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新居に移り、あれよあれよとしているうちに、次の大舞台であるシルバークイーン侯爵家主催の船上パーティーの日が訪れた。 私たちは早朝に出発し、美しい景色を眺めながら船へと向かった。
船上に到着すると、広がる水面はまるで海のようだったが、ユリの言う通りそれは全て淡水だった。 広大な湖が広がり、その穏やかな水面が光を反射してキラキラと輝いている。 船は大きく、豪華絢爛な装飾が施されており、まるで一流の宮殿のような雰囲気だ。
今回は船に乗る機会なんて滅多にないから、ルーも一緒に連れてきた。そして、私は今日は特別なドレスを着ている。 それは水に濡れてもすぐに乾く不思議な生地で作られたもので、ユリが特別に用意してくれたものだ。 淡いブルーのドレスは美しく、動くたびに光を反射して、まるで魔法のような輝きを放っていた。 ルーもまた、私たちと同じく特殊な生地で作られた豪華な衣装に身を包んでいる。 ルーは小さなスーツを着て、キラキラとした笑顔を浮かべていた。
「ルー、水が沢山で危ないからミレーヌの側を離れちゃだめよ?」
「はーい!ママがしんぱいするからはなれないよ!」
ルーもだいぶと言葉がはっきりしてきたわね。ユリの血を受け継いでるからか、本当に頭が良いのよね。後のことを考えながら行動したりなんかして、子供の成長って本当に早いわね。
「メイ、今回のパーティーは絶対に俺から離れないで下さいね。」
「えぇ、分かってるわ。それよりゼノの姿が見えないけど大丈夫?」
「安心してください。ゼノなら側にいますよ。」
あぁ、透明化で側にいるのね。ここへ来るまでにユリの部下の資料を頑張って読み切ったのよね。目には見えないけど、私の回りには至るところに護衛がいるのよね。
「メイシール様、坊ちゃまをお預かりします。」
「えぇ、お願いね。」
私はルーをミレーヌに預けた。
「さて、では広場へ行きましょうか。メイ。」
「えぇ。」
ユリはいつもの仏頂面をして、私の手を取り、船上の広場へ私を優雅にエスコートしてくれた。
船上の広場ではすでに多くの貴族たちが集まっており、華やかな雰囲気が漂っています。 音楽が流れ、笑い声や話し声が響き渡る中、私たちはゆっくりと歩いていく。彼はいつものように冷静で、周囲の視線を気にすることなく、堂々とした姿勢を保っていた。彼の存在は華やかな中でも際立っていて、多くの貴婦人たちが彼のことを見上げるような眼差しで注目していた。
一方で、船上では囁き声が聞こえてくる。
「まぁ…ユリドレ公爵様、表情は恐いけれど、美しい人だわ。それに比べて、あの子、なんであんなに派手な髪色なのかしら? 本当に品がないわ。」
「そうよね、あの髪色はまるで異国の子供みたい。 きっとあの家のしつけが悪いのよ。」
「12歳で結婚したんですって? いくら政略結婚といえども、ちょっと早すぎない? まるでお人形さんみたいだわ。」
「それが違うみたいよ?花のお茶会では恋愛結婚だって言い張っておりましたわ。」
「まぁ!でしたら公爵様がそういう趣味でいらっしゃるのね。」
「どの道、貴族の玩具ね。」
彼らの囁きは耳に届かないように思われますが、彼らの視線や仕草から、何かを囁いていることは明らかだった。
ユリはそれに気付いているようで、射殺すような眼差しを送り貴婦人たちに泡を吹かせていた。
「ユリ、これ以上はいけません。騒ぎになります。」
「あぁ、すまない。我慢にも限界というものがある。」
「ですが…これ以上は…。」
ユリは突然、私の頤に手をあてて親指の腹でゆっくり下唇をなぞってから顔を寄せキスをした。わざと厭らしく、見せつけるような濃厚なキスは周囲を凍らせてしまった。
(何やってんの~~~!?人前でーーーーー!!!暴走!?突然ここで暴走しちゃったの!?いつ終わるの~~~~!!!)
