。無事みたいだね。そっちの状況を伝えれる?》
《島………ゼノ……一緒……魔力………枯渇………》
島?ゼノと一緒ってことか。魔力枯渇…ゼノの魔力が枯渇状態にでもなってるのか?
《なるほど、母さん、ゼノの手を握って魔力を分けてあげるといいよ。その練習をしたほうが回復を待つより早いと思う。母さんは御婆様から魔法使いの血を受け継いでるでしょ。俺にもできるから、母さんなら、きっとできるよ。それと、俺も父さんも無事。だから安心して帰ってきて。》
テレパシーを終えて、目を開けて起き上がった。結構時間が経っちゃったけど、父さんに報告しに行こう。
俺は廊下を急いで進み、父さんの部屋に向かった。部屋に入ると、父さんはまだ混乱している様子でベッドに横たわっていた。ミレーヌがそばで心配そうに見守っている。
「父さん、少し落ち着いてきた?」
「メアルーシュ様は!!どうでしたか?」
「今、母さんにテレパシーを送って状況を確認したんだ。母さんもゼノも無事みたい。」
「ゼノとメアルーシュ様が一緒なのですか?」
「うん、そうみたい。俺もなんとなく、ゼノの姿が見えないから一緒なんだろうなって思ってたけど。」
「そうですか…。」
「父さん、ゼノがついてるなら、母さんはすぐに帰ってくると思う、その前に父さんが余計なことを口にしないように一度、領地の、あの部屋にいかない?」
「領地…ですが、ここから領地へは半日はかかってしまいます。」
「俺なら一瞬で飛ばせるけど?母さんが帰ってくるまでに間に合うはず。」
父さんは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに納得したように頷いた。
「そうですか、メアルーシュ。ならお願いします。」
「分かった。父さん、準備はいい?」
「外にでなくても大丈夫なのですか?」
「うん、俺のは特殊能力と違って魔法だから。」
「なるほど、ではお願いします。」
俺は父さんの手を握り、魔力を集中させた。瞬間的に空間が歪み、視界が変わった。次の瞬間には、領地の隠し部屋に到着していた。
「ここか…だいぶと書きたされている。」
父さんは人生計画表を見回しながら呟いた。
父さんは深呼吸をして、一歩ずつ部屋の中を歩き始めた。俺はそんな父さんを見守りながら、父さんの記憶が少しでも早く戻ることを祈った。
父さんは静かに椅子に座り、日記のようなものを手に取った。
「父さん、多分だけど、こっちを見た方が良いんじゃない?」
俺は手元にあった赤い本を差し出した。その本には父さんの字で「緊急用」と書いてあった。
「これは…?」
「見た方が良いよ。多分、これが一番役に立つはずだから。」
父さんは少し戸惑った表情を見せたが、やがて本を受け取り、静かにページをめくり始めた。しばらくして、彼の顔に驚きと困惑が入り混じった表情が浮かんだ。
「これは…俺が書いたものだが、何だこれは…」
「緊急用って書いてあるから、多分何か重要なことが書いてあるんだと思う。」
父さんはさらにページをめくり、やがて深く頷いた。
「これは俺が記憶を失った場合に備えて書いたものだ。つまり、今の俺のために書かれたものだ。」
父さんは静かに本を読み進めた。父さんの表情が徐々に真剣になっていった。
それにしても、何億通りの人生をシュミレーションしてるんだよ。なんで母さんの為にここまでしてるんだろう?
回帰の記憶を取り戻した今、俺は父さんと母さんに1つだけ嘘をついていた。
それは回帰前の人生についてだ。1度目は父さんが母さんを殺してしまった人生。そう、あの別荘で父さんは母さんを殺してしまった。俺は放置されて育ち、何かしらの陰謀によって殺害されてしまった。
2度目の人生は回帰してすぐに、俺は事前に父さんに母さんが逃げている理由を説明した。すると不思議なことに父さんは母さんの記憶を全て喪失させて、母さんを一生逃げないように部屋に軟禁して過ごしていた。もちろん俺も軟禁状態だった。小さい頃はそれでも凄く幸せだった。大人になってから、狂ってることに気付いた。気付いて外に出た頃には、公爵家にとって俺は邪魔者でしかなく、殺されてしまった。
俺が嘘をついたのは、全うに公爵家を継ぐか何かしたかったからだ。父さんは母さんにしか興味がないし、俺のことなんて本当に何も考えてくれていなかった。だからどうにか変わってくれないかと2度目の人生に嘘を混ぜてみた。
俺の思惑通り、このままいけば全て上手くいきそうだと感じる。父さんも今はこの状態だけど、一ヶ月もすれば元通りになるわけだし、幼い頃から変わらず母さんを崇拝してるようだし。
後は父さんがついている沢山の嘘が母さんにバレなければセーフ…なのかな?
「ルー。」
突然愛称で呼ばれてびっくりしてしまう。
「何?父さん。」
「俺はメイシール様をメイと呼んでいましたか?」
「うん。そう呼んでるよ。」
「き、禁止ワードだらけで覚えられますかね…。」
父さんは焦りながらも真剣な顔をして何かを暗記しているようだった。
「父さん、父さんはどうして、そんな幼い頃から、そんな必死になれるくらい母さんを崇拝してるの?だって、今の父さんの中では母さんは生まれたばかりの赤ちゃんでしょ?」
父さんは俺の目をじっとみつめた。
「記憶が戻ってから話しますね。でないと、せっかく組み立てた人生が狂ってしまうかもしれません。」
「えー…記憶が戻ったら絶対教えてもらえないじゃん。」
「俺のように幾つもの仮説をたてると辿り着けますよ。それに、好きに理由はいらないようです。」
「……引くわ~。」
父さんは再び赤い本に目を落とした。
仮説ねぇ。どういう状況で母さんを好きになったかは、実はずっと気になっていた。どうしてそこまで好きなのか、殺してしまうほど手に入れたい愛ってなんだろうって。
この様子だと父さんは既に母さんと出会ってるみたいだし、父さん12歳、母さん2歳、それよりも前に出会ってる…のかな?なら0歳?未来の情報ギルドではブルービショップ家に関する資料は全て父さんが作成したものだった。日付から察するに作成した当時、父さんは10歳…。やっぱり母さん0歳じゃん。
どうやって好きに…。
《ルー…。》
母さんからのテレパシーだ。勝手に漏れたやつかな?帰ってきたら、ちゃんと制御方法学ばせないと。
待てよ…そうか、テレパシーだ。母さんは0歳で既に回帰してテレパシーを使って父さんと会話したんだ。でも、それだと、どうしてテレパシーのやり方を知らないんだろ?
「全く思い出せないな…。」
父さんは自分の髪の毛をくしゃっと掴んで困っているようだった。
なるほど、記憶がないんだ。母さんは幼い頃に父さんと会話した記憶がないんだ。父さんの透明化の能力でブルービショップ家の特殊能力を透明にしたんだ。タトゥーを消すことで回帰の記憶を失うことを父さんは知ってたんだ。俺にそうしたように。
《もうすぐ帰るからね》
「あ。父さん時間切れだ。母さんがもうすぐ到着するかも。」
「え!?」
「早く俺に捕まって!」
父さんは驚きながらもすぐに俺に捕まった。俺は再び魔力を集中させ、父さんと一緒に空間を歪めた。次の瞬間には、王都のレッドナイト公爵邸に戻っていた。
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