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王都で開かれる花のお茶会当日、主催者のエメロッサ子爵夫人は絶賛社交界の花とも言われる美しい女性だった。 しかし、そんな彼女は自分より目立つ私に少し意地悪をしようと企んでいた。
エメロッサ子爵夫人は私にだけドレスコード指定がブルーと書かれた招待状を送ってきたが、ユリのおかげでドレスコードがピンクであることを事前に知り、ピンクのドレスを着ていくことができた。
お茶会の会場に到着すると、華やかなピンクのドレスを纏った貴婦人たちが集まり、会話の花を咲かせていた。 私もピンクのドレスで参加し、その中に溶け込むように自然に振る舞った。 ユリは透明化を使い、私の側にいてくれていて、私に何かあった場合にはすぐに対処できるよう準備を整えていた。
エメロッサ子爵夫人は私を見て、少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑みを浮かべて近づいてきた。
「メイシール夫人、ごきげんよう。今日はお越しいただきありがとうございます。」
彼女は優雅にお辞儀をした。
「ごきげんよう、エメロッサ夫人。お招きいただき光栄です。」
私も微笑んで返した。
「ところで、メイシール夫人。今日は何故ブルーのドレスではないのかしら?」
エメロッサ子爵夫人はわざとらしく尋ねた。私は内心でその意図を見抜きながらも、冷静に答えた。
「実は、私の夫が昨夜、招待状を再確認してくれまして、ドレスコードがピンクであることを知ったのです。おかげでこうして皆様と同じドレスコードで参加できて、本当に良かったです。」
エメロッサ子爵夫人は少し動揺した様子だったが、すぐに取り繕った。
「そうでしたか。それはお優しいご主人ですね。どうぞ、おくつろぎください。」
その後、お茶会は和やかに進んだ。 美しい庭園でのティータイムや、華やかなデザートが並ぶビュッフェは見事で、貴婦人たちの会話も盛り上がった。
お茶会が進むにつれて、今度はシルバークイーン家のご令嬢が私に絡んできた。
「メイシール夫人、あなたのドレスは本当に美しいわね。どちらのデザイナーかしら?」
「王族御用達のデザイナーにオーダーメイドしていただきました。」
「素晴らしいですわ!」
その話を聞いていたエメロッサ夫人は此方を睨みながら、明らかに内心では悔しそうだった。そして、エメロッサ子爵夫人が割り込むように再び話しかけてきた。
「メイシール夫人、お噂はかねがね伺っておりますわ。確か、あなたは12歳で結婚され、そして子供をお産みになられたのですよね?」
彼女の言葉には、ほのかに蔑みが感じられたが、私は笑顔を崩さずに答えた。
「はい、そうです。若くして家族を持つことができ、とても幸せです。」
すると、隣に座っていた別の貴婦人が興味深げに尋ねてきた。
「でも、どうしてそんなに早く結婚なさったのですか?何か特別な理由でも?」
「そうですね、家族の事情もありましたし、何より、ユリドレと一緒にいることが私の幸せだからです。」
「ユリドレ公爵様を魅了するために、何か特別な手を使われたのではなくて?」
彼女の言葉には明らかに意地悪な意図が込められていたが、私は冷静に返事をした。
「互いに理解し合い、自然と惹かれ合いました。特別な手を使ったわけではありません。 ただ、真実の愛です。」
周囲の貴婦人たちから、私に対する嫉妬や興味が交じり合った視線が感じられた。
「でも、本当に若い年齢での結婚は珍しいですよね。特にあなたのような美しい方が、そんなに早くに家庭を持つなんて。」 別の貴婦人が紅茶を啜りながら意地悪く笑いながら言った。
すると貴婦人の啜っていた紅茶がブワァッとこぼれた。まるでティーカップの底を誰かが押したようだった。その瞬間、ユリが何かをしたということを感じた。
「きゃぁ!」
「まぁ!はしたない!」
周囲の貴婦人たちがざわめき始めた。貴婦人も驚いて立ち上がり、こぼれた紅茶で汚れたドレスを見て顔をしかめた。
「まぁ、大丈夫ですか?」
私はすかさず優しく声をかけると、貴婦人は少し顔を紅潮させ、気まずそうに笑った。
「あ、ありがとうございます。ちょっと手が滑ってしまったようです。」
「すぐにお手伝いを呼びますね。」
私は貴婦人に微笑みかけ、近くの使用人に声をかけてタオルと新しいティーカップを持ってきてもらった。
使用人が素早く対応し、テーブルを拭き、貴婦人に新しいティーカップを差し出した。 周囲の貴婦人たちも少しずつ落ち着きを取り戻し、再び談笑を始めた。
