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時間を少し遡り、水の竜巻の中で俺は突然記憶が戻った。父さんが必死に俺を抱えて守ろうとしてくれていて、何が起きているのかを把握し、魔力の流れを操って、小さな子供がおこした魔力暴走を止めた。竜巻が収まると、父さんは意識を失って倒れていた。その他の子供も無事そうで少し一息ついた。
ミレーヌがよろよろとしながらも俺の側に来てくれた。
「若旦那様、大丈夫ですか?」
「父さん、水を飲んだのか。」
俺は2歳という体だが、懸命に救急措置を施した。父さんは水を吐き出し、呼吸が安定したのでもう大丈夫と確信した。
「若旦那様…」とミレーヌが心配そうに見ていた。
「父さんはとりあえず無事だ。ミレーヌ怪我はないか?」
「・・・え!?メアルーシュ様ですよね?」
「そうだ。事情があって、今は少しややこしいことになっているんだ。」
俺はミレーヌの驚きに気付いたが、今は説明している暇はない。
「とにかく、ここから安全な場所に移動しよう。父さんを運ぶのを手伝ってくれるか?」
ミレーヌは混乱しつつも、俺の指示に従い、ミーレヌは父さんを支えて立ち上がった。俺たちは嵐の後の静寂の中で、次の行動を決めるために慎重に動き始めた。
「メアルーシュ様、本当に大丈夫なんですか?その…お話ししていることも信じられないくらい…」
「ミレーヌ、俺のことを信じてくれ。今はこの状況を乗り越えることが最優先だ。」
ミレーヌは深呼吸をし、力強く頷いた。
「わかりました、坊ちゃま。全力でお手伝いします。」
「ありがとう、ミレーヌ。父さんをしっかり支えてくれ。俺の魔法で一旦王都の屋敷に飛ぶ。」
「え!?と、飛ぶですか?」
「あぁ。ベティ、ソロコッチ、それから…なんだっけ…トリント、ミ…ミ…ミッチェル?」と言うと、サッと俺の前に姿を現した女性が「坊ちゃま、ミシェルです。」と名前を教えてくれた。
「すまん。ミシェル。お前達は船の中の父上と母上と…後、俺の玩具を回収して王都の屋敷に運んでおいてくれ。俺は今からミレーヌと父上と先に王都へ戻る。いいな。」
「はっ!」と複数人の声がした。
ミレーヌは驚いた表情を隠せないまま、俺の指示に従って父さんをしっかりと支えた。俺は深呼吸をして魔法の準備を始めた。
「ミレーヌ、しっかり父さんの体を掴んでて。少し揺れるかもしれないけど、大丈夫だから。」
「メアルーシュ様、本当に飛べるんですか?」
「ああ、信じてくれ。行くぞ。」
俺は集中し、魔力を解放して空間を歪める感覚を感じた。次の瞬間、目の前の景色が一瞬で変わり、俺たちは王都の屋敷の前に立っていた。
「わぁ…。これはもう瞬間移動でございますね。」
ミレーヌは驚きと感動が混ざった表情で呟いた。
「さあ、父さんを屋敷の中に運び込もう。安全な場所で休ませて、治療を始める必要がある。」
ミレーヌは一人でよろけながらも父さんを屋敷の中に運び入れた。屋敷の使用人がすぐに対応してくれ、父さんの治療が始まった。
「メアルーシュ様、大変な状況でしたが、無事に戻ってこれて本当に良かったです。」
ミレーヌは安堵の表情を浮かべて言った。
しばらくすると、父さんが目を覚ましたという報告を受けた。ミレーヌと一緒に部屋に入って様子を見ると、何やらおかしな様子だった。父さんは頭を抱え、困惑した表情を浮かべていた。
「父さん、大丈夫?」と声をかけると、父さんは混乱した様子で答えた。
「父さん?誰のことを言っている?」
その言葉に胸が締め付けられるような感覚が広がった。
「若旦那様、大丈夫でしょうか?」とミレーヌが心配そうに声をかけると、父さんはさらに困惑した表情で言った。
「お前たちは誰なんだ…。」
「父さん、俺だよ。メアルーシュだ。」
「メアルーシュ…聞いたことがあるような、ないような…」
俺は必死に説明しようとしたが、父さんの目はどこか遠くを見ているようだった。
「若旦那様、落ち着いてください。ここは王都のレッドナイト公爵邸です。私はミレーヌ、こちらは坊ちゃまのメアルーシュ様です。」
「レッドナイト公爵邸…ミレーヌ…メアルーシュ…」
父さんは混乱したまま、頭を抱えていた。
俺は小さな手で父さんの手を握り、落ち着かせようとした。
「父さん、落ち着いて。ここにいるのは家族だよ。何があったか覚えてる?」
父さんは目を閉じ、深呼吸をした。
