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花のお茶会が無事に終わった翌日、私たちはやっと王都のレッドナイト公爵邸に入ることができた。
長い間使われていなかったのと、ユリが1年ほど書類を放置し、管理を怠っていたこともあり、再び使える状態にするまで少し時間がかかってしまってしまったらしい。というのが、ユリから聞かされた話だけど、屋敷内をみるからに大きな改装を施した痕跡がみえる。どうせユリのことだから、私がどの部屋を使っても安全なように改装したのね。それと、ユリのことだから、部屋1室で全てのことを終えられるように…とか。
領地の城に比べたら小さいとはいえ、この屋敷はとても立派で、王都の中心に位置する優雅な建物だ。
屋敷の門をくぐると、手入れの行き届いた庭園が広がっていた。 ユリは私の手を引いて、緑豊かな庭を案内してくれた。 庭園の中央には美しい噴水があり、その周りには色とりどりの花々が咲き誇っていた。
まず庭園からしても、日々の手入れで完成した庭園というより、つい最近すべて植え終わりました!と草花達が訴えてきてるような気がするわ。
「ここが私たちの新しい家です、メイ。」
ユリはいつもの微笑みを浮かべていた。
「とても素敵な場所ね。」
まぁ、ユリは私が改装に気付いてるなんて思ってないでしょうけどね。王妃だった頃に訪問した時はこんな庭園なかったし…。
屋敷の中に入ると、広々としたホールが私たちを迎えてくれた。高い天井には豪華なシャンデリアが輝き、壁には歴代のレッドナイト公爵家の絵画が飾られていた。
前の人生で、ここのホールにシャンデリアなんてなかったわ。歴代当主の絵画も、本来のユリなら嫌がったはず…。それにしても、だいたい当主は髪の毛が赤いわ。まぁ、4代に1人は黒い髪の人がいるようね。定期的に異国の血が混ざるのかしら。
大理石の床に、美しいシャンデリアが輝く広間。 長い廊下を歩きながら、各部屋の扉を開けてみると、どの部屋も広々としていて、豪華な家具が配置されていた。
「まだ整えなければならない部分はたくさんありますが、少しずつ住み心地の良い家にしていきましょう。」
「そうね、私も手伝うわ。 まずは、必要なものを揃えていかないと。」
「ゼノとミレーヌにも手伝ってもらいましょう。彼らならこの屋敷の整備もすぐに終わるはずです。」 ユリは使用人たちに指示を出し始めました。
その時、ルーが嬉しそうに駆け寄ってきました。
「ママ、パパ!ここ、おっきいね!」
「そうだね、ルー。新しいお部屋もいっぱいあるから、探検してみようか。」
私はルーを抱き上げ、彼の興奮を共有する。
「こちらがリビングルームです。」
ユリは一つ一つの部屋を案内してくれた。けれど、この部屋は使う時がくるのかしら。ルーがもう少し大きくならないと使わなさそうだわ。
「そして、この部屋が俺とメイの部屋です。」
私は目を輝かせながら部屋を見渡した。なんか王宮にも引けをとらない感じが凄いわ。さすがレッドナイト公爵家ね。私の予想通り、バスルームやドレスルームも完備され、執務机もキングサイズのベッドも寛ぐ為のソファーも何もかも揃えられたとんでもなく広い一室。これはもう、もはや、私の軟禁部屋ね。まぁ、王妃だった頃、執務室から出る時間の方が少なかったから、別に良いけどね?広いし。
「素敵ね。ここでの生活が始まるのが楽しみだわ。」
「そうですね。まずは俺たちの部屋を整えましょう。それから、ルーの部屋もね。」
ユリは具体的な計画を立て始めた。
「そうね。ルーが快適に過ごせるようにしないと。」
私たちはルーの部屋を整えるため、まず彼の好きなものや必要なものをリストアップしはじめた。 ルーのお気に入りのぬいぐるみや、絵本、遊び道具などを揃えたいものを口にするとユリは頷きながら、私の言葉をメモに書き留めていた。
「他に必要そうなものはありますか?」
「今思いつくのはこれくらいかしら。」
「わかりました。近日中には揃えましょう。」
その後、執務室に移動すると、ユリが私の執務机を整えてくれました。 手元には最新の資料が揃えられ、すぐにでも仕事に取り掛かれるようにしてくれている。 ユリの細やかな気配りに感謝しつつ、私は椅子に腰を下ろし、机上の書類に目を通し始めた。
