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20p

遡ること数週間前、ユリドレ・レッドナイトは絶望していた。


今日は息子の1歳の誕生会を家族だけで開く予定だった。だが、近辺の火山の噴火の様子を見に、父上が少し外出をしなければならなくなり、変わりに俺が別館へ行き、母上の監視と、最近生まれたばかりの妹の面倒をみなければならなかった。


「少し別館で用事があります。昼までには戻ります。」


「わかったわ。」

「あー…ぃ!」

「ふふ、ルーも分かったて。」

「ルー、少しだけ待っててくれ。」


俺は愛する息子の頭を撫でてて、愛する妻の頬にキスをしてから部屋を出た。


別館に到着すると、メイドが生まれたばかりの妹を抱いて待っていた。俺はまだ赤ん坊の妹を優しく引き取り、彼女を抱っこした。彼女は小さな手をゆらゆらと動かし、無邪気な笑顔を浮かべていた。私は彼女の頭を軽く撫でながら、彼女の存在に心が和んだ。


「妹もいいものだな。」


しばらくの間、妹の世話をしていると、昼に近づいてきた。そろそろ父が帰ってくるとの連絡が入ったので、妹を抱っこしながら外へ出た。


すると、母が俺の後ろから静かに抱きしめてきた。


父は母に悪だくみをさせないため、わざわざ他国から魔術師を招いて、母の記憶を封印することにした。父はそうすることで、母を永遠に側に置き、愛することを決意したのだった。しかし、その結果、母の美しい黒髪は次第に真っ白になっていった。封印された記憶の中で母は父と共に、仲睦まじく別館で日々を過ごすことになった。


そして、その平和な日々の中で妹が誕生することになったのだった。


「どうしても…その子をお嫁に行かせてしまうの?まだ幼いのに…。」

「さぁ、どうでしょうか。俺の予想が当たっていれば、近いうちに引き取りにくるでしょうね。」

「ごめんなさいね。あなたも私の息子なのに、生まれたばかりの、この子のことばかりで…。」

「いえ、俺は構いません。そうですね、もう一人頑張られてはいかがですか?」

「まぁ!ユリったら!」


そんな他愛もない会話をしていると、すぐに父が帰ってきた。父に妹を渡し、俺は急いで本館にいる妻と息子のもとへと急いだ。


ドアを開けて待っていたのは、俺の直属の部下だった。


「メイとルーは?」

「申し訳ございません。何やら急用ができたと、ミレーヌ様を連れて屋敷の外へ。」

「は?」


メイに急用なんてないはずだ。


「待て、メイはどんな様子だった。俺がここを出た後のことを聞かせろ。」


「メイ様はしばらく部屋で坊ちゃんと遊ばれた後、主を探しに別館へ行かれました。そこで何か恐ろしい物をみたかのように青ざめられて、急いでここへ戻り、その後坊ちゃんとミレーヌ様を連れて外へ出られました。」


何だと?何が起こっている?どういうことだ。何故こうなった。恐ろしいものをみた?母と妹を見たのか?後に起こる何かがあったのか?


俺の予定にないことが起きたのは間違いない。


俺は急いで、個人の隠し部屋へと入った。


部屋の中は暗くて静まり返っていた。薄暗い灯りが部屋を照らし、その中央には大きな机と、その周りには書類や本が散乱していた。


俺は壁に貼られた一枚の大きな計画書をじっと見つめた。それは俺が10歳の頃から書き続けた、俺とメイが幸せになるための人生計画書だった。

その計画書には、メイが回帰する可能性とそのパターンが幾重にも丁寧に綴られていた。俺は何通りものシナリオを想像し、自分の中で合言葉を作り続け、いつメイが戻ってきてもそれに対応できるようにと、幼い頃から書き続けてきたのだ。


考えられる可能性の一つは、この家で大事故もしくは大事件が起こってしまうことだ。息子の命を守るために、メイは急いで家を出る必要があったのか?


