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私、メイシール・レッドナイトは息子のメアルーシュを連れて絶賛家出中だった。そして一ヶ月が過ぎようとしていた。その日、届いた新聞に目を通すと、とんでもない見出しが飛び込んできた。
その内容は、レッドナイト公爵の子息とその妻と子を乗せた馬車が転落し、行方不明となったという記事だった。
「な、なによこれ!!?」
私は呆然とその記事を読み、驚いていた。これはどういうこと?あの白髪の女性と、その子供のこと?私はここにいるし、馬車に乗って転落なんてしていない。ユリは大丈夫なの?…でも愛する人と一緒なら…。
私は新聞をビリビリと破り捨てた。記事の内容に疑問や混乱があふれる中、不安と焦りが心をゆさぶった。
「ユリ…。ユリの馬鹿…。」
私はその場で大泣きしてしまった。おさえていた感情が溢れてしまった。ミレーヌが私をなだめるように声をかけてくれるが、溢れる感情はおさまらなかった。次第に私の泣き声を聞いたルーも泣き出したが、それをあやす余裕もなかった。
混乱と悲しみの中で、私の心はさまざまな感情で揺れ動いていた。ユリが他の女性と一緒にいるという噂に耳を傾けると、嫉妬と不安が心を支配し始めた。同時に、彼の安否を心配する気持ちも押し寄せ、私の心は葛藤に満ちていた。
「きっと何かの間違いです。やはり、ユリドレ様に直接相談しにいかれたほうが良いと私は思うのですが…。」
「会ってどうするっていうの?…許しを乞うの?…ルーが殺されてしまったら私…、私だけなら殺されてもいいの…。でも…ルーは…ルーだけは…。それに…今は行方不明じゃない…。」
「えっと…そう…ですね。」
その日は1日中泣き続けた。ミレーヌはルーを見てくれていて、それがとてもありがたかった。私の側にはラズベルがついてくれていた。
彼女たちの存在が私の心を支え、慰めてくれた。彼らがそばにいてくれることで、私は少しずつ落ち着きを取り戻し、心の平穏を取り戻すことができた。
「お嬢様、すみません。お嬢様が一番苦しんでいる時に私は浮かれてばかりいて…。」
「ううん、いいの。アナタの仕事は子爵令嬢のラズベルとしてここで幸せに過ごすこと…だからね。」
「ですが…。」
「それ以上何か言ったら、給料を上げちゃうわよ。」
「ひぃっ!?これ以上は受け取れません!!それでなくとも幸せ過ぎて、壊れてしまいか心配ですのに…。」
「ラズベルはそれでいいの。」
そう…。ラズベルとレオルはとても良い感じなのだ。まるで二度目の人生の私みたいに。子供さえできればレオルも浮気したりしないだろう。結局二人とも…子供というプレッシャーに浮気するしかなかったのだから。
今回は奇跡だと思ったのに…まさかユリが他の人と子供を作れてしまうなんて…。今から…死に戻りして、ユリをもっと惹きつけておくことができないかしら…。
あれ?…私…さっきからずっと、ユリを自分のものにしたいと考えてる?
