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真夜中、俺は眠っているメイと息子の側に透明なままでいると、窓の外に部下の姿を見た。部下は静かに立ち、不穏な雰囲気を漂わせていた。
窓辺に静かに近づき、部下が報告をするのを静かに待った。部下は口を動かさずに、手でサインを伝え、領境でミレーヌを捕らえたと報告した。
音を立てずに窓から外へ出ると、馬に乗り、領境へと急いだ。領境への道はあっという間に進んだ。
領境に到着すると、部下であり、ミレーヌの護衛につけていたトリントが彼女に手錠をはめて拘束していた。彼女の周りには、冷たい様子で部下たちが立っていた。
「ミレーヌ。俺の下につけ。」
「お断りします。私は身も心もメイシール様のものでございます。」
ミレーヌはキッと俺を睨んできた。
「トリント、ミレーヌの拘束をとけ、お前達、半径10メートルほど離れていろ。」
トリントはミレーヌの拘束を解き、素早くその場から離れた。俺は鞘から剣を抜き、ミレーヌに斬りかかった。ミレーヌは太ももに巻いてあった帯からナイフを二本抜き、俺の初撃を防いだ。
剣とナイフが激しくぶつかり合う音が響き、闘いの火花が散った。ミレーヌの技量は俺の予想を超えていたが、俺は必死に応戦し、彼女を倒すために全力を尽くした。
彼女の足に薄く切り傷をつけてみせた。
「わかるか?今お前の足は切れていた。」
次に手、腕、背中、と薄く切り傷をつけていく。そして最後に首筋の皮だけを斬った。
「これで分かったか?お前は死んだ。」
ミレーヌの動きはピタリと止まり、その場に跪いた。
「確かに、死んでしまいましたね…。それで、どのようなご命令でしょうか。」
「話が分かる奴だ。それでこそメイの侍女に相応しい。時が来たら命令を下す。それまでここで待機していろ。トリント!手当と、世話をしていろ。」
ミレーヌは淡々とした表情で俺の命令を受け入れ、その場で静かに待機した。トリントは手当と世話をするために、彼女のそばに近づいた。
俺は再び、メイと息子のいる家に戻った。
家の中は静まり返っていた。暗闇の中、メイと息子は眠っていた。その姿を見て、俺の心は穏やかな安らぎに包まれた。彼らが安らかに眠る様子を見て、俺の心には深い幸福感が広がった。
それから数日が経ち、俺は様子を見ていると、時々息子が俺を見て「パパ!」と呼ぶのを見かけた。そのたびに俺は笑顔を浮かべ、手を振った。
しかし、何度かメイが俺を警戒して調べに来ることもあった。そのたびに俺は音を立てずに身を隠し、彼女の視線をかわし続けた。
そう、本来ならば…俺とメイの距離はこれだったのかもしれない。この距離が本来のものだったのかもしれない。この俺が女神であるメイに触れるなんてありえない未来だった。
あれほどの計画を練っておいて、何をいまさら…。勝ち取った未来だろう。何も情報を得られないまま、触れられもしないで時間が過ぎていくのが辛かった。
すると息子の手が突然発火し、俺はメイが見ている前であったが、咄嗟にその火を自分の魔力を息子の手に流して消してみせた。
メイはかなり不思議がり、警戒を始めた。彼女の目には疑念が宿り、俺の存在に対する不安が増していくのがわかった。
それよりも早急に発火を抑える道具が必要だった。
俺はすぐに外へ出て、部下を呼び、レッドナイト家の人間が幼少期に絶対に使う発火能力を封じるアンクレットを取り寄せた。そして、そのアンクレットをミレーヌに持たせて、メイの元へ帰らせるように命じた。
ミレーヌにはそのままメイの侍女として働くようにと命令した。彼女がメイの側にいることで、彼女の警戒心を和らげることができるだろう。
それから公爵家内で今後何か事故が起こらないかを徹底的に調査した。ミレーヌはうまく俺の存在がばれないように手配してくれていた。感謝の意を示すため、彼女の給料を3倍に増やすことを決意した。これは彼女の忠誠心と優れた仕事への報酬としての措置だ。
ミレーヌをメイの側に戻したおかげで、メイは先にルーを風呂にいれ、洗い終わればミレーヌにあずけ、その後でゆっくり一人で風呂に浸かるようになった。
そのおかげで俺は息子を抱きしめられる時間ができた。愛する我が子、奇跡の子。ルーは俺とメイの愛の結晶でその存在を瞳に入れるだけで涙がでてくる。
早く解決して、3人で家に帰ろう。
レッドナイト公爵家内で何かおこる気配はなかった。後は、メイの浮気を疑わざるを得なかった。
「あら、ラズベル。オシャレしてどうしたの?」
その声に意識が戻ると、使用人のラズベルが豪華な衣装を身に纏って立っていた。まぁ、顔は置いておいて、メイも成長すると、こんな感じになるのだろうか。今でさえ欲を抑えられないのに育ち切ると、俺は狂ってしまうんじゃないか…。そんな下らない妄想が捗ってしまう。
「お嬢様、お得意様が最近顔を出さないと心配しておりまして、今朝、手紙が届いたのです。少しだけ顔を見せにいってきますね。」
「えぇ。お願いね。」
触れたい。
「…いいなぁ…。私も…着飾って会いにいきたい。」
誰にだ?