もう1つは…考えられないし、考えたくもないが、どこかから回帰してきて、俺を嫌いになってここを離れた説だ。流石にそれはないと思いたい。流石の俺も気が遠くなってしまう。


俺にも言えない何かという点では後者が有力な説だろう。


なら、未来の俺は何を間違った?本人に確かめないことには始まらないな。それに、メイはまだ出産後も続くホルモンバランスの乱れで精神が不安定だ。慎重に動く必要がある。


俺の胸は酷く締め付けられるように痛んだ。だが、メイのことを考えると、今は感情を殺す必要があった。大丈夫だ。いつもやっている通り感情を殺すんだ。未来の為に…。


そして、情報ギルドの任務をこなす時の真っ黒な服を着て、外へ出て馬に乗り、メイの後を追った。俺の馬は特別な品種改良を加えられた馬で、俺が魔力をこめれば透明化することができた。誰にも悟られずに国境だって超えることができる。


メイが逃げるところは恐らくパープルポーン領のエトワだろう。レオル・パープルポーンと何度か文通をしているのを確認していた。考えたくもないが、メイは別の人生でそいつと結婚していた可能性が高い。それも俺のシナリオの1つだ。何万通りものシナリオを作り、辿り着いた答えでもある。製薬に力を注ぐレオル・パープルポーン。メイはそいつにラズベルと名のり研究費用を融資していた。その見返りに小さな家をもらっていた。念のため手紙を全て盗み見ておいてよかった。


侍女のミレーヌが途中の村で馬を買い、別の小柄な馬を領境に運んでおくようにと頼んでいた。小賢しいことを考えつくものだな。2頭の馬で俺を撒こうとしているようだ。


俺は先回りしてパープルポーン領の前で透明になって待機していた。日が昇る頃に予想通り、メイと息子を乗せた馬がやってきた。


俺はとりあえず透明になったままメイを追いかけた。ミレーヌは俺を撒く為に一度離れたか。悪いがメイを追いかけることにおいては俺はプロだ。見失うはずがない。


「パパ!!」


息子にそう呼ばれてドキリとした。まさか見えているのか?メイも不審に思い、馬を止めて俺がいないかどうかを確認していた。


「パパいた?」


メイが息子に問いかける。俺は首を左右にふってみせると、息子も首を左右にふった。まずいな、何故か俺が見えている。


「もう、びっくりしたじゃない。」


その後も、バレないようにメイと息子に並走していると、息子が何度か俺を見ながら「パパ」と呼ぶのを耳にした。その言葉に、喜びと同時に今の状況に対する罪悪感が込み上げてきた。息子に「パパ」と呼ばれる喜びと同時に、自分の行動に対する後ろめたさが胸を抉るようだった。


昼にはパープルポーン領のエトワという町の外れにある二階建ての小さな家に到着した。やはりここだったか。


一緒に家の中に入ると、妻と息子は少しリビングで寛いだあと、ラズベルという使用人に案内され風呂場へ行った。


ラズベルというのはメイの偽名かと思ったが、使用人の名前だったのか。



妻と息子が風呂に入っている間に、ラズベルという使用人の前に俺の姿が現れた。彼女が叫ばないように口を抑えた。


ラズベルは驚きの表情を浮かべ、口元を押さえた俺を見つめた。彼女は目を丸くし、静かに驚きを示した。


「俺はユリドレ・レッドナイトだ。叫べば殺す。事情があって、妻の前に姿を現すことができない。俺の指示に従え、でなければこの場で殺す。いいな?」


ラズベルは脅えながらコクコクと頷いた。


「まず、風呂に入っている間に食事を用意しておいてやってくれ。あぁ、息子には離乳食を。メイの好物と息子の離乳食の作り方のメモを渡す。これを見て作ってやってくれ。」


「しょ…承知致しました。」


「何か聞かれればミレーヌから手紙をもらったと言っておけ。」


「はい…。」


「しばらく俺もここで過ごす。変な真似をしてみろ、すぐに首をはねる。」」


「は、はい。」


俺は再び透明化し、様子を見ることにした。同時に、ラズベルを使って何か聞き出せないかと模索しながら、彼女の行動を静かに観察した。


読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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