27p
目を開けると見慣れた天井が広がっていた。 隣には、愛しの夫ユリと我が子ルーが眠っている。 少し前までユリは私が起きる前に起きて、夜も遅くまで起きていたようだったけれど、最近では私が起きても、まだ眠っている。 それがとても嬉しかった。 つまり、私といると気を抜けるということなのだ。
ユリの寝顔は本当にカッコイイ。 前の人生では、きっと好きになってしまいそうな顔をしていたから、極力ユリドレ・レッドナイトの顔を見ないようにしていた。 今では、そんな自分がちょっとおかしく思えてくる。
―――私、ユリの顔だけ好きみたいだわ。流石に怒られそうね。いや、拗ねるかも。
そんなことを考えながら、ユリの顔をもう一度じっくりと見つめた。 彼の寝顔はやっぱり美しくて、愛おしい。 彼が目を覚ましたら、今日は何をしようかと考えるだけで、私は自然と微笑んでしまうのだった。
しばらくすると、ミレーヌが起こしにきてくれた。 ユリドレは目をこすりながら、眠そうにしている。 かつての彼は警戒心が強かったのに、こんなに穏やかに過ごせていることが、ただただ嬉しかった。
「ミレーヌ、今日はルーを見てもらっても良いですか?」
「承知しました。本日のご予定を伺ってもよろしいでしょうか?」
「今日はメイと街へ出かけようかと思っている」
その言葉に私は驚いた。 絶対に私を外へ出さなかった、あのユリが!? 信じられない気持ちで彼を見つめていると、ミレーヌは「畏まりました」と言って、ルーを見ながら支度を始めてくれた。
「本当に街へ?」
「ああ、今日はゆっくり二人で過ごそう。」
その言葉に胸がときめいた。 久しぶりの外出、そしてユリとのデート。 心が踊るような予感に包まれて、私は支度を急いだ。
準備が整うと、ユリの格好が素敵で思わず見惚れてしまった。 ユリも私を凝視していて、二人ともお互いに見とれていたら、ミレーヌに「お二人とも、そのままでは日が暮れてしまいますよ」と言われ、我に返った。 そして馬車に乗り込み、街へと繰り出した。
公爵領の街は武器屋や防具屋が多く、最初は少し不安になったが、さらに進むとドレスやアクセサリーを売る店が見えてきて、安心した。 デートで武器や防具を揃えられたらどうしようかと思ったが、そんな心配は無用だった。
馬車が止まり、ユリが丁寧にエスコートしてくれた。 そして降りると、そのままユリに抱っこされて街を歩き始めた。
「ユリ、降ろして! 私はもう14歳よ!」
「まだ14歳です。」
「恥ずかしいの。 これじゃあ、私はユリの子供として見られてしまうじゃない。」
「なるほど、それはいけませんね。」と言って、やっと自分で歩くことを許された。
ユリの腕を軽く掴みながら、私はドレスショップやアクセサリー店を見て回った。 ユリは私の趣味を理解しているかのように、素敵な店を次々と紹介してくれた。 街は賑やかで、色とりどりのドレスやキラキラと輝くアクセサリーが並ぶ店内を歩くと、まるで夢のようなひとときだった。
「ここに来るのは初めてだね、ユリ。」
「俺は視察でなんどかきますが、女性と並んでくるのは初めてです。」ユリは優しく微笑み、私の手をしっかりと握りしめた。
わたしたちは【キネスティックチュール・ブティック店】に入った。 前の人生でもレッドナイト公爵領のこの店は、王都にも引けを取らない有名な店だった気がする。 まさかここに来られるとは…。 王妃だった人生では火山が近く危ないからと、レッドナイト公爵領へ立ち寄ることもできなかった。
店の中は息を飲むほどにキラキラとしていて、美しいドレスや紳士服が並んでいた。 私が先に目に入ったのは、ユリに似合いそうな紳士服だった。
「ユリ! これを着てみて?」
「え、もちろん良いですけど。」
しばらくユリを着せ替え人形にして遊んでいると、ユリは笑顔で少し怒った顔をして「メイ?そろそろ自分のを選ぼうか?」 と言った。 敬語も崩れていて、そこにキュンとしてしまった。 ギャップ萌えというやつだろうか。
「うん、わかった。 じゃあ、次は私の番ね。」
私は店内を見渡し、ドレスを選び始めた。 店員さんが親切に色々なドレスを見せてくれて、その中から一つ一つ試着してみた。 ユリも真剣に選んでくれて、私の姿を見ては微笑んだり、首をかしげたりしていた。
