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王宮のお茶会当日の朝。
私は震えていた。体はガクガクと震え、顔色は青かった。
「お嬢様、やはり今日は…。」
ミレーヌはそんな私を見て心配そうな顔をしていた。
「いいえ。今日は絶対に行くわ。準備して頂戴。」
「畏まりました。」
今日をしくじれば、また数年生きた後に戻ることになりそうな気がしてならない。用意したものは薬だった。それも妊娠しやすくなる薬、そして催淫効果のある麻痺薬。
もうこれしかない。ただ、12歳で妊娠をする恐怖に震えがとまらないのだ。この日の為に自身の体の調整も行ってきた。やるしかない。
私が今日選んだドレスは、飛び切り幼く見えるものだった。 それはただの何も知らない奔放な12歳に見せかける必要があったからだ。
お父様にエスコートされて、馬車に乗り込んだ。
「本当に良いのだな?」
「はい。」
「メイシール。本当にそれで幸せになれるのか?」
「もう死にたくはないのです。お父様なら、分かるでしょう?」
「そうだな…。」
馬車はゆっくりと王宮の門前に到着した。 その壮大な建造物が、私の前に威厳を誇示しながらそびえ立っていた。 私は心を落ち着け、この新たなる挑戦に臨む覚悟を固めた。 父の支えに背中を押され、王宮へと歩みを進めていった。
お茶会は女性ばかりで、男性はほとんどおらず、そんな中、真っ直ぐと私を連れた父は警備にあたっていたユリドレ・レッドナイトに近付いた。 彼の目は鋭く、警戒心に満ちていたが、その一方で優雅な雰囲気も漂っていた。
ユリドレ・レッドナイトは黒髪に何本かの毛に、家門の特徴である赤い毛が混じっていた。 そして、彼の瞳の色は美しいルビーのようにキラキラと輝いていた。 その眼差しは鋭く、力強さと高貴さを同時に感じさせた。
どの家門の当主も大変イケメンなのだが、ユリドレだけはダークな雰囲気がより一層魅力的だった。 彼の魅力は、その深みのある瞳や優雅な立ち居振る舞いに加えて、高身長でスラリとした感じもまた、ユリドレの魅力を一層際立たせていた。 彼の優雅な立ち姿は、まるで王宮の中でも一際目立つ存在であり、その存在感に周囲の注目が集まっていた。
「ユリドレ殿、今宵はお会いできて光栄です。我がジョナサン・ブルービショップより、心からの挨拶を申し上げます。 また、私は今日、重要な取引の話をさせていただきたく存じます。」
ユリドレの眉が一瞬ピクリと動いた。
「何だと?私は忙しい。 見ての通り警備をしている。」 ユリドレが厳しい表情で応じる。
「はい、ですが、実は今日、お茶会とは別件で私用がございまして、娘を少し預かっていて欲しいのです。何分他の令嬢と比べてまだまだ赤子のような娘でして、私がいない間に粗相をせぬか心配なのです。」 ジョナサンは懇願するような口調で語った。
私も一生懸命無邪気で知恵が遅れているかのように振る舞った。
「無理だ。他を当たってくれ。」
「ただでとは言いません。アレースティア地方の鉱山を差し上げます。」
「なんだと?正気か?」
ユリドレの声には驚きと疑念を込められていた。
「それほど重要な案件がございまして…王宮内に部屋を一室借りておりまして、そこで娘を見ててほしいのです。」
父は契約書を懐から取り出し、ユリドレに見せた。 その契約書には、アレースティア地方の鉱山の所有権が明記されていた。
とても怪しいが、契約書には怪しいところはなく、ユリドレは娘を見るだけならと承諾してくれた。
私はユリドレに抱っこされ、父とユリドレと一緒に借りている部屋に入った。 その部屋は広々としていて、高い天井があり、贅沢な調度品が並んでいた。
「それではユリドレ殿、よろしくお願いします。」
「あぁ。」
とても冷たい眼差しを持つ人。それが第一印象だった。睨むだけで人を殺せそうだわ。
この借りた部屋には既に様々な仕掛けがあった。
(上手くいくといいけど…。)
「わーーーー!!メイねぇ~、ジュースのみたーーーーい!!このじゅーす!!」
私はテーブルに置いてあるジュースを指差した。
(は、恥ずかしーーーー!!!これはいくらなんでも恥ずかしいわ!!!)