「これは、急いで処理しないといけない書類ね。」
「俺としては、新居に来たばかりですし、書類なんて放っておいて、今日くらい、ゆっくり過ごしたいのですが…。」
「うん、でも王都へきてホテルでこれでもかってくらい怠けてたじゃない?私たち。それがわかってるから、こうして書類を仕分けて、資料まで揃えてくれてるんでしょ?」
私が今やらなかったら、ユリは私を寝かせたあと徹夜で一人で処理するだろうというのを見抜かれるのを見越して、書類処理を先にさせようと誘導しているのだ。つまり、さっさと終わらせていちゃつきたいということだ。
「メイが快適に仕事できるようにするのが俺の役目ですから。」
ユリはにこやかに微笑みながらも、その目には強い意志が宿っていた。 私は書類を一つ一つ処理していく。 ユリは屋敷の設備関連の書類に目を通していた。
執務室の窓からは柔らかな光が差し込み、心地よい静けさが漂っている。 そんな中で、ユリと共に過ごす時間が、私にとっては何よりも幸せなひとときだ。ユリに軟禁されるのは悪くない。
これはユリに内緒だけど、実は私、仏頂面をして人を眼力だけで殺してしまうような目をしている時のユリが一番好きだったりする。何故か不思議と胸がキュンとするのよね。ギャップ萌え的なやつかしら。
しばらく書類処理をしていると、ゼノが部屋に入って来て、ユリに何かを報告していた。
「それで、お前は着いてこれるのか?」
「問題ありません。見つからぬように動きます。」
「そうか。」
いつも思うけれど、会話が不穏だわ。それから瞬きをする間にゼノって消えてしまうのよね。ゼノって本当に不思議な存在。
ふいに私の目が真っ暗になった。ユリがいつのまにか背後に回って目隠しをしている。
「どうしたの?」
「ゼノが気になりますか?」
「!?」
「横目でみているのが分かりました。」
「ちょっと、不思議な存在だなって思っただけよ。」
ユリは私の耳元で「本当に?」と囁いた。吐息が耳にかかりくすぐったい。
「だって、瞬きした瞬間に消えるんだもん。」
「ゼノは幼少期に俺の母上に色々と人体実験を施されて、透明化や他の特殊能力を自在に扱えるようになりました。」
「えっ!?」
ユリは私の目を解放した。
「今、姿を現しているのはゼノだけですが、他の俺直属の部下は皆、母の実験台にされ、何かしらの特殊能力が備わった平民です。そういった者は様々な理由から二度と、表舞台へは上がれません。メイが現れるまでは、俺もそのうちの一人となるところでした。なので、俺を捨てないでくださいね。メイ」
「ん?結局、ゼノを見ていた私に嫉妬したのね?」
「おや、察しがよろしいですね。他の男のことを考えているメイなんて見たくないと思ってしまいました。」
「ある程度は知っておかないといけないでしょ?レッドナイト公爵夫人なわけだし。」
「なるほど。それは一理ありますね。なら、資料を用意しておきます。本一冊分にはなりそうですが。」
「う…。ユリって優しいような厳しいような…。」
ふとユリが机の上に置いてある招待状を手に取って差出人を確認する。
「今度はシルバークイーン侯爵の領地で船上パーティーですか。これはまた、面倒ですね。」
「そうなのよ。それでね、あそこの領地って広大な海があるでしょ?ルーを連れて行きたいなぁって思ってるの。」
「海…ですか。メイ、残念ながら、シルバークイーン領の水は全て淡水です。」
「えぇ!?あれ全部淡水だったの!?」
「はい。本物は海はレッドナイト公爵領の奥地にあります。」
「そうなの!?」
「メイにはまだ早いと思って、伏せておりました。塩田の管理もろもろの書類もメイには見せないようにと命令してました。」
待って、塩って異国からの輸入じゃなかったの!?まさかレッドナイト公爵領からのものだったなんて…。
「レッドナイト公爵領が豊なのは火の魔石と情報ギルドの稼ぎだけではありません。塩田はもちろん、魚介類等もうちからの産出です。ですが、それが表にでては他所から反発をくらうのが目に見えております。なので、他国からの輸入ということにしてあるのです。」
「…ますます凄いわね。レッドナイト公爵家って。知らないことだらけだわ。」
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