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レッドナイト公爵邸へ帰る馬車の中で、ミレーヌから厳しい叱責を受けた。彼女は私たちに向かって怒りをこめて言った。
「だからあれほど、お二人は心のうちを話すべきだとおっしゃったではありませんか!」
彼女の声は厳しく、その言葉には怒りがこもっていた。私とユリはその場で恥ずかしさと後悔の念でいっぱいになった。
確かに、この事件の被害者である侍女のミレーヌには十分な怒りがある。その後、私たちは回帰能力のことだけを伏せて、ユリと仲直りしたことを説明した。また、ラズベルにはあの家をプレゼントし、明後日にはレオルとのデートに行くように伝えた。ラズベルはとても驚いていて「勝手に何やってるんですか!お嬢様!」と怒っていた。ごめんね、ラズベル。でも、なんだかあの人生の私のハッピーエンドを見ているようで、応援したくなっちゃったのよ。
ミレーヌはユリの下につくことになったことを、堂々とユリの前で私に話してくれた。
その時、私は再び彼女に無理をさせてしまったことを後悔した。そして、ユリがずっと側にいたことをミレーヌが話してくれた。ユリはその話をされるのを嫌がったが、メアルーシュが「ミレーヌが話さなくても俺が話したよ」と言ったので、「すみません、つい癖で」と私に言い訳した。
夜が深まり、私たちはついに公爵邸に到着した。馬車から降りると、邸内は静寂に包まれていた。月の明かりが建物を照らし、長い影が床に伸びている。玄関をくぐり、足音が響く中、私たちは慣れ親しんだ部屋に入っていった。
「な、な、何がどうなってるの!?」
部屋に入ると、驚きの声がこぼれた。慣れ親しんだ部屋には、書類が部屋いっぱいに積み上げられていた。床に敷き詰められ、ベッドにも山のように積まれていた。
「やってくれたなゼノ。」
ユリの言葉を聞いて、ユリの直属の部下であり秘書を務めるゼノが恐らく1年間放棄したであろう仕事の書類を怒りで全て部屋に置き散らかしたのだろう。彼の怒りがそのまま書類の山となって部屋を占拠していた。
「主、月に一度は家に帰られる約束でした。破ったのは主ですというゼノのセリフ。」
いつの間にか、背後に控える目の下に凄いクマができているゼノにビクリとしてしまった。彼の声には深い悲しみと不満が込められていた。
ゼノは銀色の長い髪を後ろで束にしていて、眼鏡をかけている。その顔には深いクマがあり、レッドナイト公爵家の制服を身にまとっていた。彼の顔つきは、少しユリドレに似ているように見える。その外見からは、彼がユリの影武者として通用するだけの容姿を持っていることがうかがえる。
この家の使用人たちは、通常姿を見る機会もなく急いで去っていく。そのため、ゼノのような存在をじっくりと見ることは珍しいことだった。それほど仕事を終わらせて欲しいのだろう…。
「そうだったか?父上に回せばいいだろう。俺はまだ爵位を引き継いでない。」
ユリがそう言った後、彼は深くため息をついた。
「公爵様に仕事を回すくらいなら、ここに放置しておくほうがマシです。」
ゼノが冷静な口調で応じた。その後、彼は書類を手に取り、机に並べ始めた。
「ミレーヌ。ルーをお願いね。」
私はルーをミレーヌに預けて、書類を避けながら進んでベッド上の書類を手に取った。ゼノのことだから、早く片付けて欲しい書類はここに置いてあるはずだと思いました。そしてその予想は当たり、それらは領地関係や屋敷に関する書類ばかりだった。
何枚か書類を持ち、机に置いて判子とサインをして仕事をはじめた。
「まさか…、これを片付けるおつもりですか?」
私はユリの言葉に耳を傾けつつ、書類を片付ける作業を続けました。彼が私と一緒にいちゃつこうとしていたのは明らかだったが、この状況では仕事を優先させるしかなかった。ベッドの上に積まれた書類を一つずつ手に取り、机の上に整理していきました。
「もちろん。それが貴族の務めでしょ?」
「ゼノめ…。」
「ゼノは悪くないでしょう?むしろ、サインだけで済むように完璧に仕事をこなしてくれているわ。休暇と追加の報酬をあげるべきよ。」
ユリはゼノを一瞥したが、次の瞬間には私に向かって微笑んだ。