「頭が痛い…何も思い出せない…」
父さんは微かに頷き、ベッドに横たわった。
「ミレーヌ、父さんの様子があまりにもおかしい。記憶喪失かもしれない。」
「そうですね、メアルーシュ様。お医者様を呼んで詳しく診てもらったほうが良いでしょう。」
すぐに専属医が駆けつけてくれて、父さんを診てくれた。診察の結果、父さんは12歳前後の記憶しか持っていないらしい。医師は冷静に説明を始めた。
「若旦那様の記憶喪失は、おそらく魔力の乱れによるものでしょう。このようなケースでは、通常一ヶ月もすれば自然に記憶が戻ることが多いです。」
「そうですか…」俺はほっと胸を撫で下ろしたが、それでも不安は消えなかった。
一ヶ月もすれば落ち着くと言われても、その間に何か問題が起きないか心配だな。
「坊ちゃま心配なさらないでください。若旦那様には安静と適切な治療が必要です。そのためには、周りのサポートが重要です。」専属医は安心させるように微笑んだ。
「ありがとうございます、先生。」
「しかし…坊ちゃまの方が大丈夫ですかな?言動があまりにも…2歳児とは思えないのですが…。」
「あ、いや!!とーさんの真似しただけー。えへへー…。」
あまりにも恥ずかしい。死にたい。
「では、若旦那様の安静を保つためにも、できる限り穏やかな時間を過ごさせてあげてください。」
医師が部屋を去った後、父さんはまだ少し混乱した様子だったが、安静にすることで少しずつ落ち着きを取り戻していた。
「父さん、安心して。俺たちがいるから、大丈夫だよ。」
「…本当に俺の子供なのか?」
「え?うん。そうだけど?」
「信じられん。2歳といったな?…。」
「じゃあ、ブルービショップの血が入ってるっていえば信じてもらえる?」
「ブルービショップだと?…あぁ、なら納得だ。」
「ミレーヌ、ちょっと父さんと秘密の話をするから、外に出てて、それから回りも席を外して。」
ミレーヌは少し戸惑ったが、すぐに理解して頷いた。
「わかりました、メアルーシュ様。何かあればすぐにお呼びください。」
ミレーヌが部屋を出て行き、他の使用人たちも部屋から退いた。俺は父さんのベッドの近くに座り、真剣な表情で彼を見つめた。
「父さん、混乱してるだろうけど、時間がないからよく聞いてほしい、ここはざっくり10年後の世界だ。そして父さんはメイシール・ブルービショップと結婚して俺を授かった。ここまでいい?」
「ま、待て、メイシール・ブルービショップだと?お前と同じ歳くらいの赤ちゃんだぞ?10年たっても精々12歳か…14歳といったところか?」
「うん。母さんは12歳で俺を身籠って、13歳になる手前で俺を産んだんだよ。だから俺は2歳だし。父さんは今24歳。」
「待て、なら…。いや、待ってください。俺が12歳と…子供を作ったのですか?」
―ん?なんで口調が変わったんだろ?
「そうだよ。どういう経緯だったかは流石に知らないけど、あ、でも父さん几帳面だから、領地の隠し部屋へいけばわかるかも?」
「あの部屋のことを知っているということは嘘ではないようですね。俺は間違えなくメイシール・ブルービショップと結婚しているのですね?」
「うん。ほら、俺の髪色も瞳もおかしなことになってるだろ?これが証拠だよ。紋章もみる?」
「いえ、信じます。」
「さっきから、その気持ち悪い口調は何なの…?何か思い出したの?」
「いえ、全然。ただ、俺の女神でもあるメイシール様との子供なのでしょう?なら、気安くはなしかけられるはずがありません。」
正直ドン引きだ。12歳の父さんって、もう既に何か出来上がってるじゃん。嫌だなぁ、こんな父さん。これと血が繋がっているのか…。
「メアルーシュ、メアルーシュ。」
「ん?、何?考え事してた。」
「ここはどこですか?」
「王都にあるレッドナイト公爵家だよ。」
「王都…。メイシール様は無事なのですか?俺がこんな状態になっているということはメイシール様も…。」
「母さんか、正直無事かはまだわからない。後でテレパシーを送ってみるよ。」
「お願いします…。あぁ、そんな…また俺が君を苦しめるなんて…。」
父さんは頭を抱え、悔しそうに唸った。俺はその姿を見て、何とか彼を安心させたいと思った。
「ちょっと部屋で連絡をとってみるから、父さんはゆっくり休んでて。」
「はい…。」
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