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4p

その後、医者を呼ばれる前に、迎えにきた父が血相を変えた演技をして私を家に連れ帰ってくれた。


後は子供が宿るのを祈るばかりだった。


父はカンカンに怒ったふりをしつつ、ユリドレに報酬とプラスαを上乗せして送りつけた。 そのプラスαは、全てユリドレが後に欲しがるものであった。


レッドナイト公爵家当主がきても、父はまだ気が収まらず粗相をしてしまうので時間が欲しいと色んな理由をつけて送り返した。父は必ず時間が欲しいと言った。こうすることで妊娠が発覚した後に結婚を取り付けようという算段だった。


「なんだか心苦しいな。」


父は私の部屋に飾られた花を見て眉間に皺を寄せていた。


「そうですわね。」


ユリドレは毎日、使用人に私の様子を聞きに来て、花を送ってくれていた。

綺麗な花だと思って眺めていると、突然花の匂いが気持ち悪くなり、吐き気をもよおした。


すぐに医者がきて診断をしてくれた。 そして、懐妊したことを告げられた。


今日も様子を聞きに来たユリドレに、使用人がわざと懐妊したことを教えた。 ユリドレは驚いた顔1つせずに帰って行ったそうだ。


この後、お腹の子には悪いけど、ユリドレに恨まれたりして殺されたとしても、それはそれで進むべきルートではなかったと思う事ができる。次こそ安心して独身でいられる気もした。


それに今までの人生、子作りを経験した事は何度もあるけれど子宝には恵まれなかった。


ここからは、子供を降ろせなくなる期限まで持ちこたえないと。何が何でもこの子を産まなければ。


――――――

――――


数日後、計画はすぐに破綻してしまう事になった。


「ダメです!!お嬢様には会わせられません!!」


なんとユリドレ・レッドナイトは片手で強行突破して私の部屋に入って来たのだ。 何故片手かというと、左手には大きな薔薇の花束を抱えていたからだ。


一瞬私は今日殺されてしまうのではないかと思ったけれど、彼の抱えている薔薇の花束をみて、とりあえず殺意がないことが分かった。


あの時、とても冷たい目をしていた彼だが、今は今にも泣きそうな子犬のような目をして私をみていて、本当に本人なのか疑うくらいだった。


ユリドレは私に近付き、膝をついて、大きな薔薇の花束を差し出した。


「メイシール嬢。俺と、結婚してください。」


「はい!?」


「今、はいとおっしゃいましたね?それは同意と取らせていただきます。」


さらにグイッと鼻と鼻がくっつきそうなくらい顔を近づけられて目を見開いてしまう。


「あ、あの…めぃわかんない…。」


「分からなくとも良いのです。俺にはもう貴女がいないと生きていけないのです。」


「えっ、えっと…パパに…相談しないと…。」


「いえ、今すぐ貴女をここから連れ去ります。」


「はい!?」


「今のも同意と取らせていただきます。」


(しまった…。)


ユリドレは薔薇ごと私を抱き上げると窓から飛び降りたので、恐くてぎゅっと目を瞑ってしまった。薔薇が顔に押し付けられて匂いで吐きそう…。


「ユリドレ様…吐きそうです。」


ユリドレはすぐに降り立つと近くにレッドナイト公爵家の制服を着た兵士に薔薇を渡した。


「メイシール嬢、大丈夫ですか?吐きますか?」


ユリドレは近くの茂みに私をそっと降ろして背中を優しく撫でてくれた。本当にこれは本人なのだろうか?全くの別人過ぎて影武者でも用意したんじゃないかと疑うほどであった。そうだわ、こんなに優しいはずないもの。


さらにユリドレは口をゆすぐ為の水を用意してくれた。どうなってるの!?絶対違う人よ!!!


その後、私はレッドナイト公爵家の馬車に乗せられて、ユリドレの膝の上に乗せられていた。


――――何がどうなってるの?180度人格が違うじゃない。


チラリと顔をみればニコリと微笑むユリドレに寒気を感じた。殺意の笑みとか?いやいや、求婚して殺すは流石にない…わよね。もういっそ殺して欲しいくらいだけど!?


