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とある昼下がり、私は書類処理を終えて、転落事故からが帰還したという自分達の新聞記事を読んでいた。するとユリは黒のボディースーツに着替え始めた。情報ギルドの仕事へいく時は必ず、その服装をする。
「ユリ、ギルドの仕事にいくの?」
「はい。このままではゼノが過労死してしまいそうなので、俺が終わらせてきます。夜には戻りますから、いつも通りにして待っててください。」
「わかった、気を付けてね。」
「はい。俺の可愛い奥さん。」
ユリは近寄って、私にキスをしてから窓から出て行ってしまった。
何故、いつも窓から…。
それにしてもレッドナイト公爵家はとても不思議な場所で、私の知らない知識や、医療面も10年後の王都以上に発達していた。
今日は公爵邸内の書物庫に出向くことにしてみた。 部屋のベルを鳴らすと珍しくゼノが現れた。
「どうされましたか。」
彼は休暇中か何かではないのかしら。 ユリからゼノは休暇を与えても仕事をしてしまうって聞いていたけれど、本当みたいね。
「書物庫に行きたいのだけれど、案内してくれる?」
「承知致しました。」
ゼノは丁寧に案内してくれた。そして、書物庫に入ってみれば、とても広くて王宮図書館にも引けをとらないほどだった。
「うわぁ… 流石に凄いわね。」
近くの本を手に取ってみると、どれも異国出版の本なようだった。 そして、世界の歴史書に辿り着いてしまう。 そこには他国から見たホワイトホスト王国について綴られていた。 強力な結界によって守られたその国は完全に鎖国されており、貿易も厳しい調査が行われる。 その調査を行っているのはゴールドキング公爵家。 ある程度鎖国国家なのは王妃だった人生で学んではいるけれど、ここまで厳しく鎖国していたなんて…。
「ゼノ、この国は本当に鎖国されているのね。」
「はい、若奥様。ホワイトホスト王国は他国との接触を極力避けています。 それも国を守るための一環です。」
「でも、それだと文化の交流が全然ないわ。 どうやってこんなに発達したのかしら。」
ゼノは少し考えてから答えた。
「レッドナイト公爵家は特別に外交が許された家の1つです。公爵家の歴史と知識は他の家とは一線を画します。 医療も、学問も、全てが王都以上に進んでいます。」
「本当に… 不思議な場所ね。」
ゼノがうなずくのを見て、私はさらに興味をそそられた。
私の実家も外交が許されていたけれど、ここまでの発達はなかった。むしろ遅れているくらいだ。
書物庫の奥へと進み、様々な本を手に取ってはめくった。 ここには、私が知らない世界が広がっている。 未来の王都でも見たことがないような知識が詰まっていた。
「ここなら、たくさんのことが学べそうね。」
「そうですね。 若奥様のお役に立てる情報がきっとたくさんあるかと思います。」
ゼノの言葉に励まされながら、私は本に没頭することにした。 レッドナイト公爵家の書物庫には、まだまだ私の知らない秘密が隠されているに違いない。
本に没頭していると、いつの間にか夜になっていた。 気づけば、ユリがバスローブを纏って、私の隣に立っていて驚いてしまう。
「うわぁっ!? いたの?」
「はい。いつ、お気付きになるかと、試しておりました。」
「教えてよ~。 ルーをまた一人にしちゃったじゃない。」
「それはすみません。夕食もまだと聞いています。 行きましょうか。」
「うん。」
ユリの手を取って立ち上がり、書物庫を後にした。
ルーは疲れて眠ってしまっているらしく、二人で夕食をとることになった。
「熱心に歴史書を読んでいらっしゃいましたね?」
「えぇ。私が知っている歴史書とだいぶと違うから面白くなっちゃって。」
「ほぅ。嘘の歴史書だとは思わなかったのですか?」
「えぇ。この国は嘘だらけだですもの。ずっと、真実を知りたいと思ってたから嘘だと思わなかったわ。むしろ想像通り。」
「そういうものですか。俺はその嘘で甘い夢を永遠に見続けられるなら、それはそれで良いと思っています。」
「ユリ…。」
「それはそうと…。」
ユリは席を立って、私に近寄り耳元で「一緒に湯浴みをしませんか?」と囁いてきた。
「先に入ったんじゃないの!?」
「それとこれとは別です。」
「何が!?」
「俺はいつもの通りに待っていて欲しいとお願いしました。なのに、俺のことなど忘れて、本にかじりつき、隣に俺がいても気付いてもくれませんでした。この寂しさを埋めるには共に湯浴みするしかありません。」
(始まったわ…ユリの暴走。)
「分かりました。」
そういうと、部屋から使用人が下がりだして、私は顔がカァッと熱くなってしまう。もぅ、そういうことします!みたいな感じに思われてるじゃないの!!