「これなんてどう?」私は淡いピンクのドレスを手に取り、ユリに見せた。
「似合いますよ。試しに着て見せてください。」
試着室に入り、ドレスを着てみると、鏡に映る自分が少し違って見えた。 華やかでありながらも品のあるデザインで、まるで別人になったような気分だった。 試着室を出ると、ユリが目を丸くして私を見つめた。
「どう?」
「あぁ。素敵過ぎます。女神です、これにしましょう。それから、これと、あれも買いましょう。」
ユリの言葉に少し恥ずかしくなったが、その言葉が心から嬉しかった。
「あぁ、あと、ゴールドキング公爵家からパーティーの招待状が届いたそうです。」
「そういえば生誕を祝うパーティーの季節だ。 でも、私達が戻ったってどうしてわかったのかしら。」
「え?あぁ、昨日の新聞に俺たちが無事に帰還したことが報道されているはずです。そう手配しました。」
「なるほど…。」
「なので、ついでにお揃いでオーダーメイドしていきませんか?」
「お揃いのオーダーメイド!?うん、そうするわ!」
ユリの提案に心が躍った。 お揃いの服を作るなんて、今まで考えたこともなかったけれど、とても楽しみになってきた。
私たちは店員さんに事情を説明し、オーダーメイドのドレスとスーツをお願いすることにした。 店員さんはとても親切で、私たちの要望を丁寧に聞いてくれた。
店員さんが案内してくれたデザインのサンプルを見ながら、私たちは相談を重ねた。 ユリは私の意見を尊重してくれて、私もユリの提案を真剣に聞いた。 こうして一緒に何かを決めるのは、とても新鮮で楽しかった。
最終的に、私たちはお揃いの赤色と黒色のコーディネートに決めた。 オーダーメイドが完成するまで少し時間がかかるけれど、その間にパーティーの準備を進めることにした。
「そろそろランチにしましょう。」
ユリが微笑みながら言うと、高級なレストランへと私を連れて行ってくれた。
レストランの入り口は大きなガラス扉で、その向こうにはシャンデリアが輝く豪華なホールが広がっていた。 スタッフが丁寧に迎えてくれ、私たちは窓際の特等席へ案内された。 窓からは街の美しい景色が一望でき、思わず息を呑んだ。
「ユリ、こんな素敵な場所を知っていたのね。」
「メイに喜んで欲しくて、王都から引き抜いて店を構えさせたんだ。」
(と、とんでもないことを言い出したわね。嬉しいけど、怒りたい。でも、まぁ…今日はいっか。)
私たちはメニューを開き、お互いに好きな料理を選ぶのかと思えば、ユリが微笑みながら言った。 「メイと一緒のものでないと味がしないのです。」その言葉に少し照れながら、私はユリの分も考えながら注文することにした。
前菜からデザートまで、一流のシェフが手掛ける料理が並び、どれも見た目も美しく、味も格別だった。 彩り豊かなサラダ、新鮮なシーフード、そしてふわふわのデザート。 どれも目にも舌にも楽しませてくれる逸品ばかりだ。
そして、いつものようにユリが先に一口食べてから、私が食べる。 この習慣はもう自然なことになっていた。 ユリが安心して食べている姿を見ると、私も安心して食事を楽しむことができるのだ。
「これ、とても美味しいわ。」
「そうですね。メイが美味しいと感じるものは俺も美味しいです。メイがくるまでは、母のせいで、どの料理も味がしなかったんですよ。」
「なるほどね。ユリって食に無関心すぎるって思ってたけど、そういうこと。」
「すみません。」
「ううん、ユリが謝ることじゃないよ。これからいっぱい美味しい物食べようね。」
「はい。」
食事を終えてレストランを出ると、私たちは手を繋いで街を歩き始めた。
「この後はどうします?」
「アクセサリーショップにちょっと寄りたいかも、その後、ルーのためにお土産を買おうかしら?」
「良いですね。ルーも喜びますね。」
風が心地よく、ユリと過ごす穏やかな時間が、何よりも大切な宝物のように感じられた。そして、二人で過ごす時間は本当に特別で、私はユリとの距離がさらに深まった気がした。
読んで下さってありがとうございます!
お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)