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ユリとシルバークイーン侯爵のやり取りの後、私たちは船上パーティーの他の招待客たちと交流するために歩き回った。船上の広場には美しい装飾が施され、優雅な音楽が流れる中、貴族たちが楽しげに談笑していた。
「メイシール夫人、素晴らしいお召し物ですね。どちらで仕立てられたのですか?」一人の銀髪の貴婦人が興味津々に尋ねました。
この人はシルバークイーン家の人だわ。花のお茶会の時もそうだったけれど、シルバークイーン家の人達はとても親切にしてくれてるような気がするわね。ユリと親交があるからかしら?
「ありがとうございます。このドレスはレッドナイト公爵領で特別に仕立ててもらったもので、私の夫が選んでくれたんです。」
「まあ、それは素敵ですわ。」
ユリは私の隣で、時折周囲の人々と会話を交わしながらも、常に私のことを気にかけてくれていた。
彼の冷静で堂々とした姿勢が、多くの人々の注目を集めていた。
「ユリドレ公爵、久しぶりです。お元気でしたか?」
ある紳士が声をかけてきた。
「お久しぶりです。お陰様で元気に過ごしております。今日は素晴らしいパーティーですね。」
ユリは言葉だけ礼儀正しく答えるが、口調はぶっきらぼうな棒読みで全くそう思っていないような感じだった。そのせいかすぐに紳士はどこかへ去って行ってしまった。ユリはわざと不愛想に振る舞い続けている。シルバークイーン侯爵の言っていた通り、もう普通にしても良さそうだけれど…。
しばらくして、夜になり、音楽が少し変わり、ダンスの時間がやってきました。ユリは私に向かって手を差し出した。
「メイ、踊るぞ。」
「喜んで。」
私はユリの手を取り、ダンスフロアへと向かいました。
音楽が流れる中、ユリは私をリードしながら、優雅に踊り始めました。彼の動きは滑らかで力強く、私もそれに合わせて軽やかにステップを踏みました。
「ユリって、やっぱりダンス上手ね。」
「お前に恥をかかせるわけにはいかないからな…。」
ユリは歯がゆそうな顔をして目を逸らしては私を見てを繰り返していた。多分だけど、私にぶっきらぼうな言葉を使うのが嫌なんだろうなぁ。まぁでも、あえて汲み取らないでおこう。私はこのモードのユリも大好きなのだ。
「メ、メイ。このダンスが終わったら、どこか…二人になれるところで休まないか。」
「ふふふ。いいわよ。」
ダンスが終わると、ユリは私の手を握りしめたまま、周囲の人々に一礼しました。拍手が湧き起こり、私たちは再び社交の場に戻った。
ユリは私を船のデッキの端へと導きました。そこは少し人目を避けられる静かな場所で、夜の涼しい風が心地よく吹いていました。波の音が穏やかに響き、満天の星空が広がっていました。
「ここなら少し落ち着いて話せますね。」
「本当に素敵な場所ね、ユリ。」
私はその美しい景色に目を奪われながら答えました。
「最悪です。メイにあんな乱暴な事を…。」
「何も乱暴なことは言われてないわよ?私はどっちのユリも、ううん、どんなユリも大好きなの。だから、気にしないで。」
「あぁ…やっぱりメイは女神です。できればアナタの耳には甘い言葉だけを入れていたい…。」
ユリは静かに私を引き寄せ、優しく抱きしめた。私たちはしばらくの間、静かな波音に耳を傾けながら、ただ互いの温もりを感じていた。
しかし、次第に周囲が騒がしくなり、船が大きく揺れ始めた。何か異変が起きていることを感じ取った。ユリは私が船から落ちないようにガッシリと支えてくれていた。
突然、ゼノが姿を現した。
「緊急です、シルバークイーン侯爵子息が謎の魔力暴走を起こしました。」
その言葉を聞いて、ユリと私は一瞬でルーが危険に晒されている可能性が高いと直感した。
「ルーが危ない!」
私は叫びながら、ルーのいる部屋の方へ走り出すが、ユリは私の手を強く握りって真剣な表情して言う。
「メイ、これは危険すぎます。ゼノと一緒に安全な場所へ避難してください。ルーは必ず俺が助け出します。」
「でも…」