「さぁ、行きましょう。」
そんなこんなで甘いバスタイムが終わり、ぐったりとベッドに横たわると、ユリが私の上に覆いかぶさってきた。
「ユリ… まだ愛し足りないの?」
「もちろん、俺はもっともっと、メイに愛を伝え… っ!?」
その瞬間、窓の外からパリンッと小さな音を立てて矢が飛んできて、ユリが手でパシッと受け取った。 ユリは笑顔を絶やさないまま続けた。
「メイに愛を伝えたいと… っ!?」
また窓の外からパリンっと小さな音がして二本目の矢が飛んできた。 それもユリが手でパシッと受け取った。 そして、笑顔を絶やさずに怒り筋を立て、バキィッと矢を握り潰した。
「あの… 流石にこれって、寝込みを襲われる的なアレよね?」
私は普通なら恐がるところだろうが、ユリの行動があまりにも面白すぎて冷静になってしまっている。 流石のユリも、いつもの外の顔、目で人を殺してしまいそうな殺気を放つ仏頂面に切り替わり、窓をじっと見つめた。
「チッ。 警備はどうなっている。」
すると、側に見知らぬ黒ずくめの人がサッと現れた。
「それが… 外で矢を放っているのは、若奥様の兄気味、シリル様で…。 我々もどのように対処すべきか判断できませんでした。」
「え!? お兄様が? こんな時間に?」
「いえ、お二人が夕食を召し上がり終わった後、すぐの御到着でして賓客室にご案内し、お寛ぎになっていたはずですが、お二人の湯浴み時間があまりにも長く、痺れを切らしたのかと…。」
ユリは深いため息をつき、ベッドから立ち上がった。
「分かった。今すぐメイの兄君に会いに行く。 メイ、一緒に行きますか?」
私は少し困惑しながらも、コクリと頷き、ユリと一緒に部屋を出た。 シリル兄様がこんな風に来るなんて、一体何があったのだろう。
しばらく客室のソファーに二人で座って待っていると、シリルお兄様が入って来た。
「夜分遅くに失礼します。 どうしても急ぎ、確認したいことがありまして
久しぶりに見た兄の顔は随分とやつれていて、目の下には深いクマができていた。 ちゃんと眠れていないのだろうか、こんなことは今までの人生ではなかったはずなのに…。 一体何が狂ってこうなってしまっているのだろうか。
「確認したいことというのは、俺に妹がいるかどうかですか?」
「… っ!? 何故それを…。」
「えっ!?どういうこと? お兄様。」
何故、シリルお兄様がユリの妹を気にするの?
「メイ、兄気味は回帰してるんだよ。」
ユリがそう説明してくれると、あぁ、なるほどと思ったのと同時にシリルお兄様がユリの胸倉を掴んで、座っているユリを立ち上がらせた。
「どうしてお前が知っている!!メイシール!! お前がコイツに言ったのか!?」
「お兄様手を放して! それに…私は…。」
「公爵家の裏の顔… ご存知じゃないわけじゃないでしょう? あまりうちの情報網を舐めないで頂きたい。 ですが、ご安心ください。 これを知るのは俺だけです。 悪用など一切しておりませんから。」
兄は手を離した。 ユリは再びソファーに座りなおした。
「他で知ってしまったのなら、仕方がないな。すまない。 無礼をした。」
「いえいえ、お気持ちお察し致します。」
「お兄様… どういうことなの? 学校は?」
「学校?あんな子供遊び場にもう用はない。 飛び級試験を受けて今日卒業してきた。」
「今日!?待って、えっと… お兄様は何度目の人なの?」
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