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ジャボ(英:Jabot)とは、中世にヨーロッパで用いられていた襞の付いた胸の飾りのことである。主にレースで出来ており袖口と共に装飾の役割を果たしていた。現在のネクタイとして用いられております。
アジャール王子は初めて手にする本物の剣に、興奮が胸を満たした。その重みを感じ、瞬間、彼は剣をブンブン振り回したり、素振りを繰り返したりした。彼の目には歓喜が宿り、力強い振る舞いが、初めての本物の剣術への意欲を物語っていた。
「うおおおお!!すげーな!本物の剣ってこんなに重いのか!」
「そうですよ~。殿下も一度は体験しておきべきです。さぁ、殿下、どこからでもかかってきてください!」
10代前半の子供力なんてたかが知れていた。相手が真剣でも、木刀で楽々とかわすことができた。
(ちょろい、ちょろい。)
しかし、王子が剣を振り上げ、それを降ろそうとしたその瞬間、予期せぬ事件が発生した。
(体を誰かに固定されている…だと!?動けない!!!)
ブシャァァァァっと血飛沫が上がった。
「ああああああああああああ!!!」
アジャール王子は大量の返り血を浴びて驚きと恐怖に支配される。
「え…あ…」
その時、殿下の木刀を回収するように言われていたメイドが、その場面を不意に目撃してしまった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
スパイ騎士はそのままガクンと力なく崩れるように倒れた。アジャール王子は尻餅をついてべっとりと血のついた剣を片手で握りしめながら、ガクガクと震えていた。
この事件は、非常に不幸な事故として処理されることとなった。アジャール王子はその出来事に非常にショックを受けたらしく、一日中部屋に閉じこもり、食事も口にしなかった。そして、一日が経過した後、ユリドレは王のもとへと向かっていた。
「陛下。全て私のせいです。私がまだ幼い王子に誰よりも厳しく指導してしまったから…あんなことに…。」
「いや、お前の剣の腕は確かだ。むしろそれを望んでお前に頼んだのだ。」
「いえ、それだけではありません。私の部下が出過ぎた真似をしました。私の監督不行届でございます。どんな処分でも受けます。」
「む…う…うん…。」
王は焦りを感じていた。殺された騎士は自らの騎士団の一員であり、自分がレッドナイト公爵家へ送り込んだスパイだったからだ。しかし、ユリドレはスパイだと知らず、その事実を重く受け止め、どんな処分も受け入れると言ってきたことに、少しだけ申し訳ない気持ちが湧いてきた。
「差し出がましいかもしれませんが、王子が回復されるまでの間、私は暫らくの間、自分の領地で間謹慎しようかと思います。私を見て剣の事を思い出されて、お心がさらに病んでしまわないかと心配です。」
「む…う…うん。そうだな。お前の処分は王子が回復するまで謹慎処分とする。それがよかろう。」
「はい。それと葬儀の為、ゴールドキング公爵家へのパーティーを欠席しなければなりません。本日中に領地へ帰ります。」
「わかった。いや、ゴールドキング公爵家のパーティーは中止させよう。事があまりにも大きすぎる。元はと言えば 、私がゴールドキングの大庭園でパーティーをしてみたいと言ったのが発端だ。そこはまかせておけ。」
「よろしいのですか?」
「あぁ、構わん。アジャールがあの調子では、私らも欠席せざるを得んからな。」
「今後はより一層、レッドナイト家の騎士を1から身辺調査等をして見直し、再教育に努めて、このようなことがおこらないようにします。」
「し、身辺調査!?」
「はい。素行の悪さから、このような事件を招いたのかもしれませんので、生まれから見直したいと思います。私はもう、王子のあのような姿をみて、心が痛いのです。」
瞳に影を落とすユリドレ。そんな姿を見た王は深い溜息をついてしまう。
「はぁ…お前の気持ちはわかった。もう、戻って良いぞ。私も急ぎの用事ができたのでな。」
「はい。」