やはり、メイは俺以外の誰かと?もしそうだとしたらどうする?父上のようにメイの記憶を封印するか?メイはまだ小さいから、記憶を封印してしまっても問題はないだろう…。その方が俺にとっても都合が良い。まぁ俺の秘書をしてくれているゼノは泣くだろうがな。ゼノは今も公爵邸で泣いているだろう。仕事を放棄しているからな。
俺は窓に近寄り、指示を出すサインを送った。そのサインは、フェイクニュースを新聞社に流すように指示するものだった。具体的には、俺とメイとルーの3人を乗せた馬車が崖から転落し、行方不明となったという内容だ。
このニュースが広まれば、長い間、家を離れていても問題はないだろう。
翌日、そのフェイクニュースが新聞の記事として掲載され、メイもそれを見て驚いた。
「な、なによこれ!!?」
メイは新聞をビリビリと破り捨てた。俺は彼女の怒りに戸惑った。何故そこで怒る必要があるのだろうか?何が起こっている?
「ユリ…。ユリの馬鹿…。」
メイはその場で大泣きし始めた。ミレーヌが彼女をなだめるように声をかけたが、メイの悲しみは深く、なかなか収まらなかった。
「きっと何かの間違いです。やはり、ユリドレ様に直接相談しにいかれたほうが良いと私は思うのですが…。」
「会ってどうするっていうの?…許しを乞うの?…ルーが殺されてしまったら私…、私だけなら殺されてもいいの…。でも…ルーは…ルーだけは…。」
メアルーシュも母親が泣いているのを見て泣き出してしまった。俺は、メイに気付かれないように、音を立てずに息子に近づき、背中をそっと撫でた。
息子の小さな体を包み込むようにして、俺は彼の頭を撫で、やさしく慰めた。彼の涙を拭い、安心させるために、俺の存在を感じさせるように努めた。
そして、その間、ミレーヌが此方を向かぬように配慮してくれているようだった。
なんだ?殺す?俺がルーを?許しを乞う?なんだ、何の話だ?俺がルーを殺すわけがないだろう。許しを乞うとはやはり浮気のことか?確かに、俺のモノにならないなら俺は…この手でメイを斬る必要がある。恐らく、未来の俺はそうしてきたはずだ。それが今の時間を作っている。だが、メイのその思いは殺したとしても継続されていく。幸い、ブルービショップの神は俺に味方してくれているようで、回帰地点を俺と結婚した後にしてくれた。どの道を進んでも俺と添い遂げるしかないようにしなければならない。
全てを知ったら、君は怒るだろうな。いや、俺を軽蔑するだろう。知られなければいいだけだ。神は俺を選んだんだ。もう後戻りはできない。
君を振り向かせる為なら何だってするし、してみせる。
メイ…お願いだから、俺だけを見てくれ…。
その切実な願いが、心の奥底から溢れ出る。自分の存在を、メイの心の中で唯一無二のものにしたいと願った。
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