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月日はあっという間に流れ、私とユリの子供は無事に誕生し、無事に一歳を迎えました。
子供の名前はメアルーシュと名付けらた。彼は元気いっぱいの男の子で、不思議なことに髪の毛は左右で黒と桃色に分かれており、瞳は赤と青のオッドアイをしていた。
今日はメアルーシュの一歳の誕生日だ。部屋の中で、家族だけで、ささやかなパーティーを開こうとしていた。
「ミレーヌ、ちょっとルーを見ててくれる?ユリがお義父様とお義父様の住む別館から帰ってこないの。様子をみてこようと思って。」
「よろしいですが、お一人で大丈夫ですか?」
「平気、平気。ユリのところへ行くんだもん。何があっても守ってくれるわ。」
「畏まりました。ではメアルーシュ様は私がしっかりと見ておりますね。」
「えぇ。お願いね。」
私は別館へと向かった。この別館は、メアルーシュが生まれた時に一度だけ訪れたことがある。その時、お義父様には挨拶できたが、お義母様はとある部屋から出ることを固く禁じられ、面会謝絶状態となっていた。
私を殺そうとした人だから、気を付けないといけないわね。それとは別にユリに似て凄く美人で妖艶な人ってイメージが強かったなぁ。メアルーシュもユリに似てて、綺麗な顔に育ちそうなのよね。
別館に到着すると、驚くべき光景が私を待っていました。そこには、生後数か月の赤ちゃんを抱いたユリがいました。彼はとても優しい笑顔を浮かべていました。そして、彼の側には白髪の女性がおり、赤ちゃんを抱いたユリを背後から抱きしめたのだ。
「うそ…でしょ…。」
私は、その光景を目の当たりにして言葉を失った。私は目を疑がったが、赤ちゃんの髪色が明らかに黒色だったことで、その光景が現実であることを受け入れざるを得なかった。
その瞬間、心の奥底で何かが割れる音が聞こえたような気がした。
(まずい、まずいまずいまずいまずいまずい…メアルーシュ!)
心を乱さずに、私は急いで本館に戻った。落ち込んでいる余裕はない。命の危機を感じていたのだ。夫の浮気を目撃し、2度も殺された経験を持つ私にとって、過去の傷が再び心を抉る。
逃げなきゃ…。あの場所に。
私は万が一のために、パープルポーン領に小さな家を購入していた。情報ギルドの長であるユリには情報がすぐに回るかもしれないと考え、そこに桃色に染めた髪の使用人を住まわせ、家の管理を任せて、もし私がそこへ逃げてもばれないようにしてあるのだ。
部屋に戻ると、侍女のミレーヌが驚いた顔をして私を見つめていた。私の表情は真っ青で、何か大きな出来事があったのだろうと感じたようだ。
「メイシール様、どうされたのですか?」
「ミレーヌ、ごめんなさい。今すぐ用事でメアルーシュを連れてここを出ないといけないの…。」
「もしや、それは…家出でございますか?」
「時間がないの!今すぐでなきゃ…。」
私はメアルーシュを抱っこして、急いで部屋を出た。息が詰まるほどの状況だったが、子供の安全を最優先に考えなければならなかった。
「お待ち下さい!メイシール様!」
ミレーヌが私の腕をそっと掴んで引き留めた。彼女の手はひんやりとしていて、私の心臓がバクバクと高鳴る中、私は彼女の方を振り返った。
「ごめんなさい。理由はいつか…。」
「そうではなく、私を連れて行ってください。」
「え?…でも…。」
「私の主人はお嬢様です。この身は生涯お嬢様にだけ捧げると誓ってここにおります。私を信じてください。ユリドレ様には言いません。」
ミレーヌの言葉に戸惑いながらも、私は彼女の目に真剣さを見出した。彼女の熱意と忠誠心が、私の心に深く響いた。
「分かったわ。ついてきて。」
夜風が心地よく、月明かりが道を照らしていた。私はミレーヌとメアルーシュを連れ、レッドナイト邸を静かに後にした。途中で小さな村で乗馬用の馬を購入し、私はメアルーシュを抱きかかえ、ミレーヌが後ろに乗って馬を引き受けてくれた。新しい馬は俊足で、夜の風を切り裂くように速く走り、メアルーシュは安心して眠っていた。