ユリドレが玉座の間から去るのを見届けるやいなや、王は急いで席を立ち、自室に戻り、魔法の通信機を使い、レッドナイト公爵家に潜伏する騎士たちに帰還命令を発した。通信機の魔法文字が浮かび上がり、指先で緊急のメッセージを綴る。王の表情は深刻で、部屋には緊張感が漂っていた。
「くそっ!!魔法の目が使えるのはあやつだけだったというのに!!!なんということだ!!」
王はかなり焦っていた。同時に、ユリドレ・レッドナイトが王家にとって頼りになる存在だったことが分かり、馬鹿なことをして貴重な人材を失ったと嘆いていた。その悔しさと焦りが、部屋に静かな重みをもたらしていた。
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一方でメイシールは急に提出された数十枚の辞表と睨めっこしていた。
「おかしい。急にこんなに人がやめることってある?」
私は側に控えているミレーヌに問いかけた。
「本当ですね。どうされたのでしょう?」
ミレーヌも机の上の数十枚の辞表をみて驚いていた。
驚くことに、レッドナイト公爵家に潜入していたスパイばかりが辞めていってしまった。私は謎過ぎて頭が痛くなってきた。
「ちょっと横になるわ。」
「はい。畏まりました。」
私はベッドに横になっていると、いつの間にか眠ってしまっていた。眠りの中で、ふわりとした夜の静寂が部屋に広がっているのを感じた。しかし、どこかで誰かが自分に触れているような気配を感じ、眠りから覚める。
目を開けると、ユリドレがベッドの端に座っていて、私の頬に手を添えているのが見えた。
「ユリ…?」
「はい、ただいま帰りました。」
「お帰りなさい、随分と早いですね。」
「はい。少し事件が起きてしまいまして、しばらくここで謹慎するように言い渡されました。」
「…………はい!?」
私は驚きすぎて飛び起きてしまい、ユリドレに対する疑問や王城で何が起こったのかという不安が、目をぱちくりさせるほどに頭の中を駆け巡った。
「だめですっ!そんに勢いよく起き上がっては、お腹の子にさわります!」
ユリは私が飛び起きるのを見るや否や、優しく私の体を支えた。彼の手は慎重に私の腰の下に添えられ、私の急激な動きを緩和しようとしていた。
「ごめんなさい、ユリ。私、本当にびっくりしちゃって…。」
「此方こそ、すみませんでした。俺ももう少し言葉を選べば良かったですね。」
ユリはそっと私の額に唇を寄せ、ちゅっと音をたてて軽くキスを落とした。その音は静かだったが、私の心には優しい温もりが広がっていった。
「数日離れていただけで、俺はどうにかなってしまいそうなくらい辛かったです。」
私は口を開いて彼に「そんな大袈裟な。」と言うとしたが、彼の目を見つめ、彼の悲しみや不安を感じ取り、彼の目に映るその情熱と真摯さを見て、言葉がつまり、口を閉ざした。
「どうしました?」
彼の指は私の唇を優しくなぞる。
「王城では‥‥んっ!!」
彼の柔らかな唇が私の唇を覆い、言葉が形になる前に、暫くの間、長く続く深いキスを交わした。その濃密なひとときが過ぎ、やっと彼の唇が離れ、私は肩で息をついた。
「もう少し、暴走しても?」
「う…そんな顔で迫られたら…断れないですわ…。」
恥ずかしさのあまり、私は彼の視線を避け、少し顔を横に向けた。すると、彼は私の顎を持ち上げ、再び私の顔を自分の方へ向けさせた。
「その瞳に俺以外を映さないでください。」
(ん~~~~~~~~~!よくそんな言葉がでてくるわね!?)
「メイ、返事は?」
素直に「はい」と答えたら、次から何を見ても文句を言われそうだわ。
「…善処します。」
「まぁ、良いでしょう。では、お言葉に甘えて暴走させていただきます。」
彼は片手で首元のジャボをグイッと取り外し、胸元を開けて、再び優しく私をベッドに寝かせた。暴走気味にもかかわらず、その手つきには優しさが溢れていた。
私は聞きたいことはたくさんあったが、ユリの暴走を抑えない限り、それらについて話すことはできないと悟り、ユリに身を委ねた。お互いに愛し合う気持ちを確かめ合うように、私たちは深く抱き合った。
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