あぁ…なんだ。私、ユリのことがこんなにも好きだったんだ。愛していたんだ。あれだけ面倒な人だと思ってたのに…。
「ほんとに…面倒な人。」
その後も、自分の気持ちにようやく気付いて、私は泣き続けたのだった。
――――――――
――――――
1年が過ぎようとしていたが、ユリの安否はいまだに分からないままだった。1年間、私の暮らしは静かで孤独なものだった。
日々を過ごす中で、私は悲しみや不安と共に生活し、息子のルーの成長に見守ることに専念した。彼の笑顔や成長する姿が私を支えてくれた。ミレーヌやラズベルの存在も、私にとっては心強い助けとなっていた。
しかし、ユリの姿が見えないことは常に私の心を占めていた。彼がどこにいるのか、どうしているのか、それが分からないことが私を苦しめた。時折、彼のことを思い出すと、胸が締め付けられるような感覚が私を襲った。
玄関のベルが鳴った。今日はミレーヌが私用で出掛けていて、ラズベルも買い出しに出かけていた。どうしようと焦って、急いで顔が見えないようにスカーフを巻き、玄関へと向かった。
足早に玄関へと駆けつけ、心臓が高鳴る中、ドアを開けた。
レオルの姿が見えた。内心で「不味い!」と思ってしまった。なんとかラズベルの声真似をして対応しようと思った。
彼の姿を見ると、私の心はざわめき始めた。彼が何を求めているのか、私にどんな問題を持ち込んでくるのか、それが気になり始めた。一方で、彼がラズベルだと思い込ませることができれば、この状況をうまく切り抜けることができるかもしれないと考えた。
「あー…ご機嫌よう。えっと、ラズベル。その恰好はどうしたの?なんか身長縮んでないか?」
「えーっと、寝起きで…。猫背になってるのかしら。」
私は背伸びをした。
「ははっ。それは間が悪い時に来てしまったね。」
彼の姿を前に、私は緊張しながらも冷静さを装い、ラズベルの声真似を試みた。会話の流れが自然であり、不自然さが感じられないよう、心を込めて対応した。
「それで、どうかされましたか?」
「あぁ、あのさ。明後日に一緒に劇を見に行かないか?どうしても、君と一緒に見に行きたいんだ。」
彼の申し出に、私は戸惑いを隠しつつも冷静に対応する必要があった。彼は私をラズベルだと思い込んでいるが、私はその気持ちに応えるべきではない。しかし、彼の申し出はきっとプロポーズの類だろう。断るわけにはいかない。
「えっと、その…そうだね、一緒に行くのはいいかもしれないね。」
「じゃあ、明後日の朝にここに迎えにくるよ。」
彼の言葉に、私は戸惑いながらもうなずき、その約束を受け入れた。彼がラズベルだと思い込んでいる以上、私はその役割を果たすことが必要だと感じた。
私の気まずい状況を察してか、彼は長居せずに立ち去ってくれた。その心遣いに感謝しながら、私はほっと息をついた。彼が早々に帰っていったことで、私の心には一時の安らぎが訪れた。
「やった…やりきったわ!!」
彼が帰ってしまった後、私は一人でその場に残り、ほっとした笑顔を浮かべた。彼とのやり取りをうまく切り抜けることができたことに、少し自信を持った。
何気なくリビングへ戻ると、「父さん殺しちゃダメだ!!」と喋られるわけがない息子が、しっかりとした発音でこちらを向いて叫んでいた。
その驚くべき光景に、私は目を見開いて息子を見つめた。彼の口から出たその言葉は、まるで何かが彼に憑依したかのように思えた。
「え?」
それと同時に、息子の手から火の玉が出ていて、私の横をかすめた。
その突然の現象に、私は目を見開いて息子を見つめた。驚きと恐怖が心を覆い、何が起こっているのか理解できないままでいた。
「ルー?」
突然、影ができて振り返ると、そこには黒いボディースーツ姿のユリが立っていて、手には刃物が握られていて、もう片方の手はルーが飛ばした火の玉を消したようだった。
私は一瞬で状況を理解し、恐怖に打ち震えた。ユリが私を殺そうとしていたのだ。息子のルーが何とか彼の攻撃を防いでくれたが、私はその危険な状況を察知した。
「ユリ…どうして…。」
「父さん待ってくれ!!母さんと父さんは誤解してるんだ!!俺の足をみろ!!」
息子のルーが必死の声で訴えかける。彼の言葉に、私はルーの足を見た。すると何も無かった左足にブルービショップ家の特殊能力の証である鎖のタトゥーが2つ青白く光っていた。
その光景に、私の心は凍りついた。
それを見たユリも驚いたのか、刃物を床に落とした。
その一連の動きに、私は内心でほっと息をついた。ユリが少なくとも今は攻撃をやめたことで、私たちに対する危険が一時的に去ったことを感じた。
「ルー、もしかして…。」
メアルーシュは今にも泣きそうな顔をして「やっと…間に合った。」と呟いた。
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