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「ルー!何があったの!?」
「ルー!何があった!?」
私はルーに駆け寄って抱きしめた。その瞬間、ユリも駆け寄ってきて、私たちは同時に息子を抱きしめていた。その温かい包み込むような瞬間に、私とユリは顔を見合わせた。
「ふ、二人とも…痛い…。」
息子の声に、私とユリは同時に離れた。
「ごめん。」
「すまない。」
再びユリと顔を見合せた。
「二人とも、浮気なんてしていない。」
「「え?」」
私たちは同時に目を丸くし、驚きの声を漏らした。この言葉に、私たちの心はさらに混乱してしまった。
「父さんは今、母さんを殺してしまって、俺を育てることを放棄した。俺は祖父母に育てられた。それで色々あって、誰かに殺されて死んでしまった。これが俺の一度目の人生。」
「馬鹿な…俺が…。」
「ユリ…。」
その衝撃的な告白に、私とユリは言葉を失った。
「二度目の人生は、ここに回帰してすぐ父さんに、母さんが父さんの浮気を疑ってるって話をしたんだ。そしたら、父さん病んじゃって、母さんを自由にするとかいって、勝手に自害したんだ。母さんは死ぬ前に俺に言ったんだ。父さんが浮気したと勘違いしてから全てが拗れてしまったって。父さんの後を追うように母さんは誰かに殺してもらったみたでさ、俺はこれといった後ろ盾がないから、弱くて、ある程度生きたら何者かに殺されちゃったんだ。だから二人とも、生きて助けてほしいと思った。…だめかな…。」
息子の過去の苦難に、私たちは心を打たれた。これまでに起きた一連の出来事が、私たちの家族の運命をどれほど揺るがせてきたのかを、改めて痛感した。
「すまない…。待ってくれ…頭を整理させてくれ。」
「まさかルーを置いて死んじゃうなんて…。」
私は戸惑いと深い悲しみを感じた。息子の運命を思うと、心が折れそうになる。
「分かった。とりあえず、俺はメイを殺しません。それから、ルーを放置しない。先に誓おう。」
「えぇ、私もルーを置いて死んだりしないわ。」
ユリと私は、お互いに確約を交わした。息子の安全を最優先とした。
「良かった…。もう生きることに疲れそうだよ。」
長い時間を生きた2歳の我が子はまだまだ赤子だというのに大人のような疲れ切った顔をしていた。
息子の疲れた表情を見て、私の心も重くなった。彼がこれまでに経験した苦難や悲しみが、彼の幼い心を重く圧し掛かっているのだろうと思うと、胸が苦しくなる。
「ごめんなさい…。私が…いけない…のかしら。そうよね。勘違いしちゃって…。」
私はユリの浮気を勘違いしていたのだろうかと疑問だったが、ルーの言葉は嘘とは思えない。ではあの黒髪の赤ちゃんは誰の子供だったのだろうか。
「正直、驚きでしかありません。俺もメイの浮気を疑っていました。」
私は驚きを隠せなかった。ユリの言葉に、私の心は混乱し、何を信じれば良いのかわからなくなった。
「え?」
「レオル・パープルポーンと恋仲になろうしていたのを今さっき確信して、メイの人生を回帰させようと思いました。」
「はい!?」
「この1年、俺はずっとここに潜入して、メイがどうして俺から逃げているのか探っていました。様々な要素を調査しましたが、もう浮気を疑う他ありませんでした。」
ユリの告白に、私は言葉を失った。彼が一年間も私の行動を探っていたなんて、想像だにしなかった。
「違うわ。レオルはラズベルと恋仲なの。気付かなかった?」
私の言葉に、ユリが驚いた表情を浮かべた。
「すみません、気付けませんでした。てっきり、ラズベルに成り代わろうとしているのかと…。」
ユリは謝罪の言葉を口にし、軽く首をかしげた。
「あー、そうよね。確かにそう見えなくもないかも。ユリならそう考えるでしょうね。」
私は微笑みながらそう言った。
嫉妬で暴走したユリなら、きっとそう思い込んで私を殺してしまうはずだ。ユリの行動パターンはなんとなく読めてきた。