「おい、羽毛布団を用意しろ。俺の膝では固すぎる。負担になるかもしれん。」


「はっ!」


馬車が一旦停止して、使用人が馬車から降りてどこかへ行ってしまった。


使用人に命令する時の口調は、あの時のように吐き捨てるような冷たい感じがした。やっぱり本人?そんなまさか…。


しばらくして、すぐに使用人がフワフワそうな布団を抱えて戻ってきた。ユリドレは私を布団にくるみ、膝の上に乗せて再び馬車を出発させた。


(どうなってるの?)


布団のおかげで振動はなく、これなら乗り物酔いもしそうにない。


「メイは良い匂いがしますね。」


髪の毛をクンクンと嗅がれてゾワリと鳥肌がたってしまった。


―――メイって呼んだ!?この人今、メイって呼んだ!?震えがとまらないんだけど!?


「まだ俺が恐い…ですよね。大丈夫です。恐くありませんよ。」


そう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。が、しかし、それがまた不気味過ぎて余計にぶるぶると体が震えてしまうのだった。


チラリと前に座る使用人を見ればニコリと笑ってくれた。


―――やっぱり、殺す気はないようね。どこかで頭でも打ってきたのかしら。


すると目を隠された。


「見るなら俺の顔を見て下さい。」


(は?)


すぐに目隠しは解かれて、自然とユリドレの顔を見つめてしまった。とても優しい顔をしており、殺意なんて1ミリも感じなかった。どうして彼はここまで変わってしまったのか。やはり別人なのだろうか。


「メイ、今から行くところでは全てに はい と答えて下さい。できますか?」


「・・・・・。」


「できなければ、俺は命を断ちます。」


(何物騒な事いってるのーーーーー!!!!!!!)


「わ、わかったー…。」


(今、私脅されたわよね?今のって脅しよね?)


「あぁ…愛しのメイ。賢いですね。」


また頭を撫でられた。もうどうにでもなれよ。言う通りにしてあげるわ。


しばらくして着いた場所は教会だった。それを見た私は開いた口が塞がらなかった。

それから沢山のメイド達に引き取られて、あれよあれよと着替えをさせられてメイクまでさせられて、鏡をみれば、どこからどうみても今から結婚式をするようだった。


(は?)


部屋に正装姿のユリドレが迎えにきて、私を見るなり抱き上げてくるりと一回転した。


「メイ!!とても綺麗だ!!」


(夢よ。酷い夢。絶対夢だわ。夢じゃなかったら、また死んだ?天国?)


その後、抱きかかえられたまま、教会の中に進んだ。 そこでユリドレは私をそっと降ろし、手を握りながら進んでいく。 暗い教会内には柔らかな光が差し込んでおり、静寂が漂っていた。 私たちは祭壇の方へと歩いていく。 その間、ユリドレの手は温かく、不思議と安心感を与えてくれた。


神父は優しい微笑みを浮かべながら、言葉を述べた。


「メイシール・ブルービショップ、この教会において、愛することを誓いますか?」


長い間の沈黙が流れたが、ついに腹をくくった。


「はい。」


「ユリドレ・レッドナイト、その愛が、永遠に続くことを誓いますか?」


ユリドレとの目が合った。ユリドレは本当に私の事愛おしそうな目をして見つめてきた。


「はい、永遠に続くことを誓います。」


「その誓いを、神とこの集まった人々の前で行いますか?」


ユリドレが私の手を強く握りしめた。


「「はい。」」


「愛する者同士が、この神聖な場所で結ばれる喜びを共に分かち合うことは、神の祝福を受ける特別な瞬間です。愛と誠実さがあれば、神の御前で結ばれた絆は永遠に続きます。 私たちはこの神聖な儀式で、あなたたちの愛を神の前に誓い、祝福します。」


神父が神聖な呪文を唱えると、その場に神秘的なエネルギーが漂い始めた。 夫婦の証として、二人の手の甲に不思議な紋章が静かに浮かび上がった。 その紋章は、二人が夫婦であることを証明し、神から与えられた特別な印であった。


――――こんなあっさりと結婚してくれたんだ。いや、でも影武者な可能性…はないようね。神父様が名前を読み上げる時に、本人でないなら別の名前を神父様は読み上げていたはず。てことは…本人なのーーーー!?

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