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ゴールドキング公爵領での二泊三日の旅行が終わり、私とユリはレッドナイト公爵領へと戻ってきた。 帰還してすぐに、ユリの謹慎処分が解かれたという通知が届いた。 さらには、これから様々な社交場に出席する必要があるため、拠点をしばらく王都に移さなければならないということも知らされた。
私たちは帰ってからすぐに、王都へ移るための準備に追われることになった。 まずは必要な物品のリストを作成し、それぞれの役割を分担して効率的に準備を進めることにした。 ミレーヌとゼノも手伝ってくれることになり、彼らに感謝しながら準備を進めていった。
「メアルーシュ様のおもちゃと服は全部持っていきますか?」
ミレーヌがリストを見ながら尋ねた。
「いや、一部だけでいいわ。王都での生活が安定するまでは、必要最低限のものだけで十分よ。」
私はそう答えながら、リストにチェックを入れていった。
ゼノは運搬の手配をしてくれた。 荷物が多いので、いくつかの馬車を手配し、それぞれに分けて運ぶことにした。
ユリは部屋で書類の整理をしていた。 机の上には王都での活動に必要な書類や招待状などが山のように積まれていた。
「メイ、そちらは順調ですか?」
「えぇ。ミレーヌもゼノも手際がよくて助かるわ。」
「ユリ、何をそんなに悩んでるの?」
ユリは招待状を手に取っては仏頂面をして返事を書いていた。
「全て断ってしまいたいと思うほど、悪意のある招待状ばかりです。」
「…って、私宛のじゃない!勝手に返事書かないでよ。」
「妻を守るのは夫の務めです。」
「出れるものは出ておかないと、私が若いからって、どんどん舐められていくわ。出ましょう。」
「しかし…。」
「側にいてくれるんでしょ?」
「もちろんです!!」
「なら、恐いものなしじゃない。ね?」
「はい…。」
「ほら、書類の処理手伝うから、機嫌治して。」
私はユリの隣に座り、一緒に書類の整理を始めた。
「そういえば、シリルお兄様はどうするのかしら?」
「ん?兄君は、ここに残るはずですよ。俺の妹の面倒を見て下さるそうです。それが兄君にとっての最善であり癒しになると思います。」
「…よくわからないけど、そうよね。子供って大変だけど、癒されるわよね。」
ユリは微笑んでいた。その微笑みには何かしらの意味が含まれていそうだったけれど、私はあえて追及しなかった。ユリを信じてみようと思っているから。
こうして、私たちは新たな生活のために王都へと出発する準備を整えた。
王都出発当日、シリルお兄様がユリの妹を大切そうに抱っこしながら見送りに来てくれた。 彼の姿を見ると、心に暖かさが広がった。
「気をつけて。何かあったらすぐに連絡してくれ。」
「ありがとう、シリルお兄様。」
「こちらにいる間、妹のことをよろしくお願いします。」
「もちろんだよ。彼女のことは心配いらない。 安全に気をつけて。」
シリルお兄様は微笑んだ。
ユリはシリルお兄様に深く頭を下げてから、私とルーを馬車に乗せた。 馬車の中は広々としていて、ルーは興味津々で窓の外を見ていた。 「いってきます!」とルーが元気よく手を振ると、シリルお兄様はニコリと笑った。
最初にここへ来たシリルお兄様はとても病んでいたから心配だったけれど、少し元気になったみたいで安心したわ。
「さあ、出発しましょう。」
ユリは優しく私たちに声をかけた。
馬車がゆっくりと動き始めると、私たちは新たな生活へ心を躍らせた。 道中、ユリと私はこれからの計画や、王都での生活について話し合った。
「メイ、王都では、まず花のお茶会に参加されるのですよね?」
「えぇ、その予定。ただ、ドレスコードが私だけ別のものを書かれている可能性があるのよね。前の人生では2回ともピンクを指定してたはずなのに、今回はブルーなのよ。」
「王都についたら真っ先に俺が直々に調査します。」
「え!?う、うん。」
ルーは窓の外を見ながら楽しそうに景色を眺めていた。 「お外、いっぱい!」と興奮した声で言う。
「ルーも王都で楽しいことがたくさん待っているわよ。きっと素敵な友達もできるわ。」
「とおーあちー?」
「ルーの社交も俺が側についていないといけませんね。」
「ちょっと、体がいくつあっても足りなくなるわよ?子供のことは、子供にまかせましょう。身の安全はミレーヌかゼノにまかせるわ。」
「ですが…。」