私はユリを見つめ、心配と恐怖でいっぱいだった。
「信じてください、メイ。必ず戻ってきます。」
ユリは深い決意を込めて言うので、私は涙をこらえながら頷いた。
「分かったわ、ユリ。どうか無事で。」
ユリは力強く頷くと、すぐにルーの部屋へ向かって走り出した。不思議なことに、淡水の湖は荒れ狂う嵐となっていて、波が激しく船を揺らしていた。
ゼノは私の側に立ち、「若奥様、こちらへ。」と冷静に指示しました。私は彼の指示に従い、安全な場所へ避難移動し始めた。船が大きく揺れ続ける中、エメロッサ子爵夫人の姿が視界に入った。どうしてまだ避難していないのだろうと疑問に思っていると、突然彼女が私に向かって歩み寄ってきた。
「メイシール夫人、あなたにお話があります。」
エメロッサ子爵夫人は微笑みながら近づいてきたが、その目には冷たい光が宿っていた。そもそも、この非常に話があるのはおかしすぎる。
「今はそれどころじゃ…。」
次の瞬間、彼女は私を突き飛ばしてきた。足を踏み外した私はバランスを崩し、船の縁から落ちてしまった。
「うそっ!!」
「若奥様!!」
その瞬間、ゼノが素早く動いて私を守るように抱きしめてくれた。二人ともザプンと湖に落ち、冷たい水が一気に体を包み込みこんだ。私は一瞬息を止めた。嵐による荒波が私たちを揺さぶり、呼吸するのも困難だった。
ゼノは私をしっかりと抱きかかえ、水面に浮かび上がるように力強く泳いでいた。波が高く、視界も悪く、水の流れが早くて体がどこかへ流されていくようだった。その中でもゼノが必死に魔法を使って私を守ってくれているのを感じた。しかし、突然何かが頭に当たってしまい、視界がぼやけていく。
「奥様!!奥様!!」
意識が遠のく中、最後に感じたのはゼノの強い腕と彼の必死な声だった。暗闇の中へと沈んでいくような感覚の中で、私はユリとルーの無事を祈りながら意識を手放した。
――――――――
―――――
メイと別れた後、俺はすぐにルーのいる遊び場へ向かった。船の揺れと嵐の音が激しくなる中、心の中で焦りが募る。
「ルー、大丈夫でいてくれ…」俺はそう祈りながら、甲板を駆け抜けた。
すると、ミレーヌがびしょ濡れでルーを抱きかかえながら俺の方へ走ってきた。
「若旦那様!ここは危険です!!早く別のところへ!!」
彼女の声には緊迫感があふれていた。
突然、ミレーヌの背後から叫び声が聞こえた。振り返ると、シルバークイーン侯爵の子息が謎の魔力で暴走しているのが見えた。彼の周囲は異常な光とエネルギーに包まれ、制御不能な状態に陥っていた。
「早く!!」ミレーヌが叫び、俺たちを急かした。
しかし、その瞬間、謎の水の竜巻が俺たちを襲った。強烈な水流が俺、ルー、ミレーヌを巻き込み、視界が一瞬で水の壁に閉ざされた。
「ルー!ミレーヌ!」
俺は必死に声を張り上げたが、水の音でかき消された。
周囲を見渡すと、他の子供たちも危険な状態にあった。俺は魔力を集中させ、竜巻の中で何とか状況を打破しようと考えたが、水の流れが早く、このままでは全員全滅してしまいそうだった。水の圧力が増し、息も苦しくなる中、俺は決断した。
俺はなんとかルーに近寄り、彼にかけていた魔法を解いた。
「ルー…あとは…まか…せた。」
ルーは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに理解したように頷いた。彼の目には決意が宿っていた。
《父さん、大丈夫。僕がやる。》
その声は俺の脳内に直接響いた。俺の呼吸は限界で、意識を失いかけていたが、ルーは小さな手を広げ、集中して魔力を解放し始めた。彼の周囲には青白い光が広がり、水の流れが一瞬で変わり始めた。竜巻が徐々に収まり、水が静かになっていくのが感じられた。その瞬間、俺の視界がぼやけ始め、全身の力が抜けていくのを感じた。
「父さん…」ルーの声が遠くから聞こえたが、その声は次第に遠のき、俺は深い無意識の中へと落ちていった。
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