とんでもなく冷たい目をして無表情で、後ろに吹雪が吹き荒れているかのような錯覚がおきた。
ユリドレは私を軽蔑したような目でみつめながらも、ジュースをコップに注いで渡してくれた。
「パパがねー、どくが入ってるからー、ごっくんするまえにだれかにあじみーって言ってたー!」
まさにここが難関だった。無味無臭に調整された強い催淫効果のある麻痺毒。気付いてしまったらどうしようかとハラハラする。そもそも、こんなに嫌がっているのに毒見なんでしてくれるのだろうか。笑顔を保ちながら不安で仕方がなかった。
「飲め。」
コップを押し付けられてしまった。
「いつもヒリヒリするからこわいー!またずっとねんねしてないといけないかも・・・。」
私は暗い顔をして涙を流してみた。
流石にユリドレは溜息をついて一度渡したコップを奪い、一口コクリと飲んだ。
この毒はすぐには効かない。飲む瞬間を見たと同時に私は走ってベッドに座り、ジュースを頂戴といわんばかりのポーズをとった。
ユリドレはコツコツと歩き、コップを私に渡してくれた。
「にーに、もすわってー!」
渾身の屈託のない笑みを浮かべた。ユリドレは深い溜息をついて、私の隣に座った。
「わぁー!じゅーすだー!!こっぷもきれー!」
こっぷを眺めて時間を調整していると、ユリドレが体の異常に気付き、咄嗟に私の持っているコップを払った。 しかし、すぐにベッドに倒れ込んでしまった。
「にーたん、だいじょーぶ?」
苦しそうに息を荒くするユリドレ。 彼の顔には苦痛の表情が浮かび、汗が額に滲んでいた。
上手くいった安堵で涙が出てしまった。
―――貴方を利用してごめんなさいね。
私はそこで初めてを散らした。どうすれば良いかは分かっていた。2度も経験しているのだから当たり前だ。彼が意識を失うまで私は何度も彼を執拗にせめた。
起きれば彼の記憶は倒れたところまでしか覚えていないはずだ。これは何度か使用人で試した結果だった。
私は何も知らずに沢山涙流して無理矢理襲われたかのように自分の服を裂いた。後は眠るだけだった。
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しばらくして、衣擦れの音で目が覚めたが、目を開けないようにした。
「は?…なんだこれは。」
ユリドレは焦って被っていた薄い布団をはいだ。すると散らした痕跡を確認したのか「嘘…だろ…。」と少し震えた声で呟いた。
「起きろ…。おい…。」
揺すぶられて目を開け、私がとった行動は絶望と恐怖に満ちた演技だった。 アジャールに、レオルに裏切られた時の顔を思い出して演じるように心がけた。
すると、ユリドレは私に触れようとしてきたが、視線は下にうつり、自身の欲望を満たした後を見てユリドレも絶望した顔をしていた。
私は嫌な記憶を一生懸命思い出して、小刻みに震えてから意識を失ったふりをした。
「終わったな…。」
ユリドレはベルでメイドど呼ぶと、驚いた事に6人も来てしまったのだ。これも作戦であった。一人では口止めされて終わりだが、6人となれば口止めできまいと考えたのだ。
ユリドレは部屋の後始末と、私の服を用意させた。意識を失ったふりも大変だった。ユリドレの洞察力は優れているので、ばれないかとヒヤヒヤする。
メイドは丁寧に私に服を着せてくれた。
「そんな…お嬢様が…。」
メイド達はショックを受けたような顔をしてくれた。 もちろん、彼女らもうちで買収済みのメイドだ。そんなメイド達の反応を見てか「チッ」と舌打ちをするユリドレ。
彼は今どんな表情をしているのだろうか。私の問題に巻き込んでしまうのは申し訳ないけれど、もう貴方しか都合の良い男性はいないの。ごめんなさい。
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