私は心の中でそう考えながら、ユリの様子を探りながら彼と向き合った。
「今度は私の番ね。1年前、別館でユリが黒髪の赤ちゃんを抱っこしてる姿を見たの。それで、ユリを抱きしめる白髪の女性。それを見て、私浮気されてたらどうしようって。黒髪の子供なんて全国探してもユリの子供でしかないじゃない。」
私はユリにその時の出来事を明かし、自分の心情を語った。
「違います!!…あー…失念していました。メイの精神状態がまだ少し不安定だったので、伝えるのは落ち着いてからにしようと思っていたんです。メイが見たのは俺の妹です。白髪の女性は母です。強いストレスによりあのような髪になったんです。」
ユリは急いでその誤解を解いた。
「い、妹!?」
私はユリの言葉に驚きを隠せなかった。それと同時にやっちゃった~私、と反省するしかなかった。
「父さん、病んじゃだめだぞ。母さんは、2回浮気されて、殺されて、死に戻りしてトラウマができてる。そこは絶対考慮しないといけない。父さんなら意味わかるだろ?」とルーは必死に訴えた。
ユリはルーの言葉に耳を傾け、深く考え込んだ。
「そうですね…。そう…だったんですね。トラウマか…。そこは考えられていませんでした。」
彼は素直に認めた。
私たちは恐る恐る正座し、2歳の息子を前にして彼の説教を受ける形となった。息子の真剣な表情と、その言葉の重みに、私たちは自らの過ちを振り返り、反省することを強く感じた。
「子供は親を選べないんだ。生まれた環境もね。1度目の記憶をもってしても2度目も俺は負けてしまう。」
息子の言葉に、私たちはただ黙って聞き入るしかなかった。彼の言葉には、深い哲学が込められているように感じられた。生まれた環境や過去の経験は、人々の人生に大きな影響を与える。私たちはそれを痛感した。
「誰に負けたんだ?」
それはただの親子のやり取りではなく、生死に関わる真剣な問いかけだった。
ユリの問いに、息子は考え込むような表情を浮かべた。しばらくの間、沈黙が部屋に広がる。
「父さんに言えるわけないだろ?俺は俺の大切な人に負けた。でも次は負けないし、その人を救いたいんだ。力を…貸してほしい。」
息子の言葉に、ユリは自身の心に響くものを感じた。そして、彼は深く息を吐いてから、重々しい表情で答えた。
「分かった…。力を貸そう。」
その言葉を聞いて、やっと息子の表情が和らぎ、安堵の息をつく様子が伝わってきた。
「終わった~、正直、わからずやの父さんを説得するのが一番不安だった。」
息子の言葉に、私もほっとした。やはり、ユリの理解を得るのが一番難しいと感じていたからだ。彼の理解が得られたことで、今後の道が少しだけ明るくなったような気がした。
「わ、わからずや…。」
ユリの背中を撫でると、彼がほっとしたような表情を浮かべた。
「ユリ、今回のことは、マイナスばかりじゃないわ。」
「どういうことです?」
「私が…その…ユリのことが大好きだって、ちゃんと気付けたから。ユリの浮気を疑ってる間、ユリの側に別の女性がいたらと思うと胸が苦しくなって、それに追撃するように新聞でユリと、その女生と子供を乗せた馬車が崖から転落したっていうのを見て、私以外の誰かと馬車にのって外へでたんだって…思って。嫉妬で狂いそうになって新聞を破いちゃったわ。」
ユリは私の言葉に驚いた表情を浮かべ、じっと私を見つめた。
「本当に…?」
彼は驚きを抑えきれない様子で尋ねてきた。
私は照れくさそうに頷いた。
「ええ、本当よ。まさか、いつの間にか、こんなにも好きになってるだなんて…。」
ユリは微笑みながら私の手を取りました。
「ありがとうございます、メイ。俺もアナタのことが…。」
「コホンッ!!!二人とも、子供の前なんだが?」
私たちは顔を赤らめ、急いで離れ、照れくさそうにしている息子を見ました。
「ご、ごめんなさい、ルー。今度から気をつけるわ。」
そして、三人で笑っていると、玄関の扉ががたんと開き、ミレーヌが慌てた表情で中に入ってきた。
「あの…これは…どういった状況でしょうか…。」