「ぷはっ!!ユ…ユリ…?」
「悪く言われるので、俺だけで十分だ。」
ユリ…だいぶと怒ってるのね。口紅…今どうなってるのかしら。チラリとユリをみれば、がっつり唇が赤くなっており、自分の口紅がユリの唇にうつっているのがわかった。
「ユリ、化粧直しをしないといけません…。」
ユリが「ベティ、ゼノ。」と呟くと、瞬く間に何者かの手によって私の唇が直された。ベティはユリの部下で、主に私の護衛についている透明化の能力を持つ女性だった。彼女の姿を私は一度も見たことがない。あっという間に、私とユリの唇は元通りになっていた。
「これで問題ない。」
「全く…。」
(どっちが子供よ。)心の中でそう呟きながらも、彼の行動には微笑まずにはいられなかった。
その後、私たちは船上パーティーの主催者であるシルバークイーン侯爵に挨拶するため、船のデッキへと向かった。ユリが私の手を引いてエレガントに歩く姿は、一層際立って見えた。私たちが近づくと、侯爵は優雅に微笑み、私たちを迎えてくれた。
「ユリドレ公爵、メイシール夫人、お越しいただきありがとうございます。」シルバークイーン侯爵は深く一礼しました。
マーメルド・シルバークイーン侯爵は、銀色の髪を持つ威厳ある男性だった。髪はきちんとオールバックに整えられ、その銀色の輝きが太陽の下で美しく輝いていた。淡い水色の瞳は冷静で知性的な印象を与え、彼の存在感を一層引き立てていた。
彼の衣装は豪華でありながらも洗練されたデザインだ。シルバーと虹色を織り交ぜたような生地で作られたローブは、動くたびに光を反射し、まるでオーロラのように幻想的な輝きを放っていた。細部にまでこだわりが感じられるその衣装は、シルバークイーン侯爵の気品と高貴さを象徴していた。
侯爵は優雅な身のこなしで私たちを迎え、その姿勢には自信と誇りが満ち溢れていました。
「お招きいただき光栄です、シルバークイーン侯爵。」ユリは礼儀正しく返礼した。「この素晴らしいパーティーを楽しませていただいております。」
「それは何よりです。どうぞ、お二人ともリラックスして楽しんでください。」
侯爵は穏やかに微笑みながら、私たちを見つめました。
「お招きありがとうございます、侯爵様。」私は微笑みを返した。「お船の装飾や景色が本当に美しいですね。特にこの広大な淡水の湖が素晴らしいです。」
「ありがとうございます、メイシール夫人。この湖は我が領地の誇りです。淡水でありながらも、海のような広がりを持っています。楽しんでいただけて何よりです。」
侯爵の目には誇りと満足感が宿っていた。彼の姿勢からは、領地に対する愛情と誇りがひしひしと感じられた。
「息子のメアルーシュもここを楽しんでいるようで、特にこの広い水面を見て興奮していました。」
「ほぅ、それは嬉しいことです。お子様も楽しんでいただけるよう、色々と工夫を凝らしております。ユリドレ、君がそんな顔を見せるなんてな…。」
シルバークイーン侯爵はユリを見て微笑んだ。
(わっ!ユリったら顔が普通になっちゃってる!!)私は心の中で驚きつつも、その様子を見守った
ユリは咳払いをして、いつもの仏頂面をしてみせた。
「おや?そう隠さなくても良いではないか。僕と君の仲じゃないか。」
侯爵はユリの反応を楽しむように微笑んだ。
ユリとシルバークイーン侯爵って仲が良いのかしら?まぁ、歳も近そうだし、仲がよくても不思議じゃないわ。私は彼らのやり取りを見ながら、心の中で納得した。
「メイシール夫人、ユリドレとは昔からの友人なんです。彼がこうして微笑む姿を見られるのは、私にとっても嬉しいことです。」
「そうだったのですか。ユリがそんなに親しい友人を持っているなんて、知りませんでした。」
「彼の家は色々とあるからね。普段は王宮の個室でしか滅多に口を開いてくれないんだ。」
「おい。マーメルド。俺とお前は赤の他人だ。友人になった覚えはない。」
ユリは不機嫌そうに言いました。
「って、彼は言うんだけど、最初は僕と喋りたそうにソワソワしていたんだよね。だから、誰の目にもつかない場所でだけ話すようになったってわけさ。おかげで僕とユリは男色だと回りに誤解されたこともあったよね。」
侯爵は愉快そうに笑いながら説明してくれた。
「おい、妻に変な情報を与えるな。」
ユリは眉をひそめる。
「聞いてるよ?君の母君は隠居したんだろ?もうそろそろ僕達は普通に接しても良いんじゃないかな?」
ユリは一瞬考え込みましたが、すぐに他の方向に目を向けました。
「…挨拶したそうにしてる客がいる。俺たちはそろそろ失礼するぞ。まぁ…なんだ。その、互いの家でくらいなら話を聞いてやらんこともないがな。」
ユリは少し照れくさそうに言いながら、私の手を引いてその場を離れた。
―――ユリにもちゃんと友達がいたんだね。
ユリが普段見せない一面を垣間見ることができて新鮮だった。
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