「確かに、ゼノは素晴らしい仕事をしてくれています。休暇と追加の報酬を与えるのは良いアイデアですね。」
「ユリは私を手伝うか、ルーの相手をするかして。」
「もちろん、メイを手伝います!!」
早速、彼は書類に目を通しながら、私との楽しい時間を思い浮かべ、手早く仕事を片付けることを目指しているようだった。
彼の手は慣れたもので、書類を丁寧に整理し、必要な手続きを迅速に行っていた。
そんなユリを見てると、つい微笑んでしまう。彼が真剣な顔で書類に向かってる姿、手際よく仕事をこなす様子が、なんだかカッコいいなって感じてしまう。こんなに彼のことが好きだなんて、アジャールやレオルを好きだった頃よりもずっと大きな気持ちになってる自分がいて、ちょっとビックリだ。
朝方になって、やっと部屋の半分くらいが片付いた。ベッドの上に山積みにされていた書類は片付け終え、今度は床やソファの上に積まれている書類を片付けるだけだった。ベッドにはもう眠れる状態になっていたので、ひとまず休憩することにした。
私がベッドに寝そべると、ユリもすぐに席を立ち、私の隣に寝転がった。
「んーー!!もう朝だー。まぶしー。」
窓から差し込む朝日が眩しく、私は眉をしかめました。するとユリは私に覆いかぶさってきた。
「ユリ…私達徹夜明け…だからね…ね?先に寝よう?」
ミレーヌやルー、そしてゼノがいなくなっていることに気づいた。部屋には私とユリの二人きりになっていた。また、ユリが彼らを下げさせたのだろうと感じた。
「私途中で寝ちゃうかもしれないよ?」
「もう…我慢してる余裕が…ありません。」
彼は恍惚とした笑みを浮かべて、少し汗をかいていた。よほど我慢していたのだろうとうかがえた。
「ユリ…戻ったら言おうと思ってたことがあるの。」
「なんです?」
―あぁ…だめだ。彼が暴走すると分かっているのにこの言葉を言わざるを得なかった―
「ユリ…愛してる…。」
その言葉で彼の目は血走り、息を荒げなら濃厚なキスをする。そんな彼の姿さえも愛おしかった。彼が狂っているように、私も狂っているわ。彼の目には私がどう映っているのだろうか。
「あぁ…メイ…メイ…メイ…。だめです…抑えがきかない…。」
「いいよ。」
彼の歪な微笑みに安心してしまう。私にだけ向ける狂った感情が、とても心地よかった。そもそも、彼は最初から見め麗しい顔立ちをしていて、私の好みだった。こんなに愛されて、愛さない方が狂っている。
朝日が昇る中、私たちはベッドの上で濃密で甘い時間を過ごした。
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公爵邸の最上階に位置する壁の中。壁に見えるように細工されたドアがあり、部屋など存在しないかのように見えるその部屋の中は、俺だけの秘密の部屋だ。暗闇の中、ひとり、ひっそりと存在するその場所は、俺にとって隠された安息の地だ。
「何故…。お前がここにいる。メアルーシュ。」
息子がまだ2歳になったばかりなのに、この部屋に来ることができることは不思議だが、彼の中身はただの2歳ではない。彼は未来から来た成人であり、その事実がますます不思議さを増す。
「相変わらず、父さんが優しいのは母さんにだけ…だな。」
ルーが少し寂しそうな表情を浮かべたとき、私はひどい罪悪感に襲われた。彼の悲しそうな顔を見て、自分の行動が彼に与えた影響に気付いた。
「すまない。酷い…父親だな。」
「全くだよ。頭は誰よりも切れて、賢いくせに、いつも自分勝手で暴走する。」
俺はその言葉に少し違和感を覚えた。
「待て…、俺は、お前に無干渉か、あるいは早くに死んでいたのではなかったか?」
「母さんにはそう言った。父さんにそう言ったつもりはない。」
やはり…息子は何らかの嘘をついている。…俺がそうさせたのか?そう教育してしまったのか?
「それと、父さんのこの計画表はいつみても凄いな。よくここまで未来を、母さんの行動を想像できる。だから少しだけ俺が書き足しておいた。あとでみ…っ!?」
俺が咄嗟に透明化を使い、とあることを施すと、息子がトサッと倒れる音が部屋に響いた。
―――もう少しだけ、俺の可愛い愛するメアルーシュでいれくれ。
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