「ミレーヌ、乗馬なんて、どこで覚えたの?」
「レッドナイト公爵家のメイド指導を受けました。そこでは乗馬も含まれていました。そのため、あまりお嬢様のお側にいることができませんでしたが、今後の役に立つと思い、一生懸命学びました。」
「ミレーヌ…。ごめんなさいね…こんなことになってしまって…。」
「お嬢様、そろそろ理由をお聞きしてもよろしいですか?」
私は別館で見たことをミレーヌに静かに語った。彼女は驚きと心配の表情を浮かべながら、私の話を聞いていた。
「ほら、私にはブルービショップの血が流れてるでしょ?未来が分かっちゃう時があるのよ。」
「…メイシール様のお父様もそうでしたね。不思議な先見の明をお持ちでした。分かりました。しばらく身を隠して様子をみましょう。」
「えぇ、パープルポーン領のエトワという町に…。」
「あの家でございますね。お嬢様が何度かレオル様という方と文通しているのを目にしておりましたので、覚えておりますよ。ユリドレ様が何度か手紙を盗み見ようとしておりましたので、私が変わりに確認するといって見ておりました。」
「…ミレーヌ。ありがとう…。」
危なかった。ミレーヌがそうしていないと、小さな家の存在がユリにばれているところだった。私はまた…愛されなかったのね。今度は大丈夫だと思ったのに…。
「お嬢様、目的地に到着するまで我慢してください。感情を殺すのです。」
ミレーヌがいつになく逞しく、心強かった。彼女の姿勢や表情からは、私を支える強い意志が感じられた。
「ミレーヌが私のところへきてくれて本当に良かったわ。」
「いえ、お嬢様には返せない恩がありますから…。」
一度目の人生でミレーヌを失ってしまった私は、10歳に回帰した時、彼女に対する罪悪感と責任を感じていた。だから、彼女に追加の給料を支払い、病気の妹の治療費を負担した。私は彼女の心にある不安や悲しみを取り除くために、全力を尽くしたのだ。それだけではなく、彼女の妹が自立できるよう、ブルービショップ家で小さなメイドとして働く機会を提供した。
(返せない恩があるのは…私の方なのに…。)
ミレーヌは馬を停め、不意に取り出したロープを手際よく使い、私が眠ってしまっても落ちないようにしっかりと括りつけました。その後、ミレーヌはエプロンを外し、それを使ってメアルーシュをしっかりと固定してくれました。
「お嬢様、少しお眠り下さい。尾行を撒く為に朝まで迂回して走ります。」
「尾行がいるの?」
「はい。」
「どうしよう…ユリならすぐに追いついちゃうかも。」
「まだ大丈夫かと思います。先程、馬を買った際に朝までに1頭、領境に運んでおいてほしいとお願いしました。朝にはそれと合流してお嬢様はそれに乗ってパープルポーン領へお逃げ下さい。私は休息をとってから、すぐに向かいます。」
「分かったわ。じゃあ…お願いね。」
私はミレーヌを信じて少し眠ることにした。幸いメアルーシュは馬で駆けている光景が新鮮なのか、嬉しそうに景色を楽しんでいて、疲れたら眠りを繰り返してくれていた。
心の底から、あの光景が何かの誤解だと願っていた。しかし、思い浮かべると、ユリに抱きしめられていた女性の姿が頭に浮かび、どす暗い感情が心に沸き起こってきた。
―――どうして…?あれが真実なら、今までのは全て演技?何度もユリを疑って、ようやく信頼できたと思ったのに…。どうにか調べる術を探さなきゃ…。殺されないように私の死体を作る?それで、メイシール・レッドナイトは不幸な事故で命を落としたことにしてくれないかしら。私だけならユリに殺されるまで公爵邸に残ったかもしれない。けれど、今はメアルーシュがいる。この子だけは絶対に守らないと。安全だと分かるまで戻るわけには…見つかるわけにはいかない。
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