「なら、私がユリのスケジュール表をみて問題なさそうな時だけついていっていいわよ。」
「そ、それは…だめそうですね…。我慢します。」
ユリは少し血の気の引いたような顔をして俯いた。
ほら、今でも無茶なスケジュールなんじゃない。夜な夜な情報ギルドの仕事へ行ってるのも知ってるんだからね。
正直、私のお茶会の護衛もしてほしくないのだけれど、毒の危険性がある以上側についていてもらわないといけない。毒の体勢訓練は私も始めたいが、ユリがもうなんというか、暴走しまくるせいで、いつ妊娠してもおかしくないので、なかなか訓練することが難しく、この先訓練する機会があるのかどうかも怪しいくらいだった。なので、もうユリに責任をとってもらうしかなかった。
「んー、嫌だけど、またドレスも新調しに行かないといけないわね。」
ユリが不思議そうにこちらを見た。
「え?嫌なんですか?」
「嫌というか出費が嵩むじゃない?」
「金の心配ならいりません。湯水のように使っていただいても底は尽きませんよ?」
ユリは満面な笑みを浮かべる。
「ありがとう。」
私は感謝の気持ちを込めてユリに微笑みかけた。 でも、ユリに甘えてばかりじゃいけないわ。 何かビジネスを始めようかしら。 そう考えた瞬間、ユリが鋭く察して言った。
「メイ、もしかして新たにビジネスでも始めようと考えていますか?」
「え!?」
私は驚いてユリを見つめた。 どうしてわかったのだろう?
「本当にその必要はありません。ビジネスなんて始められたら、俺との時間が余計に減るじゃないですか。 俺は許しません。」
ユリは優しく、しかし真剣な表情だった。
「でも、ユリにばかり負担をかけるわけにはいかないし…」
「幼い頃は、母に無理矢理、情報ギルドの長になるべく厳しい訓練を強いられ、卓越した技術やノウハウを徹底的に仕込まれました。俺の未来も、公爵ではなく、ただの情報ギルドの長のみでした。 それがとても嫌で仕方がなかったんです。」
ユリは淡々と語り始めた。私は驚きと共に、ユリの苦労を思いやった。
「でも、メイが俺を選んでくれたことで全てが変わりました。あれだけ嫌だった組織も、今ではメイを守るための大切な道具です。 もう嫌な気持ちはありません。 むしろ、続けたいと思えるようになりました。 だから、俺の負担はもうないんです。」
ユリの目は優しく、それでもしっかりとした決意が込められていた。
「ユリ…」
私は何も言えずにユリを見つめた。
「メイ、アナタがいるから俺は無敵です。だから、何も心配せずに俺に頼ってください。」
「もぅ、そこまで言われると頼るしかないじゃない。わかったわ。私が豪遊しても文句言わないでね。」
ユリは満足げに頷き、再び私の額に優しくキスをした。
「それでこそ、俺のメイです。」
その後、私たちは王都に到着し、忙しい日々が始まった。
その後、私たちは王都に到着し、忙しい日々が始まった。 ユリは到着してすぐにいつもの黒いボディースーツを纏い、深夜に各屋敷に忍び込み、招待状を見て回ってくれた。 その結果、やはりドレスコードはピンクだった。 ユリはかなりご立腹で、茶会へ来ていく軽い感じのドレスをわざわざ王族御用達のデザイナーにオーダーメイドし、アクセサリーも意味の分からない額のものを購入していた。
「ユリ、本当にそんなに高価なものを買わなくても良かったのに…」
私はその額を見て驚きながら言った。
「メイ、これは必要な投資です。あなたが最も美しく、そして最も輝くためには、最高のものを用意するべきなんです。」
ユリは真剣な表情で答えた。
その後、デザイナーさんが私の新しいドレスのフィッティングに来てくれた。 ピンクのドレスは華やかでありながら上品で、細部にまでこだわりが感じられる一品だった。 アクセサリーもドレスにぴったりで、私の姿を一層引き立ててくれた。
「素敵です、メイシール様。本当にお似合いですよ。」 とデザイナーさんが微笑んで言ってくれた。
「あぁ、ユリは本当に女神ですね。美しいです、素敵です!!なんて可憐なんです?これ以上俺を誘惑してどうするつもりです…。」
ユリは涙を流していた。
「あ、ありがとう、ユリ…。」
「メイ、あなたのためなら何でもします。あなたが幸せでいることが、俺の何よりの喜びですから。」
ユリは膝まづいて私の手の甲にキスをする。
(あ、愛がおも~~~い!!)
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