「彼女が12歳で結婚して子供を産んだなんて、信じられないわ。どんな手を使ったのかしら。 ユリドレ公爵を陥れたに違いないわね。」
その言葉が耳に入ると、私は呆れてしまった。今さっきその質問には答えたばかりだというのに、まだ懲りずに同じ陰口を叩くなんて…。
突然、その貴婦人のティーカップがテーブルから滑り落ち、彼女のドレスに紅茶がかかった。
「きゃあ!」
「何が起こったの?」周囲の貴婦人たちが驚いて声を上げた。
私はユリが何かをしたことを感じた。 彼が透明な姿で私を守ってくれていると知っていたからだ。 貴婦人は驚いて紅茶を拭き取ろうとしたが、なかなかうまくいかず、顔を真っ赤にして困惑していた。
「あら、大丈夫ですか?」私は彼女に声をかけ、またもや使用人を呼んで対応してもらうようにした。
「すみません、手が滑ってしまったようです。」
その瞬間、彼女の帽子が突如として風に吹かれたように飛び、地面に落ちた。 貴婦人はさらに困惑し、帽子を拾おうとしたが、まるで見えない手が彼女を妨害しているかのように感じた。
「あの、こちらに座って少し落ち着かれては?」
私は彼女に優しく言い、彼女を助け起こした。 彼女の顔には恐怖と困惑が浮かんでいた。
ユリは見えない姿で、私を守るためにこの貴婦人に軽いお仕置きをしていたのだ。
私は、これ以上の混乱を避けるために周囲の貴婦人たちと話を続けた。
「まあ、お茶会でこんなことが起こるなんて珍しいですわね。でも、こういうハプニングもたまには楽しいですね。」 私は笑顔で周囲に話しかけ、場の雰囲気を和らげようとした。
エメロッサ夫人も同調し、「そうですね、時には予期せぬ出来事も楽しいものですわ。」と笑顔を見せた。
お茶会が佳境に差し掛かり、貴婦人たちもリラックスした雰囲気に包まれていた頃、ドアが静かに開かれ、そこにとても美しく着飾ったユリが現れた。
(素晴らしい早着替えだわ。さっきまで近くにいたのに。)
彼の登場に、部屋の中の貴婦人たちの視線が一斉に彼に向けられた。 ユリはレッドナイト公爵家の正装に身を包み、淡い金の刺繍が施されたシャツがその存在感をさらに際立たせていた。 彼の姿はまるで物語に登場する王子様のようで、その美しさと威厳に、貴婦人たちは思わず息を呑んだ。
ユリはゆっくりと歩みを進め、私の前に立った。 そして優雅に一礼した。
「メイシール、時間だ。迎えにきた。」
その声はとんでもなく低く、棒読みでぶっきらぼうな口調で、せっかくの物語の王子様のような美しい見た目なのに、何かが台無しで可笑しかった。私はまた吹き出してしまいそうになったか、なんとかこらえた。
私は立ち上がり、ユリの差し出した手を取った。
「ありがとう、ユリ。」
その瞬間、ユリは私の手を優しく握り締め、そっと引き寄せて抱きしめるようにエスコートしてくれた。 貴婦人たちの目がさらに彼に釘付けになり、その中でもエメロッサ夫人は少し驚いた表情を浮かべていた。
「メイシール夫人、ユリドレ公爵様、本日は本当にありがとうございました。」
エメロッサ夫人が丁寧にお辞儀をした。
「こちらこそ、素敵なお茶会にご招待いただき感謝しております。」
ユリは私をエスコートしながら、他の貴婦人たちにも射殺すような眼差しをしながらも、優雅に頭を下げた。 そして、まるで舞踏会の一幕のように、私たちはその場を後にした。
廊下を歩きながら、ユリが静かに囁いた。
「メイ、もう表情を崩してもいいか?」
「まだ、馬車に乗るまで我慢してください。」
しばらくしてやっと玄関を出て馬車に乗り込んだ。馬車に乗り込んだ瞬間、ユリの顔は疲労と安堵が混じった表情に変った。そして、深いため息をついた。
「あぁ、メイ!もう茶会に行かないでください。あんなおぞましいところへ行く必要ありません。あなたが傷つくのを見ていると、胸が痛むんです。もっと楽しい時間を一緒に過ごしましょう。」
ユリの声には、本気で心配する気持ちが滲んでいた。
「そうね、でも社交界での活動も大切なのよ。私たちの未来のために。」
私はユリに理解を求めるように言う。
「わかっています。ですが…あぁ、なら、せめて帰ったらメイが傷ついた分、俺が沢山愛を伝えますね。」
「ふふふ。愛したいだけじゃない。でも、ありがとう。」
私はユリが理解してくれたことに安心し、ユリの肩に頭を預けた。 馬車は静かに走り出し、私たちはしばらくの間、言葉を交わさずに寄り添っていた。
難しい…夫人とか貴婦人とか呼び方あってますか!?ご容赦ください…。
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